十回目 中
扉の向こうは第一ステージクリアー後の部屋と全く同じ構造だ。
取り敢えず、足下にコンドーム水筒と肉を置いておく。
同じ場所にまた飛ばされたのかと思い、ガラス板に触れると、その文章で違う場所ということが実感できた。
――第二ステージ突破おめでとう。こちらの罠に気づき、よくぞ乗り越えた。ここはあの休憩所と同じ仕組みになっているから安心してくれたまえ。では、前回と同じくキミに褒美を取らせないといけない。次の項目から選んでくれ。
一つ、第二ステージ突破クエスト達成による経験値。
一つ、好きな特殊能力を5レベル上昇。
一つ、五つの武器から好きな武器を進呈。(この武器は時間が巻き戻った際も手元に残るので安心してくれ。ただし、一つ選ぶと、他の武器は得られなくなる)
一つ、キミが何故、この場所に居るのかという疑問に答え説明する。
一つ、ライフポイントを5回復。
となっている。前回と同じく考慮してくれたまえ――
ステージ突破ごとに褒美が貰えるのはありがたいな。だからと言って、この製作者にお礼を言うのは死んでも嫌だが。
最後の二つは、前の休憩所と同じなわけか。なら、あそこで慌てて選ぶ必要はないか。
新たな褒美三つはどれも魅力的だな。
経験値はレベルアップが見込めるので、一番わかりやすい。
次の特殊能力のレベル上昇も捨てがたい。『根性』『熱耐性』のレベルが上がったから、こうしてここにいられる。
最後の武器か……これの何が魅力的かというと、死んで巻き戻っても武器が手元に残るということだ。つまり、次のステージで死んでスタート地点に戻った際にも、武器を所持した状態だということだ。
黒虎も一撃で楽にしてやれるし、次のステージで黒虎のような化け物がいた場合、武器があると無いとでは雲泥の差がある。
最後の注意書きにあった、一つ選ぶと、他の武器は選べなくなるというのは、今までのように死に戻りをして特殊能力を得た方法は使えないぞ、と釘を刺しているのだろう。
「また、悩ませてくれる」
一番妥当なのは経験値だろう。身体能力が向上すれば、もう一度ここまでくるのが、かなり楽になるのは間違いない。
特殊能力のレベル上昇は、後回しにするべきか。行き詰った時にそれに対応できる能力を上げるというのが正しい使い道だろう。
正直に言えば、武器にかなり惹かれている。五つの武器が何かわからないのでギャンブル性が高いが、物によっては難易度が激変する可能性を秘めている。
「武器か……でもなあ」
死んで蘇ることが保証されているとはいえ、命を疎かにしていいわけじゃない。これから先も難所が続くのであれば、出来るだけライフポイントは残しておいた方がいいに決まっている。
「でも、あれだ、こういった展開での定番は伝説の武器とかだよな。苦難を乗り越えて無敵の能力や武器を手に入れる。そういうの好きだなぁ、そうならないかなぁ……」
ただの願望だが、意外にあり得るかもしれない。文章でも褒めていたから、ここらで一発逆転の品を用意してくれても、いいと思う、というかそうなれ。
「よっし、決めたぞ、武器だ!」
俺は――五つの武器から好きな武器を進呈――という文字に触れ、それを願った。
すると、ガラス板の文字がすべて消えて、代わりに五つの武器の映像とその武器の説明文が浮かび上がってきた。
見た感じだと武器の種類は、刀、ハンマー、斧、棍、先端に重りのついた鎖となっている。
無駄な装飾もなく、地味な感じがする見た目だがきっと性能はいいのだろう。
そう思って、各武器の下に書かれている説明文に目を通した。
鉄の刀。切れ味はできの悪い包丁ぐらい。
鉄のハンマー。市販されている量産品程度。
石の斧。原始人もびっくり。
石の棍。石でできた物干し竿っぽい。
ステンレス製の鎖。錆びにくい。
「……おい。ホームセンターで揃いそうな、このラインナップは何だよ!」
どう見ても初期武器じゃねえかっ。あれだけ苦労してきたのに、こんな序盤に手に入るような武器って……あ、いや、まてよ。何度も死んで勘違いしていたが、俺はまだ二面をクリアーした、だけだったな。
そう考えると妥当な武器なのか?
ここで血管がぶち切れるぐらい怒り狂ったところで、どうにもならないどころか、俺をもし眺めている輩がいたとしたら、俺の反応を見て笑い転げていそうだ。
だったら、キレるだけ無駄だ。そんな暇があるなら冷静に頭を働かせて、最良の選択をするべきだ。
よーし、落ち着け。精神力が上がっているのだから、これぐらい何ともないだろ。
自分にそう言い聞かせると、怒りがすっと引いていく。感情の制御が上手くなったのも、ステータスが上がっているおかげなんだろうな。
よし、一旦気持ちをリセットして考えるぞ。
武器は五種類。一番強そうなのは刀か。刃物という強みもあるし。
本音を言えば強さ云々ではなく、刀に惹かれるのはもう男の定めだろう。何と言うか日本人の血が騒ぐというよりは、若い頃の夢見がちだった頃の魂の欠片が疼いている。やっぱ、男の子の理想だよな刀で戦うっていうのは。
実用性が一番ありそうなのはハンマーか。攻撃だけじゃなくて、何かを壊す場合や逆に物作りにも利用できる。
あとは鎖だけど、敵を拘束したりロープ代わりに使えるので、意外と利便性がありそうだ。
残りの斧は何と言うか、斧ってかませキャラ御用達の武器ってイメージあるよな。無駄にパワーキャラで主人公の引き立て役が愛用している。でも、斧も意外と便利だと聞いたことがある。
「でもなあ、鉄じゃなくて石だしな」
そこがネックでもあり、気になるポイントでもある。
石だと鉄より強度も切れ味も劣る。勝るポイントは殆どないだろう。だがしかし、俺は『石技』という特殊能力を得ているので、その効果が期待できるのではないだろうか。
その考えでいくなら石の棍もありだな。長い棒状で石製なら『石技』が適用されるかもしれない。何より一番リーチがあるというのは強みになる。
「くそおお、また悩ませてくれるなあ」
実物を試させてくれたら悩みも吹っ切れるだろうけど、そんな甘い仕様じゃないのは重々承知だ。
この選択はやり直しがきかないのがきつい。今になって思うことは、次のステージを経験してから死に戻って選ぶのが最良の策だった。死にたくはないけど。
「今更後悔しても、どうにもならないよな。ここはびしっと潔く決めるか」
実用性、ロマン、特殊能力。どれを重要視するか。
考えろ考えろ。ゲームのような世界だが、遊びじゃないんだ。生き延びる為に有効なものはどれか、見極めるんだ。
最良ではなく最悪を選ばないように最善を尽くそう。
まず、刃物のメリットは斬ることが出来ることだ。料理にも使えるし、黒虎の死体から毛皮を剥ぐことも可能かもしれない。
「だけど、刃物で相手を斬るというのは、かなりハードルが高い」
石で殴り殺したのもかなり気分が悪かったが、切り刻むというのはそれ以上にやばいと思う。以前、料理中に誤って自分の小指の先を切り落としかけて、何とか病院で繋いでもらったが、あの時の溢れ出る血と切り裂かれた断面、感覚を思い出しただけで、寒気がするぐらいだ。
精神力がかなり高くなってきているから、乗り越えられる可能性を考慮するとしても、刀で相手を斬るには技量も必要だろう。剣道の経験すらない俺が扱えるとは思えない。
「次にいらないのは鎖か」
ロープ代わりは良いとしても、武器として扱うのは無理だろう。これは考えるまでもない。特殊な技能でもなければ振り回すぐらいしかできない。
「石斧もどうかな」
石の刃では切れ味に期待はできないだろう。そうなると鈍器と変わりない。だったら――
「ハンマーも悪くないか?」
こっちの方が使い道あるだろう。金槌として考えるなら、一時期、日曜大工に凝っていたから、手に馴染むのが早そうだ。だけど、大きさが不明ときている。
金槌程度だと便利ではあるがリーチが短すぎて武器として頼りにならない。両手持ちで巨大なハンマーだとしたら、重量があり過ぎて小回りが利かない。
「となると、消去法で棍になるのか」
これだけは説明文で、物干し竿っぽいと書いてあり、形の予想が付く。石で出来ているなら『石技』の効果も発揮されることを願うのみだ。
そういう結論に達すると、俺は石の棍を選択した。
武器を進呈するという一文が消え去ると、ガラスの板の前に一本の棒が地面から生えてきた。中々シュールな光景だ。俺の理想としては光の粒子が集まって、一本の棍を形成するというのが良かったのだが。
にょきにょきと生えてきた棒は俺の背丈を超え、頭一つ分ぐらい高い位置で動きが止まった。灰色の墓石に使われていそうな石材に見える棍。
円柱ではなく六角柱になっているのか。両端だけ太くなっていて、あれで殴られたらかなり痛そうだな。
手に取ると、程よい冷たさで手触りも悪くない。重さを確かめる為に、両手で掴み重量挙げの要領で掲げてみた。
「結構重いけど、使えないことはないな」
太さと長さは程よい感じだが、やはり石材だけあってかなりの重量だ。
ステータスが初期状態だったら持ち上げるだけで精一杯だったかもしれない。
先ずは素振りだな。幼い頃、長い棒を振り回したことはあるが、こんな長い棒はそれこそ物干し竿ぐらいでしか扱ったことが無い。もちろん、振り回した経験なんてあるわけがない。
「格ゲーのキャラは自在に扱っていたよな。こんな感じで」
中心より後ろの方を両手で握り、棍を振りかぶろうとした。
「ぐぬううううううっ」
脳内では素早く振り上げ、風切り音を鳴らしながら振り回す妄想が出来上がっていたというのに、重いぞこれ!
ゆっくりと振り上げると、今度は止めることが出来ずに、そのまま後ろに仰向けで倒れそうになる。
これ、厄介過ぎるな。もう少し軽ければどうにかなるけど、今の状態だと重すぎる棒だ。
今度は中心付近を握り、肩に担ぐように棍を持ち上げてみる。
おっ、今度は結構スムーズにいったな。ここから、一気に振り下ろす!
元々の重量があるので、素振りの速度はかなり早く、床の寸前で止める予定だったのだが勢いを緩めることすら出来ずに、先端が床に叩きつけられた。
「いったあああぁっ!」
鈍い音を知覚するよりも先に、手に鋭い痛みが突き抜ける。
「痺れたあぁ。思いっきり床を叩いたけど壊れてないだろうな……」
実戦投入前に破壊しました、なんて笑えないぞ。恐る恐る、ぶつけた棍の先端を覗き見ると、ひび一つない棍がそこにあった。床にも傷はないな。
今度はもっと慎重に動かすか。
端の方を持って振り回すには、まだまだ技量も力も足りないようだが、中心部を握ってコンパクトに振る分には問題が無い。
前に見たカンフー映画を思い出しながら、見よう見真似で棍を振る。お世辞にも様になっている動きではないが、素手と比べたらかなりましだろう。
同じぐらいの技量の相手と喧嘩するとしても、鉄パイプを持っている方と素手とでは、どっちが強いかなんて考えるまでもない。
この部屋は傷を癒し、体力も回復してくれるので、俺はひたすらに素振りを繰り返した。
何時間、そうしていたかわからないが、結構まともな動きになってきている。
「よっし、死にに行くか」
死ぬことを前提にして動くというのは正直どうかと思うが、今までの傾向からして新ステージを一発クリアーは無理だと半ば諦めている。
ただ、投げやりになっているわけじゃない。次回に続くように観察と努力は忘れてはいけない。全力を尽くし、それでも無理だったとしても、何かを得たい。
黒虎の残りの肉を頬張ると、水を大量に摂取して、コンドームに少しだけ水を入れておく。水風船のように膨らんだそれを三つ、スーツのポケットに放り込む。
棍を扱うには両手が塞がってしまうのが不便だな。背負い袋の一つでもあれば便利なのだけど、贅沢は敵だ。
「忘れ物は無い……っと、ステータス見てなかった。確認だけしておくか」
山岸 網綱 レベル5
体力 19+30
精神力 23+30
筋力 20
頑強 21
器用 17
素早さ 19
特殊能力 『根性』6『熱耐性』4『石技』1『気配察知』1『暗視』1
ライフポイント 90/100
持ち物 特製石棍(不壊)
おっ『根性』『熱耐性』も順調だ。第二ステージを超えるだけでレベルが上がるなら、今後も期待できるな。
後は持ち物の項目が増えたのか。財布やスマホが書き込まれていないって事は、ここで得たアイテムだけが書き込まれるのか。
特製石棍はわかるが、不壊って壊れないって事だよな。これは地味にありがたい。少々乱暴に使っても大丈夫って事だ。
もう、やり残したことは無いな。今度こそ、出発しよう。




