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喜びの世界


みんなで作ったカレーは、ほんとにおいしかった。

ごはんはちょっとおこげができてて、ルーは男子陣がふざけていっぱい入れたから濃厚で、野菜は愛乃ちゃんがいろんな形に切ったから(愛乃ちゃんの包丁歴:0年)形が楽しくて…。

やっぱり、この班は運命だったのかもしれない。ヤッキがあの音楽館の前で言ったみたいに。

自由時間に、あの音楽館に行けないかな?ちょっとでもいいから、30分でもいいから。

あのとき、フルートのファーストを吹いていた人に会ってみたい。

あの音を聴いて、私は体中が震えた。あんな音、出せるんだ。感動して、涙が出そうになったくらい。

「片付け終わった班から荷物持って芝生広場に集合!テキパキ動けよー!」

あっ、太田先生の声。既に片付けの終わっていた私たちの班は、急いで荷物をまとめた。まとめるっていっても、しおりをリュックにつっこむだけだけど。

「っしゃ、行こっか。」

タッキーが先立って歩いた。その次にヤッキが続く。

「ああーっ、待って!」

愛乃ちゃん…。愛乃ちゃんって、思ってたよりどんくさいなぁ。

芝生広場に行ったら、1組や3組は全然だったけど、2組のほとんどの班は並んでいた。さすが2組、優秀ね。

そんな感じでみんなが並んでいくのを眺めていたら、あっという間に1組も3組も並び終わりかけていた。

「全員おるかー!?」

西村先生が、2組の点呼をとっていた。それぞれの班の班長が、「1班!」、「2班!」というように自分の班の番号を言っていく。

「さ、3班!」

ユメが、顔を真っ赤にして叫んだ。ううっ、班長とか慣れてないもんね…。でもよく頑張った!

「4班ー!」

杉原の間延びした声。そして、しーん…。

「おーい、5班はー?」

西村先生が呼ぶ。でも、「5班!」っていう声は聞こえない。5班の班長って、誰だったっけ…。

あ。…ミクだった。

5班のメンバーは、ミク、玉野さん、田中、大内、そして…住田。

ちらりと後ろを向くと、5班の玉野さん、田中、大内は確かに並んでいた。けど、ミクと住田だけ(・・)いない。あっそう。それだけ2人の仲がいいってことね。ふーん。

「せんせーい、班長の田辺と、副班の住田がいませーん!」

大内が言った。

「はぁ?班長と副班がおらんやと?何をしてんねん、あいつら!」

もう1組も3組も揃っているのに、2組だけまだ揃わない。どうせ、ミクが住田を無理矢理誘ってどこか探検にでも行ったんでしょ。ミクのせいよ。

「西村先生、あいつらまだ来ーへん?」

太田先生のこめかみがピクピク動いてる。怖いっ!

「そうやねん…、時間押してんのに。」

いつもは優しい西村先生も、もう怒っている。1組の河村先生も、曇った表情。

住田は悪くないのに。ミクが悪いのに。ミクだけが怒られたらいいのに。

「あっ、来た」

誰かがこっちに向かって走ってくる2人を見つけた。太田先生が「何やってたんやぁっ!!」とヒステリックに叫ぶ。

「お前ら、どんなけ待たせたと思ってんねん!!反省しろ!」

ここは担任である西村先生が注意しにいくところであろう、でも太田先生の迫力に負けたのか、西村先生は口を真一文字に結んで2人を睨むだけだった。

「す、すみません…」

住田が頭を下げた。馬鹿なミクは、住田が謝った数秒後に、慌てて頭を下げた。

「お前らのせいで、みんなに迷惑かかってん!わかるかぁっ!」

怒られ慣れてないミクはとうとう泣き出した。「う、うえぇーん…」負け犬のような泣き声だった。でも、そのことが、太田先生の怒りにさらに火をつけた。

「泣いて済む問題ちゃうわぁっ!」

その怒声は、もっとミクの涙をあふれさせた。ミクの涙は、また怒りの火になって…。これじゃ、悪循環じゃないの。早く喜島渓谷に行きたいなぁ。

あれ、紹介してなかったっけ?今から私たちは喜島渓谷っていう渓谷を観に行くの。楽しみ!いろんな希少植物とかきれいな自然を観られるんだもの。

数分間、太田先生のお説教が続き、やっと渓谷に向かって出発した。

くねくねした山道を登って、下りて…。運動をあまりしない私にとって、渓谷探索は思ってたよりハードだった。でも、珍しい木とか、毒がありそうなキノコ、変な形の草などなど、理科(詳しくいえば生物かな?)好きの私にとっては楽しかった。

「ねぇ、あのキノコ気持ち悪くない?」

愛乃ちゃんが、濃いオレンジ色のキノコを指差した。

「ほんとだー。ねぇ、しずかちゃん、あのキノコなんていうの?」

ユメが、私に訊いた。ふっ、私の出番よ~!

「それは、『トガリアミガサダケ』っていうの。食用だよ。」

へぇーっ、物知りー!と、ユメと愛乃ちゃんが驚く。優越感!……え?

「夕陽、生物オタクじゃね!?」

「きっもー!オタクって何ー!」

侮蔑の声。誰なの!?

5班。その声の主は、田中と大内だった。ルックスはまだいいのに、性格が超ザコいコンビ。何よ。私はオタクなんかじゃなくて、マニアよ!…って、言いたいのに。なんで、私は言えないんだろう。

「しずかちゃんは生物オタクじゃないでー!」

ミク?確かにミクの声だ。なんで、あいつが私かばってんの…?

「そうやん、生物オタクは生物について博識なだけやけどさ、しずかは生物を愛してんもんな!?」

住田…?

「しずかちゃん、前に言ってたやんな、『私カメムシ愛してるから』って!」

ミクがゲラゲラ笑う。…かばってるんじゃ、ない。

「ええー!夕陽、きっもー!」

「カメムシ愛してるとか、くっせー!」

みんなに、笑いが伝染して止まらない。嫌だ、やめてよ、私はカメムシなんか、好きじゃない!なのに、なのに…。

「夕陽クサい、クサい!」

「おえぇーっ!近寄んなよ!」

5班以外の男子も、私を侮る。蔑む。ああ、ここに来ても同じだ。みんなが私を見て、笑う。

どこでも同じ…

「ねぇ、ユメちゃん、みんな、バカじゃない?」

「え?」

バカ。それは、浅い、薄い声で人を下に見る言葉。

愛乃ちゃんが、その言葉を発した。

「バカだよね、あんなきれいなのに、ね?」

でも、彼女の「バカ」は凛としていた。私にとって、深く、厚い単語。だから、汚れた言葉しか入っていなかった私の耳に、澄んで響いた。

そしてそれは、ゲラゲラ笑ってたみんなの耳にも響いた。

辺りが静まり返った。

シャーーーーッ…

「滝」

誰かが思わずそう漏らした。

水面の輝きが、眩しい。虹の色が、美しい。そして、

「涼しー…」

思わずそうつぶやいた。さっきまであんなに暑かったのに。滝の水が、私を癒している。

「おーい、そこー!つまってるぞー!」

はっ、我に返った。前を見ると、2班との距離が10メートル近くあった。

「行かなきゃ!」

愛乃ちゃんは、私をふりかえってにっこり笑った。

違う。「ここに来ても同じ」なんじゃない。ここは、明らかに学校とは違う世界。日常とは違う世界。

愛乃ちゃんは、ここで育ったんだね。

私も、愛乃ちゃんに微笑み返した。



次のプログラムは、渓谷散策を終えてちょっとひと息ついた後、テニス体験!

小学校には、バドミントンはあるけれど、テニスはないの。というか、だいいちテニスコートがないから篠原小の生徒が(っていってもほとんどの小学生は経験ないと思うな)テニスを体験することは滅多にない。だから、この機会にテニスを楽しもう!という主旨で、喜島のテニス講師さんが教えに来てくれるのよ。

テニスコートは、喜島記念ホテルの敷地内(合宿所も一応ホテル敷地内なのよ!)にある。芝生が広がってて、なんと15コートあるらしい!

「篠原小学校のみなさん、こんにちは!」

「こんにちはー」

テニス講師の人は、3人いた。各クラスに1人ずつついてくれるらしい。

「今日は、初めてという人の方が多いでしょう。だけど、そんなに本格的なテニスじゃなくて、遊び感覚で楽しんで帰ってもらいたいんで、ラケットの持ち方と振り方をちょっと練習したあと、ミニゲームをしたいと思います。」

坂口さんという若い男の人が全体説明をして、あとから私たち2組を担当してくださったのは水島さんという20代くらいの女の人だった。

「ラケットは、軽く持ってあんまり力を入れずに軽く振ります!」

水島さんがラケットを持ってボールを打っていると、なんだかプロの人がやっているみたいだった。動きにキレがあるからかな?

「うーん、もうちょっとこうかな?」

素振りの練習の時に、私のフォームを直してくれたとき、水島さんは甘い香りがした。うーん、美しい!

水島さんがとっても上手く教えてくれたから私もみんなもすぐに上達して、サーブも打てるようになったし、ラリーを続けられるようにもなった。

そして、ミニゲーム開始っ!ペアを組んで、ダブルスで、3点先取で勝利。トーナメント戦で勝ち上がっていって、優勝を狙う。

私は、愛乃ちゃんとユメの3人で組んで、早々に負けてしまった…。でも、すっごく楽しかったから結果は別にどうってことないわ。結果より過程よっ!

「元気そうで何よりねぇ、アイ。」

「ふたばちゃんこそ!」

水島さんと、愛乃ちゃんは知り合いだったみたい。こんな小さな島にいたら、ほとんどの人と知り合いになりそうね。

「ふたばさんっていうんですか?」

ユメがきいた。

「うん、そうよ。水島ふたば。」

ふたばって、可愛い名前!

「あ、そうそう、ユメちゃんとしずかちゃん。ふたばちゃんは喜悠オーケストラのチェリストなのよ!」

喜悠オーケストラ。あのベルサイユ音楽館でラフマニノフのピアノ・コンチェルトを演奏したオケ。

あの、美しい音を奏でたオケだ。

ああ、もう一度、聴きたい、聴きたいよ…。

「おーい、しずかちゃん?」

はっ!…あの音楽を聴いてから、私、そのことで頭がいっぱいになってしまう。

「チェリストって?」

ユメがきいた。

「チェロ弾きのことよ。チェロは、ヴィオラの次に低い音域の弦楽器なのよ。」

チェロ。知ってる。人間の声に一番近い楽器って言われてて、深い、太い、優しい音質。

「私、チェロはヴァイオリンの次に好きなの。ふたばちゃんのチェロの音を聴いたら落ち着くし。」

愛乃ちゃんは、そう言った。

「あーら、そう?」

推定、愛乃ちゃんとふたばさんは10歳くらいの年の差。なのに、お互い遠慮がなくて、仲が良い。

喜島の人、喜悠オケの人たちは、みんなこんな感じなのかなぁ。

会ってみたい。喜島の人々に。もっともっと、ふれあいたい。

本気でそう思った。


「ミニゲーム優勝コンビは、大樹真一くんと峰泰紀くん!おめでとう!」

坂口さんが大声を張り上げてそう言った。

「なんか、報酬ないんすか?」

ヤッキの言葉に、皆がどっと沸く。

「報酬は、じゃあ、俺とふたばの試合を観るってことで!」

坂口さんが、ふたばさんを手招きした。

「それ、俺とヤッキだけの報酬じゃないやーん」

タッキーがそうこぼす。

「いいのいいの」

ふたばさんは、タッキーを説き伏せてコートに入った。

ラケットを振って、懸命に坂口さんのボールについていくふたばさんは、とても美しくて、綺麗で、彼女は私の憧れ。

結局坂口さんが勝っちゃったけど、ふたばさんは「えへへ」と笑いながらシーブリーズを噴射した。美しいっ!

とにかく、喜悠オケチェリストのふたばさんと出会えて、ほんとうによかった。またいつか、会える日がきたらいいなぁと、思ったの。


テニス体験を終えた私たちは、テントに戻ってきていた。戻った者から自由時間なのよ。

私はもちろん愛乃ちゃんといるけど…、ユメはどうするんだろう?生島莉音のとこに行くのかなぁ…?

「ユメ、ユメは今からどうするの?」

私がそう訊くと、ユメは曇った顔をした。やっぱりね。

「うーん、私…、どうしよう…」

迷ってる様子。すると、タッキーとヤッキが戻ってきた。

「なぁ、さっきの音楽館行かへん?もう一回。」

タッキーが真剣な表情で言った。横で、ヤッキもこくこくうなずいている。タッキーは続けた。

「俺は、あんときソロ吹いてたホルンの人に、会ってみたい。あんな音、出せる人おらへん。」

「わ、私だって…、あのピアノ弾いてた人と、会いたい。あんな音、私も出したい。」

「僕も。ティンパニの音、響いたもん。会いたい。」

そして、私は。

「私も。フルートのファーストの人。会いたい。絶対、会いたい。」

言いながら、涙が出そうだった。愛乃ちゃんは、嬉しそうにうなずいた。

「みんな、ありがと。喜悠オケのこと、そんなに想ってくれるなんて。」

涙がこぼれた。愛乃ちゃんの、キラキラした瞳から。

「行こーや、あそこ。もう明日自由時間ないし。」

タッキーが言った。そういえば、明日はもう時間がないんだ。ってことは、今しかない。

「行こう!」

タッキーが最初に走り出した。ヤッキもその後に続く。

ユメも、立ち上がった。私は、ユメに微笑んだ。彼女もまた、私に微笑み返したとき、

「ユメー、なにやってんのー!?」

この声。この声は。

「ほらー、早く、遊びにいこーやー」

生島莉音。ユメは、青ざめた。ユメの手首を、ひまちゃんが掴んだ。

「いくで、ユメ!」

「ご、ごめん!ひまちゃん!リオン!」

「え…?」

ユメが、ひまちゃんの手を振りほどいた。

「大切なところにいくの。だから、ごめん!」

ユメは走り出した。私と、愛乃ちゃんも走り出した。

「ちょっと、ユメ、どーいうことっ!?」

ヤヨの叫び声が聞こえる。でも、ユメは止まらない。

そうだよ、ユメ、これが正解だよ。どっちかを選ばなくちゃならない。正解はこっちよ。

100点だよ、ユメ。自然と涙があふれ出た。

「おい!遅いっ!」

あ、タッキーたちだ。合宿所の敷地内と、外の境界に立っている。

「ここが、境界なのね。」

ユメが言った。ヤッキがうなずく。

「うん。そう。だからあそこに太田先生が見張ってる。」

うっ、太田先生…。みんなの顔がゆがむ。だって、怖いもん…。

「でも、いい考えあんねん。」

ヤッキが胸を張って言った。タッキーも知らなかったようで、え?とヤッキの方を見る。

「誰かがおとりになって、太田先生を引き込んで、その間に境界を越える!」

小さめの声で話す。あ、それ、いい考えかも。

「え、でも待って。誰がそのおとりになるの?」

と、愛乃ちゃん。そういえば確かに。全員音楽館に行きたいわけだしねぇ。

でも、ヤッキはふっと笑った。

「ちょっとアホなやつ捕まえて、敷地外にそいつの好きなもんがあるって言って、境界を越えさせんねん。」

な、なるほどっ!それ、いいね!

「で、そのアホなやつって、誰にする?」

タッキーがわくわくして言う。

「それが問題やねんよなぁ…」

ああーー。ちょっとがっかり。ヤッキは、申し訳なさそうにみんなを見た。

「でも、まあいいじゃない?考えればいいんだし。」

ユメがそう言った。そうよね、アホなやつなんて、いくらでもいるじゃない。例えば…、

ミクとか。ね。でも、ミクを連れ込むには住田も確実についてくるわけだし?住田をおとりにするなんて、私はいや。ミクのせいで、ミクが住田を盗るからこの計画が進まないのよ。

「ね、ねぇ、みんな。」

みんなが、一斉に愛乃ちゃんの方を見た。

「私がおとりになるってどう?」

一瞬、みんなは固まった。どういうこと?愛乃ちゃんがおとりになるって?

「私はもともと喜悠オケにいたわけだし、さっきふたばちゃんに会えたし、音楽館に行かなくてもいいの。私がおとりになって太田先生に怒られるから、みんな」

「そんなのダメだよ!」

声を発したのは、私だった。

「愛乃ちゃんも一緒にいかなきゃ。愛乃ちゃんだって、喜悠オケの一員でしょ?私は、私は、喜悠オケの全員を見たい。もちろん、愛乃ちゃんも。愛乃ちゃんが、どんなオケの仲間と、どんな顔をして、どんな風に付き合ってるのか、知りたい!」

何を言ってるのか、自分でもわからなかった。私は、何を言いたいの?

「しずかちゃん…」

愛乃ちゃんは、そうつぶやいた。ごめん、困らせて。愛乃ちゃん、ごめん。

ただ、私は、私は、愛乃ちゃんがおとりになってほしくなくて、でもそんな理由だけじゃなくて、もっと深い意味があるの。でも、それが何なのか、わからない、わからないよ…。

「しずかちゃん、私、わかった。私たち、アイちゃんに憧れてるんだ。」

ユメ…?

「憧れてるから、知りたいんだ。アイちゃんの全てを。なんで、アイちゃんは優しくって、平等で、強くて、いつでも前向きなの?…って。そうじゃない?」

そうだ、そうよ、ユメ。私が言いたいのは、それだ。

なんで、ボスの莉音に何もしないのに嫌われて、ハブかれても平然としていられるの?

なんで、自分がおとりになるなんて言えるの?

なんで、「バカ」っていう言葉を、あんな上手に使えるの…?

私の疑問は、それだ。それを、解決しようとしてるんだ。

「私、愛乃ちゃんを知りたい。知って、もっともっと仲良くなりたいんだ。親友になりたいの。」

夢中で言った。自分の、本心をさらけ出した。愛乃ちゃんなら、わかってくれるかな…?

「ありがとう…、しずかちゃん。ユメちゃんも。」

愛乃ちゃんは顔を赤くしてそう言った。

「私に憧れてくれてるなんて…えへ。嬉しいよー!ほんと、嬉しいっ!」

恥ずかしそうだけど、愛乃ちゃんはとても喜んでる。飛び跳ねそうだよ。

「しずかちゃん、親友って、こういうものなんじゃない?」

ユメが、そう言った。親友は、こういうもの。わかった。私は、間違ってたんだ。

親友って、ただ仲が良くて、気が合って、お互いに好きなだけじゃ、成り立たないんだ。

もちろんお互いに、お互いを憧れて、常に相手に対して疑問を持つんだ。

疑問を持つから、その答えを知りたくなる。知ろうとして、一緒に居るんだ。一緒にいたら、また疑問を持って…。親友だから、一緒にいるんじゃなくて、一緒にいるから親友になるんだ。

これが、親友の定義だ。定義では、必ずしも逆が正しいとは限らない。

親友だと思ってた住田。けど、違うかったんだ。お互いに疑問なんて持ってなかったんだ。憧れなんてものもなかったんだ。

意外にも、ショックじゃなかった。今まであんなにミクに妬いてたのに。

ユメは、私の思ってることがわかったみたいに、うんうんとうなずいた。

「おい、お前ら、語るのはいいけど、こっから脱出しやなあかんやんー」

あっ、そうだった。忘れてた。ごめん、ヤッキ。

「で、お前らが語ってる間に考えてんけど、おとりは生島にしようと思う。」

「ええっ!?」

生島莉音をおとりにっ!?

「ああ、でもリオンは好きなアイドルグループがいるもんねぇ?」

ユメが言った。そうか、軽音にハマってるとか言ってたもんね。…って、ユメ、莉音がおとりでもいいの?

「これは俺が考えてんけど、生島ってタッキーのこと好きやん?だからさ、タッキーがおびき寄せたらいいやん!って。」

ヤッキがにやにや笑う。タッキーは、おえっと吐く真似をした。

「でも、それならいいんじゃない?タッキー、がんばって!」

応援!この役はタッキーしかできないね。

「っていうか、みんな、時間ヤバいよ…、あと30分しかない!」

愛乃ちゃんが時間に気付いた。ええっ、あと30分!?

「え、こっからホテルまでがんばっても10分はかかるやろ?じゃあ往復したら実質向こうで喋ったりできんの10分しかないやん!」

ヤッキが嘆くように言った。ええっ?10分しかないの?

「早く、生島おびき寄せよう!行ってくるわ。」

タッキーが走り出した。早く莉音が見つかったらいいんだけど。

「で、タッキーと言ってた作戦やねんけど…」

ヤッキが声のトーンを落として、説明し始めた。

だんだん日が落ちていくのがうっすらと見えた。

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