十三回目 3
第三ステージの暗闇も今なら結構見通しが利く。昼間の屋外と変わりがないとまではいかないが、薄暗い程度で問題なく動ける。
黒虎は何気に『暗視』が俺と同じく5レベルなので、良く見えているようだ。鋭い目つきで周囲を警戒している。
「黒虎、ここは蝙蝠と火の鳥がいる。まずは蝙蝠から倒していこう……って蝙蝠わかるか?」
「ぐうーっ」
わかるみたいだな。じゃあ、いつものように蝙蝠を先に片付けよう。
結果を言ってしまえば、蝙蝠駆除はあっさりと終わった。俺が手を出すまでもなく黒虎の『咆哮』で落とされ丸かじりされて胃袋に納まっていく。
最後の群れだけは俺も手を出し、蝙蝠を二体ほど確保すると、いつものように生で食べた。黒虎の丸焼きを食べることがなくなったので、ここまで食事ができないのが少しだけ不便だ。今は黒虎を食べろと言われても拒否するけどな。
「ぐおるうぅぅぅ!」
黒虎が一点を睨みつけ警戒音を口から発している。お前にもわかるか、火の鳥の気配が。
「今回は特に指示を出さないから、思うように戦ってくれ」
この戦いで黒虎の戦闘能力を見極め、今後の課題を探ろう。
数値だけで相手の全てを知ることなんて不可能だからな。黒虎の活躍に期待しているが、俺も飼い主として情けない姿は見せられない。
「行こうか」
「ぐうーっ」
視線の先の小さな点が徐々にフォルムを明らかにしていく。
いつもの翼をたたんで丸くなっている状態だな。もう、数メートル近づいたところで、全身から炎を出して浮かび上がるのは確定事項だ。ならば。
ポケットに放り込んでおいた、手の平サイズの石を握り締め――網綱選手、大きく振りかぶって第一球を投げましたっ!
安定の不意打ちの筈だったのだが、風を切る音に反応したようで、まだ距離があるのに火の鳥は炎を纏い、翼の羽ばたきで石の勢いが弱まる。石は命中したようだが、あれじゃダメージは期待できないな。
黒虎はその間にかなり距離を詰めている。熱耐性があるとはいえ、全身火事の火の鳥をどうするつもりだろう。咬みつくのか?
俺は前回噛み殺したが、あれは発火前にやれたからであって、あの業火の中に顔を突っ込む勇気は中々でないよな。
俺は現在回り込むようにして、火の鳥の側面に向かっているので黒虎の顔が良く見える位置にいる。黒虎は頭を後ろに反らしているぞ。あれは『咆哮』か『溶解液』の予備動作か。
頬を膨らました黒虎はその口から『溶解液』の塊を射出した。
飛び立つ前の羽ばたくモーション中の火の鳥は風で撒き散らそうとしたようだが、炎の風が液体に触れた途端、視界が真っ赤に染まった。
「なっ、火力増したぞ!」
今まで見せていない火の鳥の特殊能力か何かなのか。一気に膨れ上がった業火の風に黒虎は、まるで予期していたかのように大きく迂回して炎を避けている。
それに引き換え、火の鳥の方が自分の放った炎の風の威力に驚いて、呆気にとられているかのように見える。
「もしかして、溶解液は可燃性なのか……」
黒虎の口にスプレー缶を放り込んで、爆発した時、尋常ではないぐらいに燃えたなとは思っていたが、そういうことだったのか。溶解液に引火して一気に燃え上がったと。
炎の風が消えると火の鳥の視線の先には、俺も黒虎も既にいない。
その姿を探そうと首を巡らそうとした、その時、俺と黒虎は火の鳥を挟み込むような位置取りになっていたので、全力で『咆哮』を同時に放った。
「ヴォーーーーッ!」
「グルラアアアッ!」
大音量の挟撃は効き目抜群だろ!
まるで泥酔した酔っぱらいのように、ふらふらと足下がおぼつかない状態で頭を揺らしている。そんな隙を逃してやる義理は無い。
走る速度を上げ、棍の届く範囲になると跳び上がり、火の鳥の頭を強打する。少し遅れて黒虎が爪を振るい、翼もろとも背中を切り裂いた。
頭を潰された火の鳥は断末魔の一鳴きも上げることなく、崩れ落ちる。
これにてミッションコンプリートだ。やっぱり一体の相手に二人――一人と一匹で挑むと、かなり楽だな。
火の鳥が攻撃特化で防御系が弱いって言うのも勝因の一つだよな。本来は炎を纏うので接近戦には強い設定なのだろうが『熱耐性』のレベルが高いと難易度が一気に下がる。
火の鳥の死体を忘れずに扉を潜り、ガラス板に触れた。
一つ、火の鳥の特殊能力を一つ、奪うことが出来る。『発火』『火操作』『熱耐性』『回復力』
一つ、背負い袋を与える。(中に入れた物は破損することなく、食材や料理の温度を一定に保ち、物が劣化しにくくなる。武器と同じく時間が巻き戻った際も手元に残る)
そうか。もうこれだけしか褒美が残されてないのか。実は今回で三回目の特殊能力完全バージョンの火の鳥撃破となるので、黒虎の時と同じように特別なご褒美が発生するのかと思ったのだが、そうは問屋が卸さないか。
隠し条件として考えられるのは、三回ではなく、もっと多く倒さなければならない。もっと特殊な倒し方をする、とかか。
となると、隠し要素を狙うなら特殊能力を奪わずに次に期待するのもありか。でも、奪っておくと次の戦闘が楽になるからな。
「あーーーっ、どうすっかな」
心を落ち着かせる為に床で丸まっていた黒虎を撫でておく。あー、癒される。
でも、よくよく考えると黒虎の時と同じような特別な褒美が発生すると、火の鳥が消えてしまい、特殊能力が奪えなくなる。それはヤバイだろ。となると、普通に能力を奪っていくほうがいいのか。
うーん。背負い袋は前々から欲しかったし。黒虎の食糧問題も出てきたから、ここは背負い袋を選択しよう。
棍を選んだ時と同じく、地面から背負い袋……というか、登山用のリックサックみたいなデザインだな。確かバックパックって呼ぶのだったか。
色は黒で、かなり大きい。背負ってみると頭のてっぺんから、腰の下付近までを完全に覆い隠す大きさだ。幅も結構あるからかなり物も入りそうだな。
腰のベルトと前で組み合わせるフレームもあるから、安定感が抜群で長い間背負っていても負担が少なそうだな。伸び縮みもするから体がもっと大きくても小さくても、問題なく背負えそうだ。ポケットも多く小物も収納しやすい。
「いい鞄だな。って、そうだ」
あることを思いついたので、黒虎を手招きして呼ぶ。どっしり座り小首をかしげる姿も可愛いが、愛でるのは後だ。
「これを背負えるか試したいけど、いいかな?」
お、快く承諾してくれたようだ。右前脚を上げて、腕を通しやすいようにしてくれている。
バックパックを背負わせてみたが違和感はないな。意外としっくりきている。
「動きの邪魔にならないかい?」
黒虎は飛び跳ねたり、室内をぐるぐる暫く回っていると、俺の前にお座りして大きく満足げに頷いている。どうやら、大丈夫なようだ。
「では、これから黒虎は荷運び役もやってもらうけど、いいかい?」
「ぐあーぅ」
いいみたいだ。
じゃあ、ゴム水筒に水を満載して入れておこうかな。中を覗き込むと、外から見たよりかなり広く感じるな。ゴム水筒を入れてもまだまだ余裕がある。
財布とか地味に邪魔だから、やたらとあるポケットに入れておこう。比較的大きなポケットを開くと――あれ、何か入っているな。
「おおおっ、ナイフ!」
それもサバイバルナイフだぞ、これ。片刃だけど、背中側はノコギリの刃のようになっている。刃渡りもけっこ長くて、予備武器として充分利用できそうだ。鞘もあるから、これは腰にぶら下げておくか。
他にも何か入ってないかと隅々まで探すと、レジャーシート、ライター、簡易コンロ、袋数枚、ロープ、フライパン、塩、コショウ、箸、食器、水筒まで見つかった。そうか、もう、コンドームに口を付けなくていいんだな……。
まさか二重底になっていて、奥にこれだけの物が詰まっているとは。
何が嬉しいってやっぱり、調味料と調理器具だよな。これで肉が美味しくいただける! サバイバル用品も一緒なら、記載していてくれよ。
こうなったらやるべきことはたった一つだ。ステータスの確認なんて後回しでいい。さあ、火の鳥肉パーティーだ!
まずは羽を全部むしり、ナイフで火の鳥の皮を剥いで肉と分ける。その際に血が床に飛び散るが、あっという間に汚れが消える掃除いらずの便利な床だ。
内臓も全て取り出すと、部屋の隅の流し台のようなところで丁寧に洗う。肉も部位ごとに分けて、今回は左足のもも肉と、胸肉を少し使おうかな。とり皮はパリッパリに焼いて酒のつまみっぽく仕上げよう。
余った肉を少しだけバックパックにそのまま入れて直ぐに取り出すが、内部は全く汚れていない。このまま放り込んでも大丈夫な謎仕様のようだ。でも、一応袋に入れて保存しよう。気分の問題だからな。
安心して肉を収納して、調理に取り掛かった。
フライパンも底が深いタイプなので煮炊きも可能なようだが、今日はやっぱり焼肉だよな。
「ふんふーん、ふふふーーん」
思わず鼻歌が出てしまうぐらい、心が弾んでいる。
肉が焼けるこの香ばしい、か、お、り、に唾液が次から次へと溢れてきた。
黒虎も興味津々といった感じで手元を覗き込んでいるな。もうちょっと待ってくれよ。
もも肉を豪快に焼き、皿に並べる。もちろん、黒虎の分もだ。空いたフライパンにホルモンも放り込んで炒めながら、取りあえず肉を喰らおう!
「熱いから気を付けるんだよ。では、いただきます!」
「がうがうがー」
大口を開けて噛みつくと、肉汁が大量に口の中に溢れる。
ぐおおおおおっ、何だこの旨味は。塩コショウだけだというのに、今までとは雲泥の差だ。それに、自分で焼き具合を調整出来たので、肉汁が肉の中に閉じ込められ、噛む度に肉の旨味と溶けた油が口一杯に広がる。
「これは、いかんぞ、けしからんっ」
「がうがうがうがう」
黒虎と一心不乱に喰らいつき、あっという間に食べ終えると。丁度いい具合に焼けているホルモンが目に入った。
それから、俺たちは満足するまで肉を食べつくし、もう動けないとばかりに、床に大の字になって転がっている。
「はあああぁ、生きていて良かった」
思わずそんな言葉が出るぐらいの、幸福感に包まれている。
ここまできたら、やってしまいますか……禁断の行為を。
腹一杯まで食べてそのまま、寝る。今回ばかりはこの流れに身を任そうと、瞼を閉じるとあっという間に意識を失った。




