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初心者冒険者ふたりは順調です

 あれからユリアンとアルノルトは二人で組んで冒険者として活動を続けている。偶然出会った二人ではあったがもともとの相性がよかったのか、アルノルトの明るい性格のおかげか。家族や知人全てを失ったユリアンは旧知の仲であったかのように気を許していた。アルノルトも最初は殆ど喋らないユリアンに対して――殆ど一方的に話すことばかりではあったが――めげずに話しかけ、行動を共にし、周囲からしても彼ら二人は共にいるのが今では当然の認識となっている。


 時が経つのは早いもので、冒険者登録をしてから三ヶ月が経とうとしていた。

 多くの出来事があったものの、特筆すべきものは無いためそれはまたの機会としよう。まず重要なことはかなりの無茶をして組んだスケジュールのお陰か、ユリアンとアルノルトは順調に任務をこなしていき本来の平均的なペースの半分ほどでランクを上げることに成功していた。

 そのあまりの速さに受付嬢や周りの冒険者たちに、どこまで必死なのか、これでは先輩の手伝いは最初から不要だったじゃないかとからかわれたほどだ。


 そもそもEランクというのは冒険者がその仕事に慣れるための準備期間であり、遊び半分で登録する者をふるい落とすためのランクだ。なんとなくで登録した者はまずその最低ランクのままであるし、その気になればあっという間にランク上げは可能である。その為、初心者で組んだパーティである二人ですら――時折、後々に顔見知りとなった上位冒険者に助言されたものの――たった二人のみでDランクに上がることが出来た。


「やった……! ようやくこれで僕たちも最低ランクから抜けられるよ!」

「全く、長かったのか短かったのか。――だがこれで、」

「うん、第一歩目だ」


 この三ヶ月ですっかりと仲良くなった二人――アルノルトがあまりにも強引に来るため、自然とユリアンが近寄らざるを得なかったとも言う――は、Dランク冒険者の証であるバッジを手にして笑顔を浮かべた。受付嬢やたまたま居合わせた冒険者たちからおめでとう、と声をかけられますます嬉しそうにアルノルトは笑う。


 そう、これがようやくスタート地点なのだ。

 Eランク任務も二人で組めばより困難なものを受注できるように、二人以上でかつ以前の実績次第ではDランクでも魔物狩りが可能となる。これはある種特例でありかなり込み入った手順で任務を達成していかないとできない裏技であるが、最初から魔物どころか魔族狩りを目標としている二人は登録終了後の任務からその手順を踏んで達成していっていた。


 つまり、彼らは今日この日から魔物狩りが許された。DランクでありながらCランク級の任務を正式に受注できることによって、このままのペースで行けばあっという間にCランクまでは上げられるだろう。これは何も二人が特別優れた能力を持っているからではない。手間をかけやる気があればCランクまではすぐに上がれるものなのだ。


 兎も角ようやくDランク冒険者となった二人は、その足で早速低級の魔物を二人がかりで数匹狩り、いつもよりも硬貨の増えた財布を片手にささやかな祝いの席へと小さな食堂へ向かった。


「ふふん、案外魔物っていうのも簡単に倒せるもんだね。この調子でポイントを稼いであっという間にCランク冒険者に!」


 小さいながらも安く美味しい食事を提供してくれるこの食堂は二人のお気に入りだ。アルノルトは上機嫌で普段は頼まない肉料理を頼みつつ、お気に入りの果汁ジュースを飲んでいる。


「アル、油断は禁物だと散々言っただろう。今回も二人がかりで最下級の魔物を一日かけてようやく数匹。まだ不慣れなんだ、無理をして怪我をしたり――下手をうって死ぬことがあったらどうする」


 一方、ユリアンは少々不機嫌だ。何せアルノルトは最後の一匹の際にかなり慢心していた。慣れない戦闘で集中力が切れかかっていたのもあるだろうが、それを抜きにしても「このくらいなら」という考えが浮かんでいたのは目に見えていた。


「ユリアンはいつどんなときも真剣だよね。そりゃ僕だってやるときはやるけど少しぐらい肩の力を抜かないと疲れて倒れちゃうよ?」

「――はぁ。お前分かってないだろう、アル。お前がもう少し集中力を持たせられれば俺だってずっと楽なんだ」

「え、ほんと? ごめん!」


 慌てて青ざめて大袈裟なほど謝りだすアルノルトに、思わずユリアンは笑みを零す。

 魔族に村を滅ぼされ、憎しみしか残っていないと思っていた心。そこには感情が眠っていただけで、太陽の少年はあっという間に溶かしてしまった。全てが溶けきれたわけではないが、こうしてアルノルト相手には笑える程度には余裕も生まれてきていたのだ。


「分かったんなら冷めないうちに食え、折角のご馳走だ」

「う、ありがとうユリアン……。久しぶりのステーキ、美味しい……」



 夜は更ける。

 これは、束の間の平穏なのかもしれない、とふとユリアンは思う。

 順調に行く任務、傷を癒すように親しくなる友、平和な街。――あまりに、出来すぎているな、なんて。





 魔王が代替わりし、魔族や魔物が以前に増して好戦的になったという話が耳に入るのは、翌日の早朝の出来事である。

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