第2話 言葉が全く通じない場合の傾向と対策
すみません、とある映画の旅行ネタをいきなりパクりました。いやあ、映画館で何度も観たなあ…。
「はあ…歩く歩道が欲しい…」
「ここは空港じゃないぞー。あと、それを言うなら動く歩道だ」
だだっ広い草原のせいか、すぐそこにあるかのように見える街になかなかたどり着けない。
日の傾きにまるで合ってない腕時計を見る限り、気絶復活から1時間以上は経っているはず。
なんだろう、獣の遠吠えのようなものが聞こえてきた。暗くなってきたし、早く移動せねば。
「おーい、もうすぐ門に着くぞー」
「入国審査?いぇーす、さいとすぃーいんぐー」
「そんなに疲れてるわけでもないだろ、お前」
夜が近いせいか、某空港と違って門には誰も並んでいない。もう行列はノーセンキューだ。
が、すぐに、少しでも並んでいてくれたらいろいろと『観察』できたのに、と後悔した。
「◯△◯…?××△◯!?」
門番の言葉が全くわからなかった。異世界モノ必須テンプレを早々に打ち砕かれた。
ど、どうすればいいんだ?さっぱりわからん。
「入国審査なんだからパスポート出せばいいんじゃない?『同じ役割を果たす』らしいし」
「入『国』かどうかはともかく、言葉が通じないなら文字も当然ダメなんじゃ」
「いいから、やってみよ?神様を信じてー」
お前、天使っぽい人にいつ帰れるんだって詰め寄った挙句、気絶してたじゃないか。
とはいえ、他にできることといえばあとはカード類しかない。まずはパスポートを試すか。
顔写真のあるページを開いて見せればいいかな?え、違う?こっちのページ?
「…△××○、□□、○○△□!」
あっさり通してくれた。ホントにどういう仕組みなんだよ。
と思いながら進んだら、もうひとりの門番が手を出して待ち構えていた。まだ何かあるのか?
「今度は通行料?入国税ってやつ。地球でもある国で取られたことあったし」
「だとしても、こっちのお金なんて持ってないぞ」
「んー、じゃあ、カード見せるしかないんじゃない?日本のお金が代わりになるとも思えないし」
という妹の提案を受け、俺はクレジットカードを渡してみる。
受け取った門番は、水晶の板のようなものを取り出し、カードを乗せる。え、セットできるの?
更に手招きされて、この位置に手を乗せろというジェスチャーをする門番。ここかな?
「これ…もしかして、魔法?」
板が淡く光り、手とカードを包み込む。何か文字らしきものも浮かび上がっている。
はっきりとした意思みたいなものをこの光に感じる。なんというか、新鮮な感覚だ。
数秒ほどで光は消え、ちょっと板を操作してからカードが戻され、通っていいぞという手振り。
「いえすいえーす、さいとしーいーんぐっ」
このタイミングでエセ英語かますかお前は。いや、カードの方が審査っぽかったけど。
結局、妹はキャッシュカードを渡した以外は、俺と同じ手順で門をくぐり抜けた。
◇
「どうもよくわからないなあ。水晶板のアレは署名みたいなものだったのか?」
門から街中に続く道を歩きながら、疑問に思ったことを妹に投げかけてみる。
「むしろ、指紋登録みたいな?顔写真の代わりに魔力パターンがうんたらかんたら」
「魔法みたいだったしなあ、あの光。でもそうすると、最初のパスポートは?」
「なんだろうねえ。こんなことなら、ラノベたくさん持ってくれば良かった」
ラノベがガイドブックかい。でも、今回に限ってはほとんどアテにならないぞ。
そういう意味では、日本から外国に行く方がよっぽどハードモードだよな。
やっぱり、観察していくしかなさそうだ。ついでに、魔法も覚えたいところではある。
「ファイアーボール!とか適当に叫べばできちゃうんじゃない?」
「おいばかやめろ」
幸い、焼け野原にはならなかった。なってたまるか。
短編を御覧の方は既にお分かりですが、この作品で魔法はあまり期待しないで下さい。あるにはあるのでタグ設定してますが。