十四回目 3
休憩所はどこも同じデザインだな。先に進んだご褒美としてインテリアを増やすとか、風呂とか備え付けて欲しいところだ。命懸けのゲームを無理やりやらされている立場で言えることじゃないけど。
「今から褒美の確認をするから、黒虎はゆっくり休んでおいて」
寒さに強いとはいえ、さすがに疲れているらしく部屋の隅に移動して丸まっている。ご苦労様。
さーて、今度は何が貰えるのやら。ここでマンネリを打破する強力なアイテムや特殊能力でも構わないぞ。
期待と若干の不安を胸に、ガラス板に触れる。
――第四ステージをクリアーするなんて、これは偉業だよ。まあ、まだ半分も満たされていないが。次は一区切りになる第五ステージだ。今までの成果を十二分に発揮してくれ――
上から目線の文言にイラッとするが、怒るだけエネルギーの無駄なのでさらっと流そう。本命は次の褒美なのだから。
――では、お待ちかねの褒美だ。全ての脳細胞を活性化させて選択してくれ。
一つ、第四ステージ突破クエスト達成による経験値。
一つ、五つの防具から好きな防具を進呈。(武器や背負い袋と同じく巻き戻っても手元に戻る)
一つ、黒虎を人化させる。もしくは、黒虎に自分の所有している特殊能力を一つだけ覚えさせることができる。
悩んでくれたまえ――
色々突っ込みたいところだが、まずは上から考察するか。
経験値はいつも通り。次の防具か……石の棍も何だかんだ言ってかなり役に立っているから、期待は出来るよな。
でだ、問題の最後だが、特殊能力を一つ覚えさせられるのは正直かなりおいしい。『ど根性』か『体幹』を覚えさせたら戦力アップ間違いなしだ。もう少し様子を見て、新たな特殊能力を覚えるか進化させてから、覚えさせるのもありだな。
「そこまではいい、そこまではいいのだけど……人化って」
あれだよな、つまり、黒虎が人に成るって事だ。人間に成ったら会話のキャッチボールが可能になるのか。今は俺だけが話している状態だから、それは魅力的だ。
しかし、ふと思ったのだが、黒虎はメスかオスどっちだ?
それによって、人化の価値も変わってきそうだな。こういうのはうだうだ考えるよりも、直接聞いた方が早い。
「黒虎ー。寝ているところ悪いが、メスかオスどっちなんだ」
瞼を開いて眠たそうにこっちを見ている黒虎が小首を傾げている。寝ぼけた状態で質問の意味が理解できていないようだ。
「黒虎はメスかい?」
何故か目を大きく見開くと、嬉しそうに頭を上下に振っている。そうか、メスなのか。
「起こして悪かったね。ゆっくり寝てくれ」
なるほどなー。まあ、性別を聞いたのは気になったからであって、正直な話、深い意味は無い。だって、人化なんて選ぶわけがないからだ。
だいたいだな……大きな猫状態の今が最高に可愛いのであって、何で人型にならないといけない! この毛並と温かさと愛らしい顔。このような至宝を何故手放すような愚かな真似をしなければならない! 今の状態で充分すぎる程に癒されているのだ、劣化するとわかっていて何で人間にしなくてはならないのか。こんな無意味な選択肢が存在する意味がわからない。俺は心の声を大にして言いたい! 昨今、主人公や相棒や仲間とも呼べる動物やモンスターが人型になる小説や漫画が氾濫しているが、動物やモンスターはその姿が最高であり頂点だ! 人には人の良さがある、それには同意しよう。だが、人間のヒロインが突如モンスターや動物に変化して元に戻れなくなったとして、それを絶賛する人がどれだけいるのか。つまり、モンスターや魔物を人型にするというのは、そういった蛮行と同等である!
心の中で持論を振りかざしたことにより、荒れ狂っていた心の波が静まった。
昔、この考えを友人に理解してもらおうと熱弁を振るったことがあるのだが、次の日から余所余所しい態度になった、何故だ。
個人的な趣味と言われたらそれまでなのだが、俺はそのままの姿が愛おしい。特に猫派なので、黒虎が人間に成るのは惜しすぎる。まあ、黒虎が人間に成ることを望むなら話は別だが。
「ただなあ」
部屋の隅で丸まっている黒虎に視線を飛ばすと、気持ち良さそうに眠っている。
もし、美しい女性、もしくは獣人になったとしたら……荷物持ちとかさせられないよな。あと、性欲に流されそうな自分を信用できないというのもある。今は生き抜くことが全てだから、こうやって攻略が進んでいるが、そんな関係に成ったら情に流されそうだし、生き延びたいという欲が薄れてしまうかもしれないという不安。
やっぱり、今のままが一番だな。
そう結論付けると、人化を脳内で除外しておいた。
話が思いっきり脇道にそれてしまったけど、褒美として妥当なのは経験値か防具。
身体能力が上がれば第四ステージで死ぬことは無いだろう。余計なことをしなければ。
防具は性能に対する期待と好奇心だよな。強化されることが立証済みのレベルアップか、今後の展開に変化をもたらす可能性がある防具か。
「やっぱり誘惑には勝てない」
理不尽な状況で数少ない楽しみの一つが褒美選択。運試しの要素もあるが、ここは新たな力を求めてみるのもありだよな。
「防具、期待しているぞっ」
万感の思いを込めて、防具を進呈に触れた。
武器の時と同じく五つの防具の映像が浮かび上がる。白のロングコート、白のロングブーツ、白の手袋、白のニット帽、白のベルト。全部白で統一されている。
簡単な説明文があるな、何々。
純白のロングコート。通気性も良く、保温性にも優れている。撥水加工済み。
純白のロングブーツ。履き心地が抜群でクッション性も強い。撥水加工済み。
純白の手袋。熱に強く頑丈。指の動きを妨げない。撥水加工済み。
純白のニット帽。衝撃に強く温かい。撥水加工済み。
純白のベルト。カッコイイデザインのバックル。
謎の純白と撥水加工押しだな。これを見ていると一式揃えたくなるが(ベルトを除く)一つだけか。毎回、悩ませる褒美を仕込んでくるな。
見た目はどれもシンプルで機能性も良さそうに見える。(ベルトを除いて)
ロングコートは足首辺りまで覆うタイプのもので、ポケットも多いようなのでちょっとした小物をしまうには便利そうだ。フードもついているから寒さ対策も期待できる。それに、いい加減サマースーツから着替えたいというのもある。
ロングブーツは見た目が登山用のブーツっぽい。あれだったら雪山でも滑りにくそうだな。ボロボロの革靴から履き替えられるのも嬉しいところだ。
手袋も地味に助かる。ニット帽は……どうなんだろう。頭をカバーしてくれるというのは重要だと理解しているが、今のところ必需品とは思えない。
でだ、今回の問題はベルトだ。説明文が、カッコイイデザインのバックルだぞ。何の説明にもなっていない。見た目は特徴的なバックルだ。小さな弁当箱かチャンピオンベルトなのかと思わせる、無駄に大きなバックルが堂々と装着されている。
角の丸い四角形で雪の結晶が合わさったような装飾が施されている。端の方にボタンらしき突起物が二つ見えるな。正直デザインとしても微妙としか……。どこぞの特撮ヒーローの変身ベルトにしか見えない。
「まさか、本当に変身ベルトなのか」
自分で口にしておいてあり得ないと頭を振る。が、もしそうだったとしたら、男子のロマンと憧れがそこにあるというのかっ。
まあ、そんな不確定要素の塊いらないけど。
じゃあ、ベルト、ニット帽は除外して、コート、ブーツ、手袋の三種か。
大は小を兼ねるって言うし。それに初見で一番惹かれたのを選ぶのが、後で失敗しても後悔が薄い。
「ロングコートで決定だ」
ロングコートが地面からズルズルと湧いてくる。もう少し、演出に凝った方が貰う側としても嬉しいのだが。
袖を通してみると、俺の為にあつらえたオーダーメイドと言われても納得してしまう着心地だ。動きを全く阻害されず、サマースーツと違い守られている安心感がある。保温性はこの部屋では調べようがないので、次のステージで効果を期待しよう。
「あとは……おっと、ステータスの確認がまだだった」
新しいステージへ進むのだから、自分の能力をチェックしておかないとな。
山岸 網綱 レベル15
体力 45+900
精神力 53+900
筋力 44+25
頑強 45+25
器用 39+25
素早さ 37+25
特殊能力 『ど根性』4→9『熱遮断』3→4『石技』5『気配察知』5『暗視』5『棍技(我流)』4→5『体幹』4→5『咆哮』4『野生』4→5『火操作』1
ライフポイント 91/105
持ち物 特製石棍(不壊) バックパック(サバイバル用品一式) 純白のロングコート(不壊)
体力精神力だけが桁外れになってきたな。特殊能力で消耗が激しいので、これぐらいあっても安心はできないけど。
『咆哮』を除いてレベル5以上になったか。伸び悩んでいる『気配察知』『暗視』は第三ステージでこれ以上必要性に迫られてないので、伸びが悪いのかもしれないな。
命懸けの行為だと能力のレベルが上がりやすい気がする。
ロングコートも武器と同じで不壊がついているな。褒美でもらえる武器防具の基本性能なのかね。
次に黒虎のも見ておこうか。
黒虎 レベル14→17
体力 480
精神力 280
筋力 95
頑強 88
器用 50
素早さ 100
特殊能力 『熱耐性』7→8『気配察知』6『暗視』5『咆哮』4『溶解液』4『野生』5→6
ライフポイント ∞
おおぅ。レベル越えられている。体力、精神力以外が完敗だ。
敵を倒して経験値が得られるのは羨ましいぞ。『熱耐性』も順調だし、ますます頼れる成長具合だ。
確認も済んだことだし、残り少ない食材の大半を使って肉肉パーティーと洒落込もうかな。いつもの料理だけど。
安心できる場所で料理を堪能して、黒虎と寄り添って眠る。
ほらやっぱり、このままの姿が一番じゃない……か。




