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パスポートとクレジットカードがあればなんとかなるのは異世界でも同じなのか【連載版】  作者: 陽乃優一
第1章 パスポートとクレジットカードがあればなんとかなるのは異世界でも同じなのか
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第1話 旅行のうんちくは異世界にも通じるか

同名タイトルの短編の連載版です。第1章については拡充長編化、の方が正確かも。

 国内はともかく、海外、というか、国境を越える旅は、準備がとかく面倒だ。

 ツアーパックは別として、国内と同じなのは宿泊先の確保くらいだろうか。


「やったよ、お兄ちゃん!最安値の香港行き往復航空券げっと!」

「ホントか!?ふたりでネットにへばりついていた甲斐があったな!」

「お父さん、再来月有効期限のホテル割引クーポンだけ押し付けてくるんだもん」


 まず、日本は海に囲まれた島国であり、大陸からも距離があるため、飛行機移動がメインだ。

 国内便と比べてもはるかに高額で全席予約の航空券購入は、なかなかに困難である。

 数か月前からの早期予約でだいぶ安くなるが、それは皆が狙っている。


「でもホントに良かったー。パスポートの期限切れも近かったからどうしようと思ってたんだ」

「未成年も10年物を取得できればいいのにな。特に、小6から背が伸びないお前の…ぶほっ」

「他はちゃんと成長してるからいいの!」


 次に、パスポート。これがなければ、たとえ総理大臣や大統領でも国境は越えられない。

 天皇陛下やイギリス国王は顔パスと聞いたけど、特例中の特例だろう。

 国境が陸続きで接している国同士は、各国内で使っている身分証明書でいい場合もあるそうだ。


「香港は220Vだよね?コンセントの形ってなんだっけ」

「えーと…BF、か。ホームセンターで変換プラグ買ってこないとなあ。スマホが充電できない」

「シャンプーとかはホテルの部屋にあるよね?一部の化粧品は、機内持込の場合要注意っと」


 また、普段使う家電や売っている物がまるで違うから、あれもこれもと持って行きたくなる。

 しかし、あまりに荷物が多いと本来の旅そのものがキツくなる。飛行機持込にも制限がある。

 お財布と相談しつつ、消耗品の類はある程度の現地購入で対処した方がいいだろう。


「2泊3日だし、現金は一万円くらいを空港で両替、あとはクレジットカードだな」

「でもお兄ちゃん、あたしまだ高校生だからデビットカードだよ?国際ブランド対応だけど」

「本来は銀行カードだからなあ。ホテルとかでの保証金代わりは俺のカードでまとめてやるよ」


 そして、なんといっても便利なのがクレジットカード。限度額内で後払いができる仕組みだ。

 個人破産ツールとしても有名ではあるけど、両替込みで後払いできるため、今や旅行に必須だ。

 最近は、即時口座引落しで店頭払い可能な国際キャッシュカード(デビットカード)もある。


「クレジットカードの方がいいなあ。海外旅行保険もついてるんでしょ?」

「そうだけど、俺のにしたって大学生向けの限度額が低いやつだしな」

「あたしは念のため、空港にある機械で安い保険に入っておくよ。掛け捨てになるだろうけど」


 健康保険証はもちろん国外では通用しない。旅行保険への別途加入が必要だ。

 クレジットカードは基本、収入がないと作れない。働いてても破産する人はいるけど。

 学生のうちは、ネット上の少額決済に必要な程度のもので十分ということだろうか。


「とはいえ、外国旅行に慣れてる人は一様に『パスポートとカードがあれば』って言うよな」

「一番の問題は言葉だよー。あたし、英語は日常会話も厳しいよー」

「お前、以前家族で行ったトルコで現地の人と一番意思疎通してたじゃないか。身振り手振りで」


 言葉の問題だけはどうしようもない。スマホの翻訳機能にも限界がある。

 まあ、簡単な英単語なら妹もわかるだろう。『Information』とかな。

 あと、標識や看板にある地名や施設のアルファベット名は、ローマ字読みでだいたいいける。


「あ、今回はスマホ回線どうする?あたしの一応、SIMフリーだけど」

「現地SIM入手は結構時間がかかるし、相性もあるんだよなあ。2泊3日だし、ローミングで」

「えっと、香港は1日980円で30MBまで…足りないなあ。ホテルってWi-Fi使えたっけ?」


 Instagramに現地投稿とかしなければいいだけだろうに。お前はセレブか。



 てなことをしていたのが、1か月半前。俺達兄妹は、いざ旅行当日ということで空港にいた。

 国際線の場合、遅くとも2時間前には到着して搭乗券を入手し、荷物を預ける必要がある。

 俺は実は預け荷物がなくリュックだけだが、妹は…アレはほとんどが衣類か。


「セキュリティチェックの行列長い…」

「団体客に重なったかな。もともと持込品チェックは時間がかかるものだけど」

「このあと出国審査でしょ。そっちはすいているといいなあ」


 すいてなかった。保安検査場で混雑していたのだからある意味当たり前か。

 出国審査の長蛇の列にうんざりしていた時、ふと端っこの方に『自動化ゲート』を見つけた。

 話には聞いていたけど、使ったことなかったんだよな。


「なあ、あれ試してみないか?誰も使ってなくてガラガラだし」

「えー、あれって事前登録が必要じゃなかった?ニュースか何かでそんなこと言ってたような」

「そっか?まあいいや、どうせ最後尾だし、やってみようぜ」


 机にはめ込まれたガラスのような読み取り部分に、顔写真ページを開いて乗せる。

 ん、両手の人差し指をここに乗せるのか。指紋認証かな。

 隣のゲートでも妹が同じようにやっている。たぶん、これでいいんだろう。


 …ちょっと待て、俺、指紋情報の登録なんてやったっけ?スマホには登録しているけどさ。

 じゃあ無理かなー、と思ったら、それまで閉じていたゲートの扉が開いた。妹の方もだ。

 とりあえず、その扉を通り過ぎると…。


「…外?」


 目の前には、草原が広がっていた。はるか向こうに、丘が見える。

 近くに、呆然とした顔の妹がいる。たぶん、俺も同じ顔をしているのだろう。



「あのゲートは、神々とその配下が集団で世界を渡るためのものだったのですが…」


 異世界転移…したんだよな、その直後に駆けつけてきた天使っぽい人にそう言われた。

 最近の地球はどこで消えたり現れたりしても目立つので、カムフラージュしていたらしい。

 神々のカムフラージュにしてはガバガバしすぎませんか。


「あなた方も、機械も使わず交通網を整備するのは厳しいでしょう…」

「それは、まあ」

「こうして話しているだけでも相当辛いのです…意識の、集中が…」


 顕微鏡で覗きながらピンセットで解剖しているようなもの、かな。

 でもそうすると、俺達はこのまま?


「あくまで誤動作ですから、直せば戻れます…」

「いつ?いつなの?」

「さあ…」


 あ、妹が白目をむきかけている。おい、まだ気を失うのは早い。


「最低限、この世界の人類社会であなた方がやっていくための『変換』は行いました…」

「人類…社会?なんか、嫌な予感が」

「おふたりの脳内に、必要なイメージは転送しました…それでは、しばらくお待ち下さい…」


 そう言って、天使っぽい人は消えた。よし、そろそろ気絶していいぞ妹よ。俺も気を失うから。



「…で、証明書やらカード類はこっちの世界でも使えるようにしたらしいと。どういう仕組みだ」

「出入国とかやってるところでカムフラージュしてたからなのかな。なんか、妙に事務的」

「そりゃあ『パスポートとクレジットカードさえあれば』とは言うけどさあ」


 航空券を入手できた頃のことを思い出す。先人の言葉が、今は空しく感じる。

 今回の旅行の準備がほぼ無駄になったという意味では、あながち間違いではないのかもだが。


「運転免許証やプリペイドカードでも良かったみたいだよ?家に置いてきたけど」

「俺もキャッシュカードが良かったかなあ。クレジットカード、利用枠が小さいんだよ」

「あー、なんかそういうのも影響するみたいだねえ、脳内イメージ見ると」


 これはもう覚悟を決めるしかないか。幸いひとりではなく、気心の知れた妹も一緒だ。

 夕日が照らす小高い丘の上で、遠くに見える中世風の街を眺めながら、そんな想いを巡らす。

この話の旅行うんちくは、僕の実体験とネットからの情報を取り混ぜています。実際には、『パスポートの有効期限が十分ではないため搭乗を拒否された』とか『パスポートとクレジットカードを財布ごと失くして大変な目にあった』とかの逸話の方が関心を引くんですが、そこはそれ。

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