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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第十ステージ

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探索

「ここが分岐点のようだね。ここからは別行動だ。みんなの健闘を祈る。全員でクリアーして見返してやろう!」


「おおおおっ!」


 鴨井さんの荒々しく鼓舞する声に、プレイヤーの大半が拳を突き上げ応えている。

 俺のように若干ノリの悪いメンツもいるようだが。鴨井さんも、そんなにやる気があるなら、こっちのリーダーもやればいいものを。

 現在、サイクロプスを倒して、その奥に続いている通路を真っ直ぐ進んだところだ。通路の幅も充分にあったので、探索組全員で進んでいたのだが先が四つに分かれていた。

 都合よくこちらも四チームだったので、全員がバラバラの方向へ進むこととなる。


「リーダー、どの道を選ぶのだい?」


「その呼び名やめませんか」


「では、軍曹殿で!」


「却下」


 鴨井はからかうような口調だったが、横道の目は本気だ。

 正直、場を仕切るのは面倒なのだが、だからといって手を抜いて命を粗末にする気はない。ライフポイントに余裕があるとはいえ、消耗せずに済むのが一番なのだから。

 道幅は左から順に細くなっているようだ。一番左は道幅が10メートルぐらいか、そこから順に2メートルずつ狭くなっている感じだ。

 明るさは大差がない。地面も壁や天井の材質も同じか。

 狭すぎる道は罠を仕掛けやすそうだ。戦う場合もある程度道幅が無いと動きに支障が出る。

 だが、メリットもある。こちらは遠距離武器が豊富だ。狭い通路の場合、相手の動きが制限されるので当てやすい。


「俺たちはこの道を選ぶぜ!」


 他のチームが一番左の道を選んだようだ。決断しないと残り物を掴まれかねない。よっし、ここにするか。


「左から二番目にしよう」


 二番目に広い道を選んだのには理由がある。

 単純な戦闘なら前衛二人は頼りになるので、余程の敵でない限り負けは無いと思う。倒せなくても、相手の気を引いてさえくれれば、優秀な後衛陣が仕留めてくれる。

 となると、一番問題視しないといけないのは罠だろう。迷宮と言えば罠が厄介だというのが基本中の基本。広い通路なら罠が仕掛けられていたとしても、かなり大掛かりなものにしなければならない。

 これがファンタジーの小説なら、罠に長けた専門の職業が存在して迷宮に同行してくれるのだろうが、こっちはずぶの素人だ。細かい罠を察知できるとは思えない。


「よーし、じゃあレッツゴーだね!」


 元気いっぱいに歩きだした織子の後に着いていく。

 織子は迷わず突き進んでいるが、罠を考慮している素振りは全くない。特殊技能に罠を察知するようなものはなかったと思うが、あれから新たに能力を得たのかもしれないな。

 少し離れて歩いている鴨井は自然体ではあるが、辺りに注意を払っている。忠告するべきか迷っていたのだが、もう少し様子を見てからにしよう。


 ずんずんと歩いていくのだが、今のところ罠が発動していないな。この迷宮には罠がないのか?

 そんなことを考えていると、織子がひょいっと横に軽く跳んだ。その瞬間、鈍い音と共に地面が崩れ、さっきまでいた場所に大穴が空いた。


「わっ、落とし穴! 網綱さん、網綱さん、すっごく深いよ!」


 何で避けた当人が驚いているんだ。今のは予測していたというより、罠が発動してから反応したように見えたが……。


「織子、罠を察知していたのかい?」


「えっ、ううん。踏んだ瞬間に足元に違和感があったから跳んだだけだよ?」


 首を傾げられても、こっちが困る。その反射神経のみで罠を解除というか、発動させて避ける……斬新な対処方法だ。感心していいのか呆れていいのか悩むところだ。

 この調子なら暫くは任せても大丈夫か。何かあった時は、いつでも助けられるように、心構えはしていこう。


「っと、その道を曲がったところに気配があるよ。五つ感じるけど、一つだけ大きめだ」


「えっ、本当に。私の気配察知には……あ、本当だ」


 織子にも反応があったようだ。彼女より先に気づいたということは、探知範囲も『気配操作』になって伸びているようだ。


「ここで待ち構えた方が良いかな。それとも突っ込むかい?」


「曲がり角まで5メートル以内に距離を詰めて、壁際に潜んでいてください。あそこなら隠れられそうですから」


「わかったよ」


 曲がり角に近い壁際の一部が隆起していたので、そこを指差すと二人は素直に従ってくれた。


「二人とも俺の傍に寄って。隠蔽を発動させて気配を隠すから、相手に感づかれるのを少し遅らせられると思う」


「わかりましたわ」


「了解であります!」


 二人の気配をすぐ後ろに感じたので『隠蔽』を発動させる。それに加え『気配操作』で気配を完全に消滅させた。


「あら、凄いですわね。目に見えているというのに、網綱さんの存在感が皆無ですわ」


「軍曹殿は伊賀の流れを汲む者なのでありましょうかっ」


 好反応だな。ぶっつけ本番だったが上手く発動してくれたようだ。

 そのまま息を殺し、いつでも放てるように矢をつがえたまま、じっとその時を待つ。

 距離が近づく度に気配が濃厚となり、相手のシルエットまで把握できるようになった。四体は俺より少し低いぐらいの身長で二足歩行。体形は逆三角形で筋肉質のようだ。

 もう一体は3メートルちょいか。体形は他の三匹と同じようだ。魔物の種類は同じなのかもしれないな。良くあるパターンだと上位種か。


「小さな個体をまずやりましょう。五匹とも曲がり角から姿を現してから、射撃開始。俺が一番左、明菜さんが左から二匹目、横道さんはそれ以外で」


「承知いたしましたわ。ふぅーー」


 静かに息を吐き、垂れ気味の目がすっと細まり、明菜の顔が凛々しい表情になる。


「イエッサー」


 この場面で大声を出すほど間抜けではないようで、横道が小声で返答した。

 全員が狙撃には慣れているようで、構えを維持したまま微動だにしていない。

 数秒後、姿を現したのは見たことのない生物だった。鼠色の皮膚に髪の毛が一本もない頭。眼球の存在しない赤く染まった目が三つ横に並んでいる。顎がしゃくれていて、上に向けて四本の鋭い牙が口から覗いている。


 衣服はバラバラで、上半身剥き出しでズボンだけの者もいれば、ロングコートを羽織った痩せ形や、雄らしき個体だというのにスカートを履いているのもいる。

 武器も統一性が無い。槍、刀、斧、槌を手にしているな。

 そして、最後に出てきたのは、顔つきは同じだが服を一切身に着けていなかった。局部も丸出しなのだが、そこには男性器も女性器もない。武器はなく素手か。


 敵の視線はこちらに向けられているのだが、気づいた素振りは無い。距離はあるが、充分目視できる距離だというのにだ。

 一応片膝を突いて姿勢を低くしているが、隠れているには程遠い。だというのに、『隠蔽』と『気配操作』のコラボはここまでの効果を発揮している。

 好都合とばかりに、俺は弦から指を離す。続いて、耳元で和弓の弦が弾かれ、心地よい音色を奏でる。

 矢が獲物を捉える直前に銃声が通路内に響いた。テレビで見る程、派手な音はしていないのだが、流石に矢と比べるとかなり響く。


 俺の矢が先頭を切って魔物の脳天を貫き。後頭部が弾けたように血飛沫が噴き出している。

 明菜の放った矢は眼球を貫き、いつの間にか放たれていたもう一本の矢が、残った目に突き刺さっていた。

 銃弾は頭と胸に弾痕を刻み、魔物が地に伏す。

 小さいのは残り一匹か。第九ステージで鍛え上げられた淀みない動きで次の矢をつがえ、もう一匹の頭も吹き飛ばした。


 一瞬にして仲間が殺されたことが理解できないのか、大きな個体が「グフェグヒュ!」と奇妙な声を上げ、あたふたしている。

 隠れていた場所から飛び出した二人が、隙だらけの魔物の首筋に斧、脇腹に飛び蹴りを喰らわせた。

 悲鳴を上げることすら出来ず、腕をがむしゃらに振り回している魔物から二人は距離を取る。そして、そこに矢と銃弾が襲い掛かり、あっけなく戦闘終了となる。


「有能だと目は付けていたが、みんな予想以上の腕だよ!」


 今までは何処か芝居じみた言動に見えた鴨井だったが、今はお気に入りのプロチームが勝った時のスポーツ観戦者のように喜んでいる。初めて、この男の本心が見えた気がするな。


「イエーイ! 完璧だったね」


「お見事でした」


「任務完了いたしました!」


 このチーム実はかなり強いのかもしれない。

 願望が混じった淡い期待だったのだが、俺の見る目は間違いではなかったようで、ここから快進撃を続けることとなる。





「中々、敵が多いようだねっ!」


「うんうん、無駄に数だけ揃えちゃってさっ!」


 血に濡れた刃が首を刎ね、剛腕があばらごと心臓を潰す。

 前衛の二人は目が三つの化け物相手なら、二対一でも安定して倒せるようだ。前衛の隙を窺っている魔物には、こちらから矢と銃弾のプレゼントが贈られる。

 あれから、四十近くの魔物を倒しているが、怪我の一つも負っていない。今回は少し多めの八体だったが、あっさりと片付いたな。

 むしろ、数をこなすことにより連携も取れてきたので、前よりもかなり処理速度が上がっている。

 全員体力が増加する特殊能力を所有しているのだろう、疲れた様子も見せていない。迷宮に入ってから体感時間で5、6時間は過ぎているというのにだ。


「そろそろ、休憩しようか?」


「そうですね……あ、網綱様、少々お待ちください。確か地図にはこの近くにセーブポイントの記載があったような」


 明菜は背負っている小さなバックパックから地図を取り出し、確かめてくれている。

 褒美で手に入れたマップはA4の紙と同等の大きさで、紙ではなく薄い板だった。拡大縮小機能が付いた便利なもので、地図というよりはスマホの画面のようだ。

 通路はある程度は描き込まれていて、そこにはセーブポイントの記載もあった。ある程度というのは道幅が大きい場合は描かれているのだが、小道や脇道は省かれている。

 だが、通った道は自動で新たに追加されるので、俺たちは危険覚悟で地図を埋める為に進むこともあった。


「セーブポイントがあるなら、もう少し頑張ろうか」


 セーブポイントはおそらく安全地帯になっていることだろう。そこでなら、全員落ち着いて体を癒せる。

 皆も納得してくれたようなので、もう一踏ん張りと迷宮を進んでいった。

 ものの五分もしないうちに目的地へ辿り着き、見慣れた青い光を放つセーブポイントを発見した。地面からも青白い光が漏れている。いつもの安全地帯と同じ光だ。


 そこは奥行きと幅が10メートルぐらいの部屋で扉は存在していないが休憩所と似ていた。セーブポイントだけではなく、ガラス板も三枚存在している。隅に水場も存在しているのか。

 完全な個室になっているようで、出入り口は今通ってきた通路以外にないようだ。

 あの休憩所で最後だと思ったのだが、ここでもステータスの確認とライフポイントを消費して買い物が可能なようだ。食料がなくなったら利用するかもしれないな。


 あれっ、何でガラス板三枚あるんだ?

 真ん中はステータス、右端はライフポイントでの買物。それはわかる。左端はいつも通りなら、褒美の項目と嫌味ったらしい賛辞の言葉が書かれている。

 もしかして、セーブポイントごとに褒美を用意しているのだろうか。ありえないとは思うが、淡い期待を抱きながら左端のガラス板に触れてみた。


 ――一蓮托生――


「ん?」


 思わず声が出た。え、これだけしか書いてないぞ。

 どういうことだ意味がわからない。いや、言葉の意味は理解している。仲間と行動や運命を共にすることだよな。それはわかるが、それしか書いてないというのはどういうことだ?

 製作者の遊び心だけなら無視するところだが、そんな無駄なことをするとは思えない。


「ここなら一安心ね、はああぁ、どっこいしょっ」


 織子がオッサンのような声を出し、両手両足を投げ出して地面に寝転がっている。

 他の皆も思い思いの格好で寛いでいるようだ。肉体的な疲労は殆ど感じていないが、空腹感と精神に軽い疲労を感じるな。

 一蓮托生の文字は一先ず置いておいて、先にやるべきことをやるか。

 バックパックから食材と料理器具を出し、調理を始める。


「おや、リーダーが作ってくれるのかい。いやー、生のままか保存食ばかり食べていたから、嬉しいね」


「軍曹殿のチームに加入して、よかったでありますっ!」


 男性陣二人が驚く程喜んでいるな。バックパックを手に入れた際に調理器具が付いてきたのだが、この二人は手に入れなかったのか?

 そう思いはしたが、二人共バックパックは背負っている。俺のより二回り程小さいので、あのサイズだと道具はセットではなかったのかもしれないな。それに、褒美ではなくライフポイントを消費して購入した品という線もある。


「わたしも料理お手伝いしますわ」


「じゃあ、私も!」


「簡単な料理だから座ってくれていていいよ。ささっとつくるから、暫しお待ちください」


 そう言って丁重に断っておく。独り身が長い男の料理テクニックを存分に振るってみせようぞ。

 慣れた手つきで食材を切り分け、使い慣れた鍋を取り出し煮込み始める。


「ああ、そうだ。食事前に一応セーブしておくかい?」


 セーブポイントの前で鴨井が俺に問いかけている。

 どうしようかな。第一ステージを思い出してみると、セーブが罠だったパターンだった。周囲を念入りに調べてからにした方が良さそうだよな。


「いや、辺りを調べて――」


「もう、罠などないですよ。さすがに、何度も同じことをしてきませんわ」


 俺の言葉を遮り、明菜がセーブポイントの装置に手を触れ「セーブ」と口にした。


「あっ」


 明菜を除いた全員が唖然としている。彼女は悪びれることなく「ほら、何も起こりませんわ」と微笑んでいる。

 ここに来てから心配性になっているな。過剰に心配し過ぎたと反省――足元の青白い光が赤に変色した。


「これからも慎重すぎるぐらいでいいか」


 武器を構え立ち上がる際に俺は大きくため息を吐いた。


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