焦らす
Sさんは物心がついた頃から霊感があるのだという。
「気付けばそこにいる…とかじゃなくて、けっこう遠くからでもこの周囲にいるなってわかるんです」
彼女のそれは、ある種のソナーのようなものらしい。
その存在を察知したのは引っ越した矢先の事だ。
家が変われば、当然通勤ルートも変わる。
「朝はたぶんいないんでしょうね。帰りの時にだけ感じるんで」
それを感じるのは家への近道に使える路地裏付近だった。
──この角を曲がったらいるんだろうな…
少し気を引き締めてそこへ差し掛かる。しかし何もいない。
それと同時にその気配は消えてしまう。
「見えないとなると、少し興味が沸いてしまいますよね」
しばらくはいったい何者がいるのか、興味本位でその道を利用していたのだが今はとてもじゃないが通れなくなってしまったらしい。
「ある日を境にですね…いつもは消える気配が消えなくなったんです」
以前は逃げるように散っていた気配が、Sさんがそこに足を踏み入れても消えなくなった。
──確かにここにいる
そう感じた。
それが数日続いた。そんなある日の事だ。
いつもと違い、何かが立っていた。
Sさんは黙って引き返し、それ以降その道を使うのをやめた。
「見えたのは人でした。ちょうど角に身を隠す感じで全身は見えませんでしたけど…手と体が少しだけ。
ただね、赤かったんです。血まみれとかじゃなくて…なんかペンキかぶったような…なんかとんでもないものがいるんだと思います」