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バースデー  作者: K
11/27

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一週間はあっと言う間だった。

一樹は、部屋を片付け、トイレや風呂までピカピカにした。

小物収納を買い、そこらへんに転がっているものは、全てきれいに片付けた。

完璧に仕上げて、金曜日を迎える。


遊史の為というか、遊史を想って片付けるのは、全然苦にならなかった。

遊史が、心地よく過ごしてくれればいい。そんな想いだった。

片付けが、こんなに楽しいと思ったのは、初めてだった。



約束の時間より、遅れること5分で、インターフォンが鳴った。

ドアを開けると、両手に缶ビールの入ったビニール袋を持ち、ビジネスバックを小脇に抱えたスーツ姿の遊史が、笑いながら立っていた。

「いったん、帰ってくるつもりだったんだけど、仕事が遅くなったから、そのまま来た。」

 胸がズキンとした。

 

 どういう体のメカニズムなのか、好きな相手を前にして、胸が本当に痛くなる。

「もう、飲んでた?」

 顔が赤くなっていたのだろう。

「料理つくりながらね。」

 そういうことにした。


「そっち、座って。」

 座椅子のようなソファに座らせて、一樹は、準備万端のなべを座卓に持ってくる。

 遊史は、上着を脱いで、無造作に床に置く。

 それを、一樹は拾い上げて、ハンガーにかけた。


 遊史は、部屋の中を不思議そうに見渡しながら、一樹からビールを受け取った。

「前、来た時は、部屋の中、見る余裕なかったんだけど、こんな感じだっけ?」

「こんな感じって?」

「何か、意外に乙女チックっていうか…」

 カーテンの模様は、幾何学模様なのだが、小さな花柄に見える。

 小物は、かわいい箱に入れられ、部屋全体が、うっすらとしたベージュだ。

 全て、俺が揃えた。

 俺が心地よいと思った柄だし、色だし、遊史が居心地よいといいなと想像しながら買った小物たちだ。


 けれども、そんなことは言えない。

「母親だよ。揃えてくれたの。迷惑だけど、買いなおすのもなんだかね。」

「そうだな。」

 あまり、物事に執着しない遊史は、それで納得してくれる。


「てっきり、彼女の好みだと思った。」

と、遊史は、笑ったけど、一樹は、笑えない。

「誰とも、つきあっていないって。」

 言わなくていいことを、あえて、言ってしまう。遊史にとって、必要のない情報なのは、わかっているのに。

 むしろ、彼女がいると告げたら、きっと、心から喜んでくれるだろう。


 なべは、もうぐつぐつ音をたてていた。

「こないだは、迷惑かけたな。」

 軽く乾杯して、一樹と遊史は、一樹の作った鍋をつつきはじめる。

「遊史が、酔いつぶれるなんて、大学ぶりだったから、面白かったよ。」

「皆で、俺を肴にしてたんだろ。」

 苦笑しながら、ネクタイを緩める遊史にドキリとする。

「まじで記憶ないんだ。」

「どこから?」

うーんと遊史は首を傾げる。


「愛花に、学生時代のこと、色々聞かれてたろ? 2年下の有紀ちゃんのこととか…」

「ああ、バレンタインに、大きなチョコレートケーキくれた子だ。」

かわいい思い出に、ほっと遊史の頬が緩む。


「有紀ちゃんとの仲について、色々突っ込まれてただろ?」

「覚えているような、いないような…いや、ケーキの話はしたな。その辺りからかな、記憶が途切れてるの…」

「明日は、お休み?」

「ん? ああ。お前は?」

「休み。ゆっくり飲もうや。」

「そうだな。」

 遊史は、いつもの遊史だった。



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