人を頼る?
早速、転校生がハブられたんか。
俺は苦笑した。
俺の名前は、大樹真一。あだ名はタッキー。この前、俺らの6年2組に、転校生が来た。
やばいほど美人っ!
霧谷愛乃やって。名前から、最初に想像したのは、女優の桐谷美玲。で、顔も結構似てたっ!どうしよう、俺ってメンクイなんかな…いや、別に好きとかそういう感情じゃなくて、ただ綺麗やなぁって思っただけやし。誤解せんといて。他の男子もみんな真っ赤なってたわ。
俺には、夕美っていう姉と、優香っていう妹がおるから、結構女子の思ってることも分かる。多分、女子らが霧谷をハブいてんのは嫉妬というか、ヤキモチやな。完全に。
かわいそうにな、霧谷はいっつも独り。で、そこで俺が声かけたら、もっとひどなるだけやから、声はかけへん。なんでひどなるかっていうと…、まぁ、ちょっと照れんねんけど、俺、この前生島莉音に告られたから。学校で呼び出されて、「前から好きでした」とか言いだされた。で、「付き合って」って言われてんけど、まだ答えは言ってない。というか無視。ほんまめんどい。別に生島になんて興味ないし、だいいち性格悪いし。女子って、男子に性格を隠そうとする性質があるらしいな。
「おっ!タッキーおはよう!」
ヤッキか。ヤッキは、幼稚園の時からの友達。親同士も仲良いから、自然と俺らも仲良い。
「おはよう。あ、そういえば昨日、俺もやっとスマホ買ってもらったで。」
ヤッキはぱぁっと顔を輝かせた。ヤッキんちは弁護士で、大金持ちやから、ヤッキはすでにスマホは入手してる。
「やった!これでやっとLINEできるやん!いろいろ教えたるわ!このクラスのグループにもはいりぃや!」
文末全てにビックリマークがつくぐらい大っきい声。ほら、女子に聞こえてもうたやんか!
「えっ、タッキー、やっと買ってもらったん!?」
生島莉音がこっちに来た。阿部弥生とか、青葉さな、稲尾凪紗、成田実樹、徳田芽依、砂原えり。めんどくさいメンバーや。
「機種なに?iPhone?BlackBerry?Android?」
「もしかしてDisneyとか!?」
うるさい。うるさい女子は嫌いや。
「フツーのiPhone6。もうチャイム鳴るからどいて。」
ちょっと冷たく言ってみた。
「なんなん、タッキー。今日なんか冷たいわぁ。」
うるさい女子らは、退散していった。
「あ、おはよう、タッキー。」
そんな声が前から聞こえた瞬間、バシッ!
「痛っ!」
目に当てられた。ひどっ!俺の美しい目をっ!
「あ、ごめんタッキー。髪の毛あたっちゃった」
聞きなれた標準語。目は痛くて開けられへんけど、多分暁月夢やな。
「や、いーけどさぁ、俺の美しい瞳が潰れたらどーすんねん!」
ふざけてみた。
「ごめんごめんー。」
やっと目が開いた。やっぱり暁月や。すると、横でクスって声が聞こえた。
「笑い事じゃないっ!」
霧谷やった。暁月は、ちょっと決まり悪そうに前を向いた。多分暁月は霧谷をハブりたいなんて思ってないやろな。気いちっちゃそうやし。まあ、生島らよりはマシや。
「おはよう、朝の会すんで。日直誰?」
担任のニッセンこと西村先生が教室に入ってきた。日直…俺やっ!そういえば、連絡黒板見に行ってない!あ、連絡黒板っていうのは、高学年の日直が毎朝見に行く児童への連絡用の黒板。めんどくさいわぁ。
「あ、大樹くん、私見に行ってきました」
霧谷!救世主!しかも小声で言ってくれたから、都合ええわっ!
「おはようございます」
前に立って号令する。ヤッキがにやにや笑ってるのが見えて、俺もなんか笑えてくる。
「何にやにやしてるん!?」
杉原大輝が俺を見て言った。杉原は、俺の幼なじみの一人。
「もしかして、霧谷と日直が一緒やからにやにやしてるんちゃうん!?」
と、ヤッキ。はぁ?おまえが笑ったから俺も笑ってもうてんけど!
「ヒューヒュー」
「早速の告白や!」
みんなが冷やかしてくる。何なん!?違うしっ、誤解や!
ふと横を見ると、霧谷がちょっと赤くなっていた。ちょ、ちょっと待って、何やねんっ!誤解やっ!
「おい、静かにして!日直、はよ始めて!」
ニッセンが大声で注意した。俺は、はっと視線を前に向けた。
「貸して、俺言う。」
俺は霧谷から日誌をもらった。
「今日の連絡。林間の持ち物を教室の後ろの掲示板に貼っておくので見ておくように。以上!」
なんかイライラする。俺は、日誌を教卓に置いてさっさと自分の席に座った。霧谷も、困ったように俺の後に続いて席に座った。
まだみんなニヤついてる。でも、ヤッキだけはこっちを向いて、申し訳なさそうな顔をしていた。ヤッキのそういうとこ、他の奴と違うわ。
「林間、もうすぐやから、そろそろ準備しといた方がいいで。直前なってあれがない、これがないってバタバタすんの嫌やろ。」
ニッセンが言った。
「あの、林間ってどこに行くんですか?」
急に横から小さな声がした。霧谷や。ニッセンのやつ、どこに行くかも霧谷に言ってなかったんかい。
「ああ、喜島ってとこ。喜びの島って書いて喜島。紀伊半島からちょっと離れたちっちゃい島。」
説明してやった。
「え…」
急に霧谷の顔が曇った。霧谷は無理して笑顔を作ってたけど、まるわかりや。
「どしたん?」
あきらかに霧谷は困惑していた。顔を伏せて、ふるふると首を振る。
言いたくないんかな。
「言いたくないん?」
絶対なんかあったな。
「あ…ごめんなさい…」
ふいって向こうを向かれた。なにそれ、余計気になんねんけど。
「何でも言ってみーや。何でも聞くから、さ?」
「…ごめんなさい」
チャイムが鳴った。霧谷は、逃げるように教室から出て行ってしまった。
俺は、ぽかーんとしてそっちを見てた。心配してんのに、なんやあの態度?
不意に肩を叩かれた。
「タッキー、さっきはほんまごめん。ちょっとふざけすぎたわ。」
ヤッキだ。俺は、「いいで」って返した。
「そうや、こんどさぁ、僕、テツと一緒にお笑いコンテスト出んねんけど、見に来てくれるやんな?」
ヤッキの将来の夢は、お笑い芸人ならしい。ああ、テツっていうのは、同じクラスの南哲士のこと。テツもお笑い志望や。
「うん、見に行くで。頑張れよ。あ、俺ちょっとトイレ行ってくる」
さっきから腹痛がやばいことに気がついた。ちっ、昨日アイス食べ過ぎたせいや。
トイレは、6年2組の教室から結構遠い。いちいち4階まで上がらなあかんから。4階は、トイレと倉庫、準備室、あと道徳教室以外ほとんど使われてないから、ちょっと不気味で、初めて4階に上がった時怖くて泣いたのを覚えてる(小1の時やで!)。
俺はすっきりしてトイレから出た。超・快感!っと思った時…
「……ひっく、……ひっく……ずるずるずる……」
人の泣く声がした。はっきり聞こえた。耳を澄ましたら、女子トイレの方から聞こえてきてる。トイレの花子さんか?
もちろん中に入ることはできひんから、俺は諦めて帰ろうとした。そしたら、がちゃりと音がして女子トイレのドアが開いた。
「夕陽!?」
目を真っ赤にしてボロボロと泣いていたのは、同じクラスの夕陽しずかやった。あの無表情っぽい夕陽が泣いてた。驚いた。
「タ、タッキー。」
向こうも驚いたみたいやった。泣いて目は真っ赤やのに、顔は蒼ざめてる。
「おい、大丈夫か?」
何があったんや?
「う、ううん。なんでもない。」
夕陽は早口でそう言って走っていった。
「さっきの霧谷と一緒や…」
俺はそうつぶやいた。
でも、なんか気になる。あの無表情女子が、トイレで独り泣いてた。これは、事件か!?…んなわけないやろ。
俺は、走って教室に戻った。が、誰もおれへんかった。あと、鍵が閉まってた。
ちっ、次の授業理科室やった。
「大樹、なんで遅れたんや?」
理科の教師、つかちゃんこと塚寺が俺に問うてきた。周りはニヤニヤ笑ってるし、つかちゃん結構怒ってるし。最悪。トイレの花子さんなんて見ようと思わんかったら良かった。
「…ちょっとトイレ行ってて、遅なりました…」
顔が火照るのが分かる。トイレ行ってて授業に遅れたって、1番ダサいやつやん…予想通り、クスクス笑い声が聞こえた。
「わかった。早よ座り。…えーっと、今日からふりこの話に入るで。『ふりこめ詐欺』とは違うからなー」
つかちゃんの寒すぎるギャグから授業は始まる。誰も、このギャグに反応する者はおらん。そのことを承知の上でつかちゃんは毎回ギャグを考えてくる。おめでたい人や。
理科室の席は、4人で1つの机に座る。俺らの班は1番後ろ。右隣には杉原がいて、左隣りには…夕陽。そっと夕陽の顔を見てみたら、もう真っ赤な目じゃなかった。いつもの無表情に戻ってけろっとしてる。さっきのは何やったんや?
もう1人、同じ班に田辺美来がおる。さっきから通路を挟んで隣にあたる席に座ってる住田香苗と、筆談してる。女子の世界では「筆談」なんて言わんやろうけど、男子側から見れば「筆談」。名の通り、メモ帳に何か書いては渡し、見て、書いては渡し…という一種の会話。
その田辺の横に座ってる夕陽は、さも嫌そうにそっちを見ていた。理科好きの夕陽にとって、めっちゃイラつく行為やな。
「おい、そこ。筆談やめろ。目障り。」
言ってやった。もちろん小声で。
「ハア?なんでタッキー?別に関係ないやろ?」
田辺が言った。
「俺じゃなくても、違う人は目障りて思うやろ。」
田辺は、ちらっと夕陽を見た。でも、すぐに視線を戻した。
「優等生やからって…お節介やわぁ。」
田辺は俺を睨んで向こうを向いた。住田と喋ってる。
「ねぇ、お願いだから…」
夕陽がこっちを向いた。
「私たちのことに関わらないでっ…」
泣きそうな顔でそう言った。えっ、今の行為はNG!?
「えっ、でもお前、目障りそうな顔してたやん…」
「タッキーにはわからないの。首を突っ込まないで。」
夕陽はそう言ってまた前を向いた。えっ、もしかして俺、こいつ傷つけた?なんで!?
「えっ、なんで?」
俺は訊いたけど夕陽はそれを無視した。なんやそれ…?
霧谷にしろ、夕陽にしろ、俺が心配したってんのにどーいうことなん?
その日は霧谷と夕陽のことで頭がいっぱいで、全く先生の話を聞けへんかった。だから、授業で当てられたけど答えられへんくてニッセンに怒られるし、相変わらず霧谷はなんか隠してるし。ついてないわ。
俺は、いつもヤッキと一緒に帰る。今日も、ヤッキのおぼっちゃま話を聞かされながら学校を出た。話がひと段落ついたところで、俺は霧谷と夕陽のことを話してみた。
「霧谷も、夕陽も、なんかおかしいねん。」
ヤッキは、興味なさそうにフーンと相槌を打った。
「どーしたらええと思う?」
「タッキーが首突っ込むこととちゃうんちゃう?だって、霧谷とか夕陽は女子やで?女子は女子だけで解決さしとけばいいやん。」
ヤッキ、冷たっ!
「お前、冷たいなぁ。生島とかそこらへんのグループはともかく、霧谷や夕陽やったら男女関係なく、助け合ってもいいんちゃう?」
「そんなんできるわけないやん。だいだいタッキーが優等生すぎんねん。そんな男女関係ないクラスなんて不可能や。」
「なんで!?」
「男女差ない社会なんて絶対無理やって。叶わへん。」
俺はまだヤッキの言うてることが分からんかった。意味わからん…
「もうええわ。自分で考えるわっ」
モヤモヤが消えん。俺は走って家に向かった。いつもは追いかけてくるヤッキやけど、今日は追いかけて来ーへんかった。
「ただいま」
イライラして家のドアを開けた。ガチャンと鍵を閉める。「おかえり」の返事はない。今日は仕事の日か。ならちょうどいいわ。
自分の部屋にランドセルを投げて玄関に戻った。で、また外に出た。
「タッキー、どこ行くん!?」
びっくりした。目の前にヤッキがおった。
「邪魔すんなよ。どこでもいいやろっ」
俺は走って逃げた。ヤッキが何か言うのが聞こえる。でも、無視して逃げる。ヤッキのくせに邪魔すんなよっ!
「えっと、霧谷の家は知らんから夕陽の家…」
夕陽の家は、結構近い。複雑な道やけど、100メートルもないかもしれへん。そう思いながら公園を横切ろうとした。ふと下を見たら…ん?って、これ生島のキーホルダーっ!
それはこの前生島が、
「タッキー、おそろいにしよ〜」
なんて言って俺にくれようとしたキーホルダーが落ちてたっ!もちろん俺は断って生島を泣かしたけど、生島はまだそのキーホルダーを持ってるらしい。めんどくさいやつ。
…ということはこの近くに生島がおる可能性が非常に高いというわけや。隠れなあかんっ!
「だからなぁ、ミク困ってんねんー」
この声は田辺や。田辺と生島って…仲よかったっけ?
「夕陽しずかをどうにかしやなあかんねんな…」
夕陽っ!?で、この声は生島っ!予感的中…
「ミクはなぁ、住田と2人で親友がいいねん。だからしずかちゃんがめっちゃ邪魔ぁー。リオン、なんとかしてくれへん?あ、住田もミクと2人がいいみたいやしさぁ。」
「いいよ。夕陽しずかを住田から引き剥がせばいいねんな。やってみるわ。」
イジメ発生やっ!やっぱ生島は性格悪し、田辺も性格悪し!これ、心のメモ。
「これまでもさんざんしずかちゃんはぶいたし、ちょっとイジったりもしてんけど全然効果ないから結構過激派でいった方がいいかも。」
だから夕陽は泣いてたんか!謎、解決や!…言ってる場合ちゃうけど。
なんとしてもこのイジメ問題を解決しなあかん。俺は夕陽の家に向かった。
あいつの家の周りは同じような形の家ばっかりやったから、ちょっと迷ったけど、2年前くらいに連絡帳を渡しに行ったときのことを思い出して、やっと辿り着いた。ピンポーン…
「はぃ?」
おそらく夕陽の母さんやろう。
「あ、あの、同じクラスの大樹です。夕陽しずかいますか?」
礼儀正しく言った。
「ああ、います。呼びますね。」
10秒くらい経ってから、かちゃっと音が鳴ってドアが開いた。夕陽が出てきた。
「タッキー。何?」
女子にしては低い声。こんなに低かったっけ?
「あ、あのさ。今日泣いてたけど、どーしたん?あ、あと理科の時間、『関わらんといて』って、どーいうことなん?」
夕陽がビクッと肩を震わせた。拒絶するような目でこっちを向く。
「もう、そのこと忘れて。タッキーには関係ないの。…お願いだから、このことには関わらないでっ!」
夕陽が俺を睨んだ。ゔっ、怖っ!
「え、え、でもクラスメートなんやし。」
「クラスメートだからってなんでも関わるのはおかしいわ。」
「でも、心配やねん。」
なんで、なんでや?イジメられてんのに、誰にも頼らんて、なんで?
「夕陽、お前、イジメられてんねやろ?」
夕陽が目をまんまるにした。図星やっ!
「誰かに頼れよ」
「やめてっ、私はイジメられてなんかないの!やだ、お願いだからタッキー、私に話しかけないで!」
夕陽は必死そうに訴えてた。苦しそうや。
「しずか、どーしたん?大樹くん?」
しずかの母さんが玄関から顔を出した。驚愕した。だって、夕陽の方見たら、めっちゃニコニコ〜って笑ってた…
「ううん。何もないわ。…あ、タッキー、私宿題しないと。じゃあね」
怖いほどの笑顔で俺に会釈して、家ん中に消えてった。夕陽の母さんも俺に「ありがとう」って言うて帰ってもうた。なんであいつは人を頼ろうとしいひんねんやろう?
霧谷も同じや。なんで人に悩みを打ち明けへんねんやろう?
それが、俺の疑問やった。
翌日の学校では、思った通り夕陽が俺に話しかけることはなかった。霧谷も、口数が減ったような気がする。
でも、思い切って霧谷には聞いてみよ。
「なあ、霧谷。昨日さ、俺が喜島って言ったらなんかめっちゃ暗なったやんな?」
霧谷は、うつむいた。
「おい、なんかあったら言えよ。聞いたるって。心配やねん。」
俺が霧谷の肩に手をかけようとしたその瞬間っ!
「タ、タッキー、ちょっとこっちに来てっ!」
ぐいと手を掴まれた。暁月やった。痛っ、あいつ、こんなに力あったっけ?
「何?」
「えっ、あの、リオンが呼んでる」
「今?今は嫌や。」
生島なら断る。めんどくさい奴とは関わりたくもない。
「で、でも…」
暁月は困惑した表情で生島たちの方をちらっと見た。生島がつかつかと歩み寄ってくる。
「タッキー、今日空いてる?」
空いてるけど、嫌。
「今日はギターの日やから無理。」
「えっ!?ギターって、木曜日やろ?今日火曜日やで。」
わかってるわ、そんなん。てか、俺のレッスン日が木曜日やってなんで知ってるん?関わってくるなよ。
「振替レッスンで今日になった。」
「えー、そうなんや…せっかくタッキーのiPhone見ようと思ったのに。」
見んくていいっ!
「他人のiPhoneなんてどーでもいいやろ。関わらんといて。」
言ってやった。
「ひどいっ!」
生島は、顔を真っ赤にして走り去っていった。側近の阿部は、不細工な顔に乗っかってる目を吊り上げて俺を睨んだ。
「タッキー、最低。」
別にお前らに最低って言われてもいいし。無視無視。
周りの女子らは、変な目つきで俺を見てた。嫌な感じや。
こういう時…あれっ、ヤッキどこ行った?
そういや…昨日ヤッキとケンカしたんやった。よりにもよってこんな時に。ケンカせえへんかったらよかったわぁ…
反省したところで、ヤッキとの関係が戻るわけじゃあない。最、悪。
「ヤッキ、Wii U買ったん!?」
「うん!お母さんはそんなん買ってくれへんから自分で、お小遣いためて。」
「お前、どんな金持ちやねん。お小遣い月々なんぼや?」
5000円。10月だけ6000円。なぜなら、あいつの誕生日は、10月10日。誕生月ボーナスとして1000円プラスされる。…それくらい、俺はあいつのことを知ってる。
「今度お前んち行っていい?マリオ早くしたい!」
「いいで!いつ?」
おい、ちょっと待て!俺が最初にヤッキのWii Uで遊ぶって、ヤッキと約束したやん!
その座が杉原とヤマと郁也になる…!?そんなんおかしいわっ!
「おいっ、俺も行くから!」
ブチ切れた。俺は、4人のところに突進していった。
「タッキー!」
あれっ?ヤッキ、目が…
「タッキー、お前ヤッキに昨日ひどいこと言ったやろ」
杉原が言いおった。は?なんで知ってるん?
「だからこいつ、自分が悪いって心配してて、お前に声かけづらかってんで。」
ヤマが言った。え、ヤッキは全然悪ないのに…ヤッキ、そんなに傷ついてたんや。
「ご、ごめん、ヤッキ。お前悪くないから、俺が悪いって。ほんま昨日はごめん…」
なんか、目を潤ませてるヤッキを見たら、俺まで目の湿度が高くなってきた気が…。
「タッキー、僕もごめんな…冷たいこと言って。もっとちゃんと説明すればよかった。」
ヤッキは天性の泣き虫や。なにかあればすぐ泣いて、俺らをイラってさせてたけど、今日泣いたんは…なんか、めっちゃいい気分になった。
「じゃ、今日集まろ!」
ヤッキが涙を拭いて言った。
「オッケー!」
よっしゃああああ!Wii Uやっ!
「タッキー最低。ギターの振替レッスンなんて嘘やろ…!」
女子がなんかごちゃごちゃ言ってるけど、無視無視。