重要な事実を知りました
「よし!これで最低限必要な設備は完成だな・・・それにしても、たった3日でここまでの物ができるとは、魔法とは恐ろしいな」
私は第一次工事が完成したレク造船所を見回りながら、魔法のチートぶりに改めて嘆息した。
庁舎の『実体化』実験が成功したので、次に私たち本格的な造船所の建設に動いた。
ちなみに建物の配置とかは予めジフ王国側から海図を見せてもらい、さらに庁舎の『実体化』の間に、「筑紫」に命じて測量を行って決めた。
しかも、工事を開始するとさらに頼もしい助っ人が現れた。庁舎の時と同じく、造船所そのものに魂が宿ったからだ。
「頼んますわ。店長さん」
と言って出てきたのは眼鏡を掛けた、少将の服を着た青年だった。なんかちょっと軽い感じがして、本当にこんな人が造船所所長なの?と思わずにはいられなかったけど。
ちなみにこの造船所の魂、最初に倉庫とクレーンの幾つかを『実体化』させただけで出てきた。
で、ここで疑問。それは。
「何で建物一つ一つに魂が宿らずに、まだ完成の見込みさえない造船所全体を包括する魂が現れたの?」
ということだ。
確かに造船所を構成する予定の建物をいくつか『実体化』したが、造船所自体の完成形とは程遠い。またこれまで、艦船にしろ建物にしろそれぞれに魂が宿っていた。それなのに、今回は初っ端から造船所という複数の建物を包括した施設の魂がいきなり出現した。
庁舎のことといい、大きな謎である。
その疑問を、当の本人にしてみると。
「そりゃあ、店長さんがちゃんと造船所の青写真を作ってから建物を『実体化』したからですわ。魔法って言うのは、術をつかう魔導師の思念が大きな影響を与えるんですからね」
と造船所所長(命名リョウジ)は、あっさり私の疑問に答えた。
なるほど、術を掛けた魔導師さんが元々造船所の完成形を知っていたから、魂もそれに準じて宿ったというわけか。つまり、魔導師さんが事前知識として完成形のイメージを持っていれば、それに合った魂が出現するということだ。
今回私は、簡単だけど最終的にどんな形の造船所にするかの完成形を絵にして、ミコさんに事前に見せている。それがミコさんが『実体化』の魔法を発動した時に、影響したということか。
これは良いことを聞いた。
ちなみにこのことは、確認して見るとミコさんたち魔導師の皆さんも全く知らないことだった。複数の建物を『実体化』するような使い方はこれまでなかったからだそうだ。
とにかく、これで今後飛行場や陸軍基地、要塞を建設する時にも応用できる。事前に計画を立て、青写真をしっかり作れば、全体で一つの魂だけが宿る。そしてそうすれば、効率的にそれらを運用できるということだ。
さらに、リョウジは有益な情報をいくつか提供してくれた。その内の一つが、造船所内の工場の中身を指定する方法だ。
今回造船所にはドック以外に、様々な工場の建物を置くことにしていた。しかしながら、模型の段階ではそれはあくまで、工場でしかない。つまり、魚雷工場なのか砲弾工場なのか、はたまた艦艇を構成する各種部品の工場なのか、全く決まってないということだ。
何せ発売されているキット自体は、単に工場風の建物でしかないのだから。
だから、明らかに用途が決まりきっている倉庫やクレーン、ドッグや岸壁と言った設備から『実体化』させたわけなんだけど、これについてもリョウジが。
「別に『実体化』する模型の工場を、例えば魚雷工場と念じれば魚雷工場で出てきますよ。イメージしにくかったり忘れそうだったら、模型の裏に魚雷工場と書くだけで充分ですよ」
「んなアホナな!?」
と思ったけど。
「いや、待て待て。ここは魔法のある世界。魔法に科学の世界で生きる人間の常識など当てはめちゃはいけないよな」
と思いなおし、早速言われたとおりにやってみることにした。
工場の模型の裏に魚雷工場、砲弾工場、砲身工場などと書いておいて、ミコさんに『実体化』してもらった。
で、『実体化』した工場を見に行くと、魚雷工場内部には魚雷を造るための冶具がずらりと並んで、製造ラインが整っていた。砲弾工場や砲身工場も同じだった。
「ちなみにどんな魚雷や砲弾が作れるの?」
と聞いてみたら。
「魚雷や砲弾は、この造船所に入港する艦艇に合わせて製造できます。ですから、今の段階では製造できません。また砲身の場合は工場の建物のサイズに合う範囲でしか作れませんから、それ以上のもの造りたかったから、それ相応の大きさの建物を準備してください」
だった。
これについては、今後作る模型での課題だな。巨大な砲身、それこそ46cmクラスになれば、それなりの大きさの建物を用意する必要がある。フルスクラッチでもしないと無理かもしれない・・・幸作君できるかな?
ついでにあることも思い浮かんだが、現状それやると敵を圧倒どころではない事態を招きかねないので、口には出さず頭の中で保留にしておいた。
あ、あとそれからもう一つ。
「原料ってどうなるの?」
これが大きな課題。兵器を製造するには鉄を始めとする様々な金属原料が必要となる。工場のライン自体は、おそらく艦魂たちと同じく、リョウジが勝手に動かしてくれるだろうけど、原料がなければどうにもならない。
ところが、彼はここで予想外の答えを口にした。
「あ、原料ですか?そんなもの、いりません」
「・・・は!?」
「だから、いりませんって」
「ええ!いらないって・・・じゃあ無から作り出すの!?」
「まあ、簡単に言うとそうなりますね」
多分その時私は、口をあんぐりと開けて間抜けな顔をしたと思う。いくら魔法の世界だからって、反則にしか思えなかったからだ。
「厳密に言うと無ではなくて、目には見えない魔力から作り出すんですけどね」
リョウジが補足説明する。
「どういうこと?」
「この世界で魔導師が魔法を発動する時、彼らは魔力を操って魔法を使ってるんです。この魔力って言うのは、このジフ王国の周辺だけに存在していて、ジフ王国の人間、つまり魔導師だけが操ることができるんですよ。で、その人間の魔導師は基本的に空中に存在する魔力を操っています。しかしながら、魔力は空中だけじゃなくて地中にも存在しています。しかも地中にある魔力の方が、空中のそれよりも濃いんですよ。なので、地べたに直接『実体化』された我々は、地面から魔力を吸い取って、好き勝手に設備を動かせるわけです」
「海中には魔力ないの?」
「ありません」
キッパリと言い切るリョウジ。
「そうか、だから艦艇の場合は補給が必要になるのに、庁舎の時は電気や水道が使いたい放題だったてわけか・・・で、魔力って無限なの?」
「無限と言えば無限ですし、そうじゃないと言えばそうじゃありません」
「何そのわかりにくい言葉」
そんなどっちつかずの答えでは理解できない。
「つまりですね、魔力自体は地面の中で勝手に再生産されるんですよ。でも地面に蓄えられる量は限界があるんです。例えば同じ場所に集中的に工場を造れば、当然ながら地面から吸い取る魔力を取り合ってしまいます。そうなると、再生産される魔力より消費量が上になって、不足することになるんですよ。まあ、この規模の造船所程度なら大丈夫でしょうけど」
「となると、建物の配置や造船所の敷地面積も考えなきゃいけないな・・・でミコさん、今の話理解できました?」
しかしミコさんの答えは、首をブンブン横に振ることだった。この会話を聞いていただけでは理解できなかったようだ。
「つまりですね・・・」
私は今の話を、彼女にもわかりやすいように丁寧に説明した。
で20分ほどじっくりと説明して、ようやく彼女も納得してくれた。ついでに驚愕した。
「スゴイです!魔力の利用法に関しては私たち自身、まだまだ分からないことが多いのに!今のお話の内容は、魔力の利用に革命をもたらしますよ!」
うわ~。メチャクチャ目を輝かせてる。まあいいけど。
それにしても。
「マサフミ(庁舎の建物の魂)のやつ、私がうんうん悩んでいたのに、そんなこと一言もいわなかったぞ」
庁舎の化身たるマサフミも、リョウジと同じ建物の魂なんだから知っていた筈だ。それなのに、そんなこと一言も教えてくれなかった。薄情な奴め。
「そりゃ、聞かれなきゃ答えませんよ」
そんな私の気持ちを、リョウジがバッサリと切る。
「・・・艦艇や建物に憑く魂て皆そうなの?」
「そりゃ、魔法によって憑いた魂なんですから、基本的に命令された以上のことはしませんって」
「たく」
こりゃわからないことがあったら、一々細かいことまでしっかり質問するしかないわけだ。
とにかく、これで今後造船所で使用する燃料やら修理用資材のことを考えなくてもよくなったわけだ。もちろん、地中に存在する魔力との兼ね合いも必要だけど、それでも大きなメリットには変わりない。
と言う訳で、私たちはその後計画通りに造船所の拡張を進め、3日間で駆逐艦クラスが入れるドックを中心に、修理用クレーンや各種工場の設置も終了した。
常識的に考えて、これだけの規模の造船施設は例え機械力を投じても年単位、月単位の建設工事が必要となるはずだ。それがたったの3日ときた。さすがは魔法の世界と言ったところだ。
もちろん、現状この程度では戦艦の修理や補給作業はできないので、まだまだ拡張の必要がある。それでも、これまでのように修理も補給も出来ないので、ほとんど使い捨てで解体か漁礁行きにするということは避けられる。
「ではミコさん、早速ヅイヤのウトカ将軍に連絡しましょう」
第一次工事の完成具合を見届けた私は、ミコさんに提案する。もちろん、彼女は即座に頷いた。
「はい!大和さん」
仮とは言え、とりあえず造船所が稼働する見込みが立った。このことを早急にジフ王国海軍上層部に伝えなければいけない。
私たちはケイ君らに作業を任せて、一回状況報告のためにヅイヤの海軍司令部に出かけることにした。ついでに一度日本に戻って、新たに完成した模型も持ち込みたい。
やることは山ほどある。
私とミコさんは早速、ミコさんが実体化した潜水艦「伊400」に乗り込んでヅイヤへと向かった。
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