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中古車
父の友人Kさんは若いとき中古車のバイヤーをしていた。
中古車を仕入れ、売り捌く。
「あんときはそりゃ、大声で言えないようなルートでも儲けりしたさ」
「まぁそんときの話しや…」
何度も巡り合う車があったのだという。
それは人気のあった車種というのもあってか、すぐに売れる。
「でもなすぐ戻ってくるんや」
初めは同じ車種、くらいにしか思っていなかった。
ただその車には「どうしても剥がれないシール跡」があったのだという。
「大概のもんは溶剤つかって取れるんやけどな…
やっかい過ぎる汚れやからよく覚えとったわ。まぁそんときも汚れの分安くしたからすぐ売れてんけど…」
一年もしないうちに戻ってきたという。
それも数度続き、どうしても気になったKさんは取引先にこの車の経緯を聞いたらしい。
「事故は起こしたことないみたいなんやが…
持ち主心臓の病気で全滅や」
「まぁ昔の話しやからとっくに廃車なっとるやろな」
Kさんは祈るように呟いた。