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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
理不尽なゲーム開始

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十一回目 中

 二日目に突入か。

 疲れて眠っている間に死に戻りもあり得ると思っていたが、無事だったようだ。

 あれから蝙蝠の群れに一度遭遇したから、食料は確保できた。蝙蝠を食料としかみなしていない時点で、俺もワイルドになったなと自覚してしまう。

 生で蝙蝠を喰い、敵がいるかもしれない暗闇で爆睡って、以前の俺なら考えられないぐらいに神経が図太くなっている。


「んーーーーっ」


 体を伸ばすとバキバキと関節の鳴る音がする。軽く柔軟をしてから、朝食の蝙蝠を噛み砕く。

 最近はカルシウム不足を懸念して、小骨も美味しくいただくことにしている。

 今日こそはゴールを見つけないとな。ゴム水筒の水をほんの少し――口を湿らす程度にしておく。


「さてと、近くに蝙蝠は……」


 少し離れた距離に蝙蝠の群れが一つ、二つ。群れがあるということは、まだそっち側には行っていないということだ。まずは、そこを探索するか。

 暫く進むと、予想通り蝙蝠が襲い掛かってきたので『咆哮』からの頭潰しという、お馴染みの流れで処理していく。

 食料ゲットの後に周辺探索を済ませるが何も変化が無い。

 予想していた事なので気落ちせずに、次の群れへと向かう。


 代わり映えのない攻撃方法で上空から滑空してきたので、ここは『石技』『棍技』の鍛錬場とさせてもらおう。

 『気配察知』で相手の動きを把握し『暗視』の範囲に飛び込んできた敵を確認する。

 真っ先に辿り着くであろう蝙蝠をまず、下からのすくうようにして棍の先端で打ち上げる。そのまま、右手を棍の下側へ滑らせて、左手は棍のギリギリ下まで移動させた。

 そして、先端で上空を掻き回す様に振り回す。棍の渦に巻き込まれた数体が弾き落とされるが、範囲外にいた蝙蝠が肩口に咬みついてきたので、顔を向けると目と目が合ったので……頭を噛み砕いてやった。

 人として自分でもどうかと思うが「もごもごばりばり」脳みそが骨と少しの肉と混ざり合い、濃厚な味が口に広がる。


「悪くないな」


 生物は環境に適応する。その言葉を体現しているだけで、生きる為には綺麗事を言っていられないだけだ。

 決して、野性に目覚めたわけでも、野蛮人でもない……と、思う。

 そんな葛藤をしながらも体は勝手に動き、次々と蝙蝠を叩き潰している。全ての蝙蝠が地面で屍を晒している姿が、もう食料にしか見えない俺はそろそろ末期だ。


「近くに気配は……おっ?」


 何だ『気配察知』が巨大な光を探知したぞ。蝙蝠とは比べ物にならないぐらい明るく大きな光。結構距離があるけど行くしかないよな。

 あの気配、これだけ距離があるのに悪寒が走り、全身が総毛立つ。

 今までにない強敵と考えて間違いない。近づくにつれ、威圧感が肌をひりひりと焼いてくる。

 蝙蝠を噛み砕き、残り僅かな水を飲み干し、大きく息を吸う。

 立ち止まることなく歩み続けていた俺の目に、異様な気配を漂わせていたソレが現れた。


 あれは巨大な鳥か。長い尾羽が何本もあって先端が丸みを帯び、頭からは鶏冠のような長い毛が背中側へと流れている。

 翼を畳んでいるので全容は明らかじゃないが、今の状態で頭の高さは俺とほぼ同じ位置にある。瞼は閉じられていて、俺に気づいていないのかもしれないな。

 黒虎戦で鍛え上げた忍び足を思い出し、足音を立てずに近づいてく。

 あと三歩距離を詰めれば、棍の届く間合いだ。あと、二歩、一歩――気づきやがった!

 閉じていた瞼を開き、赤い瞳が俺を凝視している。その目に射すくめられただけで、肌が粟立ち、足元から頭のてっぺんに冷たい何かが走り抜けた。


「クルウオオオオオオゥ!」


 天に向かい巨大な鳥が鳴くと、その姿が変貌した。

 大きく翼を広げると全身から――炎が噴き出した。ってええええええっ!?

 いやいや、生物としておかしいだろ! 何だお前、火の鳥ってか!

 何て言う火力だ。慌てて飛び退いたというのにスーツが少し焦げているぞ。炎に照らされて暗闇が消し飛び、この空間に光が満ちている。

 まるで疑似太陽だな。炎の光で第三ステージの全容が明らかになった。


 あれ、予想よりかなり小さいぞ。いや、広いには広いのだが東京ドームとさほど変わらないぐらいの規模じゃないかこれ。暗闇で方向感覚が失われていたせいで、もっと広大な空間と誤認していたのか。

 とまあ、現実から目を背けてみたが、どうすんだこれ!

 上空を舞う、火の鳥に攻撃が届くわけもなく、対応のしようがないのですけどっ!

 第三ステージの扉は火の鳥の後ろにあったみたいで、そこにあるけど、火の鳥を倒さないと開かないのだろう。

 相手が狙いを定めて下りてきたところを、カウンター気味に一撃を加えるしかないか。かなり熱いだろうが、何とか生き延びさえすれば休憩所で回復できる。


「よし、こいやあああっ!」


 俺の叫びに呼応して――火の玉が降ってきた。


「それじゃねえええっ!」


 火の鳥って口から火の玉を吐けるのか。新発見だ!

 くそっ、上空からの遠距離攻撃って卑怯すぎるだろ。必死になって逃げ回っているが、ボーリングの球ぐらいある火の玉が降り注ぐ状態でどうしろと!

 遮蔽物が無いから身を隠すこともできない。


「上空から逃げ惑う敵を狙撃するのって楽しいだろうなっ!」


 悪態を吐いたところで状況が変化するわけがなく、直撃は避けているが床に激突した火の玉が爆発した余波で、体が弄られ吹き飛ばされる。

 これ『熱耐性』で何とか成っているけど、普通なら既に消し炭だよな。駄目で元々だが――


「ヴオーーーーーーッ!」


 『咆哮』を放ってみるが、一瞬だけ顔を背けた程度か。やっぱり、自分より格下の相手にしか通用しないのだろう。

 そういや、火の玉は無限に吐き続けられるのだろうか。持久戦に持ち込むというのも考えようによってはありだが、たぶん、俺が先に力尽きる。

 火の玉は軌道が真っ直ぐなので避けやすいのはいいが、速度が結構あるからな。地面に着弾したら爆発しやがるし。

 かなり余裕を持って避けないと、余波で結構なダメージを受ける。


「あっ」


 熱心に考え込み過ぎて、そっちに意識を取られて、火の玉の接近を許してしまった。

 このコースは避けられない。こうなったら無駄でも足掻くぞっ!

 棍を体の前に突き出し、扇風機の羽のようにその場で回転させる。漫画とかで良くある、炎の防ぎ方を実践してやる!


「ぬおおおおおおっ!」


 全力で回す棍の端に正面からぶつかった火の玉は爆散することなく、あらぬ方向へと弾かれた。


「えっ?」


 やった俺が一番驚いている。え、棍で防げるのかあれ? いや、それも驚いたけど、何であの火の玉爆発しなかったんだ。接触と同時に爆発する仕組みな筈だよな。さっきから、床にぶつかると同時に爆発しているし。

 何で、今回に限って爆発しなかった。棍で防げたのは(不壊)があるから石材だというのに溶けることもなかったというのはわかる。だけど、弾いたよな。

 爆発、火の玉が壊れなかった。何かが引っ掛かるぞ。

 思考の海に潜りそうになった意識を引き上げてくれたのは、またも直前までせまっていた火の玉の存在だった。


 俺もいい加減、学べよ!

 今度は棍を回す余裕もないので、無我夢中で火の玉に棍を叩きつけた。

 殴られた火の玉が湾曲していく姿が、まるでスローモーションのように見えている。そして、凹んだ火の玉が弾き返され、射出した火の鳥の元へと返っていく。


「クルウ、アアアッ」


 この状況が理解できずに呆気にとられていたのだろう、返却された火の玉と正面衝突をして爆炎を噴き上げた。

 頭上で凄まじい炎の塊となった火の鳥を眺め、俺は混乱する頭を整理する。

 やっぱり、この棍で殴ったら火の玉は壊れずに、弾き返すことが出来た。床や火の鳥に当たったら爆発するというのに、何故か壊れない……壊れない……もしかして、そういうことなのか。


 一つだけ思い当たる節があった。石の棍の説明文にあった(不壊)という文字。俺はこれを武器は壊れないという意味で解釈した。それも間違いではなかったのだろうが、それだけではなく不壊という文字には――対象も壊さない――という意味も込められていたのではないだろうか。

 黒虎や蝙蝠を粉砕してきたので壊すことが出来るのは確かだが、たぶん、壊さないようにすることも可能なのだろう。爆発したら困ると考えながら、あの火の玉を叩いたことにより、その能力が発揮された。


 あまりにも都合のいい解釈だが、そもそも、これは見知らぬ何かが作り上げたゲームのようなもの。攻略方法は必ず存在している筈だ。

 つまり、この棍の効果も予め用意されていたのだろう。火の鳥を倒す突破口にする為に。

 なら、ここからが本番だ。

 爆炎が鎮まるとそこには火の鳥がいる。爆発により少しはダメージがあったように見えるが、炎で燃え尽きることは無いよな、そりゃ。

 火の鳥が焼死しましたなんて、笑えない冗談だ。

 火の玉が弾き返されたことに驚きを隠せないのだろう。上空で停滞したまま、俺を睥睨している。これで遠距離攻撃を諦めて、地上に降りてきてくれたら勝機はあるが。

 ――という希望は脆くも打ち砕かれ、再び、特大サイズの火の玉を吐き出してきた。


 俺の体を狙って突き進む火の玉の軌道を読むと横に飛び、棍の端を両手で握りしめる。

 先端を天井へ向けるようにして、両手を肩口まで移動させ、手首を捻じって脇を絞め、腰を落とした。


「元野球小僧の実力見せてやるぞっ!」


 レベル10に上がった身体能力なら、棍をバットに見立ててスイングすることも容易だ。

 俺はど真ん中ストレートを石のバット――棍で捕え、そのまま全力で振り切った。

 火の玉魔球の投手である火の鳥へ、渾身のピッチャー返しが炸裂する。炎にいくら耐性があろうと、撃ち返され相乗された威力と爆発には耐えきれなかった火の鳥が、きりもみ回転で地上へと墜落していくのが見えた。


「まだだっ」


 あれは気を失っているだけかもしれない。そう判断すると、全速力で駆け寄り、地上へ叩きつけられる直前の火の鳥の頭を目掛けて、もう一度全力で棍を振るった。

 ここに連れ込まれてから何度も経験してきた、命を奪った確かな手応え。 

頭を粉砕され、地面に叩きつけられた火の鳥は誰の目から見ても即死は間違いない。


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[一言] コウモリを生で食べるなんて主人公根性ありすぎ
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