なんか不思議なお客さんが来ました
(わ!美人さんだ!)
現れた女性は、私の感覚からすると美人の範疇に入る可愛い系の顔をしていた。しかも、眼鏡掛けててそれが似合ってるし。
でも、どこか日本人離れした雰囲気があるな。外国人さんかな?
「ミコさん、こいつが新しく店を任せる息子の大和です」
「あ、大和です。よろしくお願いします」
「初めまして、お世話になっています。ミコと申します。よろしく」
綺麗な声に、完璧な日本語。外国人ではないか・・・あ、待てよ。てことは。
「ええと、今日来店されたのは模型の引き取りでしょうか?」
「はい。そうです」
ああ、これはマズイ。さっき言ってたお断りを、こんな急に美人さんに対してしなくちゃいけないなんて。なんか、申し訳なさが数倍に膨らむよ。
しかもこの人、何か少し不安そうな顔してるし。多分アレだよ、新店長である私が心配なんだよ。親父と同じサービスをしてくれるかって。
ああ、本当にこれはマズそう。
「?どうかしましたか?」
「いえ、それじゃあとりあえず商品の受け渡しを」
私は本当のことを言えないまま、とりあえず商品の引き渡しをして時間を稼ぐことにした。
(上手くタイミングを見計らって言うしかないな)
商品の注文台帳のページをめくりながら、そんなことが頭の中でグルグルと回った。
該当のページを見つけ出して栞を挟み、私は完成品置き場から戦艦「榛名」と駆逐艦「陽炎」の完成模型を取り出す。
一瞬その出来栄えに惚れ惚れとしてしまう。私も素組みで組み立てたことのある艦だけど、親父が作った目の前の2隻は、しっかりと塗装がなされている。これだけでも自分の作ったものと雲泥の差があるように感じられた。
私は取り出した2隻を、レジの台の上に置く。
「確認お願いいたします。御注文の700分の1艦船模型、H社の戦艦「榛名」とA社の駆逐艦「陽炎」の完成塗装済み品です」
「わあ!相変わらず素晴らしい出来です!感謝します!」
途端にミコさんが顔を輝かせ、さらに大きな声で感謝の言葉を口にする。
「は、はあ。では、代金の方ですが・・・」
代金は元の模型の値段に、塗料などの材料費と手間賃を合わせた額だ。
今回引き渡す「榛名」も「陽炎」も、日本の艦船模型では良く出回っている700分の1スケールの喫水線の上だけを再現したモデルだ。模型だけの値段なら「榛名」は3500円、「陽炎」は1200円もあれば買える代物だ。しかしそれに手間賃を上乗せするので、倍以上の値段になっている。
これを高いと見るか安いと見るかは人次第だろうが。
「お願いします」
目の前のミコさんは、躊躇することなくお題を卓の上に置いた。
「確認します・・・では、お釣りの方」
私は彼女が出した紙幣の数を確認すると、レジを叩いてお釣りを出して渡す。
「ありがとうございます」
「じゃあ、箱に入れますね」
完成品の場合は壊れないように、模型の大きさにあった箱に入れて引き渡す。もちろん、壊れないように慎重にだ。何せマストやボートダビットと言った部品は簡単に折れたり飛んだりするからね。
あと、艦艇部には粘着力の弱い両面テープが付けてある。これで輸送中に箱の中を動くことはないし、剥がす時には簡単に剥がすことができる。
「では、毎度ありがとうございます」
と引き渡そうとしたところで。
「あ、次の選んでいいですか?」
「え?あ!はい・・・いや、あの」
「?」
流れ的には絶対次の模型選んで工作頼むんだろうな。だけどそのサービスはもうしない。どこで話そうか迷ったけど、もう今話すしかない。
私は心を決めて口を開く。
「ミコさん。その、今から選ぶ模型も工作を頼むつもりですか?」
「もちろんです」
ああ、そんな笑みを湛えながら言わないで欲しい。
「それなんですけどね・・・実は、当店では工作のサービスを中止することになりまして」
「・・・・・」
あ、顔が凍り付いた。
「・・・もうやらないってことですか?」
「ええと、そうなりますね」
「・・・どうして」
うん?何か呟いたけど、聞き取れなかった。
「はい?」
「どうしてですか!?」
「わあ!?」
いきなり胸倉掴んできたよこの人!
「どうしてやめちゃうんですか!!??」
グワングワン私の体を振るミコさん。止めて!痛いし苦しい!
「痛い痛い痛い!ちょっと落ち着いてください!」
私が叫んだことで、ようやく力を抜いてくれた。
ホッとしつつミコさんの顔を見ると。
「ちょ、何で泣いてるんですか!?」
声は上げてないが、その両目には確かに涙が浮かんでいる。え!?なんで!泣く必要あるの!!
「そんな泣くことないでしょ!」
「だってだって・・・」
涙目で見つめてくるミコさん。
あ、可愛い・・・て、そんなこと考えてる時じゃない!
「とにかく落ち着いてください」
「うう・・・」
「はい、ティッシュどうぞ」
「ありがとうございます」
とりあえずティッシュを差し出すと、涙を拭き始めた。
困るな~女の子に目の前で泣かれるなんて、子供の時分以来だよ。にしても、何で泣いたんだろうこの人?・・・とにかく、店長としてまずは謝罪しないと。
「いやあ、本当にすいませんね」
「本当に止めちゃうんですか?」
「はい。模型を作っていた父が引退することになりましたので」
「そんな・・・困ります!」
「いやあ、困る言われましても」
しかし、何で困るんだろう?そもそも完成品をこの人何に使ってるんだ?
「だって。だって、じゃないと私たちの国が・・・亡んじゃいます」
後半ボソッと小声で言ったけど、聞き捨てならない、というより不穏な単語を口にしたぞこの人。
「え!?国が亡びる?」
「あ・・・え、いや、その・・・」
そんなわざとらしく目を泳がせても、こっちはしっかりと聞いてますよ、お嬢さん。
「どういうことですか?」
「・・・」
黙り込んじゃったよ・・・まあ、余計な詮索はしないほうがいいか。
「わかりました。お客様にはお客様なりの事情と言うものがあるでしょうから。これ以上は聞きません」
すると。
ペコ
小さく頭を下げるミコさん。
「で、話を元に戻しますけど。工作のサービスは申し訳ないですが中止です。私では対応できないので」
「息子さんは模型作れないんですか?」
「作れないことはないんですけど、私の場合色塗ったりとかそういうことはできないもので」
すると、ミコさんの目の色が変わった。あれ?私何か変なこと言ったか?
「じゃあ、組み立てることは出来るんですか?」
「そりゃ、それくらいだったら出来ますよ」
「良かった!じゃあ、それでお願いします!!」
「え!?そんなんでいいんですか?塗装も何もしてないから、今までの比べれば大きく見劣りしますよ」
私自身は普通に組み立てるだけで充分だからそれで満足しているけど、これまで商品として納品していた完成品に比べれば見劣りするのは否めない。
「構いません!とにかく完成していればいいんです。色とかくらいなら、こっちでなんとかできると思いますから」
「え!?」
塗装は何とかなるらしい。ちょっと驚きだ。
「とにかく、よろしくお願いします」
うわ、深々と頭を下げてきたよこの人。これじゃあとても断れない。
「はあ、わかりました。では、組み立てのみということで、お受けします」
「ありがとうございます!」
て、今度は手を握って来たよ!どんだけ嬉しいのこの人!?
「じゃあ、早速次のお願いしますね」
というなり、彼女は艦船模型が置かれた棚へと行ってしまった。
「良かったな大和、あの人これからもこの店使ってくれそうだぞ」
と、ここで声を掛けられて、父親の存在をようやく思い出した。
「父さん、あの人一体何者だよ?何で泣いたりしたんだろう?」
「うん、そりゃお前。自分の国の運命が掛かってるからな」
「は、はあ?父さんまで何言ってるの?というか、何を知ってるの?」
どうやら親父は何か知ってるらしい。
「そいつは俺の口から言うことじゃない。直接彼女から聞くんだな」
と笑いながらはぐらかしてくる。
「ええ!?いいじゃん、教えてよ!」
顧客に関する重要な情報なら教えてもらわないと困るんだけど。
「ダメダメ。とにかく、本人に聞きな」
もっと問い詰めてやりたかったけど、ミコさんが売り場から戻ってきた。
「お願いします!」
「はいはい・・・ええと、A社製の戦艦「山城」に、F社の戦艦「金剛」、それからT社の駆逐艦「島風」ですね。これも工作サービス付きで?」
「はい!お願いします!!」
そんな前のめりになって頼むことないのに。
「わかりました。いつまでに完成させればよろしいでしょうか?」
「ええと、できれば5日後までに」
「い、5日ですか!?」
ええ!?そりゃできないことはないけど、こっちも他に仕事あるんだけどな。
「1週間程度、余裕を見てはいかがですか?」
「何とか5日でお願いします!必要なら割増料金払いますので!」
「割増ですか?」
どうしたもんかな。でもやるって言った以上断り難いし。しかも割増まで払うって言ってるし。
私はチラッと親父の方を見る。しかしその顔は。
(お前が店長なんだからお前が決めろ)
ガッデム!
まあ、別に忙しいわけでもないし。急げばなんとかなるか。
「わかりました。何とかやってみましょう」
「ありがとうございます!これで我が国は救われます!」
このさっきから大袈裟なセリフは一体どう言う意味なんだろう?
「その国が救われるとか、どういう意味ですか?」
さっきあんなこと言ったけど、やっぱり気になる。だからさり気なくもう一度聞いてみたけど。
「・・・その内教えます」
むう。やっぱりダメか。
仕方がないな。
「わかりました。あ、念を押しますけど。組み立てだけになりますからね」
「はい。では、よろしくお願いします!」
彼女はお辞儀をすると、今日買い取った模型の入った袋を手にして、帰って行った。
「やれやれ。この3つを5日で仕上げなきゃいけないか」
私は彼女が工作を頼んでいった3つの箱を見て溜息をつく。組み立てるだけなら塗装とかするよりはるかに短い時間で済むが、それでもギリギリかもしれない。
幸いと言えるのが、F社の「金剛」は初心者向けのタイプで組み立てやすいってことってことだな。
「頼まれたんだからちゃんと作れよ」
「わかってるって・・・て、親父は手伝ってくれないの?」
「お前が受けた仕事なんだからお前がちゃんとやれ」
正論過ぎて反論できん。
こりゃやるしかないな。
「ま、その間俺も店見といてやるから。ほら、さっさと取り掛かった方がいいぞ」
店の仕事を早く覚えろとか言ってたのに・・・まあいいか。
私は親父の言葉に甘えて、工作スペースへと向かった。
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