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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第十ステージ

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クリアー条件

 またも進化しているサイクロプス……と呼んでいいのか疑問だが、その魔物が目の前にいる。わざわざ、厄介な敵と戦いに来たのは趣味でも腕試しでもない。

 第十ステージのクリアー条件である


 ――広大な迷宮の何処かに強力な魔物が存在しているので、そいつを倒せばクリアーとなる――


 を満たす為にやっている。これが強力な敵という表現だったら、それこそ鴨井を倒せばクリアーだったのかもしれないが、強力な魔物と記載されていた。

 そして、鴨井が教えてくれたヒントが「このステージをしらみつぶしに探索しても俺たちは見つけられなかった」とのことだ。ここから連想して辿り着いた答えが、今の状態では何処にも存在していないのではないか、何かしらの特定条件を満たせば、そいつは現れるのではないかということだ。


 そして、その条件に当てはまったのは二つ。あの黒い靄のような敵が三つ目に乗り移って強化されていき、最終的にクリアー条件となる強力な魔物に変貌する。

 もしくは、スタート地点に時間湧きをしているらしい、進化するサイクロプスの最終形態。この場合、時間が経ててば経つほど、敵の数が増え強化されていくことになり、定期的に処分していかなければ無理ゲーと化す可能性が高い。

 そこで、俺たち三人はサイクロプス討伐の担当となり、こっちに飛んできたという訳だ。


 この読みが外れていたとしても、この敵なら俺のレベル上げに貢献してくれる可能性が高く、無駄足にはならないだろうという考えもある。

 全てを考慮した上で先の戦闘に繋がる。鴨井を先に処理したのは、この考えが正しかった場合、最も厄介な存在になる為だ。奴が答えを知っているということは、俺たちがこいつと戦っている最中に邪魔に入る可能性が大きい。


「さっさと、やろうぜ!」


「問題はこの面子でやれるかどうか」


 そうなんだよな。来てみたはいいが、ここで敵わなければ一から対策を練り直さないといけない。三人、いや、最終的には俺一人か二人で倒せるのがベストか。殲滅側が乗り込んで来た時に人員を出来るだけ割きたくないからな。


「まあ、やってみようか二人とも」


 頼もしい仲間二人と共に、六本腕サイクロプス討伐を開始した。





「何とかなったけどよ、零士はやられちまったな」


「結果的には良かったと思うよ」


 剛隆と床に座り込みながら、反省を含め戦いを振り返っている。

 六本腕サイクロップスは全ての腕に両刃の剣を装備していて、一撃必殺の威力を秘めた攻撃が四方八方から襲い掛かり、防戦一方だったのだが、零士の捨て身の戦法で相手の隙を作り出し、そこで俺の矢が目を射抜き、剛隆の剛腕が相手の急所を粉砕した。

 零士は死に戻る結果になったが、元々零士には防衛側の指揮を担当してもらう予定だったので、不幸中の幸い……は、ちょっと違う気がするが当初の予定通りとも言える。


「あとは、次のサイクロプスっぽいのが何時間後に現れるか調べて、規則性があるなら定期的に巡回するという手も使えるが」


「あれだ、向こうがヤバくなったり、予期せぬ事態に陥ったら、こっちに連絡入れるってことになってんだろ? じゃあ、ドンと構えておけばいいんだよ」


 こういう時はシンプルな物の考え方が出来る剛隆が少し羨ましい。

 あれだな、問題は次の湧いてくるサイクロプスっぽい奴の強さだ。さっきのも結構苦戦したというのに、更に強化された相手となると厳しいような。

 さっきの敵の経験値は吸収できたようで、身体能力の向上を感じてはいるが劇的に強くなったわけじゃない。

 いざとなったら鴨井と同じ戦法を取るか。土で入り口をふさいで四隅でキャンプファイヤーをすれば、結構早く窒息ゾーンが作れるだろう。


「暫くのんびりしようぜー、回復力の能力があるから、結構体力戻って……おいおい」


「追加が早いな」


 部屋の中心部からどす黒い煙が噴き出し、地面からゆっくりと一つ目の巨人が顔を出す。さっきの戦いの最中でなくて良かったと思うべき場面だよな、これは。

 俺たちの前でその全貌を現した一つ目巨人は、腕が二本というシンプル設計のようだが口も鼻もなく、そもそも肌質が岩のような質感。

 あれ、酸素必要ないっぽいな。魔物だもんな、呼吸が無用なタイプが現れても不思議じゃないのか。作戦を実行する前に、ダメ出しをされた気分だ。

 実は覗き見している製作者が、鴨井を倒した方法を見物していて、慌てて対策した可能性もありそうだな。


「どっちにしろ、倒すしかないか」


「おうさ、今度は出し惜しみせずにやるぜ」


 弓が何処まで通用するのか怪しいが、弦を引き絞って矢を放ち、剛隆は気合と共に飛び込んでいく。

 どうやら今回の相手は防御特化らしく、動きも鈍重で攻撃方法は殴るのみのようだ。

 相手が巨体とはいえ人型をしているということは関節が存在する。剛隆は的確に膝や肘にダメージを蓄積していき、苦戦は必至かと身構えていたというのに、あっさりと決着がつきそうな雰囲気だな。

 このままだと、俺には経験値が与えられないというオチが待っていそうなので、コンパウンドボウの弦を限界近くまで引き絞り、渾身の一撃を放った。


 ドンッと腹に響く重低音が俺の元に届くと、矢があっさりとサイクロプス(岩)の眼球を貫いた。そこは柔らかいとは思っていたが、瞼を閉じることすらしないのか。

 動作が鈍すぎて瞬きが遅いらしく、刺さってから閉じているぞ。この敵、進化どころか退化していないか……あれか、他のサイクロプスもどきと一緒にいることが前提なのかもしれないな。これが前衛となり盾となれば、かなり厄介な存在になる。

 六本腕を先に倒しておいて正解だったか。


 四肢を破壊され無残に地面に横たわり蠢くだけの物体と化したサイクロプス(岩)の足を、容赦なく剛隆がねじ切ったので、切断面に弓を撃ち込んでおく。可動部分と内部は柔らかいらしく、矢が体の奥底まで埋没していった。

 剛隆が両足と片腕をもぎ取ったところで、相手の命が尽きたようで光の粒子となって大気に溶けていく。


「今回は楽勝だったぜ。完全に人型だと対応しやすいんだが」


「相性が良かったようだな」


 今回、サイクロプス(岩)を五分も経たずに葬ったので、次の湧くまでのタイミングが計りやすい。次の敵が何時間後に現れるか、そして、その次も湧くまでの時間が同じなら、サイクロプスは時間湧きと思ってほぼ間違いない。


「さーてと、先にちょっと寝ていいか? 結構眠くてな」


「いいよ。おやすみ、剛隆」


「適当な時間で起こしてくれ」


 と言った数秒後には寝息が聞こえてきた。早っ、どんだけ眠たかったんだ。の〇太君に匹敵する寝つきの良さ。

 これで、すぐさま敵が現れることは無いだろうが、予想では半日か一日といったところか。だが、俺たちがここのサイクロプスを倒してから、少なくとも二日は過ぎている。だというのに、一匹しか存在していなかった。

 倒したら湧く速度が増すとか、隠し要素がありそうな気もする。完全にランダム制だったら、こうやって気長に待ち構えているしかない。


 殲滅側には気づかれていないとは思うが、念の為に気配は探っている。任意のセーブポイントに飛べることは相手にも知れ渡っているので、感づいた人がいるかもしれないな。

 だけど、第五ステージもどきに敵が全員潜んでいる場合、偵察に人員を割くのは無謀。数は揃えてこそ意味がある。人数差も一人しか余裕がない状況で分断するのは愚策だ、と判断するのが普通の感覚だろう。


 サイクロプスが手に負えなくなったところで、死に戻るだけだからな。そうしたら、殲滅側との徹底抗戦に本腰を入れるのもありか。プレイヤーを倒しても経験値によるレベルアップが見込めるからな。

 自分よりレベルが低く差が開いている相手となると、かなり経験値効率が悪いのだが、それでもやらないよりはマシだ。数をこなせば、少しはレベルも上がるだろう。


「本当に優秀なプレイヤーなら、もっといい方法を思いつくのだろうな……」


 声に出して呟いてみたが、それで何かが変化するわけでもなく、剛隆が起きるまでサイクロプスが湧く地点を眺めていた。





「ふああああぁぁ、朝飯まだ?」


「朝なのか夜なのかわからないけど、まだだな。そろそろ、起こそうと思っていたところだ」


「丁度良かったのか……おっ、マジで丁度良かったみたいだぜ、ほら」


 くいっと顎で指す方向の地面から巨大な頭が生えてきている最中だった。サイクロプスもどきが湧く時間はこのタイミングなのか。


「剛隆、前のを倒してから、どれぐらい時間が経過している?」


「ちょっと待ってくれよ」


 剛隆が胸元を弄り懐中時計を取り出す。十代とは思えない渋いセンスだが、これはお爺さんの形見だそうで大切な物だと、少し自慢げに語っていた。

 少年時代にシャーロックホームズにハマっていた身としては、懐中時計には惹かれるものがある。


「すまん、寝すぎた。七時間ってところだな。予想より早いんじゃねえか?」


「倒した場合だと湧きが早くなるとか、間隔が狭まっているのかもしれないな」


 最終的に即湧きしたら、ラスボスということもあり得るか。

 話している間に肌質が木のようなサイクロプスが上半身まで現れていた。取り敢えず、下半身が埋まっている間に……射殺すか。

 矢を続けざまに連射すると、下半身が出ていない状態なので避けようがなく、いい的になっている。剛隆も裏に回り込んで背中を思う存分殴っているようだ。


「こいつ、マジで感触が木っぽいぞ」


「そうなのか、なら楽勝だ」


 矢に炎を纏わせ、数発突き刺すと全身が炎上していく。あっさりと炭化した木造サイクロプスの右足が未だに地面に埋まっているところが、物悲しさを演出している。

 今回は俺と相性がかなり良かったようだな。次の湧くタイミングによっては一度みんなの元に戻りたいところだが、戻る方法が死ぬしかないっていうのが……。


「じゃあ、今度は俺が睡眠取らせてもらうよ」


「おう、ぐっすり寝てくれ」


 これで剛隆が殲滅側なら、敵の前で無防備な姿を晒すことになるわけか。一応、何かあったらすぐに起きられるように心掛けてはおこう。





「網綱、起きろ。時間だ」


 剛隆の男くさい声で目覚めるというのは、あまり気分の良いものじゃないが六時間後に起こす様に頼んだのは俺だった。


「時間か。俺の予想が当たっているなら、サイクロプスもどきが湧いても良い頃だが」


 前回は七時間後に現れた。単純に物事を考えるなら、一時間減らして六時間後じゃないかと思ったのだが、さすがに安易過ぎた――前言撤回だ。

 いつもの場所から闇が噴き出し、今度は徐々にではなく一瞬にして姿を現している。さっきの対策をしてきたか。

 今度も一つ目で身長はかなり縮んでいる。2メートルちょいぐらいじゃないだろうか。肌の色は茶褐色で日に焼けた人のように見える。体形は筋骨隆々の成人男性で、両手に短剣を所持している。


「今までと比べると半分以下じゃねえか。ちっこいな。これぐらいなら、技がかけやすいぜ。ここは俺に任せてくれ」


 返事も待たずに剛隆が飛び出していく。止めるべきかとも思ったが、調べたいこともあったので好きにやらせることにした。

 小型サイクロプスが無造作に短剣を突き出す。突きの速度はかなりのものだが、そんな単調な動きでは剛隆に通用しない。軽く膝を曲げ短剣をやり過ごし、伸びきった腕の肘を下から打ち上げ、関節を破壊しにいく。


「うおっ、何だコイツ! 関節が柔らけえ!」


 小型サイクロプスの肘が本来曲がってはいけない方向に曲がっているのだが、折れたわけではない。その証拠にすぐさま歪に曲がった肘が元の角度に戻り、何もなかったかのように攻撃を繰り出している。


「この野郎っ!」


 今度は懐に潜り込み、足を引っかけ膝に体重をかけて破壊しにいったが、膝も同様にあらぬ方向に曲がった後、元に戻った。

 関節部が異様に柔らかいようだ。人間ではあり得ないことだが、一つ目の時点で人間を引き合いに出すのは間違いか。


「かああっ、くそ! おまけにコイツ、身体が湿ってやがるから掴みにくいっ」


 水分を含んでいるのか……恒例の嫌な予感がするな。疑問に思ったら即決断。

 完全に傍観者となっていたが、参戦するとするか。


「剛隆、火矢を放つから、気を付けてくれ!」


 矢に火を纏わせて、弦を引き絞る。剛隆が上手い具合に立ち回ってくれるおかけで、射線上に妨げる物がなく、撃ち出された矢は小型サイクロプスの背に命中した。

 じゅっ、と水が蒸発する音がして火が燃え広がったのかと期待したが、そんなことはなく、あっさりと鎮火した。

 やっぱりか。関節といい、火が通用しないことといい、もしかしてサイクロプスもどきは戦闘で学んでいるのか。そして、新たな個体は学んだことを踏まえた上で進化している。そう考えるとしっくりくる。


 初めはただのサイクロプスだった敵が、武器を持ち、多人数戦で不利なので腕を増やし、今度は関節が柔らかくなり、耐火性能まで……弱点を突くと、次回でその対策をしてくる。

 腕を増やしたのに倒されたから、腕は一旦リセットして学び直している最中だとしたら、こいつの最終形態はラスボスに相応しい姿と能力になりそうだな。

 厄介極まりないが、逆にサイクロプスの進化系がクリアー条件である可能性が高まったとも言える。


「剛隆。クリアーは近いかもしれない。気合入れていくぞ」


「おうさ、全開バリバリでいくぜ!」


 ここを乗り越えられれば、このふざけたゲームから解放される。そう思えば、どんな苦難も耐えられるよな。

 俺はコンパウンドボウを強く握りしめ、勝利に繋がる一矢を放った。


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