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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第九ステージ

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72/111

勝利への道

 生木の焼ける臭いが鼻につくが、今は俺を窮地から救ってくれる頼もしい存在だ。その臭いすら好ましい。

 あとは火を消される前に――


「煙に紛れて離脱すれば完璧だ。なんて思ってないか?」


 俺の考えを完全に読んだ声が耳元から聞こえる。慌てて振り向いた視線の先には、口元に笑みを浮かべた杉矢がいて、煙の中に輝く一条の光が見えた。


「悪くない策だとは思うが、お前だって煙の中じゃ視界が定かじゃねえだろ。不意を突くにはこっちも適した状態だってこ……」


 その言葉を最後まで聞くことは叶わなかった。

 首筋が冷たくなったかと思ったら、今度は熱い物が流れ落ち体を濡らしているのが……わか……る。





「凄まじい切れ味だな」


 痛みを感じることなく首が切断された。最後に映った光景が、首なしの自分の体から血が吹き出ているなんて、シュールすぎるだろ。

 と、最後の瞬間を思い出している場合じゃない。時間を無駄にする余裕は微塵もないぞ。

 手元には石の棍もある。やはり、死ぬと武器は戻ってくるのか。

 死に戻りをした俺の目の前にはガラス板がある。スタート地点の安全地帯にいるのはいいのだが、ここにいられるのは確か五分だったか。


 ガラス板に手を当て、購入できる特殊能力――ではなく、アイテムに目を通す。それも武器の項目だ。

 相手は何度でも俺を襲いライフポイントを消滅させると宣言している。

 囲まれた時点でさっきの繰り返しとなるのは目に見えているのなら、ここは各個撃破できる遠距離系の武器を手に入れるのが理にかなっているだろう。


「遠距離系の武器、武器。ここか」


 無駄に種類が豊富過ぎる武器一覧から、飛び道具系の武器を探し出せた。

 拳銃もあるようだが、これは除外させてもらう。消費されるライフポイントが膨大過ぎるので使いこなせる前に、全てのライフポイントを失う方が早いだろう。それに、威力が均一なのも問題だ。

 クロスボウも同じ理由で却下する。銃とクロスボウの利点は、照準が合わせやすく素人でもそれなりの成果を望めることだろう。そして、使用者の能力に関係なく威力が均一だ。


 素人である俺が使うには最も適していると思われそうだが、光輝が扱っていた銃の弾丸を俺ですら避けられた。普通の人間にはできない芸当だろうが、身体能力が通常の人間の数倍に跳ね上がっているプレイヤーなら、そう難しいことじゃない。

 つまり、威力が一定の武器ではプレイヤーを仕留めるには頼りないのだ。

 となると、筋力に左右される自らの手で引く弓となるか。弓は銃のように射撃音がないので、潜んで狩るには最も適しているだろう。連射ができない不便さはあるが、ある程度距離を取っておけば接近されるまでに、数発は叩き込める。


 弩、和弓、リカーブボウ、コンパウンドボウ、トルコ弓等々――種類が豊富だな、おい。弓については、漫画や映像で知っている程度だが、こんなにも種類がある物なのか

 これって、触れたら詳細が確認できる親切仕様なら全てを比べて、より良い品を選びたいところだが、ここの製作者は性悪だ。


 時間制限もあるから、呑気に迷っていられないぞ。乏しい知識を脳の隅々から掻き集め、最も適した弓を選ぶしかない。

 まず、弩は確か中国のクロスボウに似た弓だったと思う。

 和弓はそのまま日本の弓だよな。やたらと大きいけど飛距離も威力もあるのだったか。

 トルコ弓は聞いたことが無いけど、トルコの弓だなうん。


 残りのカタカナ表記の弓は外国産の弓なのはわかるが……何とか理解できるのはコンパウンドボウぐらいか。戦争系のゲームで何度か使用したことがある武器だ。

 銃に匹敵する威力がありスコープとかも備え付けられている、近代の弓らしい。精度も高く威力も充分。自分で引くタイプの弓だからこっちの筋力に威力が左右される。

 本来なら弓を扱うにも、練習を必要とするのだろうが器用さが人の数倍ある今の自分なら、それ程苦労せずに扱え……たらいいな。


 時間は残り僅か。コンパウンドボウの消費ポイントは40。現在のライフポイントはさっき死んだから86。残りは46となるのか。

 このまま戦っても数の暴力には勝てない。なら、決断するしかない。


「決めたぞ。やるしかないんだ」


 迷いを吹っ切り、俺はコンパウンドボウを選んだ。

 目の前の地面が光り輝くと、下から黒い弓が浮き出てくる。

 ファンタジーで想像する弓とは違い、近代的な無骨さがある形状をしているな。握ってみるが木製ではあり得ない質感。

 弓の両端には滑車があるのだが、これにより弓の威力を高めているとか武器説明の項目で書いてあったな。弦も一本ではなく三本あるのか。

 こうやってまじまじと見たことがなかったが、何と言うか中二心を刺激する武器だ。


「あっ、矢は……あるか」


 もしかして、矢はライフポイントと別で購入なのかと一瞬焦ったが、矢筒に入った矢がセットで置かれている。矢は十本か。使用後は出来ることなら回収しておきたい。

 試しに弦を引っ張ってみるが、いとも容易くそれ程力を込めずに引くことが出来た。もっと固いものかと思っていたのだが、軽いな。

 この程度の力で良いなら威力はあまり期待できないのか?


 普通の製品とは違い、ここで得た武器には不壊の性能がついている。どれだけ力を込めても壊れないのであれば、もう少し固い方が威力も増すと思うのだが。

 弦の張りを調整する方法がありそうだが、そろそろタイムリミットか。矢筒を背負い、棍はその場に置いて、コンポジットボウを手に取る。

 暫くは、こっちをメインにさせてもらおう。各個撃破するしか手は無い。


 安全地帯の地面から青白い光が溢れ出している。タイムリミットが過ぎて転移させられるのか。出来ることなら、四人組とは離れた場所に飛んでもらいたいが、これは運に全てを託すのみ。

 全身が光に侵食され、浮遊感に体が違和感を覚えるがそれは直ぐに消え去り、足元に確かな土の感触が復活した。

 すぐさま『気配察知』『危機察知』を全開にする。周囲に気配は感じられない。危険もなさそうだ。見た感じ森の中なので、どこも同じように見える。


 先ずは場所の確認か。周囲を見回すと一本だけ他よりも抜き出ている大木を見つけた。あそこに登れば周囲を見渡すことが出来そうだが、同時に敵からも発見されやすくなるな。

 一番警戒しなくてはいけないのは田中の『千里眼』だが、彼女だって常時観察しているわけではないだろう。偵察に適した能力故に役割が多く、今も俺を探すことに尽力している筈だ。

 長時間でなければ、余程運が悪くない限り見つかることは無いと思う。

 俺は素早く木を登っていき、先端部近くから張り出した枝の上に陣取ると、ざっと周囲を見渡す。俺のいる大木と同様の大きさはある木が全部で四本か。

 あとは青々と葉が生い茂る木々が見えるだけで、パッと見ただけでは違いを見抜くことは難しいだろう。


「っと、あそこか」


 だが、今回俺が探す場所はわかりやすい。未だに煙がくすぶり、火事によりつくられた空き地を見つけるだけだ。

 方角を確認すると、素早く木から降りる。

 壁に近い場所にぽっかりと空いた黒焦げの一帯。あそこがさっき殺された場所だ。火事を引き起こした理由の一つが目印だったのだが、あれで全焼していたら元も子もないよなと、今更ながらに思う。


 結構距離があるので、こっちにはまだ敵の手が回っていないだろう。田中なら全速力で駆ければ可能かもしれないが、そうすると全員を置き去りにして突出してしまう。

 近くにいたとしても、前回の俺の悪足掻きを経験していれば、一人でちょっかいを掛けることは無いだろう。

 相手は四人組で、俺は一人。となると、人数の不利さを補うためには彼の存在が重要になる。俺が真っ先に倒した――沢渡大輔。


 あれから、ライフポイントが減った放送が入っていないのが気になるな。もしかして、杉矢たち一行に引き込まれたか。そうなると、益々厄介なことになるのだが。

 そんなことを思いながら、コンポジットボウの試し打ちをしてみたのだが、思ったよりも狙い通りに放つことが出来た。器用度の高さによる補正も大きいのだろうが、元々武器の性能がいいというのが一番の理由だろう。


 付け焼刃で相手の手を射抜くことや、素早く動く相手を倒すのは至難の業だろうが、動かない相手を一定の距離から仕留めるぐらいは可能だ。

 引きの弱さが不安だったのだが、木の幹に深く突き刺さるどころか貫通している。これなら、殺傷能力は充分ある。

 本来は人が引けるものではないのかもしれないな。馬鹿げた筋力を手に入れた今だから、苦もなくやれるだけで。


『沢渡 大輔。ライフポイント9』


 っと噂をすれば何とやら。彼がやられたか。

 今の四人体制で充分だと判断したようだ。まあ、能力の低い仲間は脚を引っ張る可能性が高いし、最終的には一人しか生き延びられないんだ。妥当な選択かな。

 俺は今後の展開を脳内でシミュレーションすると、目的地へと急ぐ。

 田中の気配を読み取ることは完全に諦め、他の三人が範囲内に現れないか、それだけに集中する。『隠蔽』は動かなければ仲間の気配も消すことが可能らしいが、この状況で待ち伏せは意味がない。気長な持久戦をするなら別だが。


 目的地付近に近づくと、一つの気配を察知した。あの焼けた一帯から少し離れた場所に、ポツンと一つだけ気配がある。

 普通に考えるなら沢渡だろう。彼が殺された放送が入ってから五分は過ぎている。たまたま近くに飛ばされたのか、時間切れ前に出てきたのかは不明だが。

 さて、問題は彼の気配に杉矢一行が気づいている可能性が高いということだ。俺が彼らの立場なら、沢渡はあえて泳がしておく。

 そうすることにより、俺が接触する可能性があるからだ。相手だって、この状況なら彼を抱き込む可能性を示唆するだろう。


 餌として放置して俺が接触したところで、両者同時に美味しくいただく。効率のいい方法だ。さっきは潜んでいる可能性を否定したが、俺の考えが正しければ近くに全員で隠れていることも考慮しなければならない。

 としたら、俺の取るべき行動は一つ。

 沢渡の動きをつぶさに観察して、相手が何処に向かっているのかを予想する。

 未だに煙がくすぶる一帯は危険だと判断したのか、壁に沿って逆方向へと進んでいるようだ。壁際なのは敵の来る方向を片側だけでも潰しておきたいから、かな。

 このルートだと、もう少し先にある木の近くでスタンバイしておけば遭遇できるか。


 素早く頭を巡らし、考えながら既に行動は開始している。理想的なポジションに立つ木を見つけると、その上に陣取り息を殺して相手が来るのを待つ。

 『気配察知』を全力で開放しているが、杉矢たちの気配は感じられないな。もしかして、『隠蔽』のレベルが高いと、仲間を引き連れたまま気配を殺すことが可能なのかもしれない。そうなったら壊れた性能でお手上げになるが、もしそうだとしても、素早く動けない等のデメリットは存在して欲しい。

 そんなことを考えながら辛抱強く相手の接近を待つ。


 暫くして、壁際を進む沢渡の姿を確認できた。きょろきょろと忙しなく辺りを見回しながら、歩行速度はかなり遅い。

 距離は100メートルぐらいだろうか。壁の付近なので視界は良好で、俺の位置からばっちりその姿を捉えられる。

 もう既に二度も死に、ライフポイントは一桁となった。そのせいか落ち着きがなく、警戒心も強い。時折、何かの音に反応して身構えている姿が哀愁を誘う。

 誰だって死にたくはない。だから、彼は必死になって恐怖に抗い怯えながらも進んでいるのだろう。

 そんな彼に向かって俺は――照準を合わせて、無慈悲な矢を放った。


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