第7話
週明けの月曜日と言うのはどうにも憂鬱な気分にしてくれる。
土日を千春さんと居られるのは幸せ以外の何物でもないのだが、どうしてもこの「学校に行きたくない」と言う気分は無くせない。
かといって仮病を使って休むわけにもいかず、今日も今日とて学校へ向かっている。
私の通う学校は電車を使わないといけない、満員電車にぎゅう詰めにされながらの通学は正直言って最悪だ。
おっさんの体臭とか香水のきつい匂いとかが混ざり合う密閉空間はことさら気分を悪くする。
更に今日は、それ以上に最悪な出来事に見舞われていた。
お尻辺りをさっきから何かが触れている。
最初の1、2回は、身動きしたときに荷物が当たったのだろう程度だが、後ろ目に見てもそんな人はいない。確認した瞬間に悟ったのは痴漢されていると言う事。
無遠慮に触ってこないだけマシだが、不快感は否めない。
最悪だ、とイライラを募らせていると電車が大きく揺れた。
流される体をつり革を掴んだ手で戻すと、あからさまにお尻を触られた。
「チッ」
あからさまに聞こえるぐらいに大きな舌打ちをしてやれば、もう触られることはなかった。
舌打ち程度でやめてしまう小心者なら最初からするなと言うのに。
しかし、痴漢行為を受けたと言う事実に私のフラストレーションは溜まる一方だった。
それは学校に着いてからも同じで、教室に荷物を置いた私は人目も気にせず千春さんの使う社会科準備室へ入った。
ドアを開け、閉める時に勢いが付きすぎてしまった。
「パン!」と音を立てたドアに中にいた千春さんがビクッと体を震わせて振り返った。
「瑞希、おはよう」
千春さんの挨拶を無視して近づき、ぎゅーっと抱き付いた。
「どうしたの? こんな朝から」
「はぁ、朝から痴漢されて超ブルーな私を慰めてくれませんか?」
「痴漢? 女性用専用車両には乗らなかったの?」
「ダイヤの変更で無かった、もう最悪!」
よしよし、と頭を撫でてくれる千春さんの手に僅かながら溜飲を下げると、私は千春さんから離れてソファーに座った。
「まだ時間あるし、コーヒーでも飲んでく?」
「ココアがいい」
「はいはい」
コーヒーはあまり好きじゃない、カフェラテならいいんだけど、それ以外ならココアが好きだ。
紅茶はあまり好まない。
そういうのも全部、千春さんは知っている。
だから戸棚にはコーヒーとココアが入っていたりする。
他の先生方に気付かれないのだろうか?
出されたホットココアを飲みながら授業の準備を進める千春さんの背中を見つめる。
「専用車両がないならなるべく女の人の近くに乗ることね、車内で騒いでも面倒なだけだし、最近は冤罪だーってうるさいのもいるし」
「はーい」
「でもまぁ、消毒ぐらいはしようか」
「は?」
近づいてきた千春さんに持って居たココアのカップをテーブルに戻され、ソファに横向きに倒される。
覆い被さるようにしてきた千春さんはそのまま私にキスをした。
「……んっ」
「はい、これでもう今朝の事は忘れる、良い?」
「それとこれとは違う気がするんだけど」
「満足できないならもうちょっと激しくしてもいいけど、授業出られないわよ?」
「学校じゃしないんじゃなかったんですか? 先生」
「鴨が葱しょってやってきたってこう言うこと言うのかしら? それとも飛んで火にいる夏の虫? まぁいいわ、体調不良ってことで保健室後で連れていくから」
教師としてそれはどうなのかと言いたいが、千春さんは構わず私のスカートに手を伸ばしてきた。
抵抗もむなしく、私は一時間目を途中から保健室で過ごす事になった。
千春さんが満面の笑みだったのは言うまでもない。