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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第七ステージ

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59/111

激戦

 うちのチームは俺を除いて全員が躊躇いなく突入していく。

 田中さんはかく乱目的だろうが、後の二人はガチガチの前衛系だからな。俺は後衛ってわけではないが、この面子だと出しゃばる必要が全くない。


「無駄無駄ーアンドゥ速さが足りないデース!」


 まさに目にも止まらぬ速度で走り回っている田中さんが上機嫌で叫んでいる。色々パクりすぎだとは思うが、取り敢えず無視しておこう。

 相手がパワー型で動きが鈍いので田中さんを全く捉えられず、苛立ちながら木を振り回しているな。その八つ当たりの影響で周辺の木々がへし折られ、一帯が整地されていく。


「隙だらけよっ!」


 田中さんに気を取られている間に間合いに踏み込んだ織子の正拳が、化物の脇腹に突き刺さる。


「ガアアアアアッ!」


 四本腕の巨人が獣じみた叫び声を上げている。あの巨体でも織子の『剛力』は効き目が有るようだ。凶悪な顔を歪めて織子を睨んでいる。


「おいおい、目が一つだと不便だな」


 織子を挟み打ちにする位置に回り込んでいた杉矢さんの手元が光を放つ。一筋の光が化物の腕の一本をなぞったかと思うと、丸太のような腕が一本地面に落ちた。

 あれをひと振りで切り落とすか。前の組との戦いで杉矢さんは本気出してなかったな。手足の一本でも切り落としておけば、相手の戦意も萎えただろうに。


「うおおおっ、おっさんスゲエな! マジでかっけえ!」


 学ランが喜んでいるが、そんな暇があったら手伝えよ。

 樽井さんは巨大な石槌が武器なようで、あれを振り回すと素早さが殺されるので、攻撃は控えているようだが牽制はしてくれている。

 銃の少女は相手が攻撃に移るタイミングを読んで、絶妙なタイミングで撃ち込んでくれている。


「樽井さん、光輝こうきちゃんは必要以上に近寄らないように!」


 眼鏡スーツはふた振りの両刃の剣が武器のようだが、巨人を相手にするには分が悪いので、戦況の確認と指示担当か。

 俺のやるべきことは……特に見当たらないな。前衛はこれ以上増えたら逆に皆の動きを妨げることになる。チームプレイに徹するなら俺の役目は後衛か。

 取り敢えず、石でも投げておこう。

 安全地帯から手頃な大きさの石を絶え間なく投げつける。一本の腕が煩わしそうに俺の石を弾いている。三本の内の一本を封じられただけでも充分か。


 今のところ順調に相手を追い詰めている。身長差を利用して織子は相手の足を重点的に蹴りまくっているな。田中さんは完全に翻弄しているし、杉矢さんは帯刀したまま、じりじりと間合いを詰めて相手を威嚇している。

 やはり相手も杉矢さんを警戒しているようで、基本的に視線は杉矢さんを見つめているようだ。

 一気に攻め込めば勝てる気もするが、だがそれは危険すぎる。即死級の攻撃力というだけで動きを委縮させてしまう。


「ということで、嫌がらせ継続だな」


 的が大きいので全力の石投擲が外れることは無い。時折、煩わしそうに視線をこっちに向ける度に笑顔を返している。あ、歯が剥き出しになった。かなり、イラッとしているな。


「樽井さん! そっちで一番破壊力のある攻撃ができるのは誰です?」


「えっとね、やっぱりポチミちゃんかな。でも、今は無理よね」


 思ったよりも近くで聞こえた声に、体がびくっと揺れたのが自分でもわかった。樽井さんいつの間に俺の近くに移動したんだ。油断できない人だな。

 樽井さんの視線の先を追うと、未だに倒れたままのポチミさんとやらを看病している学ランがいた。


「ってなると、やっぱり私かしら。このトンカチは威力結構あるみたいよ」


「なら、俺たちでどうにか相手の動きを止めてみせますから、隙を見てキツイの一発お願いします」


「おばちゃんに任せな! でも、あんたたちも無理しすぎないようにね」


 胸を強く叩く姿が肝っ玉母さんみたいで頼もしい。

 さっきまでの動きを観察していた感じだと、相手の足止めが成功すれば樽井さんならやってくれる。

 やるべきことは決まった。あとは実行に移すのみ!


「皆、相手の動きを封じてくれ! 俺も前に出るから!」


 後方で高みの見物を続けるわけにはいかないよな。二人に比べれば微力だが、俺だって修羅場を潜り抜けてきたんだ。やれることはある。

 化物は右腕を一本切り落とされているから、回り込むならこっち側だ。

 腕が一本しか残っていない右側面に陣取ると、恐怖心を押し殺し果敢に棍で突きを繰り出す。残りの右腕で凌がれてはいるが、杉矢さんから目を離すわけにもいかないのだろう、何発かは相手に命中している。

 ただ、俺の力ではそれ程のダメージを与えられていないらしく、対して気にも留めていないように見えるな。相手が警戒しているのは杉矢さんと、ひたすら足を狙っている織子のようだ。

 腕の一本が俺たち一人分を担当しているので、防御に徹している今は何とかなっているようだが、その均衡はもろくも崩れ去る。


「我々も加勢する」


 眼鏡スーツと刀学ランも戦闘に加わるようで、戦況が一気にこちらへと傾く。

 周りを取り囲まれ、死角に位置する者が攻撃を加え、相手の意識がそちらへ移ると、また新たな死角となった位置にいる者が全力で攻撃を放つ。

 この繰り返しにより、相手の体にダメージが蓄積されていくのが目に見えてわかる。立っているのがギリギリなようで、体が左右に揺れ始めている。そろそろ、終わりか。


「一斉にいきましょう!」


 全員が頷いたのを確認すると、俺は迷うことなく踏み込んでいく。他の面子もほぼ同時に突っ込んでいく姿が見えた。

 化物は誰を迎撃するか戸惑っているように見えたが、それは一瞬だった。相手も腹をくくったのか、他の人を無視して織子にあらん限りの力を振り絞って、その豪腕を振り下ろそうとしている。

 道連れにする気か!

 織子の身体能力なら躱せるかもしれないが、万が一くらいでもしたら即死。運が良くて大怪我だ。それだけは避けなければならない。


「こっちだっ!」


 相手の意識をこっちに向ける為に威力を落とした『咆哮』を放つ。状態異常の効果を抑えることにより、ただの大声とほぼ変わらないが、化物がちらりとこちらに目を向けた。

 注意が逸れたなら、次の一手だ。


『発火』


 俺の体が炎に包まれる。その現場を目撃した化物の動きが止まった。その目が驚愕に見開かれている。ついでに樽井さんチームの面々も驚いた顔で硬直している。

 まあ、うちのチームさえ動ければいい訳だが。

 化物の晒した隙はほんの一瞬だったが、それで充分だった。杉矢さんの剣技が残りの右腕を切断し、助走をつけた織子の飛び蹴りが相手の左膝を粉砕する。

 体勢を崩してくれたな。じゃあ、今度は俺の番だ。全身から吹き出る炎を『火操作』で操り、火炎放射器をイメージして突き出した手のひらから放出する。


「グギャアアアアアア!」


 その炎が相手の目を炙る。どうだ、強制ドライアイになった感想は。

 四本腕から二本腕になった化物が片膝を突き、残された手で目を覆って悲鳴を上げている。


「樽井さん、今です!」


「あいよおおおっ!」


 化物の後方に位置していた樽井さんが、ふくよかな体からは想像できない跳躍力を見せ、跪く化物を軽く超える高さまで飛び上がると、両手で握り締めた石槌を渾身の力で叩きつけた。

 脳天に直撃した一撃の威力により、化物の首が胴へ潜り込み、ゆっくりと崩れ落ちた化物は右腕と頭のない死体へと成り代わっていた。


「やったわっ!」


「お見事です樽井さん!」


「おばちゃん凄い!」


「やるじゃねえかっ!」


 輪になって喜び合う樽井さんチームから少し離れた場所で俺たちは顔を合わせると、杉矢さんがすっと掲げた手と手を打ち鳴らした。


「何とかやれたようで、何よりだぜ」


「ナイスなコンボでしたネー」


「皆、すごく強かったよ!」


「お疲れ様。これで、うまくことが運ぶといいけど」


 理想的な展開にはなったが、問題はここからだ。樽井さんたちがクリアー基準に達していれば、共同戦線を張ることも可能だろう。

 だが、まだポイントが足りない場合、ここから奪い合いに発展することも考慮しておかないと。


 ひとしきり喜び合った樽井さんたちは未だに興奮冷めやらぬようで、満面の笑みを浮かべたまま、こちらに近づいてくる。

 敵対する意思は全くないように見える。向こうがこっちを警戒する必要は殆どない。相手のポイントを奪うのであれば、化物との戦闘に集中している時に襲い掛かれば済んだ話だ。

 もしくは、消耗させた化物を自分たちがやられた後に奪えば、100ものライフポイントを得ることができた。それをしなかった俺たちへ警戒心はかなり薄れていると見ていいだろう。

 俺たちの数メートル手前で相手チームは足を止める。これ以上近づくのはお互いにとって危険だと考えてのことか。


「ほんと、助かったわ。もう、おばちゃん感激よ! こんな殺伐とした世界だけど、ちゃーんと人情のある人もいてくれたのね。ほら、みんなもちゃんとお礼いいなさいな」


 樽井さんに促され、他のチームメンバーが頭を下げている。


「食料もそうだが、またも助けられてしまった。感謝している」


「あ、ありがとうございます」


「やるな、あんたら。助かったぜ」


「ご主人様が世話になったワン」


 それは取り繕った言葉ではなく、本心のように聞こえた。一人、田中さんに匹敵するキャラの濃い人がいるが……彼女が何者であるか予想はついている。獣人に扮したコスプレイヤーにしか見えないが、ご主人というキーワードと、芝居ではなく本気で学ランの彼を助けた従順な態度。

 そして四人一組だというのに5人目となる存在。


 つまり彼女は、俺で言うところの黒虎と同じ立ち位置なのだろう。隠し要素を満たし、犬系の仲間を褒美として選び、そして、もう一つの褒美『人化』を選んだ結果がポチミと呼ばれた彼女の正体だと見ている。

 そうでなければ、この状況下であの格好にこの台詞は、田中さん以上のおかしな人でなければ無理だ。


「網綱、何でさっきからミーをチラチラ、ルックしてるヨ」


「いや、別に。気にしないでくれ」


 しかめ面で目を細めている田中さんはさておき、交渉しないとな。

 先ずは、さっきの疑問にも触れておくか。正直に話してはくれないだろうが、五人でいることに触れない方が不自然だろう。


「困った時はお互い様ですよ。それよりも、一つ疑問があるのですが……何故五人なのです? ここって四人一組ですよね」


 そう口にした瞬間気まずそうに四人が顔を見合わせている。

 俺の予想通りだとしたら、その内容を明かすかどうか悩みどころだろうな。

 ポチミだけは現状を理解していないようで、舌を出して「はぁはぁ」と呼吸を繰り返しながら尻尾が大きく左右に振られている。

 小声で四人が囁き合っているのに、ポチミは蚊帳の外で少し寂しそうだ。尻尾も垂れているな。


「ポチミさん、貴方は何者ですか?」


「ポチミはレイジのペットね!」


 何気なく訊ねてみたのだが、まさか大声でそんな答えが返ってくるとは。


「誤解を招く発言をするな! こいつは元々オオカミで褒美で手に入れた――あっ」


 慌てて学ラン君が口を押えているが、時すでに遅し。周りでチームメイトが呆れている中、白けた空気が森に充満していった。


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