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冒険者登録

「はい、ユリアンさん。これで冒険者登録は完了です」

「ありがとうございます、――アルも、案内ありがとう」

「どういたしまして! これでユリアンと一緒に任務できるよ!」


 初対面で親切に冒険者ギルドまで案内してくれた上、登録の際も付きっきりで教えてくれたアルノルト――アル、と呼ばないと拗ねた為にユリアンは早々に愛称で呼ぶこととなった――は、無事登録が終わったのを我が事のように喜んでいる。

 そんな彼にユリアンも受付嬢も苦笑しつつ、受付嬢はその手の相手に慣れているのか手馴れた様子で冒険者の説明を行う。知っている知識は村の青年からのものだけであり、それも古い情報やあやふやなものが多かったので丁寧な説明はありがたかった。


 曰く冒険者、と一言に言ってもランクがある。登録当初は余程のコネか推薦がない限り最低ランクから始まり、任務をこなしていくことでランクが上がり、受けられる任務の難易度も上がっていくという仕組みだ。

 最低ランク――Eから始まる――の任務は命の危険は無い素材採取や街中の手伝いなどが殆どで、その代わりに報酬も少ない。これをいくつかこなすか、Cランク以上の冒険者同伴によってDランクの任務を受けられるようになる。Eランク任務は片手間に行えるものが殆どである為、大抵の冒険者はCランクの先輩冒険者に教わりつつ最初からDランク任務を行うという。この場合は先輩冒険者にとって実りの少ない任務であるが、育成の為にも知人相手には快く引き受けてくれる、とは受付嬢の話だ。


 勿論、ユリアンは自主的に登録に向かい、紹介状も持っていないため最低ランクからの開始となった。先日登録したばかりというアルノルトも未だEランクというし、遠くから来たという彼は伝手がなく地道にEランク任務を行っていると言っていたため、ユリアンは彼と共に最低ランク任務をこなしてランク上げをするという手段を選ぶことになった。

 と、言うよりもそれ以外に選択肢がないのだ。先輩冒険者が面倒を見てくれる、と言えば簡単に思えるかもしれないが、初心者の面倒を、しかも完全に他人のを見てくれるほど親切な上位冒険者は少ない。ましてや片田舎のギルドである。繋がりの強い者やコネのある者の面倒は見てくれるとしても、さらに田舎から出てきた少年二人という完全にお荷物を世話してくれる者など居ないだろう。


「でも、二人なら今までより効率のいいあげ方できるから安心して」とアルノルトは笑う。相変わらず太陽のように暖かい、と思いつつも耳を傾ければ、曰く、単独で受けられる任務はかなり限られているのだという。二人以上であれば多少の危険を伴いつつも壁外の素材採取、動物相手の狩りも可能となり、その分報酬も上がりランクを上げるためのポイントも多く入る仕組みだ。


「尤も、魔物討伐が出来るようになるのはどう足掻いてもCランク任務からだからかなり数をこなさないと宿代も払えないけど……」

「やはり魔物討伐は報酬が高いのか、それとも動物狩り程度では低すぎるのか?」

「両方! 魔物討伐はやっぱり危険度も高いからその分報酬はあがるよ。代わりに素材採取なんて殆ど素材代しかもらえないし、動物相手の狩りなんて狩猟者も出来るからどうしても報酬は低くなる」


 これが魔族相手になれば一体狩るだけで一ヶ月以上遊んで暮らせる報酬が貰えるというし、やはり任務を受けられる比率が低ければ低いほど、また危険度が高くなれば高くなるほど報酬は高くなっていく。当然のことであるが、受けられる人数が多ければそれだけ報酬額は下がるものなのだ。

 ユリアンの目標は無論、行く行くは魔族討伐であるが、聞いた話では普通の冒険者であれば魔物討伐が出来るランクで留まるというし、魔族討伐任務が受けられるのはBランク以上。それ以下でも不意の遭遇で戦闘になるケースは稀にあると聞くが、殆どの場合は戦死してしまうほど魔族は強い。よって、余程の任務をこなしていかなければ魔族討伐できるランクへは至れないという。


「でも、ユリアンは魔族討伐を目標としているんでしょ?」

「ああ、アルは無謀だと笑うか?」


 その話をした際には受付嬢が困ったように笑っていたのを思い出し、任務掲示ボードの前で任務一覧を眺めつつアルノルトへ問いかければ、即座にそんなことはないと首を振られて目を丸くする。


「だって、僕だって将来的には魔族討伐したいもん」

「――、……」


 息を、飲む。聞いた話では、冒険者の殆どは魔族と遭遇することすら厭う。一部の冒険者が伝説の勇者を目指してやれ魔族討伐だ、魔王討伐だと謳うが本当に極々一部の話なのだ。

 何故、と聞こうとしてあまりにもアルノルトの真っ直ぐな瞳に黙ってしまう。太陽のように明るい少年だと思った。実際にそうなのだろう。冒険者ギルドでは多くの先輩冒険者に声をかけられていたし、愛されているのは一目瞭然だった。それでも、瞳の奥に薄暗い炎が見える。――これは、ユリアンと同じ炎だ。


「そうか、なら一緒に頑張ろうな」

「うん、よろしくね?」


 嬉しそうに握手をして手を振り回すアルノルトに笑いかけながら、ユリアンは静かに、何があっても彼を守り抜きたいと。何があっても、彼と共に行こうと。そう、思えたのだ。

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