暗黒の瘴気
ーーーーーフォレスト・マクガイアの日誌より
夢の中では私は常に正しい。
私のマスターが言っていた言葉だった。彼は偉大なーーマスター。私がかつて所属していた評議会のマスター・オブ・ジ・オーダー、私の中で最も偉大な人物の名だ。人間にしては長身で、身の丈はほぼ二メートルに近い。広く厚い肩幅、鍛え抜いた体、太い腕、黒に近い目、意志の強そうなあごの持主だ。あの人は磨いたラマスの木と同じ色の頭を、つるつるに剃っている。冗談の通じない、頑固に勝るとも劣らない性格だが誰よりも人思いで、優しく、核心をついた物言いで相手を揺さぶる。
彼に少しの間だったが、弟子に慣れて嬉しい気持ちがあった。あの日、今日その日が永遠に続けば良いと思った。共和国の軍隊、その一つを取り仕切るキャプテン・ラマン。とある賞金稼ぎをホストに造られたクローン、高度な戦闘技術を学んで彼らは戦地に向かう。私とラマンは常に任務を共にした。緑の豊かな星、セモクドル。緑豊かな星、星の殆どがジャングルに覆われて物々しい外見をしていた星は焼き尽くされ死の星と化した。ドロイド達を一掃し、やっとの思いで私の故郷に帰還する。私の故郷はジェダイカウンシルでありカウンシルではない。私は水の惑星ヘルメナスの出身だ。陸地の殆どを自身にとって無害であるバクテリアが豊富に含まれた水に覆われてそこにポツンとした島がいくつかあるくらいの場所で私は生まれた。夜になると月に似た恒星が湖を照らし光らせて水が輝いているように見えた。帰還すると決まって彼は私を出迎えてくれる。彼は私を褒めることはしない、それが彼自身の性格でもないこともわかっていたし、褒めると私が有頂天になるということも見透かされていた。
「マスター・ウィンドゥ」
私のマスターの名前だ。広く長方形に長い大理石でできたホール、六角形の二十メートル程長い柱が十メートル感覚で連なっている。その中央の道を歩きながら彼を呼び止めた。茶色のローブを背中に向けていたが呼び止めゆっくりとした歩みを止めてローブを翻しながら振り返り私を見つめる。
「戻ったかフォレスト」
低い、そして重みのある言葉で常に私を威圧する。本人はそんな気は一切ないのだろうが今私の前に居る人物は最高評議会を取り仕切るマスター・オブ・ジ・オーダーだ。最も偉大な人物である。
「セモクドルの主要都市、カルマックは陥落、マスター・ムンディの隊はツェスカに移動しました。」
ご苦労、と一言添えると再び振り向いてメイスは歩き出す。私もそれに続いて歩く。メイスはパルパティーン最高議長と対話の後だったのか少しばかりの疲労が感じられた。頭の中に先程までの、私に会うまでの光景が流れていた。
「私の中を覗くな、無闇に使うものではない」
叱咤されてしまった。フォレストは顔を逸らして頭をかく。マスター・ウィンドゥのフォースは強い。並みのジェダイなら覗かれる事すら気づかない。私は物心ついた時から人の頭の中がその人の頭上で映像のように流れる。今日一番良かった事、嫌だった事、不思議だった事、イライラした事そんなものが私には意識するだけで見えるようになっていた。しかしそれを見破られたことなど一度もなかったのだ。今迄私の能力を見抜いたのは評議会のメンバーだけだった。マスター・ヨーダ、マスター・ウィンドゥ。そしてマスター・ムンディやマスター・プロ。次にマスター・ケノービとアナキンだ。
アナキンは私と同じジェダイ・イニシエイトの時から知っている。同じ生活をし、同じ釜の飯を食べ、同じ訓練を積んでいた。アナキンはたまに居ない時があったが、アナキンがナイトに昇格して暫く後、評議会のメンバー入りを果たした時は驚いた。マスター・ウィンドゥも言っていた。
「アナキンは実力はある。成果も、潜在能力に感したら群を抜く。彼はマスターになれないことに不安を感じていたようだが、マスターになるには力だけではダメだ」
「どうしてアナキンが出てくるんです?」
思わず聞き返す。マスター・ウィンドゥは溜息をつくと、話し始めた。
「あの若者は最高議長に信頼されている、」
「それが問題でも…?」
「だからこそだ。我々が尽くすべき相手は元老院で任期が過ぎてもそこに居座る議長ではないのだ」
マスター・ウィンドゥは立ち止まると此方を向いて眼光を鋭く光らせる。
「胸騒ぎがする。お前だから言うが、身近にフォースの暗黒面を感じる」
「それはつまり…」
そこまで言いかけるとマスター・ウィンドゥは手を腰の高さに上げて喋るなと合図した。私の他にも多くのジェダイナイトがこの場にいる。無闇に話せないのだろう。
マスター・ウィンドゥは歩き出し、表情は不安に駆られたような顔に変わっていた。彼は一見すると冗談の通じない厳格な性格で、ジェダイの掟を体現した人物のように見えるが実際は全て間違いだ。メイスはジェダイの中で誰よりも心配性な人物である。
悪夢に苛まれるジェダイを慰め、前を向かせる。ジオノーシスの一件の後、彼の元を訪れるジェダイが後を絶たない。皆、悪夢を見るのだとそう言っていた。私はジオノーシスには居なかった。いつも通り任務から帰るとヨーダもメイスも誰も居なかったがテンプルナイトが教えてくれる。
「私もジオノーシスで戦っていれば」
「過去に囚われるな、過去を見るのは禁物だフォレスト。私はこれから会議がある。また後でな」
メイスはそう言うと私を後にしてジェダイ聖堂の中に消えて行った。その時、私は少し不安な想いに駆られ、呼び止めようとするがその名を呼ぶ事が出来なかった。
マスターを見たのはそれが最後だった。
それから2日後に、クローンの反乱が起こった。私はその時、ジェダイ聖堂の中でナイト達と訓練をしていた。綺麗な夜の静寂の中、聖堂の巨大円形ホールの下で青い光刃を起動し、ライトセーバーを振るう。私はその時フォースを感じては居なかった。ジェダイが戦いをする際、フォースと共に戦う。フォースは様々な役割がある。その全ては重要な役割を果たす。だがこういう時こそフォースから離れ、自身の腕を磨かねばならんと言われた。ヨーダに。
そこに、重金属特有の揺れる音が聖堂の外にある長い大理石の階段を上って来る音が聞こえてきた。駆け足で登ってきている。その場に居たナイト達も光刃を納めて、正面の出入り口を見た。音でわかる、クローントルーパーだ。
「何かあったのか、キャプテン」
先頭を歩くDC15- Aを装備しているトルーパーに駆け寄る。後ろのトルーパー達は全員がまるでドロイド軍と戦うようなフル装備だった。
私には、悪い予感がした。フォースの予知を見ても先が暗く、見えない。全くわからないのだ。それはヨーダも言っていた事でもある。
「緊急事態です、侵入者が居ます。最高議長から連絡が…」
様子がおかしい。いや、特に変わった声色でもないのだが何かがおかしい。この男は本当にクローントルーパーなのか?フォースに集中し目を瞬間的に閉じて私はそれを見た。背中を悪夢が這うような悪寒に襲われる。トルーパー達がこんなところに来ること自体がおかしい。侵入者ならテンプルナイトが気づくはず…だが、
「なら中の様子を見てこよう。ここには衛兵もいる。お前達はここで暫くは待機……」
背を向けた。だがその時、背中からとてつもない程の寒気と恐怖が私の中を支配した。ライトセーバーを抜かなければ。背中に冷たく、そして重い剣が突き刺さるように私の身体を貫く。私は無意識にライトセーバーを抜いていた。光刃を起動し緑色の剣を腰から抜いて腰を捻りジャンプした。
後ろからキャプテンのDC-15 Aのブラスターが私に放たれた。青い光線が私の背に達する瞬間に体を捻って宙返りし、宙返りの途中にブラスターと光刃を当てはじき返す。返されたブラスターの光線はキャプテンの胴体に当たりトルーパーの鎧を砕きながら身体を飛ばした。
それが合図だったかのように、後ろに続いていたトルーパー達も我々に向けて攻撃を開始した。