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お題小説短編集

解を求めて夜を彷徨う

作者: 独りっ子

お題「解」「夜」

 彼は深くため息をついた。それもそのはず、彼は今誰もが寝静まっているであろう深夜に学校を徘徊しているからだ。いや、正確には探しているという言葉が適切だろうか。彼は、学校に忘れた宿題を取りに来ているのだ。別にたかが一度の宿題なんてどうでもいい、と皆は思うだろうが、彼はその一度が許せない。根っこから真面目であるといえる。しかし、校門を乗り越えてまで宿題を取りに来ようとする行動は、彼を真面目と定義するどうかを悩ませる行動となるだろう。


 ゆらゆらと、白い(もや)が立ち上るように彼は進む。彼の不安定で思わず声を出してしまいそうな動作とは反対に、夜の校舎は沈黙を守っている。足音一つとして音はなく、まさに無を表していた。彼にとっては己だけが(ゆう)であり、己だけが異質だと思っているだろう。彼の進む廊下の窓は割れ、床には大きく穴が開いている。教室までの道は酷く汚れ、寂れている険しい道だ。


 やっとの思いで教室に辿りついた彼を迎えたのは、一際目立つ黒板だった。教室は暗く、黒板は闇に隠れてしまっているが、かすれた字で何か数字のような文字が見える。彼が計算式のようなものをつぶやいていることから、きっとそれは数学の問題だったのだと予想できる。彼のつぶやきは止まらず、問題は解けたのではと思うが、首を傾げる彼を見るにどうやら(こたえ)は出なかったようだ。少し悔しげな表情を見せると、誰かの机をいじると、教室から消えた。


 帰路へと急ぐ彼だったが、突如校舎に閃光が走った。まばゆい光に目を閉じると、遅れて響いた音が体内をめぐる。雷のようだ。彼はため息をつくと、再び動き始めた。しかし、再度雷は(とどろ)く。またため息をつく彼だったが、何かに気付いて動きを止める。彼の向く先にあったのは、姿見(すがたみ)だった。ガラスを凝視する彼だったが、違和感に気付く。じっと観察している彼に、雷は鳴った。彼は気付いてしまった。


 鏡に自分の姿がない、と。


 叫び声のような音が上がった。

蛇足

廃校になったその学校では、「深夜黒板を眺める少年」の噂が流れているらしい。


ありがとうございました。

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