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「……汚いな……」
思わずそんな言葉が漏れてしまったのも無理からぬことだと思う。
家に帰ってきた俺達を玄関先で出迎えたのは、血痕と肉片だった。
俺とクレエはフィセル城下の西端に小さな平屋を借りているのだが、その家の塀の一角がまるで人が破裂したかのような様相を呈していたのだ。
「おそらくは、庭先のあれを勝手に食べた人間の末路でしょう」
あれ、とクレエが指差したものはうちの隣の家の庭に生えた柿の木だった。
「柿の木か。しかし、いくら傷んでいたとしても柿の実を食べたくらいじゃ死なないだろう」
「いえ、私が指したのは柿ではありません。あの木の下、塀の上に皿が置いてあるでしょう」
近づいて見てみると確かにそこには皿がおいてあり、魚のフライのようなものが入っている。誰かが野良猫に餌でもやっているのだろうか。
「そこの住人はたいそう猫が嫌いでして。しかしおおっぴらに猫を殺すと罰せられるのでああやって腐った魚料理を塀の上において猫駆除に勤しんでいるのです」
俺の隣人がそんな事をしている奴だったとはな……。
というのもこの国では猫(特に黒猫)が神聖視されているために猫に対する暴力、捕獲等が禁じられているのだ。なんでも始祖の飼い猫ジャックというのが幾度も始祖の命を助けたからなんだそうだ。しかし、なんでまた始祖の名前が伝えられてないのに飼い猫の名前は伝えられているのかね。
「そして、腐っているのに気づかなかった通行人が食べて」
こうなっていると。
今回、彼が得るべき教訓は『落ちているものを食べるときはよく調べてからにする』ということだな。
「まあ、食中毒なら二、三日で生き返るでしょう。どこの誰かは知りませんがこれからも強く生きてください」
激しく同意する。