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しかし彼女はうなる僕を手で制し、再び足を進めた。
棚からティーポットやら何やらを取り出す。そしてティーポットに茶葉を入れると、電気ポットを高く持ち上げて、ティーポットにお湯を注いだ。
それが終わるとすぐに蓋をして、アルドラに「もう少し待っていて頂戴」と言った。
僕はにやりと笑って勝利を確信した。今度こそ赤っ恥をかかせてやる!
「馬鹿か貴様は! お湯をそんな高くから注げば火傷するだろうが。二階から目薬という言葉を知らぬのか」
ちなみに二階から目薬の意味は、『高い所から目薬を落とすと目が痛い』だったと思う。
「何を言っているかよく分からないのだけれど、貴方に王としての資格が無いことだけは分かったわ」
「何だと!?」
「紅茶には本来の味を引き出すための淹れ方というものがあるの。正しい方法でお茶をいれるのは、お客様に対する敬意よ。それを卑下することが、正しい王の在り方なのかしら」
彼女の言葉に、思わず押し黙った。
そんな僕を横目に、クロミネはティーカップの蓋を開け、中でくるりとスプーンを回す。そしてティーカップに紅茶を注ぐと、僕とアルドラの前に差し出した。
水面に広がる波紋をじっと見つめた後、カップを持ち上げて紅茶を口に含んだ。
「……何だ。家で出ているのと大差無いではないか。むしろ家の方が美味い紅茶が飲めるぞ」
「貴方のお家でも同じような方法で、それもより高価な茶葉を使ってお茶を淹れているからよ。それが貴方に対する敬意で、そして愛情であることを忘れずにいなさい」
「むぅ……」
何だか上手くまとめられてしまった気がする。
もう一度口に含んだ紅茶は、まだほんのりと温かかった。