出会い
少年は、喋れるカメの首にしがみつき必死でへばりついてます。
どこか、焦った様子のカメは少年を気遣う様子なくさっさと海に引き入れたのでした。
それに、焦ったのは少年でした。なにしろ、酸素ボンベの用意もなしに海に引き入れこまれたのです。当然、少年は暴れましたが意外な力の強さにより少年は海に完全に引き込まれることとなったのでした。
「俺、カメさんと違ってエラ呼吸出来ないんだけどー」
「潮の流れに乗りますからね喋らないでください舌かんで死にますよ」
「ちょっと……ゴハッ」
どうやら、潮の流れに乗るために必死だったようです。少年は、息が出来ることにも気づかずに、呼吸を止めてる為に顔が真っ青です。
「何か言いましたか?名無しの権兵衛さん」
潮の流れが落ち着いた頃カメがようやく少年に気を向けました。
「死ぬ、死ぬ俺息できなくて死ぬから」
「大丈夫ですよ、私に掴まっていれば人間でも息は出来ますから、それに喋ることも出来てるでしょう?」
「……確かに、息が出来るって亀さん何やってるんだ」
「何って、見ての通りです」
「見ての通りって」
「見てわからないのですか?食事です」
確かに、少年がカメと出会った時ビニール袋をクラゲと勘違いして食べようとしてました。
「なあ、ここにいるクラゲ全部食べるのか?」
「そうですね、私お腹が空いて仕方ないのですよここにいる数も少ないですし全部食べたいところですね」
「なあ、このチビだけ見逃してやれないか?」
少年が指さしたところには小さなミズクラゲが漂っていました。
「名無しの権兵衛さん、いいですか?ここは弱肉強食の世界なんです。私が食べなくても仲間の群れを食べてしまって1人になったこの毒も未熟なクラゲは大人になれないでしょう。それならば、いっそ私が一思いに食べてしまうのがよろしいのではないでしょうか」
「なら、俺が他の群れを探して混ぜるから……それか、飼う!」
そういった時のカメの目力は少年を殺すようなものでした。
「貴方みたいな人が我々海のものを飼うなどと上から目線で言いますか?私から離れたら貴方は死にますよ?」
無理やり、海に引き込んだ物の言うべきことではありません。しかし、少年は少年で傷ついていたのでした。
「クラゲを育てる事が難しい事は知ってるし、だから子供だけはやめてくれ」
少年にとって、親のいない子供というものは切っても離せないものです。
少年は自分の両親の顔を覚えていません。死んだのか、捨てられたのかも定かではないと施設の人は言いますが、何となく捨てられたのかもしれないと思ってます。
しかし、このクラゲは違います。親を食べられてしまうのです。強制的に一人にされあまつさえこんな小さいのに死んでしまうかもしれないのでした。
「確かに俺は弱肉強食の世界を知らない」
「食うか食われるかの世界何て知らない方が幸せですよ」
「それでも、親のいない寂しさは分かるんだ、だからこの子を守らせて欲しい」
どのくらい見つめあったかはわかりません。しかし、カメは折れました。めんどくさくなったのかもしれません。
「仕方ないですね」
「本当か?ありがとう」
そうして、潰れないように刺されないようにして胸ポケットにクラゲを入れた少年はカメと再び竜宮城を目指したのでした。