桜と海と翼〜翼と水と桜色〜
…疲れていたから、深く眠っていたからだろうか?
その夜、僕は夢を見た。
僕は「8人」の家族と一緒にいた。
みんなで笑いあって、楽しそうだった。
そこに現れたのは「黒い集団」。
そのうちの1人がこう言った。
「『 色髪の子だ!高く売れるぞ!』」と。
僕がこんな髪色をしていなければ、
こんなことには、ならなかったのかな?
chapter 2 桜と海と翼〜翼と水と桜色〜
「ん…。」
目が覚めると、目の前には光り輝く池。
あぁ、そうだ。僕は…。
昨日のことを思い出す。
僕には、「仲間」ができたのだと。
横を見ると、自分の片羽を僕の身体を包むようにしてかぶせたまま眠る、フォカさんの姿があった。
ずっと、温めたくれていたのであろう。
お礼も兼ねて、そっと頭をなでる。
…ふと、気づく。
「…カロルさんは?」
おそらくもう片羽は、カロルさんにかかっていたのであろう。
しかし、そのカロルさんが見当たらない。
…どこへ行ってしまったのだろうか?
あの子は病み上がりだから、そんなに遠くには行ってないはず。
…何かあったのではないか?
不安になってくる。
「あっ、起きてたんですか?」
声をかけられ、その声の主の方を向く。
「!?…カロルさん!」
両手にたくさんの果物を抱えて、微笑むカロルさんがいた。
「カロルさん!身体は大丈夫なんですか!?」
「大丈夫ですよ。暑さに弱いもので…。日陰なら大丈夫ですよ。あっ、これ、食べますか?お腹空いてませんか?この果物、食べられるヤツなので大丈夫ですよ。」
そう言って果物を置く。
「…おい、カロル。」
あっ、やばい。という顔をするカロルさん。
目線の先にいたのは、
今起きたばかりのフォカさん。
ものすごく怒っているのが目に見てわかる。
「…ひとりで行動するなって、言ってただろう?」
じりじりとカロルさんに近づくフォカさん。
「…でも、ラティさんもフォカも寝てましたし…。」
「そういう問題じゃねぇ!」
フォカさんがカロルさんの両肩をつかむ。
(どうやら人の手にもできるらしい。)
相当力を込めているのか、「痛っ!」っと顔を歪めるカロルさん。
「…離れた先でなにかあったらどうするつもりだったんだ!昨日の傷はまだ治ってねぇーし、まだ『あいつら』がうろついてるかもしれねぇーし…。」
「…フォカ…。」
今度はカロルさんがフォカさんの両肩をつかむ。
身長差があるせいか、ちょっと背伸びになっている。
それを察したのか、フォカさんがしゃがんで、目線を合わせた。
フォカさんの翡翠色の目と、カロルさんの藍色の目が見つめ合う。
「…自分は…フォカを置いて死んだりしませんよ?」
「…カロル…。」
よく見ると、フォカさんの目は涙ぐんでいた。
ふと、昨日の話を思い出した。
「俺も記憶がないんだ。覚えているのは、『仲間』がいたことと…カロルがその『仲間』ってことだけだ。」
やっと見つけた、大切な『仲間』。
…彼らも僕と会う前に何かあったのだろう。
記憶をなくして、わかっているのは互いが『仲間』であることだけ。
…信じられるのも、互いだけ。
あの守り方を見たら、そう思える。
だからこそ…失うのが…怖いのか…。
…。
「…カロルさん?」
「…ラティさん?」
僕は優しく語りかけた。
「フォカさんはカロルさんのことが心配だったんですよ?昨日、あんな高熱をだして、ぶり返してどこかで倒れたら、どうするつもりだったんですか!」
「…。」
カロルさんが僕を見る。
カロルさんの藍色の目には、僕の顔が写っている。
…なんて顔をしてるんだ、僕は…。
「…ラティさん…フォカ…ごめんなさい。」
謝るカロルさん。
「…でも!昨日色々と迷惑かけたので、なにかしなきゃと思って…。」
「それでぶっ倒れたら元も子もねぇーだろ!」
…フォカさんの声が森に響く。
「…ごめん。フォカ。」
「…とにかく、無事でよかった。」
カロルの頭をなでるフォカさん。
「ちょっ、子供扱いしないでください!」
「いいじゃねぇか?俺の方が年上だし。」
「関係あります?」
「…撫でやすい。」
「…それ、遠まわしに自分が小さいって言ってますよね?」
…ほんとに兄弟みたいだ。
「ふふwww」
なんだか微笑ましい。
「あっ、なんで笑うんだよ!ラティ!」
「いえ、仲いいなと思いまして…。」
「そうか…。」
…兄弟って、こういうものなのかな?
「とりあえず、食べましょうか?」
「そうですねwww」
「いつまで笑ってるんですか!」
「っ笑うのをやめろ!」
少し、羨ましかった。
「…さてと、とりあえず、森を抜けるか!」
お腹も膨れ、僕らは森を出ることにした。
「…歩けるか?カロル。」
心配そうにカロルさんの方を見るフォカさん。
「大丈夫ですよ。行きましょう?」
歩き始めようとした、その時だった。
「!?避けろ!二人共!」
「えっ!?うわっ!?」
「なっ、何あれ!」
何かが飛んできたのだ。
「っ!?このやろ!」
フォカさんは自身の両腕を翼に変え、羽ばたかせた。
「『大地の風』!」
翼から強風が起き、その風で威力の弱まった「それ」は地面におちた。
「…矢?」
「それ」は、先が鋭く尖った、銀の矢。
「…見つけたぞ!」
「!?お前らは!」
草むらから、人が現れる。
「(!?『黒い集団』!しかも5人!)」
あの夢に出てきた人たちとよく似た格好をしている黒いフードをかぶった人たちが5人。
今、僕らの目の前にいる。
「…あれ?一人増えてね?」
「まぁ、いいだろう。全員生け捕りだ!」
そのうちの1人が襲いかかってくる。
…捕まるわけには行かない。
…記憶の片隅で何かがそう告げる。
でも、どうすれば…。
「…カロル。いけるか?」
「…側に池ありましたよね?」
…池?それがどうかしたの?
「…できるか?」
「…やらなきゃ捕まりますよ?」
笑いながら言うカロルさん。
こころなしか、楽しそうに見えたのは気のせいだろうか?
そう思っていると、なにかの気を感じた。
よく見ると、池の水が、カロルさんの右腕に絡みつくように集まっていた。
カロルさんは、その手を上に挙げ、水は天に登る。
「…『水龍!』」
その水は龍となり、その黒フードの人を貫いた。
「ぐはぁ!」
「!?くそっ!」
それを見た黒フードの人…今度は3人一斉に襲いかかってくる!
「…しゃがめ、カロル。」
「っ。あとは、任せましたよ?」
「…おうよ。」
カロルさんの後ろからフォカさんが羽ばたく。
「『かまいたち』!」
そして、刃物のような鋭い風を翼から放つ。
「ぎゃあァァ!」
瞬く間に切り裂かれていく黒フードの人たち。
戦い慣れしているのだろう。
見事なコンビネーションだ!
「…さてと、ひとりになっちまったがどうする?」
「…。」
残ったのは1人だけ。
それに対し、こっちは3人。
数的にもこっちが圧倒的に有利だ。
「…ふっ、ハハハハハ!」
「!?」
その黒フードの人が笑い始めた。
「!何かおかしい!」
フォカさんが翼を振り上げた時だった。
「うわぁぁぁぁ!」
「カロル!?」
カロルさんが、電気に包まれた。
「あっ!フォカさん!カロルさんの足元!」
「!『電気蛇』か!」
よく見ると、カロルさんの足元には黄金色に輝く蛇がいる。
電気を帯びている、カロルさんはこの蛇にやられたのだ。
「そのとおり!そのフードの子は知らないけど、君とこの子は『風』と『水』。どっちも『雷』に弱いからね。」
「!?気づいてたのか!」
属性相性というやつだろうか?
そう考えると、かなり不利な状況だ!
「さて、どうする?おとなしく捕まってくれる?捕まってくれないなら…。」
「うわぁぁぁぁ。」
「!?」
カロルさんの足に「電気蛇」が巻き付く。
そして、電撃を放っているのだ。
このままじゃ、カロルさんが…。
「どうにもできないね。助けに行っても、同じ目に合うだけだもんね。」
あの黒フードの人のいうことが本当なら、フォカさんの属性である「風」も、「雷」に弱い。
むやみに近づけないんだ。
「さぁて、どうする?」
…なんで、僕は何も出来ないの?
ただ、見ていることしか出来ないの?
『…助けたい?』
「えっ!?」
どこからか、声が聞こえた。
「誰?」
『助けたいなら、あなたに『秘められた力』を使いなさい。』
秘められた…力?
『…左手。』
左手…あっ。
僕は、自分の左手の甲を見た。
僕の左手の甲には、石が埋め込まれている。
それは、産まれた時からなのか、誰かにつけられたのかもわからない。
星空のように光輝き、空のように青く澄んだ水晶が。
考えるよりも、先に身体が動いた。
僕は、走り出した。
身体が、この石の使い方を知っているようだった。
「!?何をするつもり!?」
「!?ラティ!?」
僕の左手は、そばにあった木に触れる。
「…『マテリアル:リーフ』。」
その呪文も、頭が覚えていた。
使ったことが、あるのだろう。
すると、その木から淡い緑色の光が出て、石に吸収されていく。
「『グラスロープ』!」
「!!なんだと!?」
黒フードの人に蔦が巻き付く。
「!?その左手の石は!『星の加護』か!」
…黒フードの人が叫んだ声は聞こえなかった。
それよりも、カロルさんを助ける方法を考えていた。
この呪文は、蔦を操れる。
…ならば!
「もう一回!『グラスロープ』!!」
今度は、カロルさんに巻きついた蛇を薙ぎ払う。
「電気蛇」は悲鳴を上げ、カロルさんから離れた。
「…カロル!」
さっきまで何が起きたのかわからず、唖然としていたフォカさんがカロルさんの元に駆け寄る。
「大丈夫か!…ごめんな。俺…。」
「…大丈夫…ですよ…ちょっと…痺れますけど…。」
カロルさんはなんとか無事なようだ。
よかったと思いながら、目線を黒フードの人に向ける。
「…普通の人間が、そんな強大な力を使えるはずがない。あんたは…一体…何者なんだ?」
「…僕は自分がわからない。だから、一つ、あなたに聞きたいことがあるんです。」
夢に出てきた、黒い集団。
彼等なら…。
僕は、勇気を出して、フードをとった。
「!?」
驚くのも無理はない。
風になびいた僕の長い髪は、
「…桜色の…髪…。」
桜色をしていたからだ。
この国では通常の人の髪色(黒とか茶とか金とか)じゃない人たちは珍しく、とても大きな魔力を持っている…と誰かから聞いた記憶がある。
「お前…『色髪』だったのか。」
「…この髪色は珍しいから、会ったことがあるなら覚えているはずです。」
…息を整え、聞きたいことを、僕を知るための手がかりを聞く。
「…僕と一緒にいた『家族』は、どこにいるんですか?」
お願い、どうか少しでもいいから。
希望を、『家族』がいるって証拠を。
「…教えたら離してくれるの?」
…もしかしたら、この人が『家族』の仇になるかもしれない。でも…。
「…僕はあの2人みたいに、人を殺すのは苦手ですので。」
足元には、カロルさんとフォカさんが殺した、黒フードの人達の死体。
…血は…どうも苦手だった。
これも、僕の記憶の一部なのだろうか?
「…。」
黒フードの人が、口を開けた。
「…『アスタリア』…。この森を抜けた先の街の名前なんだけど、そこに『翡翠髪の少女』がいる。」
『翡翠髪の少女』…。
「ラティお姉ちゃん!僕、いつかこの空を自由に飛びたいんだ!」
「じゃあ、****で一緒に飛ぼう!人がいない時にね。僕らは目立っちゃうから。」
「うん!約束だよ!ラティお姉ちゃん!」
「…そっか。ありがとうございます。」
僕は指をパチンと鳴らす。
すると、黒フードの人に巻きついた蔦が解けていく。
「…本当に逃がすのかよ、ラティ。」
後ろからフォカさんの声が聞こえた。
「…カロルにこんな仕打ちしやがって…生かして帰したくねぇーんだけど。」
「フォカ、落ち着いて…。」
カロルさんがやられたのが相当頭にきたらしく、両翼を構えるフォカさん。
「…ふふwwwまたやられるのがオチだと思うんだけどなぁ…。」
「!?ふっざけんなよ!」
あー、怖い怖いと笑いながら空へ飛ぶ黒フードの人。
「僕、君のこと気に入っちゃった。今回は彼女に免じて見逃してあげるよ!じゃあね!」
「あっ!待て!」
笑顔(顔が見えないがおそらく笑ってる。)で手を振りながらそれっ!と魔法を放つ。
次の瞬間、彼は風に包まれ、風が消える頃には、彼の姿はなかった。
何だったんだ、あの子?
「…ラティ。」
あっ、忘れてた。
「…逃してくれただけいいと思ってくださいよ。」
「そうじゃねぇよ!」
フォカさんが僕を見る。
正しくは僕の髪を。
風になびく、長い桜色の髪を。
「…フードかぶってたのは、そういうことか。」
「…黙っててごめんなさい。」
時が来たら伝えるつもりだった。
「『色髪』はたくさん魔力を持ってる。だから狙われやすいって。隠した方がいいって…。」
…誰に言われたんだっけ?
「…わかってるさ。そういう珍しいヤツは狙われるからな。だからさ…。」
フォカさんが僕の顔を覗き込む。
翡翠色の目と、目が合う。
「…泣くなよ。」
「…うん、ごめんなさい。」
覚悟してフードを脱いだはずだった。
こんな髪色だから、2人に迷惑かけるのは承知の上だった。
でも、優しく声をかけてくれたから。
一緒に行っていいと、言ってくれたから。
「…これからも、一緒について行ってもいいですか?」
「…俺、一緒に来いって言ったな。」
「…?」
「…知ってたんだ。」
…えっ!?
「ほら、オレがカロル守ろうとして、ラティに攻撃しようとした時あったろ?あの時、風でフードが少し脱げて、桃色の髪、少し見えたんだ。」
あの時…。
「そん時、顔を見たから、俺はラティのこと、女だって知ってただろ?」
あっ…。
「女の子一人にしていくわけにはいかねぇしな。」
「…知っててなんで!」
「…俺の記憶が正しければ、『仲間』のリーダーも『色髪』なんだ。」
「えっ!?」
僕ら以外にも、『色髪』の人がいる!?
「…だから、リーダー…『あの人』の手がかりになるんじゃないかと思って…。」
…そうだったんだ。
僕がフォカさんとカロルさんの『仲間』の手がかりになるかもしれないんだ。
…二人の…リーダー…僕と同じ…『色髪』…。
「…僕、会ってみたいです。フォカさんとカロルさんの『仲間』に!」
リーダーだけじゃない。きっとたくさんの『仲間』がいるのだろう。
どんな人たちがいるのか気になってきた。
「僕も会ってみたいです。ラティさんの『家族』に。」
「カロルさん!?」
痺れがとれたのか、こっちに向かってくるカロルさん。
「カロル、身体はもう大丈夫なのか?」
「…親切に薬草置いていってくれました。本当に何なんですか?あの子は。」
さっきの黒フードの人か…。ほかの人とは違う感じがした。また会うことになるんだろうな。
でも、敵意はなかったような気がする。
「…うし!カロルが動けるなら行くか!」
「大丈夫ですよ。行きましょう。ラティさんの『家族』がいる、『アスタリア』へ。」
「…はい!」
たくさんの謎を残したまま、僕らは森を抜ける。
そして、向かわなきゃいけない。
僕の『家族』がいる、『アスタリア』へ!
chapter 2 end
続きました。今回は少し長めでしたね。
読みづらくてごめんなさい。
さてさて、今回はラティの秘密が出てきましたね。『桜色の髪』と『星の加護』。これが今後の物語に関わってきます。記憶も少しづつ取り戻しているようですが…。
そして、新キャラが出てきました。『黒い集団』こと黒フードの人。この人たちも今後関わってきます。果たして、彼らの目的とは?
そのうちの1人、『電気蛇』を扱う彼もまた、かなり重要な人物です。この後どのように関わってくるんでしょうか?
そして、『翡翠髪の少女』。ラティの『家族』の1人です。次回、その子に出会うために、『アスタリア』に向います。果たして何が待ち受けているのか?
これで桜と海と翼編は終了です。
次回から「失われた記憶編」が始まります。
ラティ、カロル、フォカ。
3人の失われた記憶。その記憶はあまりにも残酷で悲しい、『家族』と『仲間』の記憶。
でも、思い出さなきゃいけない。
大切な『彼ら』を取り戻すために。
長々とすみませんでした。
次回もお楽しみに!