プロローグ
「おはよう……ございます」
おはよう、だけですませそうになり、何とか声を振り絞って敬語へと持っていく。
それを相方はくすりと笑い、私の頭を撫でた。
私より少し大きくて、細い指が柔らかく頭を撫でていく、離れていく手を自分の手で掴んで、目の前で楽し気に笑う彼女の唇を奪った。
そのまま数秒時間がすぎて、唇を離した。
「おはよう、瑞希」
「おはようございます、千春、さん」
「まだ慣れないの?」
「そりゃあ……いつもは先生って呼んでますから」
「それもそうね……朝ご飯はどうする? 食べてから学校行く?」
「はい、いただきます」
ベッドから起き上がり、欠伸を噛み殺しつつ立ち上がる。
綺麗に畳まれた制服に袖を通そうと上着を広げると、背中から抱き付かれた。
「ちょ、千春さん? 着替えできないんですけど」
「今日は土曜日よ、瑞希」
「なっ、騙しましたね?!」
「普段はひっかからない瑞希が珍しくひっかかるから、面白かったわ」
ぎゅーと抱きしめられた後離れた千春さんに、私は制服を畳み直して向かい合った。
腰まで届く黒髪のロングストレート、整った目や鼻が配置された顔、細いけど出るところは出ているモデル体型。
主張の激しい二つの丘は見ないようにする。
パンツ一枚で何も羽織っていない千春さんは「どうする?」と悪戯な笑みを浮かべている。
「お腹空きました、千春さん」
「すぐに準備するわ」
「じゃあ、なんで抱き付くんですか?」
「好きだからよ」
うっ、と言葉に詰まる。
どうしてこの人は、こう人がキュンとする言葉をすらすらと言うのだろうか。
結局、朝食が昼食になったのは言う間でもない。