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「子供できたからって、結婚決めて、あとから、間違いだってわかったけど、向こうの両親に強行されたんじゃなかったっけ?」
愛花の楽し気な声がうざい。
「まだ、就職したばかりだったのに。子どもができたんなら、責任とらなきゃって、遊史も腹をくくったのに、それが、不妊?」
愛花のテンションの高さに、陵介が舌打ちする。
「やめろ。遊史が起きる。」
「信じられない。騙されたようなもんじゃない。」
そう言いながらも、愛花は、面白そうに目の前の綾乃の反応を確かめる。ここにいる全員に話しているようだけど、実際のところ、綾乃にアピールしてる。綾乃に伝えたいだけなのだ。
「どういうことよ。妊娠が間違いだったってのも、今となっては信じられないけど、不妊って何?結局、遊史は騙されたわけ?」
陵介が制止するにも係わらず、綾乃を見ながら、愛花の声はどんどん大きくなる。
綾乃は、何を考えているのか、ずっと黙って、遊史を見ている。
「お人よしにも程があるわ。社会人になって、これからって時に、家庭に縛られて、しかも、騙されて。」
「やめろって言ってるだろ。」
さすがに、陵介が一喝した。
「遊史は、騙されて結婚するような奴じゃない。妊娠は間違いだったけど、本当に奥さんが好きで結婚したんだ。間違いだったって、すぐに奥さんから訂正されたって言ってたろ。」
「どーだか。」
「自分のパターンで人を測るな。遊史の奥さんは、自分の間違いから、結婚を焦らせたことに対して、遊史には負い目を感じてたんだ。そんな人なんだよ。お前とは違う。」
「何ですって!」
愛花が、キリリと眉をあげるが、陵介は、動じない。
「だから、不妊が分かった時に、どうしても遊史の為に子供を作ろうと頑張ったんだ。頑張りすぎて、精神的に追い詰められた結果だ。誰が悪いわけでもない。他人のお前がとやかく言える問題でもない。」
こういう時の陵介は好きだ。
きちんと正論を言える奴だ。
綾乃は、遊史がらみで、気持ちが複雑なのか、まだ黙っている。
何を考えているのかはわからない。