序章 異世界転生
どうも、高橋出愚太です。拙作ですが、投稿させていただきます。至らない点は多々あると思いますがよろしくお願いします。楽しんでいただけば幸いです。
某県某所にあるとあるホスピス。そこに一人の少年が入院していた。
少年は物心がついた頃からずっとこのホスピスの住人であり、外の世界というものを見たことがなかった。
無論、外への憧れはある。だが、それを全て本への情熱に置き換えて生きてきた。どうせベッドから離れることはできないのである。だから少年は本を読みまくった。特にライトノベルの、異世界転生ものを読み漁った。
少年は現実を諦めてしまっていた。同年代の子どもは外で遊び回っているだろうに、自分だけは寝たままでいなければのらないことに対して、昔は憤りを感じたり、神を恨んだりしたりもしていたが、怒ったり恨んだりしても現実は変わらないのだ。そう思うと怒りや恨みは消え、代わりに無力感が少年の胸を満たすのだった。
その為、少年は現実世界の今後に、ではなく、異世界転生に期待したのだ。この世界で生まれ変わってもまた、身体が弱ければ意味がない。ステータスというものが存在し、鍛えれば鍛えるだけ強くなる、そんな異世界に希望を持ったのだ。
時間だけはいくらでもあったので、シュミレーションも沢山した。成長しやすい幼児期に身体と魔力を鍛えて、大きなアドバンテージを取るのだ。ある程度大きくなったら学校にいって、その世界の常識を学びんで、主席になって同級生をブイブイ言わせつつ、在学中も身体や魔力を鍛え続ける。そんな感じで異世界知識や赤ちゃんの時から意識があることを利用して大魔法使いになるのだ。そして大人になったら、冒険者になって無双しまくって世界最強になってやるのだ!
・・・まあ、そこまで上手くいかなくてもいい。最悪でも、外に出ることさえできればいい。普通の男の子として転生出来るだけでもめっけもん、みたいな?あ、勿論女の子でもOKです!
などということを冗談混じりに考えたりもした。
勿論、転生なんてあり得ないことは分かっている。ずっとベッドにいると言っても、いや、実際ベッドから一歩も離れることが出来ないのだが、そうじゃなくて、ベッド暮らしの少年でも、専属の教師が常識を教えてくれたり、勉強を教えてくれたりしてくれているのだ。
むしろ、一対一で教えてくれるので、そこら辺の人よりも賢いであろうと自負している。だから常識的に考えて異世界転生なんてできないとは理解しているのだが、でもそれでも、出来ないとはわかっていても、夢はみてみたいのだ。あと、楽しみがあった方が毎日頑張れる。死んだら転生できると信じ(こもうとし)て、生きていく。
そんな生活が続き、少年が生まれて丁度13年がたったその日。
少年はこの世を去った。
***
ん?
気が付くと僕ら変な所にいた。
身体のすぐそばに柔らかい、ぶよぶよした壁があり、周囲はその変な壁に囲われていて、どうやら閉じ込められているようだ。温度は生暖かく、気持ち悪いような心地よいような感じがし、身体は動かしにくく、流動的な物体が身体を覆っていることから、ここが水のような液体で満たされていることがわかる。
・・・水・・・?お、溺れる!?
僕は慌てて、ここから抜け出す為に身体を動かそうとする。が、何故か身体は僕の意志に反し、動かなかった。縄で縛られているとか、手錠をつけられているとかそういう感じの動かない、ではなく、まるで身体を動かす機能が備わっていないみたいな感じで、本当に全く動かない。
う・・・し、死ぬぅ・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・あれ?死なない?
いつまで経っても意識を失うことはなかった。それどころか、冷静になってみれば、呼吸はしていないのにもかかわらず、息苦しくないことに気づいた。
取り敢えず、今すぐに死ぬということはないと分かり、ほっと息をつく。まあ、息は吐けないんだけどね。
さて、落ち着いたところで周りを確認しよう。
というわけで、ゆっくり目を開け・・・ることはできなかった。ま、まあ、身体が全く動かなかった時点で覚悟してたけどね!
どうしよう・・・
と、取り敢えず状況を確認してみようか!
①どこか狭い所に閉じ込められた。
②身体を動かすことが出来ない。
③意識はある。
④身体は液体の中に沈んでいる。
⑤呼吸はできないが息苦しくない。
・・・なにこれ?⑤が本当に意味不明なんですけど・・・こういうとき、僕はどうしたらいいんですか?笑えばいいんですか?HAHAHA!
・・・いや、ちょっと待てよ?これどっか、というより、何かの漫画で読んだことがあるぞ?もしかしてこれ、フィックションとかでよくある、培養器、ってやつじゃない?あの、カプセルの中に緑の液体とともに入ってシュゴーって感じのあれ。あの息する感じがシュゴーって感じのやつ。僕はそんなイメージするんだけどわかるかな?・・・わからないか。
そうなると?今?僕は治療中?・・・えっと?新しい治療法が開発された、みたいな?
何かどんどん弱ってたし、もうすぐ死んじゃうんだろうなーとか思ってた矢先に意識失ったから死んだかーとか思ったけど、その、意識を失ってから本当に死ぬまでのほんの短い間に、新しい治療法が開発されて、実験的にやってみた、とか?
・・・いやーまさかーここが死後の世界と言われた方がまだ信じられるよ。はぁ、じゃあ、僕は死んじゃったのかぁ・・・
いや!違う!僕はまだ生きてる!ポジティブに考えよう!今までそうやって生きてきたじゃないか!ここは培養器の中だ!そうに違いない!僕は凄く運が良かったんだ!今まで神様なんていない、いたとしてもクソ野郎だ、とか思ってたけど、神様ありがとう!やっぱりいたし、いい人(?)だったんだね!今まで恨み言いっぱい言ったり思ったりしちゃったけどごめんなさい!許して下さいなんでもしますから!
・・・いや、やっぱり今の無しで。普通に考えてあり得ないし、本当にそうでもまだ生きれるってわけでもなし、これで結局死んじゃったら意味ないしね。存在しない神様になんて謝る必要ないし、神様がいるなら神様相手に何でもするって絶対ヤバいし、っていうかそもそもいるんなら最初からこんな目に遭わせるなよって話なわけで。
まぁ、だからこれで助かっても神様、いや様付けなんかしなくていいか、だから神が助けた訳ではなくて、運が良かったとか、お医者さんや技術者さんが凄くて助けてくれたってことだね。まぁもし仮に、一万歩、いや、一億万歩譲って神とやらがいたとして、僕を助けてくれたっていうんなら、ご自身の不甲斐ない失敗の尻拭い、お疲れ様でしたーいやー失敗するなんてまだまだ甘いですねーみたいな感じで肩でも叩いてあげよう。
そんなことを考えていると、突然、周りを満たしていた液体がプシャーとどこかへと放出されていった。
ん?治療が終わったのかな?ということは出られる!?
わくわくする。今までの治療は明らかな延命治療だったからわくわくすることなどなかったけど、今回は違う。空前絶後で超絶怒濤とはいかないけど、前代未聞で画期的な培養器を用いた治療なのだ。何か今までとは違ったことがありそうである。
あと、やっぱりこの中は圧迫感があってしんどい。暇だし。もっと本読みたい。特に異世界転生もの!でももうほとんど読んじゃったしなぁ・・・あ、そうだ、次は僕が書いてみよう。ふっふっふっ、この今までの人生、ほとんど全ての時間を本に費やした僕の、素晴らしい表現力、妄想力に刮目するがいい!楽しみだ。早く出れないかなぁ・・・
***
・・・マダカナー?
液体が無くなってから大分時間が経った。時計が無いから具体的にはわからないけど、体内時計的には24時間くらい経っているのではないだろうか?僕はまだ出れてない。僕を出すのにどれだけ時間がかかっているのだ。もう全く。
一応結構前から、僕の周りにあるあの変な柔らかい壁が、僕を押し出そうとしているのか、しきりに動き、少しずつ僕の身体を押してくるが、あまり動いていない。まぁでも、ほんの少しずつは動いているから、今はもう結構出口に近いところまで来ているのではないだろうか。
あ、今、大分動いた。多分頭がちょっと出た。頭のてっぺん辺りがひんやりするし。もう少しで出られる?
あ、また動いた。もう額くらいまで出た。あ、頭掴まれた。引き出されるぅー。
そして一瞬、ひんやりとした感じが全身を覆う。恐らく全部外に出たのだろう。そしてすぐ柔らかいふわふわとしたタオルのようなものに包まれた。
出たーーーーーーーーー
「オギャーーーーーーーー」
長かったーーーーーーー
「オギャーーーーーーーー」
生きてるーーーーーーー
「オギャーーーーーーーー」
あ、息できるーーーーーーー
「オ、オギャーーーーーーーー」
ん?何か赤ちゃんの声が聞こえるなぁ。まぁ、別にいいけど。あ、まだちょっと動きにくいけど、ほんの少し身体が動くなぁ・・・あ、ということは目も開く?
というやけで、ゆっくり、ほんのちょっとだけ、目を開けてみる。
するとそこには、西洋人風のおばあちゃん(僕を抱いている)と、同じく西洋人風の、こっちは若く、とてもキレイでなんだか少し汗をかいてしんどそうな女の人(さっきのおばあちゃんから僕を受け取ろうとしている)がいた。軽くではあるがぐるっと周りを見渡してみると、そこは全く知らない、今までの人生で見たことのない西洋風の寝室で、そこの壁にかかっている時計らしきものが偶々目に入ったが、そこに描かれていた、恐らく時刻を表しているであろう、数字らしきものは、全く見たことのない記号だった。
・・・ふむ、これは何だろうか。うん、まずこれ、日本じゃないよね?周り全部、人も含めて西洋風だし・・・っていうかほんとにここどこ?何あれ?あの時計みたいなの。今まで色んな本読んできたけど、あんな記号見たことのないよ?強いていうなら楔形文字に似てるけど・・・?そんなの現代で絶対使われてないよね?
嫌な予感がする。自分の身体をみてみると、記憶にある自分の身体をよりも明らかに小さい。あの最初僕を抱いていたおばあちゃんも、今僕を抱いているお姉さんも、腕だけで僕の全身を抱えてるし。
あと、そのお姉さんは今、僕の方を見て、優しげに、そして嬉しそうに微笑んでいる。そして、
「 」
聞いたことのない言語で僕に話しかけた。
・・・はい、何て言ってるかは分からないけど、これは多分あれですね。生まれてきてくれてありがとう的なことを言ってますね、はい、そんな感じがしますよ?・・・まさか、転生?
いやいやまさかーそんなまさかーそんなことあるわけないじゃないかー転生なんて科学的にありえないでしょー?まさかねーHAHAHA!
いやいやまさか、ないないと首を振っていると、
「 ?」
またお姉さん・・・いやお母さん?まさかまさか・・・まあとにかくその美人さんが何か話しかけてきた。僕にはだけかけていたタオルをかけ直してくれたことをみるに、寒くて震えていると勘違いされたようだ。すると
「 」
とおばあちゃんが言ったその瞬間、
ぼぅおっ
さっきまで何もなかった空間から突然炎が出てきた。そしてその炎は空中に浮いたままメラメラと燃え続け、しばらくすると消えた。室温はちょっと上がった。
今の魔法?いやいやいやいやいやいやいや。まさかまさかまさかまさかまさかまさかー。きっと手品だよね?きっとそうだそうだ・・・
ありえないありえないと内心動揺していると、ふと脳内に文字が浮かび上がってきた。
<転生、完了>
・・・あ、はい、これはもう認めないといけないようだ・・・
異世界転生だこれ!?