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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第十ステージ

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チーム

「さて、一つ目の巨人は倒されたわけだが。ここで一つ提案がある。何人かで組んでこの迷宮を探索しないか? 今回様子見だったキミたちも、やる気があるなら是非参加してくれ」


 俺たちだけではなく、見学をしていたプレイヤーにも声を掛けるのか。

 あの戦いを観察していたのなら、一人で挑むよりは組んで挑む方が効率が良い事は理解できたはずだ。慎重派の中にもチームプレイを望む者が結構いるようだな。

 半分以上が青い光の中から前に進み出ている。それでも残っているプレイヤーは、五人か。


 鼠色のパーカーを着込みフードを目深に被っているので顔がわからず、男女の区別すらつかない者。


 バブルの時期に流行った体にぴったりと密着した、ボディーラインを強調するミニのワンピースに網タイツ、革のブーツという時代錯誤も甚だしい格好の女性。

 化粧が濃すぎないか……というか化粧道具ってライフポイントを消費して取ったのだろうか。おまけに武器は鞭って狙い過ぎだろ。


 もう一人は西部劇に出てくるガンマンのようだな。もっとも、小太りの体型にその格好は全く似合わないので、コスプレ感が半端ないが。


 残りは金の縁取りをしている純白の燕尾服を着た、爽やか系の男性。正直、結婚式の新郎にしか見えない。


 最後は、最後は……何だあれ? 一見は寝袋のようだが、たらこのような格好ではなく、ちゃんと手足がある。そういやネットで見たことあるな。動ける寝袋だったか。温かそうな寝袋にくるまれているのは、黒縁の眼鏡をかけた化粧っ気のない女性だ。


 何と言うか個性豊かな面子が残ったな。あの内、何人かはライフポイントが残り僅かで動くに動けないだけかもしれないが、どうにも妙な気配を感じる。

 新たに覚えた『気配操作』のおかげなのか、あまり関わりを持たない方が良い気がしてならない。

 『危機察知』がまだあれば、脳内で警報が鳴り響いていたかもしれないが『未来予知』も有益な能力だ。この選択が正しかったかどうかは、今後、嫌でも思い知ることになるだろう。

 探索に参加するプレイヤーと動きを見せない面々とに溝が出来そうだが、他人の生き方に口を出す気はない。

 そもそも、俺だって団体行動をするべきか未だに悩んでいる最中だしな。


「じゃあ、ここにいる人は積極的に探索をする気があると考えて構わないね。全員で二十人ぐらいか。揃って行動するのは効率が悪そうだ。五人一組程度に別れた方がいいかもしれないな。あっと、そうそう、誰か第十ステージのマップを持っていないかい?」


 お、鴨井さん、ナイス。ここで参加するような素振りを見せたのは、マップの存在が大きな割合を占めていた。

 何処まで精密に書かれているのか非常に興味がある。褒美を一つ消費したのだから、もっと便利なナビゲーションシステムが搭載されている、スマホのような電子機器っぽいマップの可能性だってある。

 プレイヤーたちがお互いを探りながら視線を忙しく動かしている最中、すっと手が上がった。


「持っておりますわ」


 ピンと伸びた白魚のような指の持ち主は明菜さんだった。

 どうやら他にマップを所有しているプレイヤーはいないようだ。有益なのはわかるが、やはり褒美の一つでマップを消耗するのはもったいないと考える人が大半だったようだ。

 まあ、秘匿しているだけかもしれないが。


「それは助かる! 見せてもらっても構わないかい?」


「ええ、構いませんよ。ですが、一つお願いを聞いていただけますか」


「可能なことなら」


 意外と強かだな。自分しか所有していない有力な武器を有効に活用して、自分の地位を高めるつもりなのだろうか。

 二人は小声で言葉を交わしている。チラチラとこっちに何度も目線を向けているのが非常に気になるのだが。『危機察知』を失った状態でも嫌な予感がビンビンするぞ。


「これで商談成立だな」


「良い商いでした」


 何で商売の話になっている。比喩だとはわかっているが、あの表情は悪巧みをしている時代劇の悪代官と商人にそっくりだ。


「皆、待たせてすまない。このメンバーを四つのチームに分けようと思う。五人程度のチームだが、異論はあるかな?」


 鴨井が意見を求めているが、誰の口からも反論は無いようだ。


「異論がある場合は、ばんばん意見してくれ。反論が無いなら話を続けるよ。まず、マップを所有する明菜さんを加えたチームが探索のメインとなる。地図を写させてもらえることになっているから、誰か模写や絵が得意な人がいたら頼む」


 二人ほど立候補者がいるようだ。どのチームにも地図が配られるなら、危ない橋を渡り続けることになりそうな明菜さんのチームは避けたいが……避けたいが……あの目つきがなあ。


「各チームには迷宮での罠を事前に察知できるような、特殊能力を所有するプレイヤーを最低一人は配置したい」


 適した特殊能力は『危機察知』や『千里眼』『地獄耳』だろうか。田中さんがいてくれたら、頼もしかったのだが……考えても虚しくなるだけだな。

 『未来予知』はまだ不確定要素が強く安定性が無いので、役に立つかどうかは微妙なところ。要検証だな。

 それからも鴨井さんの説明が続いている。話を要約するとバランスのいい配置をしたいようだが、基本的には各自の判断に任せるということらしい。


 全員がある程度自分の能力を明かして、チーム編成が行われている。俺も何処かのチームに所属するべきなのだろうか。さっきの戦闘で全員の動きを観察していたのだが、あれが本気なら身体能力は俺よりかなり劣る。やはりレベルの差は大きいようだ。

 正直、杉矢と一対一で戦ったら殆どの人が負けるのではないだろうか。ただし、織子は別格のように見えた。戦闘でも一番活躍していたのは織子だったしな。

 となると、織子と二人で探索するというのも悪くないのだが。


「網綱さん、一緒に組もうよ!」


 俺の迷いを吹き飛ばす様に、織子が視界に割り込んできた。一人より二人の方が魔物に遭遇した時に楽だよな。コンパウンドボウの扱いに慣れてきているので、後衛に徹するのも悪くはない。

 おまけに、この面子の中で最も信用できる存在。断る理由はないのだが、独りで動いた方が何かと気楽だという思いもある。

 あともう一つ問題が――


「織子さん、俺たちと組もうよ!」


「いや、私のチームに入って欲しい」


 彼女が付いてくると、もれなく他のプレイヤーがセットとなる。戦闘力も優秀で見た目も整っている。おまけにスタイルを見せつけるような格好。更に外交的で人懐っこい。

 そりゃ、人気もでるだろう。この殺伐とした世界だからこそ、彼女のような存在は必要以上に人を惹きつける。


「ごめんね、私、網綱さんと組むから」


 いや、組むと言ってないのだが。あ、周囲の突き刺すような視線を感じるな。

声を掛けてきたチームは既に四人は揃えているようなので、俺もセットでご注文というわけにはいかないようだ。


「では、私もそのチームに混ぜてもらえませんか?」


 背後から声が聞こえるが、正直振り返りたくない。


「自分も、合流させていただけませんでしょうか!」


 本気で振り返りたくない。


「あ、二人もチームに入ってくれるんだ! やったね、網綱さん。仲間が増えたよ!」


「おい、やめろ」


 あっ、織子がしてやったりとドヤ顔をしている。くそ、ネットの世界では有名な言い回しに思わず突っ込んでしまったが、本当にやめてほしい。

 視線に先にいるのは、ご想像の通り明菜さんと横道さんだった。


「いや、この編成はおかしいだろ。後衛三人ってバランスが悪すぎる」


 四人のうち貴重な遠距離攻撃型が三人もいるって、どう考えても異質過ぎる。

 遠距離担当は、各チーム一人は欲しいところだろう。なら、俺のチームに固まるのは問題だ。


「心配には及びませんわ。私、短刀もそれなりに扱えますのよ」


 懐に短刀を忍ばせていたようで、胸元をはだけ、そこから一本の黒く艶のある鞘に納められた短刀を抜き出した。

 さらしを巻いた胸元が露わになっているのだが、全く気にもしてないようだ。隣の横道は頬を赤らめ視線を逸らしているというのに。


「弓だけで生き延びるには厳しいから、当然か」


「網綱様もそうなのでしょう?」


 同じ弓使いならわかるか。遠距離特化で生き延びられるほど、甘いステージ構成じゃなかったもんな。


「アサルトライフルは遠近共に優れた武器であります!」


 連射も利く武器なので、確かにどの距離でも優れた能力を発揮してくれそうだ。

 と考えると、遠距離も至近距離にも対応できる万能のチーム編成とも言えるのか。あとは、特殊能力が知りたいところだな。


「ねえ、ねえ、みんなは特殊能力、なに持っているの? 私は剛力と格闘技と――」


「ストーップ! 織子、自分の能力を簡単にバラさ――」


「私はですねぇ、射撃とぉ、あとは」


「自分も射撃を所有しております! 未熟ではありますが千里眼も」


 何で暴露合戦が始まっているんだ。

 織子が隠し事をする気が無いのは知っているが、二人もあっさりばらしてどうする。これが芝居なのか本気なのか俺には判断がつかない。

 この空気感……やばいな。杉矢たちと過ごした日々を思い出しそうになる。一ヶ月も経っていないというのに、四人と一匹で過ごした充実したあの時が懐かしい。


 と、想いを馳せている場合か。この流れ良くないぞ。悪い印象は無い二人だが、横道さんは兎も角、明菜さんが問題だ。

 彼女はマップを所有しているので、このステージで重要な立ち位置にいるので、探索をするとしても最前線のチームに組み込まれる。と鴨井も口にしていた。

 俺としては他者が切り開いた道を安全に進みたい。もちろん、ステージクリアーが最終目的なので手を抜くつもりはないが……率先して危険に突っ込む気にはなれない。


「話がまとまりかけているけど、ちょっと待ってくれ。そもそも、明菜さんは鴨井さんと組むのじゃないのかい? 最前線のチームに組み込まれるとかどうとか、言っていた気がするんだが」


 リーダーシップを取っていた鴨井なら、最前線のチームに喜んで加わる筈だ。なら、そちらのチームにお引き取り願いたい。


「ええ、そういう話し合いでしたわ。ですから、こ」


「そこからは俺から話そうか。山岸君、このチームに参加させてもらいたいのだが、構わないかい?」


 話に割り込んできた爽やかスマイルの鴨井を見て、『危機察知』を進化させたのは間違いだったかと、本気で後悔した。


「お断りです」


 満面の笑みを浮かべ、そう返しておく。

 この鴨井という人物がどうにも苦手なのだ。冷静に状況を見極めコミュニケーション能力も高い。優れた人材だとは思う。

 こんな状況でも笑みを絶やさず、個性の強そうなプレイヤーたちを今のところ、まとめ上げている手腕は尊敬に値すると言っても過言ではない。

 こんな過酷なゲームをやらされ続けた人間にしては歪みが見えない。それが違和感となり、俺の警戒レベルを押し上げている。

 織子のような経験をして悔い改めた末の姿なのかもしれないが。これは俺の勘なのだが、どうにも裏があるように思えてならない。


「うーん、山岸君に嫌われるような真似をした覚えはないのだけど」


「いえ、嫌ってはいませんよ。ただ、素直に人を信じられないだけです」


 俺の言葉に鴨井の眉がピクリと動いたのを見逃さなかった。

 彼も楽な道のりではなかったのか、その言葉に思わず反応してしまったようだ。相手の感情を少しでも引き出す効果を狙った発言だったが、俺の脇で織子から表情が消え俯いてしまったのは誤算だ。


「山岸君の言うことはもっともだ。この世界で安易に人を信じるという行為がどれだけ危険なのか、身を以って経験してきたからね。だが、このステージは違う。裏切りを心配することなく力を合わせて戦うことができる!」


 拳を握り締め熱弁を振るう彼の言う通りだ。ここのルールなら他者を裏切り蹴落とす必要は全くない。


「確かに。だけど、それってライフポイントに余裕がある間だけじゃないか?」


 鴨井が口をつぐみ、じっと俺を見つめている。

 その一言で何を言いたいのか察してくれたか。いや、初めからわかっていたが、あえて口にしなかっただけなのかもしれないな。


「どんな罠が仕込まれているかもわからない迷宮で、最前線のチームの危険度は計り知れないだろう。死亡回数は一度や二度では済まない筈だ。ライフポイントが削られ、本当の死が迫る状態で、自分たちだけが危険を背負い、他のプレイヤーの為に奉仕を続ける。不満が噴出する程度ならまだいい。俺たちの力は異常なんだ。ちょっとした小競り合いが、容易に殺し合いに発展できるくらい異常なんだ」


 ライフポイントが二桁ある間は、まだ大丈夫かもしれない。だが、一桁となりあと数回で完全に消滅するとなれば、今まで率先して危険に身を晒していたプレイヤーが平常心でいられるだろうか。

 俺はそこまで他人の為に奉仕できる人間ではない。


「キミの考えは理解できた。ならば、条件付きでどうだろうか。いつでも解散して構わないというのはどうだ? そういう結論になった場合、二度と同じチームに入れてくれとは言わない」


 断る理由が消えたか。一度試してみるだけなら、失敗したとしても経験として次に生かされる。ライフポイントもまだ31残っているなら、一度の死なら許容範囲。

 これ以上抵抗すると周囲に悪い印象を与えかねないか。二十人を超える集団で嫌われ者になるのはデメリットが大き過ぎる。


「わかった。じゃあ、鴨井がリーダーで」


「いやいや、山岸君を慕って集まったメンツじゃないか。ここはキミがリーダーをやらなくてどうする」


「いやいやいや、俺はリーダーに向かないんだよ。後方から支援するしか脳が無くて」


「えっ、網綱さん。第七ステージで立派にリーダーしていたじゃない」


 織子、余計なことを。

 その言葉に我が意を得たりと鴨井が強引に俺をリーダーに任命した。何だかんだと抵抗してみたのだが、全てが無駄だったようだ。

 解散の権限もあるし、暫くは我慢するか。彼らの能力を把握するには、絶好のポジションだしな。


「不承不承ではありますが、リーダーとなった山岸網綱です。皆さん短い間ですがよろしくお願いします」


 やる気のない挨拶だったのだが、何故かチームメイトが拍手をしている。

 この個性の強いメンバーをまとめられる自信は全くないが、まあ、何とかやってみるしかない。


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