第12話
変更点「明日の日曜日バイトが休みになったから会いたい」→「土曜日」に変更。
居酒屋にて、私は友人の夏月と久々に飲んでいた。ジョッキを手に一口、そのままごくごくと飲み干して一息つけば、隣で飲んでいた夏月が「今日はよく飲むねぇ」と笑った。
「こないだ映画館で会った子?」
「そうよ」
「生徒相手によくやるわね」
「私自身どうかしてると思ってるわ、生徒相手に恋愛だなんて……本気じゃないと思ってたんだけど」
「本気も本気だった?」
にやにやと笑いながら詮索してくる夏月に、私は追加のビールを頼みながら答えた。
「私が本気になったのよ」
「まじ? あんた結構遊びまくってたじゃない」
「昔の話しでしょ、今はあの子だけ、もうあの子じゃないと駄目になったのよ」
ひゃー、熱いねぇ、と煽ってくる夏月を無視し、運ばれてきたビールを口につける。
今日はもうヤケ酒だ。
というのも、さっき瑞希からかかってきた電話の内容が原因ではあるのだが。
(まさかバレるとは……無用心だとは思ったけど、私もやりすぎたわね……これから学校で会えないとなると、抑えが効かなくなりそうだわ)
はぁ、と溜息をついて唐揚げを食べる。
隣では夏月が最近の近況を語ってくれているが、耳に入ってこない。
「でもさ、私はあんたとあの子、合ってると思うよ、なんていうか、お互いを大事にしてるじゃない? それだけじゃなさそうだけど、きっと何かあっても問題なく一緒にいれるわよ」
「軽く言わないで頂戴、結構神経使ってるのよ、これでも」
「だったら学校内で抱いたりしないことね、昔と違うんだから」
失礼な、と言う気持ちで言い返せば、過去のことを掘り出されてしまった。
私にだって若い頃はあったのだ、若気と至りと言うか、手あたり次第に女の子を食いまくった過去は今じゃ黒歴史も良い所だ。
あの頃は同性愛者としての恋愛の仕方が分からず、心よりも体を求めてしまったのもある。
結果的に傷つけてしまうことが多かったけど、中には本当に心も繋がった子がいたのだ。
(ま、皆男に盗られちゃったんだけど)
頭の中で昔の事を思い出していると、カウンターに置いてあるスマホがバイブ音を立ててメッセージの着信を知らせた。
【明日の土曜日、バイトが休みになったので会いたいです】
休みなら友達と遊ぶか家でゆっくりしていればいいのに、こうして私に連絡をくれるだけで愛おしさが溢れ出てくる。
「ほんと、信じられないわ」
「何がよ」
「あんた、すっごい幸せそうな顔してる」
「まぁね、あんたも今の彼氏とどうなってんのよ」
「えぇー!? 今まで喋ってたの全部スルーかよ! このっ!」
怒って伸ばしてきた手が私の脇腹をつつく、こらやめろ、そこは弱いんだから。
あまりふざけていても店に迷惑がかかると言って宥め透かし、結局遅くまで夏月の惚気話に付き合わされたのは言うまでもない。
瑞希には「泊まりの道具と月曜日の学校の用意をするようにと返事を返した」
日曜日、バイトが休みなった私は歩いて駅に向かっていた。
ロータリーには既に千春さんの車が止まっており、急いで助手席へと乗り込んだ。
「そんなに慌てなくてもいいのに」
「えへへ、ついね、ちゃんと会えるの久しぶりだし」
運転席に座る千春さんを見ると、自然と笑顔になった。
今日の千春さんは体にフィットするタイプの白いカットソーに黒いズボン、それにサングラスを胸のところに差していていつもよりエロく見える。
私はワンピースにモスグリーンのカーディガンを羽織っている。
靴は低めのヒールだが、これは千春さんから貰ったものだ。
今日はどこへ行くの、と質問しようとした時だった。
千春さんが私を抱き寄せた。
「な、ななっ、何してるの、千春さん」
「しっ、そのまま俯いてなさい、学校の子よ」
まさか会えなかった日が続いたからと言って会ってすぐキスするの? と思っていた私は、千春さんの緊張した声に体をビクつかせ、千春さんの言う通り俯いた。
「もういいわよ」
顔を上げると、千春さんの安堵した顔があり、私は逆に赤面していた。
「行きましょうか、今日はちょっと遠くまでドライブするわよ」
「どこへ行くんですか?」
「ふふっ、着いてからのお楽しみ」
まぁ、千春さんなら行く場所を外したりはしないだろうと言う信頼からそれ以上の詮索を止めた。
車は高速道路に乗り、北を目指していた。
「ねー千春さん、こっちの方向って何か遊べるところあったっけ?」
「遊ぶ場所はあんまり無いわね、でもきっと気に入るわよ」
あくまで到着するまで教えるつもりがないのか、千春さんは笑ったままだ。
途中パーキングエリアでトイレ休憩と昼食を取ると、またすぐに車を出した。
目的地に着いたのは13時過、出発が10時ぐらいだったので結構時間がかかっている。
ここからでも分かるぐらいの硫黄の匂い、間違いなくここは温泉だ。
「どうかしら、今日のデートスポットは」
「すごいよ、千春さん、私温泉大好きなの!」
「それはよかったわ」
いつもよりニコニコと笑顔を見せてくれる千春さんの手を引いて中に入った。
「いらっしゃいませ、ご予約はございますか?」
「桜井と申します、本日はお世話になります」
「いえいえ、どうぞごゆっくりしてらっしゃって下さい、お部屋はこちらになりますので」
宿帳に記入を終えた千春さんが鍵を持って戻ってくる。
再び手を繋いで部屋に入ると、二人で泊まるには十分すぎる程広い部屋と、そしてなんと、窓の外には小さいながらも露天風呂があるのだ。
「すっごーい! 千春さん! 見て見て!」
興奮してつい声が大きくなってしまう、窓を開けると、露天風呂の熱気と湯気が部屋に入ってくる。
「瑞希、あまりはしゃいでないでこっちへいらっしゃい」
「はーい」
大人しく言う事を聞いて窓を閉めて振り返ると、千春さんがいつの間にか浴衣に着替えていた。
「千春さん、浴衣似合う~」
「ありがと、瑞希も着替える?」
「うん、でも先に温泉入らない?」
着替えたばかりだが、それもそうね、と千春さんは荷物からタオル等を準備し始めた。
「え? こっちのお風呂入らないの?」
「大きい方の温泉は夜になると入れなくなるのよ」
「でも……ちょっと狭いけど二人で入れるよ? それに、大きい方はご飯の後でも行けるんじゃない?」
大きい方の温泉も入りたいが、今は目の前の温泉に千春さんと入りたいのだ。
荷物を置いた千春さんが溜息をついて立ち上がり、私に近づいたかと思うと、そのまま壁に手を付いて私を見下ろした。
「一週間たらずまともに話せないだけでこんなにも瑞希を求めてる、あんまり私の理性を試さないで? 瑞希が思ってる程、私理性的じゃないのよ」
そう言ってキスをされた私は赤面して頷いた。
千春さんが言いたいことはつまりこう言うことだ。
(今すぐにでも抱きたい)
その後、大人しく千春さんと大きい方の温泉へ行き、しっかり堪能したのはお約束だ。




