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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
理不尽なゲーム開始

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九回目

 はい、死にました!

 はい、初めの洞窟です!

 はい、どうこうしているうちに黒虎がやってきます!

 人は死を経験するとテンションが無駄に上がる。という小説を執筆するのはどうだろうか。いっそのことドMなら、この展開に喜べるのだろうな。


「はぁー」


 食われて、食われて、今度は干物か。

 狙いは悪くなかった、と思う。実際『熱耐性』のおかげで前回より進めたのだから。

 水分補給も問題だが、体力を異常なまでに奪われるのがきつい。炎天下の中で着ぐるみを被りながら中にカイロを満載して、マラソンをした方がまだマシな熱さ。

 耐久力がついて来ているおかげで距離が伸びてきているが、その分、地獄の苦しみが長引いている。


 あれだな、魚を生きたまま焼いたり蒸したりする料理を俺は一生食べないと、ここに誓おう。誰よりもあの苦しみを理解できる人間だと断言できるから!

 無理やりテンションを上げてみたが、正直、喚き散らしたくなるぐらい、頭が狂いそうなぐらい、泣きたくなるぐらい、心が折れそうになるぐらい……死にたいぐらい、辛い。

 でも、俺は、だからこそ、俺は。ここを抜け出したい。

 ここに放り込んだ糞野郎かビッチか知らないが、俺がここを脱出できるなんて考えていないだろう。無事ここから出られたら、そいつの顔を殴る。それが一先ずの目標だ。


 「さてと、そろそろかな。黒虎さんのご入場……あれ?」


 声を潜めてもないから、いつもならやって来る頃合いなのだが、何故だ。

 目を凝らしても薄暗い通路の先から、黒虎が歩いてこない。


「おかしいな。ここにきてパターンが変わったのか?」


 それはない、と信じたい。時間が巻き戻っているだけなら、相手の行動が変わることはあり得ない。俺がいつもと違うことをしない限り。

 だったら、何故だ?

 実は元の場所とは違うステージに飛ばされたとかだと、難易度が上がりすぎだよな。

 そこまで理不尽なシステムだとしたら、これはもうクリアーさせる気もない無理ゲーなのだろう。


「考えても答えは出ないよな」


 なら行くしかない。見た感じ周囲の光景に変化はない。見慣れたいつもの場所だ。

 一歩一歩慎重に進んでいく。

 岩肌剥き出しの天井や壁も変わりない。薄暗い明るさもそのままだ。


「同じだよな」


 あと少し進んだら扉が見えてくる。そう、後数歩……扉だ。復活地点から扉までの距離もほぼ同じ。だが、一つだけ違いがある。


「おいおい、何で扉の前で丸まってんだ」


 いつもならご飯だーと言わんばかりに走り寄ってくるというのに、黒虎が扉の前で猫のように体を丸めている。

 寝ているのか?

 思いもしなかった展開にどうしていいのか、皆目見当もつかない。

 足音を忍ばせて、ゆっくりと近づいていくと黒虎が瞼を開いた。じっと、こっちを見ている。


 視線を逸らさないままその場に雄々しく立ち上が――やる気ねえな。いつもの見慣れた立ち姿だというのに、今までで一番迫力が無い。

 別の個体かと思ってしまう程、違和感がある。でも、何回も殺してくれた相手を見間違えはしない。確実にいつもの黒虎だと断言できる。

 のそのそ、という擬音がぴったりくるぐらいの鈍重な動き。見るからに動くのが億劫そうだ。いつもの野性味とやる気に溢れた態度は何処に行った。


「おら、いつものようにかかって来いよ!」


 両手で手招きをして挑発してみたのだが、本当に動きが鈍いな。

 獲物をじっくり観察しながら跳びかかるタイミングを見計らっている感じではない。迫力も殺気も八割減だ。

 それでも食事をする気はあるようで、にじり寄ってきている。

 全てが芝居の可能性だってある。ここは慎重に距離を縮めていこう。

 相手が一歩進めば、こちらも一歩前に出る。そうやって、徐々に近づいていき、いつもならとっくに跳びかかってくる範囲を超えても、歩み寄ってくるだけだ。


 何か考えがあるのか?

 どちらにしろ、こっちはやることは前回と同じ。相手が弱々しく見えるとはいえ、これ以上距離を詰めるのは危険すぎる。

 いつもの激写攻撃を開始する!


「ギャッ」


 フラッシュに驚き悲鳴を上げる為に口が開くのを見越して、スプレー缶を投げつけておいたのだが、いつもより口の開きが小さく、スプレー缶は黒虎の鼻に命中して地面に転げ落ちた。


「えっ?」


 何で、この必勝パターンが失敗したんだ!?

 目をやられ、顔を押さえる仕草をしている黒虎のリアクションがいつもより弱い。

 いやいやいや、ちょっと待て! ここにきて、行動パターン変わりすぎだろ。

 このまま、何もしないでいたら黒虎の視力が回復してしまう。無謀でも何とかしないと!


 辺りを見回すと、自分の頭より二回り大きいサイズの石がある。それを両手で持ち上げ、頭上に掲げる。

 黒虎の目はまだ見えていない。一生懸命目元を掻いているだけで、俺が近づいているというのに警戒する様子もない。

 ならば、悪いがやらせてもらう!

 俺は一撃で仕留める為に、走り込み勢いを付けた状態で全体重を乗せ、その石を黒虎の頭に叩きつける。


「ギャッ!」


 硬い物を破壊した手応えが石越しに伝わってくる。

 俺はもう一度振り上げると、痙攣を続ける黒虎の頭を更に強打した。何度も何度も、完全に動かなくなるまで。


「ふうううぅぅ」


 今まで何度も戦い殺しもしてきたが、今回のが一番堪える。

 石で撲殺するという生々しさが、手に残る感触が、吐き気を誘発してくる。

 だが、動揺することは許されない。こうしなければ俺が食われていたのだから。殺されたくなければ殺すしかない。単純明快でいいじゃないか。

 そう、これぐらいで揺らぐな。


 深呼吸を繰り返すと、かなり冷静になってきた。

 扉に手を掛け押し開くと、安全地帯の水を口に含み、その後、顔を洗う。

 もう、冷静だ。いつもの俺だ。


「よっし!」


 顔を平手で勢いよく挟み打ち、気合を入れるとガラス板に手を触れる。

 文章の変更点は、前回も確認したが黒虎の特殊能力が一つ消えているところだけだ。『熱耐性』は前回俺が奪ったので、項目から消えた――そういうことか。

 あの黒虎の態度に合点がいった。『熱耐性』を俺が得るだけだと思っていたのだが、文字通り奪ったのか。黒虎から『熱耐性』の能力が失われた為に、寒さに弱くなり丸まって体温を保とうとしていた。

 動きが鈍かったのも、体の芯まで冷え切っていたからか。


「そうか、黒虎から選んだ能力が失われるのか」


 そうなると話が変わってくる。今回も特殊能力を選ぶ予定だったが、今後、有利に事が運ぶように奪う能力を慎重に選ばないと。

 残りは『気配察知』『暗視』『溶解液』『咆哮』の四つ。まず除外していいのは『溶解液』『咆哮』だな。これから先のステージ構成を考えるなら『気配察知』と『暗視』は役に立つと思われる。

 更に、次も黒虎を倒すことを考えると、どっちを奪った方がいいかという話だ。


 『気配察知』を失えば、寒さで弱り切ったところに、不意打ちを喰らわすことも可能だろう。

 『暗視』を奪えば……黒虎にデメリットは無い気がする。あの明るさなら、俺でも普通に物が見えた。暗視を活かせているとは思えない。

 だとしたから消去法で『気配察知』ということになるか。

 なら、決定だな。『気配察知』を手に入れると、次にいつものステータス確認をする。


 山岸 網綱 レベル5

 体力  19+20

 精神力 23+20

 筋力  20

 頑強  21

 器用  17

 素早さ 19

 

 特殊能力 『根性』4『熱耐性』2『石技』1『気配察知』1

 ライフポイント 91/100


「おおっ、特殊能力が上がっている。短期間で上がり過ぎな気がするけど、死に物狂いどころか、実際に命を懸けているのだから、上がって当然な気もするな。ん? んんっ? あれ、目の錯覚かな……石技って何だ?」


 石技って……石って、どういうことだよ。あれだよな、石で虎を殴り殺したから得られた特殊能力だとは思うが、石ってああた……。

 効果はきっと石で殴ったりすると威力が増すといった感じだろう。この状況だと実は悪くない特殊能力だけど、石技って……。


「ま、まあ、攻撃系の能力が手に入ったと、プラス思考でいこう、うんうん」


 気を取り直して、もう一度ステータスの確認をしようか。『根性』『熱耐性』のレベルが上がったということは、あの灼熱地獄もかなり楽になるのではないだろうか。

 体力、精神力の+は『根性』レベルに比例しているな。レベル1ごとに+5されるようだ。この二つが強化出来れば、第二ステージ突破が見えている。

 案外、次で手が届くかもしれない。


 いつものように大量に水を飲んだ後に頭から浴びる。ワイシャツを脱いで、袋状にすれば簡易の水筒にでもなるかと思ったのだが、じわじわと零れ落ちている。通気性の良さも考えものだ。

 水筒代わりになる物は何もないよな。財布の小銭入れに水を溜めるわけにも……財布?


「ああああああああああああっ!」


 あれがある筈だ! いつか使う日が来ると信じて財布に忍ばせていた――


「コンドームあったどおおおおっ!」


 三枚つづりの未使用コンドームが小銭入れの裏に入っていた。

 こんなこともあろうかと、誘惑にも負けず童貞を守り通してきて正解だったぜっ!

 あれ、何でだろう、嬉しいのに涙が出そうになった。きっと、うれし涙だよな、うん。

 コンドームって実はかなり頑丈で、水を溜めて水風船代わりにしてキャッチボールをしたことがあるが、中々破れなかった。


 水の湧き出ている部分にコンドームを被せると、見る見るうちに長細く膨らんでいく。

 無理しすぎて割れたら元も子もないから、これぐらいでいいか。

 想像以上に水が入ったな。見栄を張って大きめサイズを購入していたことが、功を奏したようだ!

 三つとも使用して水を溜め、赤ん坊を抱きしめるようにして持ってみた。これだと落としたりしないで済みそうだ。走った時少し邪魔だけど、全力疾走するわけじゃないからいけるだろう。


「水はたらふく飲んだ。頭から水を被っておいた。コンドーム水筒は満タン。準備OKだ」


 これ以上ないというぐらい、準備万端だ。

 今度こそ、今度こそ、第二ステージ突破してみせる!

 びしょ濡れで小脇に水を入れたコンドームという締まらない格好だが、見た目より質だ。

 今までにない強い意志と気合を込めて、扉を押し開く。

 相変わらず熱気は感じるが……行けそうだぞこれ。確かに暑い。だが、これは真夏の炎天下の気温程度か。いや、それでも充分暑いが、今までに比べたら心地いいぐらいだ。

 まあ、それでも油断はしないが。


 コンドームを抱え、破らないように注意をしながら、俺は灼熱の一本道へ歩み出た。

 体力の消耗も考慮して、駆け足でマグマゾーンを進んでいく。

 前々回に死んだ場所は既に過ぎ去り、前回倒れた場所もさっき越えた。

 順調すぎて怖いぐらい順調だ。コンドーム水筒もまだ、一本を飲みきっていない。飲むのにコツがいるので、初めに結構零してしまったのが勿体なかったが、今は問題なく水分補給もこなしている。


「しかし、あっついな。それに、まだ見えないのか」


 道の先に終わりは見えず、そもそも陽炎が揺らめいているので距離感も掴めない。体力的にはまだまだいける。水もかなり温かくなっているが、まだ余裕がある。

 精神力が強化されている影響もあるのだろうか。冷静とまではいかないが、心にも余裕が残っている。焦りは僅かだ。


 自分を信じて進め。今の俺なら大丈夫。

 少し頭がふらついてきたので、一本目の残りの水を頭からかぶる。まるで風呂のお湯のようだが、それでも気持ちいい。

 頭もすっきりしてきた。この調子だと、水よりも体力が先に尽きそうだな。少しペースを上げよう。





 あれから、数時間は過ぎたと思う。

 二個目のコンドームは使い果たし、残り一個も水があと少し。

 体力精神力共に限界一歩手前。視界が揺らぎ、足もおぼつかない。

 節制していた水を一気に煽り、全身に水が行き渡るのを感じる。

 もう、水は無い。なら、ここは体力が尽きるか、ゴールに着くかの勝負と洒落込もうか!

 限界寸前の足を励まし、最後の力を振り絞り、前へ前へと進んでいく。

 鬱陶しい程の汗は完全に引いて、体中の水分が失われていくのがわかる。口の中が粘つくが、もう少ししたらカサカサに乾くだろう。


 まだか……もう、限界が……近……えっ。

 先に見えるあの黒いのって、扉じゃ?

 ゆらゆらと揺れているが、あれって両開きの……扉。


「あ、う、あああ」


 喉の水分が失われているから、声が出ない。

 でも、今は、そんなこと、どうでも、いい。

 もう少しだ、あと少しだ。こんなところで死んだら、死ぬに死にきれない。どっちにしろ、死ねないけど。

 あと数十メートル……あと数メートル……扉がハッキリと見える。いける、これなら辿り着ける。

 あと数歩……えっ。


 突然、足元の感覚が無くなった。

 えっ、えっ、ええええええええええええぇぇぇ。

 扉がどんどん空へと登っていく、いや違う、俺が落下しているんだ。

 性悪がっ!


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