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【新作】最強のエルフ救い  作者: 籠の中
第1章 転生人生万歳!!
6/14

#006 卒業と崩壊の足音

トールの住む村から馬車で数時間程度の距離にある街ーーファーレンにて。

その街一角、一際大きな建物《冒険者ギルド》の内部。


「報告です。魔の森内部に存在するオーク、オーガの集落が消滅しました」


メガネにボディラインがくっきりと見える服に身を包み、その生真面目な見た目通りの凛とした声が部屋に響いた。


「は?消滅?」


代わりに飛んできたのはギルマスの素っ頓狂な声。


「ええ…オーガの集落にはオーガの存在が確認されず…その周辺にも見当たらなかったとの報告が」


「ーー調査したのはどこのどいつだ」


「金色の旋風です」


ギルマスは疑うような目をしたが、調査したのはギルド内でもかなりの信頼を得ていた所だったため、一先ずは信じることにしたようだ。


頭を抱えながら。


「それでオークは」

「集落ごと消えていたようです。何もなかったと」

「それは金色の旋風か?」

「ええ」


はぁぁぁ…と深くため息をついた。


「やったのはどこのどいつなんだ…」

「不明です…オーガ、オークの換金履歴もありませんでした」

「ーーかなり高ランクのチームだとは思うんだがなあ」


まさか五歳の少年1人によるものだとは思うまい。

かなり高ランクのチームだと誤解しているようだった。


「にしても、それが本当であればかなりの損害だぞ」


高ランク冒険者に依頼を出し、討伐隊を組んでいたのだ。

本来であれば素材の持ち込みにより十分元が取れるはずだった。


しかし、依頼が受諾されたのにも関わらず、討伐目標がなくなったとなれば違約金をギルドが支払いをしなくてはならない。


合わせて稼ぎ頭の時間を奪い、挙句素材の持ち込みもなし。

損しかなかった。


「そちらに関してはこちらで対処しておきます」

「ああ、任せた」


メガネを煌めかせた彼女は頼もしげにそう言った。


「本当に、誰がやったんだ」


ギルマスの呟きは誰に聞かれることもなく虚空を泳いで消えてった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


《レベルアップしました 103→110》


殲滅が終わった後、レベルを目の端で確認し魔石を抜き取っていく。全ての魔石を麻袋にしまい、お母さんの元へ戻った。


「これならいいでしょ!」

「今回はちゃんとできたね」


偉い偉いと母親の顔で頭を撫でた。


「ここまでちゃんとこなせるんだったらもう大丈夫ね」

「え?」


聞き返したトールに、ニコッと笑って。


「卒業です!お疲れ様でした!」

「や、やったぁ…!」


些かの寂寥感はあるも、喜びの方が大きい。

この一ヶ月、死ぬ気で鍛錬したのだ。


死ぬ気というのは比喩ではない。本当に死ぬかと思った。

魔力切れ、魔素切れの状態で魔法を使ったり、デバフを自身にかけた状態で死地に飛び込んだりと。

危ない場面は多数あった。


本当に母親なのかと目を疑うところも多々あった。


「今日はもう、帰ろうか」

「うん!」


手を引かれて、森を出た。

酷く綺麗な夕焼けを心に刻んで。


異世界来てよかったなあ…


心でその言葉を噛み締めた。



ーーーーーーーーーー


蝙蝠が空を駆け、猫が嗤い、蜘蛛が蠢く。

空は夜の帳が下りていて、月光すらも通さない厚い雲がかかっていた。


「クソ…ッ!どうして…どうしてあんな奴なんかに!」


叫び声が木霊する。


目は充血し、その下には深いクマが。

加えて、眉間には深い皺が寄っていて顳顬には太い血管が一つ浮かびあがっていた。


「クソ…ッ!クソ…ッ!クソッ!!!」


殴って殴って殴って。

レオンはまるであの少年を殴るかのように、煉瓦を積み上げて出来た壁を殴っていた。


既に拳の皮は剥げていて。

ポタリポタリと垂れるは真っ赤な血。


悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。


4つも歳が離れているクソ餓鬼が。

なんで俺がこんな怪我を負わなければいけないッ!


「まだだ…まだだ…まだまだまだまだまだまだ!!!」


狂気に染まる。

視界が赤い。

もうどうにかなりそうだった。


よろよろと蹌踉めきながら、机の所へ。


机の上に広げてあった本を薙ぎ払って、踏み潰して。

机に立てかけていた剣を殴って、踏んで、へし折って。


頭を机に打ち付けて。


「クソ!クソ!クソ!」


壁を殴って、殴って、殴って。

血が出ようと構わない。この憎しみをどこにぶつけたかった。


壁を蹴って、もう一度蹴ろうとした。

瞬間、足が折った木刀に乗り上げそのまま転倒。


本棚に体がぶつかって、その表紙に本が雪崩を起こしてレオンの上に積み上がる。


「なん…で、こんな目に…」


俺だけなんでこうなるんだ。

どうして俺だけ。

なんでアイツなんだ。

なんでアイツを選ぶ。

俺ならもっと愛してやれる。

なのに…なのに…なのに…!


「なんでアイツなんだよォッ!!!!!」


ダン!ダン!ダン!と床を殴る音が響き渡る。

そうしてピタッとそれが止んで。


「憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いッ!!!」


アイツだってそうだ。

なんで俺の良さがわからない?

亜人のくせに。

なんで俺に逆らうんだ。

いつもいつも偉そうにしやがって。


瞬間、窓が割れた。

ガラスの破砕音とともに耳に飛んでくるのは、少し高めの男の声だった。


「やあ、こんばんは。そんなに狂ってどうしたんだい?」


にこやかで爽やかな笑顔を見せた。

彼は窓の縁に両足おいてしゃがんでいた。


「憎い…憎いんだよ…」


頭のネジがかっ飛んでいたレオンは警戒をすることなく、虚空を見つめながらボソボソと呟く。


「誰が憎い?」

「……負け犬とアリア」


ふん、と息を吐いて肩をすくめる。


「負け犬ってのはトールって男の子かい?」

「あいつは…あいつは…俺よりも年下のくせにずっとずっと弱いくせにアリアを…アリアを…ッ!!!」


急に大声を出すレオンに少し驚いたが、彼はゆっくり近づいて、耳元に顔を寄せる。


「憎いかい?」


ぼそりと呟くように。


「殺したい?」


まるで闇への道を促すかのように。


「愛されたい?」


ぼそりぼそりと。


「全てが欲しい?」


そして。


「なら全部奪って仕舞えばいいじゃないか」


チリン、と鈴の音が鳴った。

レオンの瞳には、何も写っていなかった。




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