#003 やりすぎくらいが丁度いい?
あれから猛特訓した。
どうやらこの体には魔法の適性があるらしい。
火、水、風、地、光、闇、無の7属性全ての魔法を使えた。
といっても、イメージをするだけなのでトール自身には属性という概念がないのだが。無属性は、魔力ーーアリアの言ってたあの変な感じだーーをそのまま射出したり、魔力の波を作っする魔法が無属性と呼ばれているらしい。
「でもトールの魔法は変な感じだよね」
原っぱで一緒に日向ぼっこしていたアリアが言う。
「変な感じってなに?」
「うーん、よくわからないけど…気持ち悪い」
なんか失礼だな。
傷つくんだけど。
「そう言われてもなあ」
これが俺の魔法だし。
本当に女神アルカナには感謝だ。
ぽけーっとしていたら背後から雑踏な足音が聞こえてきた。
あー、なんか嫌な予感するなー。
案の定というか。予想通り。
「負け犬!お前またアリアと一緒にいるのか!」
その声の主は村一番の悪童レオンだった。
トール虐めの第一人者。
アリアが好きなのだろう、いつもちょっかいをかけて迷惑がられていた。
まあ、それだけなら良い。
問題はトールに嫉妬しているところだ。
「レオンくん!負け犬じゃないよ!」
アリアが声を荒げた。
トールは背後も見ず、未だぼーっとしていた。
「なんでまた一緒にいるんだよ!俺と遊ぶって言ってたじゃないか!!」
「人に乱暴する人とは遊びません!!」
アリアが言い放った。
レオンが背後に数歩よろめいた。
「こ、この!負け犬のくせに!」
そこらへんに落ちていた石を、レオンは拾うとトールに投げた。それは放物線を描いて、トールに向かっていく。
コツン、と音を立てて頭に当たる。
地味に痛い。
当たったところに手を当てると、少量ではあるが血が付着していた。
「へ、へっ!負け犬のくせにアリアと一緒にいるからそうなるんだ!」
レオンはトールに近づくと、握った拳を振るった。
衝撃が体に走る。五歳の体には耐えかねる強さ。
取り巻きたちも一斉にトールに向かって殴る蹴るの暴行。
殴って、殴って殴って。
疲れたら蹴り飛ばして転がして、踏みつけて。
頭を抱え、体を丸め。
飛んでくる殴る蹴るの暴行をただひたすらに耐え忍んだ。
「もうやめて!」
アリアがそう言うも、レオン達は止まる様子がない。
熱が入ってしまったのだ。
止まない暴行。
見かねたアリアは庇うように、レオン達の前に立ち塞がった。
しかし。
「どけ!」
「あ…ッ!」
アリアが蹴り飛ばされた。
ゴロゴロと地を転がってくる。
ここまでするとは思わなかった。
自分が耐えればいいと思っていた。
まさか、アリアにまで手を出すとは思わなかった。
あー、もう、なんか、いいや。
耐えようと思ったけど。やめた。
拳を握り、地を叩き。
体を起こして膝を立てる。ぐっと力を込めて立ち上がる。
ガンガンと打ち付けるような頭痛。
血が垂れて、口に入る。
鉄の味。ひどく冷たかった。
「トール、お前の恨みを今ここで」
脚を開いて、手をかざす。
イメージする。
レオン達が地に伏して、血を垂れ流して、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔面。痛そうに呻き声を上げているその光景を。
手に魔力を集める。
そしてーー。
「晴らしてやる」
その言葉とともに、トールの陰から形容しがたい黒い何かが現れた。
伸びたそれはレオンの首に巻きつきそのまま宙に浮かべる。
「ガ…ァ…ッ!」
苦しそうに、もがく。
しかし、その力は緩めることを知らない。
次々と触手のように蠢き、形を変え、その体を貫き、打撲し、地に投げ捨てた。
その取り巻き達も同様。
薙ぎ払われて、宙を舞ったかと思えば叩きつけられる。
トールが目を開ければ、目の前はイメージ通りの光景だった。
アリアに駆け寄って、治癒の魔法をかける。
「大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫」
アリアは手を伸ばし、トールの顔についた血を拭った。
「守れなくてごめんね」
「俺こそ守れなくてごめん」
アリアの頭を撫でて、レオン達の元へ。
「苦しいだろ?なあ?」
手を踏みつけ、前髪を掴んで持ち上げる。
「ゆる…して…」
ほとんど声になっていなかった。
トールは足をどけ、髪から手を離した。
「次、アリアに手を出したら許さないからな」
そう吐き捨て、背を向けた。
レオンはひたすらに、その背中を睨みつけていた。
ーーーーーーーーーー
アリアと一緒に手を繋いで帰った。
トールの家はアリアの家に近いのだ。だからこうして良く一緒にいるわけなんだが。
「ただいま」
ドアを開けた。
中からお母さんがやってくる。
「おかえり」
少し怒っているように感じた。
気配というか雰囲気が少しピリピリしている。
「トール、やり返したんだって?」
やっぱりか。
少し寄り道して帰ったからであろう、やり返したという話はもう既に伝わっていたらしい。
「うん…アリアが蹴られたから…」
すると、ぎょっとしたような目になって。
「大丈夫だったかい?」
「う、うん…」
しゃがみこみ、打撲痕が残ってないか確認する。
アリアは少し怯えたように答えた。
「まったくもう…やりすぎだよ…」
そう言いつつ、二人を抱き寄せた。
ぎゅっとして、頭を撫でる。
「トールはアリアのために力を振るったんだね」
「……うん」
「今度はしっかり守れるようになりなさい」
「…わかった」
そこまで怒られなかった。
むしろ褒めてもらえるとはな。
ふぅと安堵の息を小さくついた。
「それでもーー」
そんなトールを抱きしめる腕の筋肉が徐々に隆起していく。
「加減の仕方くらいは覚えておきなさい?」
抱きしめる強さがどんどん強くなっていく。
「レオン君、首に青い痣ができて骨折して腹に穴が開いていたそうじゃない」
ギギギギギと体から変な音が聞こえてくる。
「一体あなたは何をしたのかな?」
「いたいいたいたいたい!!!ギブ!ギブ!ギブ!」
ペチペチとその腕を叩くも緩まる気配はない。
その後、日が沈むまでみっちりと説教されてしまった。
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