異世界に連れてこられました
(何じゃこりゃ!?)
突然目の前に広がった光景に、唖然とするしかない私だったけど、一方でこのシチュエーションに内心で思い当たるものがあった。
(これってあれか!?今流行の異世界転移って奴か?)
異世界転移は、私も時々読むラノベやネット小説でよく使われる設定だ。簡単に言えば、現実(に近い世界)の人或いは物が、現実ではない異世界へとトリップすることだ。現実世界から主人公が異世界に呼ばれ、程度に差こそあれ、何やかんかで活躍するというアレだ。
設定が幅広く取れるからだろうか、結構な人気を博しているようだ。
で、別次元がある可能性は私だってこれまで否定していなかったけど、まさかこんな唐突に自分自身が体験することになるとは思わんかったぞ。
しかしそうなると、ミコさんは異世界人で、さっきの呪文の様子から見て魔女か魔導士ってことだよね?・・・何でそんな人がうちの模型買ってくんだ?それもコンスタントに。
「ミコさん?」
「はい」
「ここは異世界ですよね?」
「え!?」
彼女がキョトンとする。
「そしてあなたはこの異世界と私たちの世界を行き来できる魔法を使う、魔女か魔導士ってところですよね?」
「・・・」
あ、ミコさんが呆然として固まった。こっちからズケズケと言い過ぎちゃったかな?
「ミコさん」
「ひゃ!ひゃい!」
うわ!舌噛みまくってるよこの人。どんだけ驚いてるの。
「いや、そんな驚かなくていいのに」
「だ、だって。大和さんが私の言おうとしたことを先に自分から言っちゃうから。しかも当たってるし」
「でも、そこまで驚くことですか?」
「だって、先輩の話じゃあなたのお祖父さんやお父さんは、理解してくれるまですごく時間が掛かったって聞きましたよ。それなのに、あなたと来たら」
まあ、祖父さんや親父の時代はそんな異世界なんて聞いてもピンとこなかっただろうし。私の場合はあくまでその手の本をよく読んでいるからで。
「祖父さんや父さんとは違うんですよ。こういう設定の小説とか時々読むので、・・・で、あなたの物言いからして、さっき私が言ったことは正解ということでよろしいですか?」
「はい、ほとんどあってます」
「ふむ。で、ここは何て言う異世界で、あなたはどういう立場にある者なんですか?」
「わかりました。説明いたします」
私は彼女の話を聞く。その話を要約すると、ここは地球から見て別次元の宇宙のどこかにある惑星の小国ジフ王国。小さな島国で、常に周辺に存在する大陸国家からの圧力を受けているという。そして私の予想通り、この世界には魔法が存在し、彼女は上級魔導師の一人だという。ちなみに本名はミコ・レンカと言うらしい。
ついでに年下だった。それもあるし、本人もいいと言ったので、会話も自然にため口となる。
「なるほど。で、その上級魔導師さんが何で地球のうちの店で模型買うなんて話になるの?」
「それは先ほど話した通り、我が国が大国と渡り合うためです」
「・・・まさか模型で戦うと?」
と冗談めかして言うと。
「はい、そうです」
え!?マジでか!・・・いやいや、待てよ。この世界には魔法があるって彼女言ったよな?となると。
「もしかして、模型の軍艦に魔法を掛けて、本物の軍艦に出来るとか?」
と期待半分、まさかという気持ち半分で聞いてみる。
「そこまでわかれば話が早いです。そのとおりです。私たちはあなたの店から買い込んだ模型を本物にして、戦いに使っています」
「・・・魔法って、模型を本物にできるの?」
巨大化させるとかならともかく、タダのプラスチックの模型を鋼鉄の軍艦に出来るなんて、いくら魔法でも反則だよ。
「私たちはこの魔法を『実体化』と呼んでいます。この模型は実在した軍艦を基に作ってるんでしたよね?」
彼女は模型の入った箱を持ち上げて示す。
「ああ、そうだけど」
「でしたら大丈夫です。私たちの『実体化』の魔法は、本物を模したものさえあれば、その実物を世界も時間も越えて引き寄せて、実物として出現させることができますから」
「・・・それって例えば生き物でもできるの?」
生き物でできるなら、例えば兵隊の人形から無尽蔵に兵隊を作り出せる・・・ちょっと恐ろしい構図だな。クローンよりも量産が効くし。
「いえ、生き物は無理です。基本的に物だけです」
「それは何より」
彼女の答えに内心ホッとする私。やっぱり生き物を無尽蔵に作れるというのは、恐ろしいし気味悪い。
とは言え。
「しかし、うちの店の模型が異世界で本当の戦争に使われているなんてな」
さすがにこれは予想外過ぎる。
「大和さんは、反対なんですか?」
ミコさんが不安そうに私の顔を覗き込んでくる。私が模型を兵器として使われるのが、嫌だとでも思われたのかな?
「いや、別に反対はしないよ。ちゃんとお金は払ってもらってるんだし、買った商品をどうしようが、それはお客さんの勝手だから。ただちょっと予想外過ぎただけ・・・父さんも祖父さんもこのことを?」
「知ってます」
「全くあの狸親父め。わざと知らないようなフリしたな・・・うん、ちょっと待って」
と、ここで恐ろしいことに気づいた。
「何ですか?」
「え、祖父さんの代からって、君たち何年戦争やってるの?」
「ええと、あなた方の言葉で言えば・・・200年くらいでしょうか?」
「200年て・・・呆れた。よくもまあ、そんな長いことやってるもんだね」
「別に、ずっと200年間やってるわけじゃないです。何年か戦争したら休戦して、また何年かしたら戦争して。それの繰り返しです」
「なるほどね。それでもよく200年も持ったね」
「それだけ私たちの国の魔法技術は優れているということです。ただ、100年ほど前から敵の技術力も上がってきていて」
「敵も魔法を持ってるの?」
「我が国程の魔法技術を持っている国はありません。ただ、あなた方の世界の科学技術に近いものを有しています。なので、苦戦を強いられるようになって」
「なるほどね」
相手の科学力が中世レベルまでなら、魔法技術で圧倒できたかもしれないけど、産業革命以後の技術発展があれば、その優位性も崩れかねないだろうな。異世界転移ものでも、魔法世界で科学技術が無双するなんて話はよくあるし。
「じゃあ、地球に来たのはその劣勢を覆すためかな?」
「・・・そこまでわかるんですね」
「いや、他に理由が思い浮かばないだけだよ」
彼女の話からして、この国は自分たちを守るだけで精一杯。そんな状況でわざわざ異世界の日本に来たということは、その状況を打開したかったからだろう。
「でも、それだったら地球から直接武器を持っていけばいいのに。なんで模型を買って、一回一回本物にするなんて遠回しな手段とるわけ?」
それだけの魔法技術を持っているなら、もっと効率的に地球の武器を手に入れる手段くらいあるだろうに。
「異世界へ繋ぐ通路を開くのは、私のような上級魔導師でも難しいのです。私が日本に行けているのも、私の先輩が偶然通路を開けてくれたおかげなんです」
「じゃあ、日本に来たのは半ば偶然だったんだ」
「そうだと聞いています」
「て言うか、それって怖くない?日本だったからいいけど、もし恐竜だらけの世界とか、宇宙空間にでも出たら即ジ・エンドじゃない?」
「・・・」
うわ~。露骨に視線を明後日の方向に逸らしてる。多分そう言う事故が本当にあったんだろうな。死んだ魔導師さん、御愁傷様と言ったところだね。
「まあいいや。で、今回模型の完成を急かしたのは、やっぱり戦争で必要だったからなの?」
「はい!なので、これから私たちは沖にいきますよ」
「何で沖?」
「この模型たちを『実体化』させるためです。まさかここで『実体化』させるわけにはいきません」
「ああ、確かに」
今手にしている700分の1の模型はどんなにおおきくても精々長さは30cm。さらに喫水線上だけの再現シリーズなら、艦底部すらない。でも本物なら駆逐艦でも100m以上の長さで、喫水も艦によるけど数mになる。
この桟橋周辺の海底状況はわからないけど、彼女の物言いからして充分な深さもないのだろう。そうなると、安全な沖まで行く必要がある。
「それじゃあ、行きますよ。あのボートに乗ります」
彼女が指さす先に、1隻のボートが繋がれていた。木製の、公園の池にでもありそうなくらいの小さなボートだ。
「魔導師だから空飛ぶとかしないの?」
「『実体化』の魔法には魔力が必要なので、余計なことに魔力を使ってる余裕はありません・・・と言う訳で、漕ぐの手伝ってください」
「げえ!?」
予期せぬ体力仕事を押し付けられたけど、断れる雰囲気じゃない。ボートに乗り込んだ私は、しぶしぶオールを手にした。
「はい、がんばってください!」
「私一人で漕ぐんかい!」
彼女も一緒に漕ぐかと思いきや、私一人に任せてきやがった。
「私は荷物と、魔法を使う必要があるので」
全く。それでも、模型を本物にするという光景には興味がある。それを見るためと自分に言い聞かして、沖へ向かって私はオールを漕いだ。
手漕ぎボートは十何年ぶりだ。しかも港内で凪いでいるとはいえ、海上で進むのはそれなりに億劫だ。
オールと格闘すること20分ほどして。
「ここまで出れば大丈夫ですよ」
「そう」
息も上がり始めていたので、ありがたかった。
「それじゃあ早速」
「あ、ちょっといい?」
念のため確認。
「はい?」
「実物にした時、押しつぶされるなんてことないよね?」
「はい、大丈夫です。じゃあ、いきますね」
彼女は箱からまず「山城」の模型を取り出すと、ボートの縁に置いた。そして模型に向かって手をかざすと。
「おお!」
模型が青白く光りながら空中に浮いた。これだけでもスゴイ。さっきの異世界転移以上に魔法を実感できた。
そして彼女の口から、先ほどとは違う呪文のような言葉が聞こえてきた。まさにイメージ通りの呪文の詠唱。しかもそれに合わせて、模型の光もドンドン強くなる。
いよいよそれらしくなってきた。
ただ呪文はかなり長かった。多分はゆうに1分は越えたと思う。なるほど、使える魔導師を選ぶというのも納得できた。
そこでようやく、彼女の詠唱が終わった。その瞬間、模型の輝きが最高潮に達した。
「眩し!」
眩しくて一瞬目を瞑った。そして光が収まったところで目を開けると。
「わお」
目の前に巨大な鋼の城が浮かんでいた。
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