本物の軍艦に乗り込みました
「スゴイ・・・」
私は目の前に出現した戦艦「山城」を見上げて、それ以外の言葉が出てこなかった。
これまで帝国海軍の艦艇は散々写真や再現映像などで見てきた。しかしながら実物の艦艇は保存されている戦艦「三笠」や特務艦「宗谷」、貨客船の「氷川丸」くらいしか見たことない。
他には時折一般公開される自衛艦艇や、軍港に係留される米軍艦艇を観光クルーズで見たこともある。
そうした体験でもそれなりの経験だと思っていたけど、どうやらそれは大きな間違いだったようだ。
それほどまでに、今目前に浮かぶ戦艦「山城」の存在感は圧倒的だった。
「残りの2隻もやりますね」
ミコさんは「山城」と同じ要領で戦艦「榛名」と駆逐艦「陽炎」を『実体化』した。
「頭の中ではわかっていたつもりだったけど、いざ実際に本物が現れると、スゴイ以外の言葉が出ないよ」
驚愕の表情(になってると思う)私を見たミコさんはクスッと笑うと。
「じゃあ、乗り込みましょう」
「あ、はい」
一番手近に降りているラッタルまでボートを漕ぎ、ロープで流されないように結わえる。
「本物だ」
ラッタルに飛び乗ると、私は思わず「山城」の艦体に手を触れた。プラスチックなんかじゃない、鋼鉄の肌触りがしっかりと手に伝わってきた。
「大和さん!早く上がって来てください!」
いつの間にか先にラッタルを登り切っていたミコさんが私を呼ぶ。
「あ、今行きます!」
暗闇で足元が若干覚束ないけど、手すりにしっかりと掴まりながら上甲板まで駆け上がった。
「どうですか?本物の戦艦に乗った気分は?」
「もう感動以外ないよ、これは」
ミリオタとしては、本物のしかも帝国海軍の戦艦に乗れるなんて、これ以上に嬉しいことはない。
「でも、人気がなくてちょっと不気味だけどね」
甲板上には私たち以外に人っ子一人見当たらず、それどころか一切の機械が動いていないのか、波音以外の物音も聞こえてこない。
とここで、私は今さらながら、あることに思い至った。
「そう言えば、乗員はどうするの?戦艦なら2000人は必要だけど」
軍艦だけあっても仕方がない。それを動かす人、乗員がいなければただの鉄の塊だ。戦艦なら少なくとも1500人以上は必要であるし、駆逐艦だって普通は200人程度は乗り込む。でも彼女の話からして、魔法文化のこの国に乗員の宛があるとは思えないんだけどな。
「そんなもの必要ないですよ」
ところが、私の心配を他所にミコさんはさらりと言ってのけた。
「え!?じゃあどうやって・・・まさか魔法で?」
「半分正解ですね。すぐにわかります」
すると、彼女の言葉に応えるかのように艦が軽く振動し、艦上のあちこちの灯が点いた。
「機関が動いた!?」
しかも「山城」だけじゃなかった。並んで停泊する「榛名」と「陽炎」も同じだった。
「どうなってるんだ!?乗員も乗ってないのに、ひとりでに」
「すぐにわかりますって」
ミコさんが微笑ましそうに笑う。魔法を驚く私の姿がよほど見ていて楽しいらしい。まあ、こちらは魔法に遭遇したのが今日初めてなんだから、おのぼりさん状態になるのは仕方がないわけで。
まあ逆に、魔法しか知らない人が地球の進んだ科学技術を見て驚く姿を見たら、同じような状態になるんだろうな。
等と余計なことを考えていた私の目の前に、突然、本当に不意に何かが現れた。
「わ!?」
驚きのあまり、危うく腰を抜かす所だった。
「そんなに驚くことないじゃないですか。店長」
「へ?」
現れたのは人、それも若い女性だった。そしてその口から不満げな声が、私に向けられる。
「お久しぶりね、ヤマシロ」
「ええ、またよろしくお願いしますわ。ミコ」
ミコさんが彼女と親し気に話している。それも、ヤマシロと呼んでいる・・・まさか!?
「あの、もしかしてその娘は、この「山城」の艦魂、化身ということででいいのかな?」
すると、二人とも驚きの表情をする。
「へえ、そこまでわかるんですね」
「若店長中々やるじゃないですか」
まさか本当だとは。
艦魂とは船や軍艦に宿る魂のことで、主に女性の姿で描かれる。これは船のことを彼女とか姉妹船と呼ぶことからもわかる。メジャーなジャンルとは言えないけど、この艦魂をメインに添えた架空戦記や漫画だってある。
しかし艦魂か・・・そうなると。
「まさか艦を動かすのは全部彼女一人でできるの?」
「そういうことです」
マジかい!?どこのアニメだよ!?というかそう言う作品あったよな。
しかしそれなら乗員がいらないっていうのは納得だな。にしても。
「『実体化』の魔法ってただ本物を呼ぶだけじゃないんだね。魂まで吹き込むんだ」
「厳密には物に宿る魂を、一緒に呼び出しているんです。確かあなたの世界にも、物に魂が宿るという考えがありますよね?」
「うん・・・ということは、軍艦だけじゃなくて他のものでも出来るの?」
「出来ます。ただ単に魂を呼び出すのは『召喚』魔法の一種なので、『実体化』よりはるかに簡単ですよ」
正直魔法を知らない私に、魔法の難易度を解かれてもパッと理解することができないんだけど、まあ魔法使い御自身がそう言ってるなら、そういうことなんだろう。
「にしても、君が「山城」の魂ね」
最近流行のどこかのゲームみたいな萌え系の可愛い衣装をしたキャラ・・・とは程遠いね。顔は整っているけど、別段際立って美人というわけじゃないし。並のスタイルに旧日本海軍の純白の第二種軍装を着ている。下半身もスカートじゃなくて男性と同じデザインのズボンだし。女の子と言うより、女性軍人そのままって感じだな。そして階級章は大佐をつけている。艦長になる士官の階級とほぼ同じってことか。
「何か文句でもあるんですか?若店長」
「いや、別にそう言うわけじゃ。にしても、若店長て僕のこと知ってるの?」
「そりゃあ、自分を作ってくれた人なんだからわかりますよ」
「へえ、じゃあ組み立て段階で魂は既に宿ってるんだ」
「正確には組みあがった段階で、私はこの「山城」に宿りました」
「なるほど」
「あの、ごめんなさい大和さん」
まだまだ話したいことは山ほどあるけど、ミコさんが私たちの間に割って入る。
「すいません。時間がないので、続きは後ほど」
「そう言えば、ミコさん急いでいらっしゃいましたね?」
「はい。早急にこの3隻をヅイヤ港、我が国の海軍基地まで回航しなければ行けませんので」
そう言えば、この艦たちをどうするかについては聞いてなかった。でも、彼女の挙動や言葉からして、恐らくは・・・
「わかりました。では、話は後ほど」
「ありがとうございます。じゃあヤマシロ、他の2隻にも伝えて。すぐに出港してヅイヤの港に向かうって」
「了解!」
おお!軍人らしい見事な敬礼。
と感心している私の目の前から山城の姿がテレポートしたかのようにパッと消えた。
「彼女は、他の2隻のところに?」
「はい。私の命令を伝えに行ったはずです」
「へえ。それにしても、ミコさんは若いのに偉い地位にいるんですね。軍艦の回航と指揮までするなんて」
「先ほども言いましたけど『実体化』の魔法を使える魔導師は限られています。そして基本的に『実体化』した艦を操るのは、『実体化』した魔導師自身なんです」
「へえ、つまり提督のようなこともするんですか。それはスゴイな」
軍人でもないのに、特殊な力を持ってるゆえに軍を指揮するか。どこぞの映画みたいだな。
そんなことを考えていると、艦首の方から錨を巻き取ると音が聞こえてきた。
「出港いたします!」
いつの間にか戻ってきた山城が、出港を伝える。
「わかったわ。じゃあ、士官室でお茶でも飲みながら話の続きをいたしましょうか?」
「え!?指揮を執らなくていいんですか?」
どれくらいの距離を走るかは知らないが、巨大な艦艇が3隻移動するのである。その指揮を執らなくても大丈夫なのかな?
「大丈夫ですって。ヤマシロたちが勝手にやってくれますから」
なんか無責任なようで釈然としないけど、確かに3隻ともが自我を持って勝手に進んでいってくれるなら、指揮を一々執らなくてもいいだろうな。
こちらは士官室で優雅にお茶を飲みながら、目的地に着くのを待つだけ。客船に乗っているのと同じだな。
でもせっかく本物の帝国海軍の戦艦に乗ったんだからな・・・そうだ!
「それだったらお願いがあります。艦橋に連れて行ってもらえますか?」
「艦橋ですか?」
「せっかく夢にまで見た戦艦に乗っているんです。だったらその中枢である艦橋に昇って、艦長気分を味わてみたいんです」
「わかりました。ヤマシロ、艦橋まで案内してちょうだい」
「了解」
今更だけど、やっぱり彼女が魂を呼び出したからなのかな?山城はしっかりとミコさんの命令に従うんだな。
「さ、それでは行きましょう」
「はい、よろしくお願いします」
軍艦の中というのは通路が入り組んでいて、さながら迷路になっていると聞いている。地図もない素人が入り込んだら迷子確定だろう。でも艦自身が案内してくれるなら、その心配もない。
僕たちは山城の案内を受けて艦内に入った。
「へえ、本当に艦内も本物なんだ」
艦内に入ると、しっかりと天井、壁、床ともに本物に化けていた。天井を伝うパイプや、各所に設けられた備品もちゃんとある。
これを見られるだけでも貴重なことだ。日本の場合艦内の詳細な写真なんかは残っていないのだから。
そうして通路を歩き、ラッタルを昇り、鉄製の扉を越えること数度。
「こちらが航海艦橋です」
山城の案内で、ついに艦の航行を掌る航海艦橋へと出た。
「うわあ!」
思わず感嘆の声が漏れる。伝声管や各種計器、テレグラフ。模造品などではない、本物のそれらが所狭しと並べられた本物の軍艦の艦橋がそこにあった。
「それじゃあ、お茶でも飲みながらゆっくりとお話ししましょう。ヤマシロ」
「はい」
ミコさんが指示すると、山城の両手にはポットとカップ、そしてお茶菓子が乗ったお盆が握られていた。いつの間に・・・艦内なら何でも出来るってことか。
もう何が来ても驚けそうにないや。
御意見・御感想お待ちしています。




