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第8話



「おーっす、体調どうだー?」

「ん、香織か」


 保健室で休んでいると、友人の真鍋香織がやってきた。小麦色に焼けた肌は陸上の賜物か、夏の全国大会でも短距離走で優勝している。ショートカットに日に焼けた茶色混じりの黒髪が室内だと良く分かる。

 授業中だった香織が来たと言うことは、いつの間にか1限目は終わっていたようだ。


「もう平気、次から出るよ」

「そっか、1限目のノート取ってあるから、後で写しな」

「ごめん、助かる」

「良いって良いって、それよりさ、ちょっと相談があるんだけど」

「私に? 別にいいけど、じゃあお昼休みでいい?」

「おっけー」


 ベッドから出て香織と一緒に教室に戻る。

 良く話すクラスメイトは「大丈夫?」と声をかけてくれた。

 だが男子、「生理か?」とばかみたいなでかい声で聞いてくるのは止めろ、聞かれるこっちは恥ずかしいし、周囲の女子は非難轟々だ。


「武田、ばかだなー」

「男なんて皆そんなもんだって」

「お、何その台詞かっこいー」

「茶化さないでよ」


 香織が手渡したノートをありがたく頂戴し、私は1限目の内容をさっさと写すのであった。



 お昼休み、事前に千春さんには友達の相談に乗るから行けないと言う旨を伝えておいた。


『分かった、寂しいから寝る』


 と、なんとも大人げない返事が来たのは気にしないでおく。

 一人だった時はお昼を食べてコーヒー飲んで寝てるような人だ、問題なかろう。


「それで、相談って何?」


 香織と昼食を食べ終えた後、話しをするのに場所を移動した私は、現在香織と図書室にいる。

 この学校、無駄に図書室が広いのは何でなんだろうか?


「あのさ、唐突にこんな質問するのもどうかと思うんだけど」

「何さ」

「同性愛って、どう思う?」

「は?」


 同性愛をどう思うか、とは、私がそうであると知っていて聞いているのだろうか。

 いや、しかし私はこれまで誰かに自分が同性愛者であると言ったことはない。

 可愛かったり綺麗な女の子を良く見ていたりはするが、それだけで同性愛者と言われた事は皆無だ。


 でも今、確かに香織は私に同性愛をどう思うかと聞いてきた。

 それはつまり、香織が同性愛者だと言う事に他ならないのか?

 とにかく、いつまでも考えていないで答えを返してやろう、固まったままの私に香織が気まずそうな顔をしている。


「それは同性愛そのものをどう思っているのかって質問?」

「うん、そう」

「そうねぇ、恋愛は自由だし、別に良いんじゃない? 女が女を好きでも、男が男を好きでも、まぁ、流石に人目のあるところで所構わずいちゃいちゃするな、とは思うけど、それは男女のカップルでも同じことが言えるし、世間的な事を考えたらハンデは大きいけど、当人が納得してるなら他所が口出すことじゃない、っていうのが私の答えかな」


 一息で話したせいで少し苦しい。

 大きく息を吸ってから、気になっていた事を今度はこちらから聞いてみた。


「それで、何でそんなこと聞いてきた訳?」

「……実はさ」


 香織の話しを要約する。

 同じ陸上部の先輩(同性)が気になっているとの事。

 先輩は女子陸上部のキャプテンをやっていて、誰にでも分け隔てなく接していて、それが部員の信頼の厚さにも繋がっているとか、更には伸び悩んでいる部員がいれば一緒に練習したり、引退した今でも後輩の指導をしに部活に顔を出してくれているそうだ。


「最初は私も、先輩みたいな人になれたらな、とか思ってたんだけど、だんだん先輩が普段何してるのかな、とか、好きな物はなんなんだろう、とか、そういうのが気になり始めちゃって……」


 要するに、ノーマルだったはずなのに初めて自分と同じ女性を好きになってしまい、この感情をどうすれば良いのか分からない、と言うところか。

 それは分かった、しかし、それを私に相談してきたのが腑に落ちないのだ。

 さっきも言った通り、私は誰にも自分が同性愛者だと言ったことはないのだから。


「話しは分かったけど、どうして私に相談した訳?」

「あぁ、それも話さないといけないか……」


 と、言ったきり香織は顔を赤くして俯いてしまった。

 

「どうしたの?」

「実は、今朝瑞希を探してたんだ、学校には来てるのに姿が見えなかったから、別のクラスを見てもいないし、どこへ行ったか聞いてみたら社会科準備室に入っていくのが見えたって言うから、そこへ行ってみたんだけど」

「……見てたのね」

「い、いや! 見てない、聞こえてしまったんだ……それで、瑞希は……その、桜井先生とそういう関係なんだって思って、だから、瑞希に相談できると思ったんだ」


 成程、これは私にも落ち度がある。

 今朝から超ブルーだからと言って、周りを気にせず千春さんの所へ行ったのは不味かった。


「香織の思った通り、私と千春さんは付き合ってる、だけど私達は同じだから、香織とその先輩についてアドバイスしてあげられることは無いわね」

「そっ、か……そうだよね、ごめん……」

「でもまぁ、私と千春さんの事を言い触らされても困るから、一緒に様子ぐらいは見てあげる」

「えっ、でも……どうすれば良いか分かんないし」

「連絡先は知ってるの?」

「それはもちろん、部活の連絡とかは先輩が回してくれたから」


 じゃ、とりあえずはその先輩とやらに連絡を取ってみましょうか。

 そう言ってやると、香織はぽかんとした顔で頷いた。

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