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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第十ステージ

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ごうりゅう

「ありがとうよ! 助かったぜ」


 俺の背をバンバンと叩きながら、革ジャンの青年がお礼を口にしている。かなり豪快な性格のようで、耳が痛くなるぐらいの大声で話すのは勘弁して欲しい。


「ここにいると、またサイクロプス……みたいなのが湧く可能性が高いから、移動しながら話しましょう。ついてきてください」


 詳しい説明を省き、この場を離れるように促すと、助けられたことに恩を感じてくれているようで、状況が掴めていないのに黙って従ってくれた。

 スタート地点から離れ通路に潜り込み、ある程度進んだところで彼らに、自分たちが何故ここに来たかを伝える。

 実際に多眼サイクロプスと遭遇した彼らは納得してくれたようで、自分たちの置かれていた状況を理解できたようだ。


「マジか。スタート地点の青いところが無意味なのは、さっき痛い目にあったから知っているが、あの部屋自体が罠みたいなものだったとはな。マジで糞だな、この世界はっ!」


 天井に向かって吠える革ジャン青年の声が通路で反響している。だから、耳が痛いって。

 彼のチームメイトは慣れっこのようで、耳を手で押さえながら苦笑いを浮かべている。仲間の反応から見て、悪い奴ではなさそうだが。


「それで、そっちはあの通路で倒されたってことで間違いないかい?」


「おう、顔色の悪いプレイヤーっぽいのが襲ってきやがって、あの刀使いと露出狂のねーちゃんが、めっちゃ強かったからな!」


 あー、やっぱりやったのは杉矢と田中か。

 会話をスムーズに進めるために、プレイヤーが魔物になっていることも教えておくか。


「――というわけだ」


「おいおい、死んでもこのクソゲーから逃げられないってか!」


 いちいちリアクションが大げさだが、彼の怒りがストレートに伝わってくる。拳を握り締めて、歯を食いしばっているな。

 目が吊り上り気味でワイルドな風貌をしているので、口から漏れる唸り声が相乗効果となり、獣じみている。


「で、今何処に向かってんだ?」


「ああ、俺たちが開放したセーブポイントがあるから、そこで一旦休憩しよう。他のプレイヤーもいるから」


 あの空間に更に五人追加となると、かなり狭苦しいが贅沢を言える状況じゃない。

 そういや、まだ質問していなかったことがあったな。


「言いたくなかったら黙ってくれていいが、あの多眼サイクロプスにかなりライフポイントを削られたんじゃないか」


「ああ、そのことか。俺は多目野郎には一度も殺られてないが、仲間は結構減らされたな。どんだけ減ったんだ?」


 この革ジャン青年は一度も殺されてないのか。

 そういや、あの時も無駄に目立つような行動を取っていたのは、仲間から注意を逸らすために囮役を買って出ていたのかもしれない。

 革ジャンの問いにチームメイトが隠すことなくライフポイントの残りを明かしている。12、15、22、18か。二桁は切っていないが、余裕があるとは言い難い。


「なんだ、お前ら、そんだけしか残ってねえのかよ。んじゃ、俺が先頭で敵を引き受けるから、あんま無茶すんじゃねえぞ」


 男気のある発言をするな。口調は少し乱暴だが、感情を隠さない話し方のせいか悪い印象を受けない。彼がこのチームのリーダーらしいが、納得がいった。


「ええと、キミはライフポイントに余裕があるのか?」


「キミなんてやめてくれや。俺には剛隆ごうりゅうって立派な名前があるんだぜ」


 名は体を表すというが、イメージを裏切らない名前だ。


「じゃあ、剛隆君」


「呼び捨てで構わねえぜ。あんたの方が俺より年上だろ? まだ19だからな俺は!」


 未成年なのか。野性味溢れる風貌と雰囲気なので年齢不肖だったが、予想より若い。

 この若さで、この頼もしさ。学校とかでも頼られる兄貴タイプだったのだろうな。運動部のキャプテンとかが似合いそうだ。


「わかったよ。剛隆はかなりライフポイントが残ってそうだな」


「おうさ。結構頑張ってきたからな。まだ60以上あるぜ」


 胸を張って、堂々と言い放つ。思ったよりも残っているライフポイントに、うちのチームメンバーが「ほう」「すごっ」と驚いた声を漏らす。

 改めて彼をつぶさに観察すると、身長は180を軽く越え、太股はパンパンに膨らんでいる。革ジャンの袖は肘上まで捲し上げられていて、腕には肘まで覆う手甲ともグローブとも取れる物を装着している。

 黒を主体としたそれは腕を全て覆っていて、手の甲側は巨大な一枚の鱗を重ねて並べたようなデザインをしている。赤い血管のような模様が表面に描かれているのも、個人的にはポイントが高い。


「おっ、これが気になるか? カッコイイだろ! 特別な褒美とかでもらったグローブなんだが、竜激って言うんだぜ!」


 くっ、俺が十代半ばだったら、心底羨ましがっていただろうな。まあ、今はいい大人だから、そんな中二センスあふれる一品なんて興味は……少ししかない。

 武器を一切持たずに、見事な手甲を所持しているということは剛隆の武器はその体か。ということは格闘経験者か。俺の後ろから様子を窺っていた織子に視線を向けると、こっちに歩み寄ってきた。


「剛隆さんって、何か格闘技しているの?」


「だから、剛隆でいいっての。格闘技か……我流っちゅうか、毎日オヤジとジジイにしごかれていたからな。何とか流って言う古武術らしいが、強くなることにしか興味なかったからな」


 まさかの格闘家二人目か。己の肉体のみで戦うというのはロマンがある。だが、実際は武器と素手ならリーチと破壊力に差があり過ぎる。素手より刀、刀より槍が強いって話を何度も目にしてきた。

 だというのに、織子と剛隆は武器を所有せず格闘技のみで、ここまで生き残ってきた。その技量は疑う余地が無い。


「あんたもかなり、やるんだろ?」


「織子でいいよ。一度手合せ願いたいわね」


 二人にだけ通じ合う何かがあったらしく、熱い握手を交わしている。


「ふふふふっ」


「へへへへっ」


 見つめ合うというより睨み合ったまま、歓喜の声が漏れているのが若干不気味だ。まあ、仲良くやれそうならそれでいいんだが。

 彼も殲滅側ではない気がするな。ただ、今までの経験上、人を見る目が無いことは判明しているので、人柄に対する評価は全く信用できない。

 味方なら頼もしい存在なのだが、もし殲滅側だとしたら、今までが全て芝居だったということか。だとしたらかなりの曲者だが……二人のやり取りを見る限り、それはなさそうだ。


「手合せは安全地帯でやってくれ。そろそろ、行くよ」


 凄味のある笑みを浮かべている二人の頭を軽く叩き、セーブポイントに向けて出発した。

 途中、三つ目の敵と遭遇したのだが、無駄に張りきっている織子と剛隆が、後衛の射撃を待たずに突っ込み、競い合うように敵を蹂躙していく。

 剛隆は攻撃主体の戦闘スタイルらしく、蹴り技よりも拳や膝を多用している。脚も使っているのだが、相手の足に引っかけて転ばし、止めの踏みつけ等が主な戦闘方法のようだ。


 後は関節技も随所で使用している。伸びきった相手の肘を下から手の平で押し上げ、関節を破壊する一連の動作を流れるようにこなしている。

 織子は打撃系に特化しているが、剛隆は中々多彩な動きだ。対人戦限定なら剛隆の方が一枚上手かもしれない。


 三つ目の敵はやはり衣類が変色して薄汚れ、所々が損傷して劣化している程、動きに知性が感じられない。人であった頃の記憶が薄れ、本能のみで戦っている感じだ。その分、力は増しているようだが、特殊能力を使ってこないので扱いやすい。

 杉矢たちのように生前の面影を残しているタイプが一番厄介だ。仲間と連携を取ってくる場合もあり、フェイントや特殊能力も多用してくる。そして、身体能力も生前よりも上がっているという性質の悪さ。


「二人とも突出しすぎだ」


 独断専行が目に余るので、少し釘を刺しておかないと。二人とも強いので、一対一では滅多なことでは負けないが、この先に感じる気配は人と魔物が混ざったものだ。杉矢たちのように、死んで間もない元プレイヤーだろう。

 それは第九ステージまで到達した腕を持つということだ。個人の能力は序盤のステージで亡くなったであろうプレイヤーとは比べ物にならない。第十ステージに到達した者を凌ぐ力を保有していても不思議ではないのだ。


「大丈夫だって。第十ステージで更にパワーアップしているからなっ!」


「うんうん、特殊能力がメキメキと上達していくのがわかる!」


 体を鍛えることが日常だった彼らにとって、ここに来てからの急激な身体能力の向上……つまり、強くなる自分が嬉しくてたまらないようだ。気持ちはわからなくはないが、ここは遊びじゃないからな。


「次、勝手に跳び出すなら、後ろから射られても文句は言わないように。それでいいならご自由に」


「おいおい、冗談にしても笑え……」


「あ、本気で怒っている顔だ……」


 俺は満面の笑みを浮かべて、優しく語り掛けているだけなのだが、二人とも何故か怯えている。『気配操作』でちょっと、どす黒いオーラ―をイメージしただけだというのに。


「特に剛隆。キミはまだセーブしていないのだから、死んだらスタート地点に戻るんだぞ。せめて、セーブするまでは言うことを聞いてくれ」


「お、おう。俺が悪かった。網綱の言う通りだ、すまん調子に乗ってた」


 こうやって過ちを素直に認め、素直に謝れるところが彼の良いところだよな。織子もペコペコ頭を下げて謝っているので、これからは自重してくれると信じてるよ。

 大人しくなった二人に変わって鴨井が先頭になった。彼の実力は把握しているので、安心して任せていられる。

 今進んでいる通路は右に湾曲しているので壁が邪魔で狙撃ができない。お互いに姿が見えた時は中距離の間合いか。

 相手の気配が濃厚になるにつれて、進行速度を抑えていく。

 先の曲がり角を抜けたところに三体気配がある。鴨井が俺たちに振り返り、指を三本立てて手招きをするような仕草をした。

 全員が曲がり角付近に集まり、そっと先を覗き見た。


 ダウンジャケットを着込んだ小太りの男性。武器は鞭か、マニアックな。

 もう一人は緑のジャージだ。武器は大きな鎌。麦わら帽子でも被っていたら農作業中にしか見えない。

 残りは古ぼけた和服を着込んだ、時代錯誤な浪人風の格好をして、刀を抜き身で二本手にしている。二刀流の侍のつもりなのだろうか。

 ダウンジャケットと緑のジャージは人間らしさが残っているが、浪人風は第三の眼が開かれ、完全に化け物へと変質している。


「これまでの事を考慮すると、ダウンジャケットとジャージは特殊能力を注意して、侍っぽいのは身体能力が高いだろうから、接近戦は避けた方が良い」


 鴨井の指示は的確だったが、俺はあの浪人風から目が離せないでいた。

 死んでからの時間経過と共に服装が劣化して、顔も魔物に近づいていく。今までの経験上、その憶測は間違っていないと判断していた。

 だけど、あの浪人風、顔は魔物だが動きが獣っぽくない。歩き方もスムーズな足運びをして、滑るように動いている。気配は魔物に染まっているが、今までの個体よりも濃いな。


「あの浪人っぽいのは嫌な予感がする。横道さん、明菜さん。俺たちはあれに集中砲火するよ」


「わかりましたわ、お任せあれ」


「サーイエッサー。ヘッドショットをお見舞いするであります!」


 全員でタイミングを合わせて、曲がり角から飛び出し、まずは横道と明菜が先制攻撃を放つ。

 矢が胸部へ、銃弾が宣言通り頭を貫くコースだ。

 『隠蔽』で気配を消していたので、こちらの接近には気づいていなかったらしく、相手は咄嗟に動けないでいた。

 だが、浪人風は一瞥すると、両手の刀を振るい矢と銃弾を弾いた。漫画みたいなことを平然とやってのける技量に驚きはしたが――これで両手は塞がっている。


 全力で射出された俺の矢が、腹部に突き刺さる。矢の威力に、身体がくの字型に折れ曲がったところに、二人の追い打ちが命中して呆気なく消滅した。

 自分でやっておいてなんだが、この戦法は本当に一方的だなと、少しだけ相手が哀れに思えた。欠点は全力を出させる前に倒してしまうので、本来の実力を見極められないところか。


「こっちも終わったよー」


 前衛三人組も問題なく倒せたようだ。

 セーブポイントまであとわずか。着いたら今後の方針を練り直さないとな。そんなことを考えながら黙々と歩き続け、目的地であるセーブポイントに辿り着くと、そこには――誰もいなかった。


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