十六回目 15
「んじゃま、ワシのも見てもらうとするか」
豪徳寺 杉矢 レベル25
体力 71+500
精神力 72+500+500
筋力 75+25
頑強 72+25
器用 75+25
素早さ 70+25
特殊能力 『我慢』5『度胸』5『気』7『居合』7『刀術』7『空手』7『柔道』7『護身術』7『読心術』2『心理学』2『操舵』5『釣り』5『跳躍』5『芝居』5『医療』1『木工』3『農業』1『弁護』1『尋問』1『偽装』1『詐欺』1『変装』1『投擲』7『話術』3『催眠術』1『手品』3『精密動作』7『威圧』7『熱遮断』5『暗視』5『第六感』8『体幹』5『土操作』5『麻痺耐性』2『幻覚耐性』2『毒耐性』2
ライフポイント 55/105
持ち物 特製鉄の刀(不壊) バックパック(サバイバル用品一式) テンガロンハット(不壊) 革のジャケット(不壊) 虫除けのジーンズ(不壊) クルーザー(小)
「何だ……この、この、特殊能力の数は」
「オウ、クレイジジーね……」
「うわぁ、凄すぎる」
これ、ツッコミどころが多すぎる。特殊能力が何個あるんだこれ。レベルの高いのも多いが1も結構目立つ。
「これって、どれぐらい初めから所有していた能力?」
「あー七割ぐらいか。まあ、殆どが芝居で役を演じる前に、その職業を事前に学んだ経験が活きたみたいだぜ。経験がものを言うってやつか。俺としては役者として当たり前の心構えだったんだが、何故か役者を片手間でやっている自称ベテラン勢に疎まれたりしたな。懐かしい思い出だぜ。ははははは」
いや、笑い事じゃないでしょ。
特殊能力に記載されるぐらい本格的に取り組む姿を見せつけられたら、自分が矮小な存在に思えるよな。まるで自分の芝居を非難されているかのような、後ろめたい気持ちになったのだろう。
俺だってそうだ。会社勤めをそれなりにこなしてきた……つもりだったが、仕事関連の特殊能力は何も備わっていない。杉矢さんが役の為に学んだ仕事よりも、俺は技能を磨くことを――努力をしていなかったということだ。
他にもクルーザーでライフポイントをかなり消費した筈なのに、まだ55も残っているとか、アイテム欄とか聞きたいことが多すぎて、変な笑いが込み上げてきた。
「あーもう、質問するのは後でいいか。まずは全員の確認を済まそう。じゃあ、次は俺で」
第五ステージクリアー後と殆ど変わっていなので、今更事細かに考察する必要もない。
ステータスは織子をかなり下回っているし、杉矢さんにはステータスの数値では負けていないが、特殊能力は比べる気にもならない。
「ライフポイントこんなにも残っているのか、やるもんだ」
「結構残っているとは聞いてたけど、ここまで……」
杉矢さんと、元気が少しだけ戻った織子が、ライフポイントの残りに驚いている。
田中さんはというと、顎に人差し指を当てたポーズで、じっとガラス板を凝視していたのだが、何かを思いついたようで一文字に結んでいた口を開いた。
「んー、ライフポイントの数以外、特に驚くポイントがナッシング。二人と比べるとノーマルっぽいデース」
「ぐはっ」
それは思っていても言わないのがお約束だろ。
二人の強烈な特殊能力とステータスの後では、特に印象に残らない平凡な値だと、俺も思ったよ!
「あ、でも、発火が地味に便利なおかげで、お風呂とか料理できるわけですし!」
必死なフォローだ……気を使ってくれて、ありがとう織子。
「明かりにもなるぜ」
杉矢さん暗視あるでしょ。
はあ、このゲームに放り込まれてから人外の力を得て、若干……結構調子に乗っていたところがあったのは認めるけど、ふっ、こういう世界でも俺は平凡だったのか。
いいさ、地味に生き抜いてやるから。
「くあぅーわぅ」
おお、黒虎が頬を摺り寄せてきている。慰めてくれているのか。
やっぱり、黒虎が一番だよっ!
「なーに、ブラックタイガーとハグしているデスかー。殿はミーの番ネ」
その呼び方やめい。それだとエビになるだろ、美味しそうだけど。
そういや、すっかり忘れていたが田中さんが残っていたな。これで、俺を軽く凌駕する能力だった場合、卑屈になりそうな自分がいる。
「デワー括目するがグッド……でんがなー」
最近、関西弁を混ぜるのを忘れつつあるな。無理なキャラ設定止めればいいのに。
田中 伽魯羅印 レベル20
体力 56+50+800
精神力 49+50+80
筋力 51+25
頑強 42+25
器用 44+25
素早さ 88+90+(90)
特殊能力 『根性』5『逃げ足』9『瞬足』9『持久力』8『地獄耳』5『水泳』9『隠蔽』9『熱耐性』5『暗視』5『千里眼』5『危機察知』9『回復力』5
ライフポイント 2/105
持ち物 地図(縮小拡大機能付) 運動靴(不壊)
絶句した。
誰も言葉を発しようとしない。重い沈黙が周囲に充満している。
レベル、能力の偏り具合も問題だが、それよりも何よりもライフポイントが残り2という現実が、疑問も思考も彼方へと吹き飛ばした。
何を言っていいのかわからず、二人の様子を窺う。
杉矢さんは正確なポイントも事前に知らされていたようで、目を細め、ただ静かに息を吐いている。
織子は限界まで目を見開き、じっと文字を見つめていたかと思うと、その瞳から大量の涙が零れ落ちた。
「私は……私は……自分の事しか考えないで……田中さんは……こんな状況なのにみんなに気を使って……何て、何て、小さい人間なんだろう……私」
口元を覆った手から悲痛な声が漏れる。
俺だって同じ気持ちだよ織子。今まで余裕の態度でいられたのはライフポイントが70も残っていたから。田中さんと同じように2しか残っていなかったら、笑うことなんてできなかっただろう。
彼女のように人を笑わせようなんて、心のゆとりを持てるわけがない。
「オウ、皆スマイル、スマイル! ここは、ファッツ、逃げ足と瞬足がダブってるよー。とか、本名をいじる場面ネ! ソウルは一つが常識ヨ。まだ二回もデスオッケーなんてお得、お得。泣くのはノーサンキューでんがな、まんがなー」
満面の笑みを浮かべ、両手で手招きをするような仕草を、大袈裟な芝居じみた動きで強調している。強い人だな、本当に。
「おっ、言われてみれば。キャロラインって漢字表記なのかよ。俗に言うキラキラネームってやつか。ってことは、お前ハーフってのは嘘か?」
杉矢さんが重い空気を払拭する為に、話に乗るようだ。
ツッコミを入れてきた杉矢さんに流し目を注ぐと、田中さんの口元が嬉しそうに緩む。
「ハーフはマジよー。キラキラでもドキュンでもないネー。日本かぶれのパパが漢字の方がいいだろうって、考えに考え抜いて付けてくれた大切なネーミング。ちょーっと、大好きなヤンキー漫画系の影響を受けている……気がしないでもないでんがな」
ああ、漫画とかのサブカルチャーから日本にはまったパターンなのか。
画数の多い漢字が好きなのって外国人やヤンキー、あとは中二病全盛期の男の子の特徴ってイメージがある。俺も轟とか滅とかに妙に惹かれるものがあった。
「んー、レベルも俺たちより低いのに、良くクリアーできたな。逃げるには有効な能力だとは思うけど」
ここは話を盛り上げて、明るい方向へ持って行くか。
「スクール時代、陸上していたから、ランは得意ネー。このすらりと伸びたナイスレッグで大活躍ヨー。このビューティフルフェイスが目立つから、クラスメイトと色々あってネー……逃げ足と隠蔽はその時のレッスンのおかげでんがなー」
うお、話の振り方を失敗した。
暗い過去をさらっとあっさり言うな。能力として記載されるぐらい身についていたって、それは相当なものだったのだろう。虐めか……確かに目立つ容姿をしているからな。こういう人はクラスの人気者になるか、逆に虐げられるかの二択しかない。
今の田中さんの性格が作り上げられた一端を、興味本位で覗き見をした気がして、申し訳ない気持ちになる。
「デネー、クリアーのサクセスストーリーは、まずエスケープ。グレイトなエネミーいたら逃げまくって、崖にプッシュ、オア、疲れたところをケルナグールネ」
そりゃ、『瞬足』や『逃げ足』が高レベルになるわけだ。戦闘技能が全くない状態で、その脚のみで乗り越えてきたのか。
ライフポイントが2しか残ってない理由にも納得がいった。ギリギリとはいえ、何とかなってしまったから、この能力でもやってこられた……新たな技能を必要最低限覚えるだけで、やれてしまったのだろう。
「武器とか防具は褒美に無かったの?」
「ナイスな質問ネ、織子ちゃん! アンサーは……この服が気に入っているから、ノーサンキューヨ!」
「はぁっ!?」
予想外の答えに俺たち三人の声が被った。
「ちょっと待て田中。そんな下らない理由でアイテムを選ばなかったというのか?」
「シャラーップ! オシャレはレディーとして何よりも大切ヨー。グッドなデザインがナッシングだったので、スルーしましたー」
堂々と言い切る彼女にあっけにとられて二の句が継げない。
命懸けの状況でデザインとかオシャレって……いや、確かにゲームなら武器防具のデザインで選ぶことはあるけど、いや、でも、嘘だろ。
「バカだとは思っていたが、まさかここまでとは……呆れるを通り越して感心するレベルだぞ」
「もっと、褒め称えるとイイネー!」
褒めてない、褒めてない。
胸を張って自慢げな田中さんにツッコミを入れる気力もないぐらい、脱力している。
らしいと言えばらしいのか。それでここまでやってこられたのだ、一概に間違いとは言えないし、それこそ個人の自由だからな。
「皆の実力も確認できたことだし、切り替えて第六ステージクリアーの祝賀会でもやろうか。次のステージはたぶん島だと思うから、持ち運べない備蓄は殆ど使おう。今日は豪勢に行くぞ!」
「それは豪気だな! ワシは漁師鍋でも作るか」
「あ、私はええと……お刺身担当します」
「じゃあ俺は焼き魚と焼き肉やるとするか」
「ミーは、指示出しますネー」
ボケたから、さあツッコミしろと、ドヤ顔でアピールしている田中さんを無視して、全員が料理に取り掛かる。
「ウェ、ウェイト! そこは、なんでやねーんって決まってるヨ! さあ、ハリーハリー」
「生け簀の魚刺身にしていい?」
「ああ、自由に使ってくれていいよ」
「ワシも遠慮なく豪勢にやるか」
「さて、秘蔵のお肉を出してくるかな」
俺たちが忙しそうに動き回る中で、田中さんは休憩所の隅の方で黒虎を撫でながらいじけている。ちょっと、からかいが過ぎたか。
「田中さん、サラダお願いしていいですか」
「も、もう、ベリータイアードだけど、ヘルプしてあげても、いいんだからねっ」
「ツンデレ属性追加とかいいから。果物も出しますから、そっちも頼みます」
頬を膨らませて腕を組み、そっぽを向きながら怒った口調で言い放つ。というツンデレのテンプレをやり遂げて満足している田中さんに、今度はツッコミを入れておく。
対応してもらえて嬉しかったようで、スキップしながらこちらに寄ってきた。なんだろう、ほんの少しだけ可愛く見えた。
各自、料理を終え、食卓にずらっとご馳走を並べると、全員が手を合わせる。
「では、第六ステージクリアーおめでとう! いただきます!」
「いただきます!」
各自が手間暇込めて作り上げた料理を味わっていると、口も軽くなるようで日本での生活や、趣味の話で盛り上がっている。
黒虎をのけ者にするわけもなく、尾頭付きの巨大な焼き魚を頬張っている。
飲み物は果汁を少しだけ加えた水なのが少し寂しいが、酒なんて用意できるわけがないから、ここは我慢しよう。
「なんだ、織子は将棋が趣味なのか。確か、網綱が作った将棋盤があるんだったな。なら後で指すか」
「え、杉矢さん将棋できるの! うんうん、やるやる!」
本調子とまではいかないが、織子も元に戻りつつあるようだ。まだ、後ろめたい気持ちがあるようで、俺と視線が合いそうになると気まずそうに目を逸らしている。
杉矢さんたちとは、そこまで詳しい情報の提供をしていなかったから、罪悪感もさほどないのだろうが、俺には幾つも嘘を重ねていたから合わせる顔がないようだ。
「将棋ですカー。チェスなら出来るのに、残念でんがなー」
「できたとしてもコテンパンにやられるから、止めた方がいいよ」
盛り上がる二人に割り込めないのが寂しいようで、指をくわえて悔しがっている田中さんに、助言をしておいた。
「つまり……コテンパンにやられたネ?」
「ご想像にお任せします」
趣味とはいえ真面目に取り組んでいる人に、ルールを知っていてミニゲームでちょっとやった程度の俺が敵う訳もなく、十数回手合せしたが一度も勝てていない。
今思えばあれが伏線だったとも言える。先の手を読む将棋。それを熟知している彼女が裏の裏まで考えて、手を打っているぐらいは考慮しておくべきだったのだ。
「網綱には感謝してるヨ、本当にネ」
「どうしたんだ、急に」
いつものテンションは鳴りを潜め、静かに微笑む田中さんの澄んだ瞳に俺の顔が映し出されている。至近距離から見つめる彼女の顔は、とても穏やかで透き通るような笑みを浮かべていた。
「ミーはあと二回でゲームオーバーネ。正直、もう殆ど諦めかけていたヨ。二度と笑えることも笑わせることもできないって思ってた。杉矢とあって助けられて、少し生への希望が持てたの。そして、網綱と織子と出会えて……本当に幸運だった。だから、ありがとう。私は次のステージで脱落することになっても、後悔はないから」
「そんなこと……」
慰めの言葉が幾つも頭に浮かんだ。でも、それを口にすることはできなかった。まだ、70ものライフポイントを残している俺が何を言っても、嫌味にしかならない。
だから、俺が返すべき言葉は一つだけだ。
「俺も皆と、田中さんと会えて嬉しいですよ。ありがとう」
「ふふ、網綱はイイ男ネ。ミーが売れっ子になったら、マネージャーとして雇ってやりまんがなー」
「お、社畜から解放されるのかっ。期待してるよ」
「オッケーネ。ウェットな話はここまでヨー。二人の将棋をウォッチングしながらディナーいただくネ」
それ以上、この話題は無しと言いたいのだろう。将棋盤を持ち出して指し始めた二人の傍に近づき、ルールも知らないのに、あれやこれや口出しをしている。
「ええい、やかましい! から揚げやるから黙ってろ」
「オウ、負けそうだからって、八つ当たりは情けないネー」
田中さん嬉しそうに煽っているな。渋面で怒っているように見える杉矢さんだが、実は楽しんでいる気がする。
「じゃあ、俺は織子のオブザーバーに就任するかな」
「あっ、うん。でも、私より弱いのに?」
「ぐはっ、ま、まあ、あれだ味方がいるだけでも、少しは楽にならないか?」
何気ない一言だったのだが、織子の表情が一変した。俺とどう接してわからずに、怯えているように見えていた彼女だったのだが……笑っている?
微かにだが口元が緩んだように見えた。
「頼りにしていますよ、網綱さん」
「任せたまえ、織子くん」
こうして、騒がしくも楽しい祝賀会は皆がはしゃぎ疲れるまで続けられた。ちなみに黒虎は早々にリタイアをして、部屋の隅で丸まって眠っていた。
この世界に来て最も楽しく心が安らぐ、思い出に残る一日だったと断言できる。
次の日に目を覚ますと、既に三人は起きていて朝食の準備を終えていた。全員で食事をして褒美を選び、体と心の準備が整うと乗船する。
「じゃあ、第七ステージに向かいますよ。やり残したことはありませんか」
「問題ない。充実した一日だった!」
覇気のある声で、堂々と言い放つ杉矢さんの顔に迷いは一切ない。
「万事オッケー。気分上々でハッスルハッスルヨ!」
田中さんは今日も元気はつらつだ。
「また、一緒に第七ステージクリアーの祝賀会しましょうね!」
織子は吹っ切れたようだな。以前と同じとまでは言えないが、告白をした時に比べれば雲泥の差だ。あとは時間が解決することを祈るだけか。
「ぐあう、がうううううっ!」
黒虎も同じ気持ちか。思いのこもった雄叫びだぞ。
これからもよろしくな、黒虎。
「ああ、必ず皆でクリアーしよう! いくぞ!」
扉を開け放ち、俺たちは第七ステージへ乗り込んでいった。
ここまでのステージが唯の前哨戦であって、本当の意味での試練が始まることも知らずに、扉の先には希望が待っていると信じて、俺たちは踏み出してしまった。
ナニが待ち受けているかも知らずに――
これにて第一部終了となります。
皆さん如何でしたでしょうか。次に待ち受ける試練は一体何なのか、それは数日後に明かされることになります。
今後とも、お付き合いのほど、よろしくお願いします。




