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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第十ステージ

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罠と答えと度胸

 アクシデントや非常事態に慣れっこになってしまった自分が嫌だ。

 地面が赤く染まり、この部屋に繋がる通路との境目に上から壁が落ちてきた。あー、鞭持った考古学者が活躍する映画で見たことあるな。

 定番の閉じ込められる展開か。


「そんな、セーブポイントに罠何て……相変わらずゲスいなー」


「最終ステージだから、気合を入れて趣向を凝らしているのかもしれないな」


「大放出でありますか」


 どうやら全員逆境には慣れてしまっているようだ。落ち着いている。


「申し訳ありません。迂闊な真似をしたばかりに」


 明菜さんが萎縮しているが、反省する時間もないようだ。

 赤黒い地面から何かが噴き出している。黒い靄を濃縮して人型に固めたような、ナニかが次々と姿を現す。


「モンスターハウスみたいなものかな」


 罠を踏んだら敵に取り囲まれる。ダンジョン探索型のゲームでは定番だな。あまり大きな部屋じゃないので、コンパウンドボウより棍の方が使い勝手が良さそうだが、この武器はまだ隠しておきたい。

 部屋の一角に身を寄せ合う。織子と鴨井さんが前に並び、後衛組はいつでも射撃できるように構えておく。

 何体かは完全に姿を現しているが、大半はまだ上半身すら出きっていない状態だ。なら、やることは一つ。


 地面に手を突いて下半身を引っ張り出そうとしている、黒いナニかの脳天に矢が突き刺さる。動きが止まった一体を気にもせずに次々と射る。

 明菜さんと横道さんも何をするべきか理解したようで、動くことのできない敵を排除していく。完全に姿を現した相手は織子と鴨井さんに任せて、俺たち後衛はモグラたたきの要領で潰していくか。





 二十分が過ぎた。ちょっと長すぎやしませんかね。

 倒された敵はすぐさま消滅するのはいいが、消えた場所から際限なく現れてくる。途中で矢が無くなり、拾いに行くわけにもいかず棍を使う覚悟をしたのだが、隣の明菜さんが矢筒に入りきらない量の矢を射ていたので、質問するとあっさりと理由が判明した。

 矢筒に触れながら念じることにより矢が補充される。体力を消耗するようだが、体力の量は桁が違うので全く問題が無い。

 第九ステージでこまめに矢を拾っていた俺の立場は……考えるのをよそう。

 ちなみに銃も同じ要領で弾丸を補充できるそうだ。

 こうなったら尽きるまで体力勝負をするしかないのか。


 更に同じぐらいの時が過ぎたが、飽きずに敵が湧き続けている。俺としては経験値を得られるので、強化に繋がるのだが他のメンバーにとっては無間地獄のようなものだ。

 まだ、体力と精神力にも余裕があるが、このまま続くとなれば、俺以外は全滅して俺もレベルアップへの経験値量が膨大となって上がらなくなり、消耗して終わるだろう。

 まあ、そうなっても開始地点に戻るだけで俺としては限界近くまでのレベルングをするのもありだが……問題はセーブを既にしてしまった明菜さんの存在。


 彼女だけはセーブをしてしまっているから死んでもここから始まる。そうなると、俺の戦いを目の当たりにすることになる。

 そして、俺が死ねば彼女は一人取り残される。その後は死を待つだけだ。

 何とかしないといけないよな。必要に迫られて人を殺すことはあったが、それはルール上そうしなければならなかったからだ。

 もし、チームメンバーを助ける方法が存在するなら、何とかすべきだ。


 それにこれは憐みだけで行うわけじゃない。命を救われれば誰だって恩に着るだろう。そうすることにより、信頼できる仲間を増やすという打算もある。ここはチームの総合力が鍵となる筈だから。

 まあ、助けた相手にことごとく裏切られているので、成功率は低いかもしれないが。


「本当にきりがないわねっ!」


 織子の動きが少し鈍いな。鴨井さんも同様か。

 まあ前衛よりも、後衛の方が問題なのだが。矢と弾丸を補充するには体力を消耗するといったが、これが結構持っていかれるようで、目に見えて疲労しているのがわかる。


「二人とも大丈夫か?」


「大和撫子を目指す者として、これぐらいで挫けるわけには」


「いざとなれば、玉砕覚悟で特攻する所存であります!」


 これはやばいな。何とかして打開策を見つけ出さないと。

 この世界は鬼畜で極悪な仕様のステージが多かったが、攻略法は存在した。だから、ここも何かしらの抜け道がある筈だ。

 たぶん、体力が尽きるまで戦い、相手の全滅を待つというのは間違いだろう。一時間近く戦っても終わりが見えないのだから。

 となると、別の条件を考えないと。ヒントとして頭に浮かぶのは、やっぱりあの文字だよな。


 一蓮托生。


 この言葉から連想すると……仲間と運命を共にする。何かミスをした場合、お互いがカバーする。もしくは同じ状況に身を置く。

 とある考えが頭に浮かんだ。まさか、いや、それだと辻褄があうか。


「みんな、セーブポイントでセーブしてくれ!」


「どういうことだ!? そんなことをしたら永遠に、ここで死に続ける羽目になるぞ!」


 戦闘を続けながら鴨井さんが思わず怒鳴るが、その言葉が何を意味するか理解した明菜さんの血の気が引いた顔を見て、失言に気づいたようだ。


「わ、私だけ……そ、そうですよね。元々私の過ちなのです。皆さんはお気になさらないでください」


 そんな悲壮な顔をして言われても説得力が無いよ。


「ダメだよ。そんな、見捨てるようなことは! 仲間は、信じて、助け合わないと!」


 織子は敵を粉砕しながら叫んでいる。杉矢さんたちのことを思い出しているのかもしれない。仲間を信じる……か。

 これだけ他人に痛い目に合わされ続けてきたというのに、まだ助けようと思う自分に呆れ果てるよ。たぶん、何度死のうがこれは直らない。


「見捨てたりはしない! だからこそ、皆でセーブをして欲しい! あの一番左のガラス板には、一蓮托生という文字しか書かれていなかった。このクソッタレなゲームは理不尽で非道だが、ちゃんとルールがあり攻略法も存在していたっ」


 全員に聞こえるように声を張り上げ、何本もの矢を連射で撃ち出す。

 チームメイトが話に集中できるように、俺が出来るだけ排除しないと。


「一蓮托生はこの状況を乗り越える為のヒントだと思う! おそらくだが、全員でセーブをすることが正解だ!」


「確証はあるのかい!」


「ない! だから強制はできない。だけど、こんな序盤で仲間を見捨てるような奴が、このステージをクリアーすることは不可能だ!」


 我ながら言っていることは無茶苦茶だと思う。本当に助かりたいのであれば、セーブをせずに死に戻りが正解だろう。

 今までの予想が的中していることが多いので、罠の解除方法は間違いないと思う。だが、それは今までが単に幸運だっただけで、その運がここで尽きたら……。

 そんな不安が胸中に留まっている。


「私は網綱さんを信じる!」


 吠えるように嬉しい言葉を口にしてくれた織子は、セーブポイントの前に陣取っていた敵を蹴散らし、セーブポイントに触れた。


「セーブ!」


 宣言と同時に光が増した。やはり、間違いないのか。

 織子がにんまりと笑い、親指を立てている。その心意気に俺も答えないとな。俺もセーブポイントに触れ「セーブ」と口にする。

 敵を牽制しながら一切口を挟まなかった横道さんがセーブポイントに走り寄ってきた。


「死なばもろとも。自分も一口かまさせてもらいます! セーブ!」


 これで残りは鴨井さんだけとなった。全員の視線をその背に浴びる彼は斧で敵を粉砕していた手を止め、こっちに向かってくる。


「このチームなら楽できると思ったのだけど……とんでもないチームだよ。その提案、乗った! セーブだ!」


 全員がセーブをした。さあ、条件は満たしたはずだ。どうなる!?

 黒い魔物が一斉に天に向け腕を伸ばし、溺れている人のような動きをしたかと思うと、瞬く間に崩壊した。

 足下の赤い光は消え失せ、代わりに温かみのある白い輝きが地面から溢れ出す。

 それと同時にこの部屋を塞いでいた壁が重力に逆らい上へと登り、通路へと繋がる。


「何とか……なったか」


 安堵感で全身の力が抜け、その場に座り込んでしまう。

 他のメンバーも同様に崩れ落ちている。みんな疲れ切っているようだが、その表情は満足げに見えた。


「青白い光だったので、勝手に安全地帯だと思い込んでいたが、それ自体が罠だったわけか」


 地面に寝そべりながら鴨井さんがそんなことを零している。

 今まで青白い光は安全地帯の光だったので、そう思い込まされていた。そういや、第七ステージも第九ステージ二回戦も安全地帯が何処かという説明があったのに、今回に限ってなかったな。

 相手が説明しないことは疑わなければならない。わかっていた筈なのに、仲間が多いということが心に油断を生んでいたのか。


「あれ、網綱さん。左端のガラス板が何か光っているよ?」


「えっ、本当だ」


 床の光と同じく白い光に包まれている。さっき、一蓮托生という言葉のみが書かれていた板だよな。新たに何か説明やヒントでも書き込まれたのか?

 今度は全員が板の前に集まるまで待ち、俺が代表してそっと触れる。


 ――よくぞ、この謎を解いた。安心してくれたまえ、この部屋は安全地帯となった。このような罠のあるセーブポイントは稀なので、それ程警戒しないで良い。だが、くれぐれも油断をしないことだ――


 製作者からの安全地帯宣言。今度こそ安心して体を休められるようだ。

 作りかけていた料理は器具ごと地面に転がっている。もう一度作り直すしかないのか。

 水場で調理器具を洗い、食材を再び出して料理を始める。空腹が酷いので、かなり簡単な料理になったが空腹がスパイスとなり、全て美味しくいただけた。


 腹も満たされ、暫く休憩となった。安全地帯となったので仮眠でも取るかと寝転がる。こうやってまったり体を休めているのだから、頭も休憩させてやるべきなのに、何故かこういう時に限って色々考え込んでしまうんだよな。

 第十ステージは意外と楽ではないのかと、心の中にあった油断は完全に吹き飛ばされた。製作者の性悪ぶりは健在どころが、更に悪化している。

 いきなりサイクロプスの出迎えがあり、セーブポイントに罠。まだまだ、序盤もいいところだ。これからも罠に注意しながら探索を進めないとな。


「罠か……今までの考えを全て改めないと……あっ」


 一つ、嫌な考えが頭に浮かんだ。青白い光がフェイクだとしたら――第十ステージのスタート地点の地面も同じ光を放っていた。

 つまり、そういうことだよな。休憩した後に向かう場所が決まったか。


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