十回目 後
扉を抜けるとそこは――暗黒空間だった。
「暗っ」
闇夜とかが生易しく思える暗さだ。目を凝らしても、瞼を閉じているのと同じじゃないかこれじゃ。
あれ? 特殊能力の『暗視』あったよな。アレの出番か。
『気配察知』と同様に意識を集中……この場合は目に集中する感じか。取り敢えず、手の平をじっと見つめるような感じで、じいぃぃぃぃぃぃ。
おっ、黒の世界に微かだが何かが浮かび上がってきた、手の平というか輪郭が見えるが、それが限界か。
一メートルぐらいまでしか見えない。手を伸ばすと指先が闇に消えるぐらいの視力。『暗視』のレベルが上がれば見える範囲が広がるのだろうな。
となると『気配察知』に託すか。周辺に何かの気配は……上!?
何かが飛来してくる? 一体や二体じゃないぞ、これはっ!
耳に微かに何かが羽ばたく音が届くが、数が多すぎて場所の特定ができない。
「くそっ、うおおおおっ!」
棍を掲げ、頭上でヘリコプターのプロペラのように回してみるかっ。
二回転、三回転と思ったより上手く回せているぞ。器用が上がった効果が出ているのか。
棍に何かが当たる音がするが、闇の中なのでそれが何か確認ができない。
このまま、棍を旋回させておけば、少なくとも上空からくる目に見えない敵は、何とかなるか。
「回れ、回れ、ってえええ、っとおおう、あれ、ちょっと!」
回転数が増えると棍の勢いが増しすぎて、俺の手と指が追い付かなく……あっ。
棍が手から滑り落ちて、地面にっ!
「痛っ、あだだだ、何だ、何か咬みついていやがる!」
頭を咄嗟に両手でカバーしたけど、その腕に何かが咬みついてきた。小さな突起物が無数に肌へと食い込んでいる。
さほど痛くないが、咬みつかれた部分から何かが吸い取られていくような感覚が。
右腕だけを少しずらして、それが何か確認すると……特殊な羽が見える、まるで蝙蝠のような、いや、蝙蝠だこれ。って、ボケている場合じゃない!
足で棍の場所を探ると、つま先に固い物体が触れた。
屈んで拾い上げると、肩に担いで走る。足元が良く見えないので、地面がどっちにあるかすらわからなくなる。足裏の感覚だけが頼りだ。
「まだ、咬みついているのか。しつこいなっ!」
咬みついて離れない蝙蝠を払い落とす為に、棍を抱きかかえるようにして地面を転がる。ポケットの水風船が割れて、スーツが濡れるがそれどころじゃない。
蝙蝠を潰した感触がスーツの上から伝わってくる。完全に潰れていない個体も離れたっぽい。跳び起きると、そのまま全力で走る。
しかし、障害物や壁は無いのか。結構な距離を走り続けているというのに、何かにぶつかることがない。このステージは巨大な空洞になっているのか。逃げ場もなく視界も狭まっている。『気配察知』のおかげで蝙蝠の動きがわかるが、それを打ち払う技量が俺に無いのが不甲斐なさすぎるぞ!
もう一度、棍を頭上で旋回させるが、今度は速度を落として確実に回すことを心掛ける。
集中しろ、少々咬まれてもいい。棍は離すな。手を止めるな。指を動かし続けろ。神経を研ぎ澄ませて感覚を掴むんだ。
一分、三分、五分。どれだけ、こうしている。
蝙蝠が何体か足や腕に咬みついているが、手を休めるな!
棍を体の一部として考えろ。技なんて、習っていないのだからわかるわけがない。ただ、動かせるようになればいい。
我流でいい。動かせ、動かせ!
手足が千切れようが、このまま血を吸いつくされようが!
「うおおおおっ!」
実戦は何十何百もの鍛錬を凌駕するって言うよな! たぶんだけどっ!
なら、命尽きるまで鍛錬を続けてやるさっ!




