第2話
お昼休み、千春さんの居る社会科準備室に人の目を気にしながら入ると、準備室のテーブルにはお弁当が拡げられており、千春さんは資料整理をしていた。
「千春さん」
「待ってたわ、さ、お昼にしましょ」
手を止めてテーブルを挟むようにして置いてあるソファに座った千春さんと一緒に、ご飯を食べる。
付き合い始めてから何度かこうしてお昼を一緒にしているのは、私からじゃなく彼女からの提案だ、最初はお互いの事を知るための口実としてだったが、それも何度かやっていると、次第に相手に会いたいから、と言う理由にシフトした。
「カボチャ煮たの美味しい?」
「うん、おいしい」
「よかった、そうそう、今度の土曜日なんだけど」
これ、と差し出されたのは映画のチケットだった。
「見たいって言ってたチケット取れたの、少し遅い時間だけど、問題ないかしら?」
「ん、ありがとう千春さん、でもいいの? せっかくの休みでしょ?」
「なに言ってるの、休みだから瑞希と一緒に過ごすんでしょ? 私達恋人じゃない」
「うん、まぁそうなんだけど……」
「どうかしたの?」
ここ数カ月、毎週学校が休みになると千春さんから家に泊まりに来いとか遊びに行こうとか、そう言ったお誘いが続いている。
いや、お誘い自体は嬉しいのだけど、大人なんだし、そう言った付き合いとかあるんじゃないのか、と気にはなっているのだが、当の千春さんが楽しみにしている様子を隠そうともしないので聞くに聞けないのだ。
「あぁ、最近ずっと誘ってるから友達に怪しまれてる?」
「へ? いや、そんなことはないんだけど、逆に千春さんはどうなのかなって、高校とか大学の友達と会ったりしないの?」
「それは、たまには飲みに行ったりするけど、みーんな結婚して家庭に入ったから、おいそれと誘えないっていうか、高確率で旦那の愚痴とか惚気話を聞かされるのもね」
もしかして地雷を踏んだのか、私は。
暗い表情をしてブツブツと何か呪詛を吐き散らす千春さんを他所に、残された弁当を平らげた。
それから授業が始まるまでの残り時間はいつも、千春さんにくっついて昼寝をする。
いつもは他愛のない会話をするか、黙ってくっついているかしているのだが、今日は何となく気になった事を質問してみた。
「千春さんは、どうして私の告白をオッケーしたの?」
「同性愛に夢を見てるのかと思って、現実を教えてやろうと思ったのよ」
んなっ、とくっついていた体を離して千春さんを見ると、「でも」と言葉が続いた。
「朝のHRとか私の授業の時とか、廊下ですれ違う時とか、見える所で瑞希からの視線を感じたの、それも憧れとかそういう類じゃなくて、真剣に私を好きだって見てくれてる瑞希に申し訳ないと思ったわ」
「じゃあ、最近ずっと私を誘うのは……」
「それは単純に私が会いたいだけ」
「あ、そう」
「興味ないかもしれないけど、貴女男子生徒から人気あるのよ? 年齢によるハンデもあるし、私は貴女が男に盗られないか気が気じゃないわ」
「関係ないですよ、私、同性愛者ですし」
「それもそうね……それと土曜日、大丈夫よね?」
「はい、友達の家に泊まるって言っておきます」
「了解、いつもの駅に迎えに行くから」
楽しみです、と伝えて私は準備室を出て教室に戻った。