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裸の王子様

「シリウス王子! 早く服をお召しになってください! このままでは学園中の笑いものです!」


 九十九代目セバスチャンが服を両手に掲げながら叫んだ。セントラルアカデミアの制服を規定そのままに着込んだ彼は、服装だけでなく頭まで堅物だ。


 やれやれ。これだから馬鹿は困る。


「セバスよ。お前にはこの素晴らしい衣装が見えぬというのか。ならば貴様は馬鹿だということだ。それが分かったなら今すぐ口を閉じよ」


 ピシャリと言い切ってやった。どうだ。これならいつも口うるさいセバスも、僕を立派な王子だと認めただろう。


 だがセバスは顔を真っ赤にして憤怒する。


「失礼ながら馬鹿はシリウス王子です! 気まぐれに港に行ったと思ったら、あんな何処の馬の骨ともしれない商人に騙されて! 次代の王の名を背負う身として、恥ずかしいとは思わないのですか!」


「何だと無礼な! もういい! 貴様はクビだ! 今すぐ出ていけ!」


「ええ出ていきますとも! 貴方のような人が君主とあっては、クローバル王国ももうおしまいでしょう! 私はハートアイランド王国にでも雇ってもらいますよ!」


 そう吐き捨てると、四葉のマークが入ったバッヂを床に置いた。四葉のマークは我がクローバル家の紋章である。バッヂを手放すと言うことはつまり、クローバル家に背くことに等しい。


 だというのに、セバス――元セバスはそれを堂々とやってのけると、肩をいからせながら屋敷を出て行った。


 彼がセバスチャン――つまりはクローバル家の王子専属の執事――に就任してから、まだ一週間も経っていない。


「根性の無い奴だ。やはり主が優秀だと、仕える者にも相応の質が必要ということか」


 ならば仕方が無いと割り切って、百人目のセバスチャンを探しに行くことにした。僕の衣装を皆に見せるのにも、良い機会になるだろう。


 この服は誰が見ても思わず一目惚れしてしまうような、すばらしいデザインになっているらしいからな。


 屋敷のドアを豪快に開け、悠々と外へ踏み出す。


 女性の悲鳴が上がったのはその直後のことだった。


「どうした!? 何があったのだ!」


 すかさず女性に駆け寄る。王子たる者、民の身を案ずるのは当然というものだ。


 だが僕が駆け付けたというのに、彼女は顔を伏せたまま後ずさりをした。僕の威光にあてられたのだろうか。


「シ、シリウス王子……。どうしたのですか、その恰好は?」


「ん、ああ、これか? 港で商人から購入したのだ。『馬鹿には見えない服』というらしい。その名の通り馬鹿には見えないが、デザインは超一流であろう? どうだ?」


 その場でくるりと回って見せる。

 女性は「ひっ」と小さく声を上げた後、さらに深く俯いた。


「え、ええ。とても良くお似合いです」


「そうであろう。どうだ。もっとよく見よ」


 両手を腰に当て、胸を張った。

 どうだ元セバスよ。やはり正しかったのは僕の方ではないか。


 だが彼女は僕に背を向けると、

「いえ。私はもう十分でございます! 今日は体調が優れないので、これで失礼いたします!」

一目散に何処かへ走っていった。


「お、おい……」


 僕の引き留める声もむなしく、彼女の背中はもう遠い。


「まあ良いだろう。他の者にも僕の姿を見せてやるとしよう」


 気を取り直して人が集まる大通りの方へ足を向けた。王が顔を見せることで民は活気づくのだと、お父様もおっしゃっていたしな。僕は本当に優秀な王子だ。


 大通りに付くと、初めは皆が目を丸くした。だがすぐに頭を下げると、僕への忠誠心を示した。


「皆ご苦労。民が元気そうで何よりだ。時に商人からこの『馬鹿には見えない服』を買ったのだが、皆はどう思う? 率直な意見を述べよ」


「「「とてもお似合いでございます、シリウス王子」」」


 満場一致で僕を賛美した。子供たちの口が何故かふさがれていたが、恐らく騒がしくさせないためだろう。子供の喧噪を温かく見守る程度の器なら、僕は持ち合わせているぞ。

 だが民の気遣いだ。ありがたく受け取っておこう。


「貴方たちは何を言っているのから。着ていないのだけれど」


 民たちの反応に満足して手を振っていると、冷たい声が鼓膜を刺した。


 声をした方を向くと、出店の食事用スペースに腰かける女が一人。僕を前にして頭も下げず、本にばかり目をやっている。


 本来ならこの場で即刻捉えて拷問にでもかけるところだが、僕は何も言い返すことが出来なかった。


――何故なら彼女は、とても美しかったからだ。


 年は僕と同じくらいで、肌は雪のように白い。されどすらりと腰まで伸びた髪は漆黒よりもさらに黒く、光沢を放っている。


 以前芸術の先生が、どんな綺麗な色も混ぜていけば最後は黒になると言っていた。それはそうだろう。黒はこんなにも美しい。


「だ、誰だ貴様は! 何処の家の者だ!」

「犯罪者に名乗る名前など持ち合わせていないわ。悪用されたらたまったものではないもの。そうでしょう?」


 尚も本からは目を逸らさず、髪を耳にかけた。

 僕はゴクリと唾を飲む。


「おい貴様。こちらを向け」

「いやよ。汚らわしい物が見えてしまうもの」

「この服は馬鹿にしか見えない服なのだ。貴様は馬鹿だから服が見えないのだろうな」

「いいえ見えてるわ。素敵な服ね。特に開けた胸元がワイルドで素敵だわ」

「……分かっているじゃないか」

「嘘よ。適当を言っただけ。貴方だって見えていないのでしょう? 認めなさい。貴方はその商人とやらに騙されたのよ」


 グッと言葉に詰まる。


 おのれあやつら、やっぱり服なんて無かったんじゃないか。服が見えないと言ったら馬鹿にされると思って、見えるふりをしていたのに。


 しかしこのままでは民に示しがつかないぞ。このままでは僕は、裸で町中をうろついたただの変態だ。王子としての権威が失われる。何か……何か無いのか!?

 

 頭をフル回転させるが、僕が喋るよりも先に例の女が「そもそも」と口を開いた。


「例えどんな服でも普通下着はつけるものでしょう」


 思わずハッとなる。確かにその通りだ。


「貴方のその粗末なモノが何よりの証明よ。貴方の頭の中が粗末だってことのね」


 僕は何も言い返せず、そっと前を隠した。


☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ 


 この世界『トランポート』は、四つの大陸から成り、そしてその四大陸をそれぞれ一つの大国が治めている。


 かつてはこの国同士の戦争により世界中が火の海に呑まれていたが、今では和平が結ばれ、貿易も盛んに行われている。


 そしてその友好関係の象徴こそが、僕らが現在通っているこの『セントラルアカデミア』なのだ。


 『セントラルアカデミア』は、四つの大陸の丁度中心に位置する島『セントラルアイランド』にあり、各国の王族や貴族の子供たちが通学を義務付けられている。


 若い世代を共に学ばせることにより、より国同士の繋がりを強固にしようというわけだ。


 そんな内容のことを、最近就任したばかりの若い女の先生が、先ほどから長々と説明している。名前は確か……何だったか、忘れた。


 レディの話はすべて聞き入れるのがジェントルマンというものだが、正直この話は、耳にタコができるほど父上や屋敷の教育係から聞いている。


 それに僕は、昔から歴史の授業が苦手なのだ。覚えることが多い。


 思わずくわっと欠伸をしていると、先生が僕をチョークで指した。

 何と無礼な。


「それでは退屈そうなクローバル君。革新的に思われたこの『セントラルアカデミア計画』ですが、今、新たな問題が浮上してきています。それは一体何でしょう?」


 眼鏡をくいっと上げると、たわわな胸を抱えるように腕を組む。


「う、うむ。そうだな……」


 さっぱり分からない。教育係の授業など、欠片も聞いてこなかったしな。しかし、王子たる者答えられなくては権威を失う。


 最近浮上してきた問題か……。昔と今で何が違う? それは僕が此処にいるかどうかということだろう。


 ならば答えは簡単だ。


「僕の優秀さを前に、皆が自信を無くしているということだろう。心配せずともよい。他国の王族貴族たちの代わりに、僕がこの世界を治めよう」


 どうだ。拍手喝采をささげた後、僕に頭を垂れよ!


 だが巨乳先生は跪くどころか、こめかみに手を当てると首を横に振った。


「ねえクローバル君。個性豊かなのは良いことだけど、貴方は一国の民の命を背負っているの。いつまでも馬鹿なことばかり言ってないで、そろそろ王子としての自覚を持ちなさい」


「何だと無礼な! ひっ捕らえて拷問にかけるぞ!」


「やれるものならやってみなさい。この施設は常に平等を期するため、四大国全てから立場を保証されています。貴方が私に危害を加えれば、すぐさま他の三国が貴方の国に制裁を与えますよ」


 ぐぬぬと押し黙る。牛女はもう一度やれやれと言った後、僕の少し左側に視線を向けると、


「それではハートフルさん、回答を」


 指名を受けた彼女は、甲高い声と共に立ち上がった。


「わかりましたわ。愚かなクローバル国の王子の代わりに、誰よりも優秀なこのガーネット・ハートフルが答えて差し上げますわ」


 頭の両横にドリルのような物をぶら下げた彼女は、意気揚々と胸を張る。


「誰が愚かだ! そのドリルを引っこ抜くぞ!」


「なっ!? ドリルですって!? 私の美しい縦ロールを罵倒しましたわね! 許せませんわ、落ちこぼれの分際で!」


 顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけてくる。


「いいかげんになさい!」


 先生が黒板を叩く音が教室中に響いた。

 しまった……。あの先生、怒るとかなり怖いのだった。


「貴方たち、授業の受け方がなっていませんね」


 ヒールをツカツカ鳴らしながら、こちらに歩み寄ってくる。


「教育的指導です!」


 鈍い音が二度鳴った。


「「王(女)に何という無礼だ(ですの)」」

「もう一発必要ですか?」

「「ごめんなさい」」


 先生はやれやれともう一度言った後、


「ちなみに回答は、『各国が他国への見栄で生徒の住宅地を豪華にしているため、その出費が国の予算を圧迫していること』です。分かりましたか?」


「「はい」」


 おのれ。覚えておれ、ドリルに牛女!


☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ 


 午前中の授業が終わって昼休み。皆あちらこちらで食事を楽しんでいる。だが僕は昼食にありつくことが出来ず、ふらふらと廊下を歩いていた。


 昨日の昼から何も口にしていない。何から何までセバスに任せていたから、食べ物の買い方すらも分からないのだ。


 誰かに聞くのも恥ずかしいしなぁ……。


「新しいセバスチャンはまだ来ないのか」


 このままでは餓死してしまうぞ。

 ああ、駄目だ。意識が遠のく――


――ぺちぺち。

―――ぺちぺちぺち。

 誰かに頬を叩かれて、僕は目を覚ました。


「ん……んあ……」


 眼前に居たのは、ヘッドフォンをした銀髪の少女だった。棒つき飴を口の中で転がしながら、首を傾げて僕の様子を伺っている。定規で測ったように眉で揃えられた髪が、風に吹かれてさらりと揺れた。


 童顔と体格から小学生と間違えそうになるが、制服を見るに彼女も僕と同じ高等部らしい。


 それにしてもどうしたものか。

 この僕が空腹で倒れていたなど、この子に言えるわけが――


 ぐうぅ~。


 口より先にお腹が悲鳴をあげた。


「む、むぅ……」


 彼女は僕のお腹をじっと見つめる。そして口から飴を取り出すと、表情一つ変えることなく僕の口に押し込んだ。


「む、むぐぅ!」


 何なのだ!? 下々の者は自分の口に入れた物を人に食べさせるのか!? 衛生的にも精神的にもマズイのではないか!?


「お、おい貴様……ん!? ……むぐぅ」


……この飴、やたらと美味だ。城でありとあらゆる美食を口にしてきたが、こんなに美味な物は食したことがない。


 それにこの飴を口にしてから、体中に力がみなぎっている。トウガラシなどの香料は体に良いとされるが、そういう類の特別な材料を使っているのか?


 一度口の中から取り出して、じっくり外見を眺めた後、再び口の中で転がしてみる。やはり美味だ。 


「おい。これは一体どういう材料で……」


 勢いよく顔を上げるが、そこに彼女の姿は無かった。


 結局彼女は何者だったのだ? 飴のことはおろか、クラスや名前まで彼女のことは全てわからずじまいだぞ。


 ……もしやあやつ、魔女なのではないか? 仮に魔術と言うなら飴のことも納得がいく。

 助けてもらったことは感謝するが、魔女ならば排除せねばならないだろう。魔女は国に不幸を招くと、教育係が言っていた。

 そんな決意を固めつつ、僕は午後の授業を受けた。


☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ 


 僕の調子がヤバい件について。

 

今までさっぱり分からなかった授業が、何故だか手に取るように分かった。毎回授業の最後に行われる小テストも、今日は満点だった。


「……飴すげぇ」


 おっと。王子らしくない言葉づかいを。

 だがこれは何としても飴の作り方を調べねばなるまい。


 そんなことを考えながら、玄関のドアノブを引いた。


「あ、お兄様。お帰りなさいませぇ!」


 メイド服を着た小学生くらいの少女を見て、僕はそっとドアを閉じた。


 ……念のためもう一度開けてみるか。見間違いかもしれないしな。


「もう! どうしてドアを閉めちゃうんですか?」


 閉めた。もう二度と開けない。


 だが今度はドアの方が勢いよく開いた。反応することが出来ず、顔を強く打ちつける。思わず顔を両手で覆い、声にならない声をあげた。


「お兄様!? 大丈夫ですかお兄様」

「大丈夫。大丈夫だ」


 慌てて駆け寄ってくる彼女を手で制した。正直彼女とは、あまり関わりあいたくない。王子たる者誰とでも友好的でいるべきなのだが、コイツはちょっと――いやかなり怖い。


「それより、何故此処にいるのだ、アルドラ」


 彼女は――アルドラ・クローバルは片手を頬に添えると、もう片方の手で僕をツンツンとつついた。


「愛、故です」

「いや、そういうことを聞いているのではない」


 迷わずアルドラの手を払いのける。


「お前は国内の学校に通っているはずだろう。しかも国内最高のだ。ここで油を売っている暇はないのではないか」

「それは大丈夫です」


 人差し指を立てて、大きく片目を閉じる。『ういんく』というやつらしい。最近女どもの中で流行の仕草なのだとか。可愛い子にういんくされてときめかない男はいないと、教育係も言っていた。


 さっぱりわからない。どこがいいのだ? むしろ少しイラッとしたので、顎でアルドラに続きを促した。


 するとアルドラは口を尖らせつつ、

「私、この学校に転校してきましたから」


 ぬかしおる。


「馬鹿なことを言ってないで、帰れ」


「ですから、此処がもう私の家なんですよ。毎日ずっと、一緒ですよ」

「……父上と母上に言いつけるぞ」

「構いませんよ。すでに了承を得ていますから」

「そんなわけないだろう。どちらも厳格なお方だ」

「ええ、最初は許してもらえませんでしたよ。ですから少々、取引をしました。王はとても優れた知性をお持ちですから、双方の利益になると分かった途端、すぐに了解してくれましたよ」


 かなり遠回しな言葉を使っているが、今の僕には分かるぞ。つまり脅迫したんだな。父上の弱みを握って、バラされたくなければ言うことを聞けと。


 王は策略の才を以て一代で四国の大戦を終結させた天才だ。あの方を無くして和平など決して成り立たなかった。


 その王を策略によって負かすなど、やはりコイツは化け物だ。


 思わず身震いをしていると、アルドラはハンカチを取り出して、これ見よがしに目じりにあてた。


「それにしても、相変わらずお兄様は私に冷たいですね。悲しみのあまり涙をふくにはハンカチや服の袖では到底足りません。よよよ」


 よよよとは何だ。それに涙なんて一滴も出ていないではないか。ハンカチからっからだぞ。


「いや、だってお前……僕を赤子扱いするではないか」


 僕がアルドラを避けるのは、アルドラが優れているからだけではない。それだけなら、ただのよく出来た妹だ。


 アルドラは非常に優れた才を持っていながら、全部僕を甘やかすことに使うのだ。食事の時は必ず食べ物を僕の口に運ぶし、学校で課題が出て家に帰れば机の上に済ませたものが置いてあるし。酷い時はテスト開始と同時に解答用紙を表にすれば、すでに模範解答が書かれていた時もあった。


「僕はクローバル国の王子、つまり次の王だ。王子は若いうちからその優秀さを民に見せつけ、信頼を得る必要がある。よってお前の行為は、僕の邪魔になっているのだ」


 アルドラと比べられると少々劣るが、下々の者達より遥かに僕は優秀なはずだ。何せ彼らより位が上なのだからな。


「いいえお兄様。いえいえお兄様」


 僕の肩をひしっと掴み、大きく首を振る。


「お兄様は何もしなくて良いんです。お兄様は朝起きてご飯を食べて、好きなことをして、寝る。それだけで、お兄様は素敵です。大丈夫ですよ。これからはずっと一緒です。勉強も運動も洗濯も炊事も、全部私がやってあげますからね」


 目がうっとりと三日月を描き、小さな吐息が漏れる。


 アルドラの行き過ぎた思想に悪寒を覚え、僕は思わず三歩後ずさった。


「いらん! 余計な世話だ! もうすぐ新たなセバスが来るだろうから、そいつに頼む!」

「来ませんよ?」

「は?」

「ですから、もうセバスチャンは来ません。見えませんか、私の格好」


 そう言ってアルドラは、その場でくるりとターンした。必要以上に取り付けられた白いレースが、スカートに合わせてひらひら揺れる。


 ……メイド服だな。

 …………待て何か嫌な予感が――


「私が百人目のセバスチャンですよ、ご主人様!」

「いや! 待て! それは! おかしい!」


 動揺用のあまり一文節以上言葉が続かない。


「セバスチャンというのは、代々王家に仕えてきた貴族の子供が、数年間かけて資格をとってなるものだ。いくらお前とはいえ簡単になれるわけが――」

「ええ、大変でしたよ」


 アルドラのため息が僕の言葉を遮った。


「学業と両立しながらだと、資格をとるのに一カ月もかかってしまいました。お兄様が高等部に入ったらすぐに来るつもりでしたのに、失敗です」

「……化け物め」

「乙女は皆、夜に化けるんですよ。実はオオカミなんかよりよっぽど凶暴なんですから」


 アルドラのういんく交じりの言葉に、僕は驚愕を隠せなかった。


 そうなのか!? そんな話は聞いたことが無いが。だが化け物ならば納得がいく。それにしても女は皆そうなのか。恐ろしいのだな……。


 詳しいことはよく分からないが、とりあえずは知っているふりをしておこう。兄としての威厳を保たねば。


「う、うむ。そうだな。だが僕だって本気になればもっと凄いぞ」

「まあ! 楽しみです!」


 アルドラは頬を赤く染めた。

 さっぱり意味がわからない。


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