五回目
死んだ、また死んだ。
今度は楽に死ねた。それだけだ。
前の死に方に比べたら楽なもんだ。だけど、それだけだ。
抵抗しなければまた食われる。
そして蘇る。
また食われる。
蘇る。
食われる。
これが永遠に続く。
終わらない、何も終わらない。
だったらどうすればいい。あの痛みを味わってまで生き延びないといけないのか?
死ぬことに対する恐怖はかなり薄れてきたと思う。繰り返すことにより恐怖に対する抵抗力がついたのかもしれない。
だったら、痛みも慣れるのか? 慣れるまで俺は食われ続けるのか?
このまま抵抗もせずに毎回食われ続けたら俺はどうなるのだろう。
ただ、座り食べられて時間が巻き戻る。
「何だそれ……」
食われる為だけに時間を逆行するだけの存在。
何回繰り返したら、俺は何も感じなくなるのだろうか。
嫌だ、嫌だ。死ぬのには慣れてきた。でも、嫌だ。
こんな理不尽な状況を決して受け入れたくない。死ねないんだ、なら生きなければならない。
そうだ、足掻かないと。死ねないなら生きる。単純じゃないか。
俺はもう、五回死んだ。つまり、五回生まれ変わったようなものだ。生まれ変わるたびに速攻で虎の餌になるだけの人生。
「そんなの、人間じゃないだろっ」
俺は前を見据える。
何度も何度も俺を殺してくれた黒虎がそこにいた。
右手を胸ポケットに突っ込み、ボールペンを掴み取ると握りしめる。こんなものが通用するとは思えないが、無いよりましだ。
左手にはスマホを。
「グルウッ!」
見るからに弱そうな俺が怯えることなく、自分を見ていることに警戒しているのか。一定距離から歩み寄ってこない。
なら、俺から行くだけだ。
一歩、また一歩、前へと踏み出す。
俺の存在が不気味なのだろう。黒虎はじっと見据えているだけで、いつものように飛びかかってこない。
あと数歩で、俺の攻撃が当たる距離だ。
一気に走り込むと、俺はボールペンを掲げて突っ込んでいく。
このまま、右手を相手の何処でもいいから振り下ろして突き立て――
ぐしゅりという何かが砕かれた耳障りな音と共に、右腕の肘に以前味わった激痛があああああっ!
「い、痛えええな、糞があああっ!」
食われた、俺の腕が食われたっ!
くそ、くそ、心が挫ける。諦めろと誘惑してくる。
嫌だ、嫌だ、もう嫌だ。だけど、だけど、ここで折れたら、また繰り返しだ!
少しでも、前より少しでもっ!
「足掻いてみせるっ!」
根性を、根性を見せてやる。おらっ、至近距離でこれをくらえっ!
残った左手を相手の顔に向け、スマホで黒虎の顔を激写した――フラッシュ機能をオンにして!
「ギャンッ!」
どうだっ、躾がなっていない糞猫がっ!
「ざまあみやがれっ!」
よっし、今の、今の内に……。
「あれっ、歩かないと、逃げないと」
心が逸るばかりで足が進もうとしてくれない。歩いてはいるけど、真っ直ぐに進めない。
体が冷たい、震えるぐらい寒い。
右腕から何か大切なモノが抜け出ていくような……。
何か頭がぼーっとするな、右腕? あ、そうか、俺は右腕食われたのか。
だから血がこんなにも……そうか。またか。
でも今度は無駄死にじゃない。根性見せてやった……ぜ。
『根性』1を取得。




