#001 全ての始まり
雑踏とした町の中を千鳥足で歩く1人の男がいた。
その男の顔は今にも死にそうな程に真っ青で、唇は血色がないどころか、黒色に変色していた。
目は充血し、髪は抜け落ちる。
爪が剥がれ、血が滴る。
隆々とした筋肉が取り柄だった彼の体。
その影は微塵もなく、ひょろひょろのガリガリ。
口からは涎が顎をつたい、地に堕ちる。
彼ーー会式綾斗は壁にもたれかかった。
「…だめだ、キツい、」
息も絶え絶え。
まだ生きているということを自分に言い聞かせるために、独り言を零す。
綾斗の目の前を沢山の人が通っていく。
しかし、手を差し伸べる者は一人としておらず。
「だれ、か、救急車を…」
搾りかすのような声を出す。
しかし、状況は変わらず、誰も止まらない。
ああ、そうか。と
彼は黒く深い闇に心を預け、そっと目を閉じた。
悲しいな、と一言残して。
★
「おはようございます」
「…」
目を開ければ、目の前に女神がいた。
いや、これは比喩なんかではなく。
超美人のお姉さん。
後光がめっちゃすごい。
「あなたは転生者として来世を地球ではない星で過ごしてもらいます」
「は、はあ…」
何故だろうか、頭の中にはその知識があった。
次に住むべき星ーー世界の『名』や『使命』が。
「あなたの記憶をちょいと弄らせてもらったので、あちらの世界のある程度の知識はあると思いますよ」
「ありますね。死んだはずだったのに、なんてリアクションを取ろうと思ったんですが」
「女神は時間がないのですよ。一々説明なんてしてられません」
女神はそういうと、右手で宙を薙ぐように動かした。
すると、ホロウィンドウが忽然と姿を現す。
「転生特典。又の名をチート。好きなのを一つ選んで下さい」
「は、はい」
綾斗はホロウィンドウを一通りざっと眺めた。
目ぼしいものは、『鑑定』『錬金』『破魔』『賢者』『剛力』『天恵』『転生』ぐらいか。
「……ありきたり」
ボソッと呟いた綾斗。
女神の口角がピクッと上がる。
「んーどうしよ、迷うな。別にどれでもいいしなあ」
そして綾斗は目を瞑り、人差し指をウィンドウの上でぐるぐるさせる。そして、えいっ、という掛け声とともにウィンドウをタップ。
恐る恐る目を開け、結果を確認。
押したのは『転生』だった。
「そんな選び方…面白い人ですのね」
「変わってるってだけです」
「…それで、それでいいのですか?」
ああ、と綾斗は頷く。
女神は、はぁ、と溜息をつくと、
「では、いきますよ。ーー旅立ちたまえ新たな命。汝の旅は決して忘れられぬものとなるだろう。汝に女神アルカナの御加護があらんことを」
そう言って両手を広げた。
綾斗に天使の梯子がふりかかり、そして、衝撃。
綾斗の意識は闇の中へと溶け込んでいった。