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最初の疑問符

長い、長ったらしい話になりますが、どうかお付き合いください。

また、吉本新喜劇さんの要素が入ってます。

私は今、満ち足りているのかな?

そう思う。


大阪府S市立篠原(しのはら)小学校6年2組。出席番号30番。名前、暁月(あかつき) (ゆめ)。これ、私のちょっとした情報。あ、わかってると思うけど女子。

性格?うーん、自分では言いづらいけど、一般的でごく普通の人かな?別にこれといった才能もないけど、何もできない子じゃない。成績は平均的。明るくも暗くもない。友達も多くもなく、少なくもない数。

こんなのでいいのかなあって思う。なんだか、このまま進めばずっと同じような波長で生きていく気がする。

だから、何か変わったことが起きてほしいなぁ…って、毎日思いながら学校に通っているの。

…そして今日は、退屈だった夏休みが明けて、3日後の水曜日。いつも通りに、

「行ってきます」

とママに声をかけて家を出た。…やっぱり、こういう言葉も一般的よね。だって、ここは大阪。面白さを求める子がいっぱいいるの。そういう子たちは、例えば、

「いってっきまーーーーーーす!」

とか、

「ママと離れるのは嫌だよぉ〜、うえーん」

とか言って家を出る。もちろん親の方も、本気になんかしない。笑って、

「行ってらっしゃーい!」

と返すだけ。

私だってそんなやりとりをしたら、毎日が楽しくなると思うけれど…恥ずかしい。しかも、家を出るとき、急にそんなことを言い出したら、

「はぁ?頭がおかしくなったの?」

って言われそうだし。話がもっと大事になって、

「精神科の先生のところへ行きましょう」

なんてことになるのも嫌だし。…そこまではいかないか。

そんな話はさておき、今通っている篠原小学校は、私の家から結構近い。家の前のイチョウ並木道(今はまだ緑色)を通って、病院やコンビニのある大通りに出たら左に曲がる。そこから1分くらい、まっすぐに歩けば校門にたどり着く。すごく近いでしょ?だから、登校するときはいつも1人になるの。でも、寂しくはないよ。1人は慣れてるし、別に嫌じゃないから。

校門の前に立っている用務員のおじさんに挨拶して、昇降口にある自分の靴箱に、外靴を入れて上履きを履く。職員室を通り過ぎて、階段を3階まで上って右に曲がればすぐ6年2組の教室。

私は、教室の前のドアから入って、窓際にある自分の席にランドセルを置いた。

「おはよう、ユメ!」

ひまちゃんこと日下ひまりが声をかけてきた。ひまちゃんは、お下げ髪をちょっと揺らした。後ろには、三つ編みのミクと、ショートカットでメガネをかけた住田が立っている。

「おはよう、ひまちゃん、ミク、住田(すみだ)

にっこりと微笑み返す。

「ユメさぁ、家近いのにいつも遅いやん、朝休みあんまり喋られへんやん。」

ミクが言った。

「朝起きられないの…」

あくびが出た。私は、朝型生活ではない。

「ユメ遅刻多いからなぁ。」

住田が言った。ゔ、痛いところをつかれた…毎日ってわけじゃないけど、2ヶ月に1回は必ずやらかしてしまうんです…家は近いのだけれど。

「きゃー!リオン、『いきものがかり』のライブチケット、取れたん!?」

「ええー!?マジで!?」

教室の後ろの端で、女子が5人くらいかたまってきゃあきゃあはしゃいでいる。クラスで、いや学年で1番華やかなグループ。中心にいるのは、リオンこと生島(いくしま)莉音(りおん)。みんなのアイドル的存在で、リオンの周りにはいつも可愛くておしゃれで明るい子たちが集まっている。そして、彼女たちはこの頃、軽音にハマっているらしい。休み時間は、グループのみんなでライブごっこをしている。歌もダンスも、ものすごく上手だからみんなの憧れの的になっているの。ひまちゃんは、羨ましそうに目を細めた。

その時、朝休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。私は、ひまちゃんとミクと住田に手を振って、急いで自分の席に着いた。あたりを見回すと、みんな席に着いたみたい。私は前を向いた。ちょうど、担任の西村(にしむら)先生がドアを開けて入ってくるところだった。

「今日は、みんなに新しいクラスメートを紹介する。」

はっ!?って、いきなり!?心の準備、できてないよーーー!

転校生なんて、久しぶりだった。2年生の時に私、3年生の時に夕陽(ゆうひ)しずかちゃんがここに転校してきたっきり。あ、実は私、転校生。東京から引っ越してきたから標準語を話すの。でも、ここは大阪。みんな関西弁を使っている。だから、初め標準語を話す私をみんなはからかってたんだけど、今はみんな慣れたみたいでよかったな。

3年生の時に引っ越してきたしずかちゃんは、ちょっと変わった子。理科が大好きで、読む本はいつも「空想科学読本くうそうかがくどくほん」。私は理科より社会の方が好きだし、同じクラスになったのは今年が初めてだから、しずかちゃんとはあんまり話したことがないんだけれど、理科好きの住田と仲がいいみたい。

で、転校生って、どんな子なんだろう!?

「はい、入って。」

西村先生が手招きした。で、入って来たのは…

「わっ…」

「すげぇ……」

サラサラのストレートな髪の毛を垂らして、教壇を踏みしめる音を一切立てず、うつむき加減に入ってきたその子は、手足が白くて長くて細かった。教卓の前に立って少し顔を上げると、凛とした大きな瞳と、口紅を塗ったように真っ赤な唇が見えた。つまり、美人だということ!

男子たちは、顔を真っ赤にして目を輝かせているし、女子も目を丸くしてその子を見ていた。私には、その子がキラキラと光って見えたの。

「はい、自己紹介してください。」

その子は、振り返って先生に軽く会釈すると、私たちの方に顔を向けて少し緊張したようににっこりした。

「今日からこの篠原小学校に通うことになった、霧谷(きりたに)愛乃(あいの)です。よろしくお願いします」

愛乃と名乗ったその子は、そう言った後、しなやかにお辞儀をした。

先生は、先生独特の丸字で黒板に「霧谷愛乃」と白いチョークで書いた。名前もイケてる!「霧谷愛乃」なんて、可愛すぎる!

「じゃあ、今から質疑応答の時間にしよう。霧谷さんに何か質問したい人は、手ぇ上げて。」

先生はそう言った。すると、男子たちが「ハイハイ!」と一斉に手を挙げだした。でも、私は手を挙げなかった。だって、恥ずかしいもの。どうしてみんな目立つことが好きなのかなぁ?

「ただし!霧谷さんが答えたくないような質問は禁止。わかった?」

もう一言付け加えた先生だったけど、誰も聞いていない感じだった。霧谷さんは、困ったように眉毛を下げていた。でも、目は優しく微笑んでいたの。

「はい、大樹(たき)。」

クラスの男子で人気ナンバーワンの、タッキーこと大樹(たき)真一(しんいち)が先生に当てられた。私の後ろに座っている。タッキーは、「やった!」と小さく笑ってから席を立った。

「趣味は何ですか?」

タッキーが言うと、霧谷さんは、もっと微笑んだ。

「ヴァイオリンです。あの、オーケストラで活躍する、弦楽器です。」

バイオリン!?えっと、弦をこすって音を出す難しそうな楽器だよね。私なんて音楽の授業で名前だけちょこっと習っただけなのに?だいいち、バイオリンが趣味の人となんて、初めて会った!

みんなも驚いたようだった。ちゃんと授業を聞いている子はともかく、あまり聞いていない子は、名前を聞いても、

「はあ?」

って感じ。その上、発音もしっかりしていて(霧谷さんは「ヴァイオリン」だけど、私たちは「バイオリン」。「V」の発音が綺麗!)、

「英語!?」

っていう声も聞こえてきた。バイオリンは英語じゃなくて…何語だろう!?

その後、ミクが「前に住んでいたところ」を聞いて、霧谷さんは「紀伊(きい)半島から少し離れた小さい島です」って答えた。離れ島で育ったんだねぇ。方言とかないのかなぁ?

次に、ヤマこと山田(やまだ)登哉(とうや)が「彼氏いるかいないか」を聞いて、霧谷さんは「いません」ってきっぱりと言った。当たり前でしょ…あ、でも、遠距離恋愛もあるかもだけど。霧谷さん、もてそうだし。

「じゃ、次の質問は最後にするわ。しょうもないことは聞くなよ〜」

西村先生が言った。「ええーー」とブーイングが起こったけれど、すぐにみんな手を挙げた。私は、やっぱり手を挙げなかった。

「はい、じゃあ生島。」

リオンが当たった。リオンは、パッチリとした目を見開いて先生に笑いかけ、その視線を霧谷さんに移した。

「霧谷さんは、軽音に興味ありますか?歌謡曲とかでも、ロックでも。」

リオンはそう言った。すると、霧谷さんは少し考えている様子だった。ちょっとだけ沈黙が続いた。リオンは、じっと霧谷さんを見ていた。うん、リオンも美人。

「うーん、どちらかというと、私はクラッシック音楽の方が好きです。ヴァイオリンの曲はクラッシックが多いので…」

おお!クラッシックが好きって、カッコイイなぁ。お嬢様みたい。私も、一応ピアノ習ってるけどクラッシックの曲なんて全然知らないし。

…と私は思ったんだけど、リオンは違ったみたいだった。

「え、そうなんですか…?」

リオンは、沈んでいて悲しそうにそう言った。でも、目はちょっと声とは違った。なんか、ちょっと睨みつけるような、踵を返すような…。い、いや、考え過ぎだよね。だってリオンはすごく優しいもの。

私が転校してきたとき、リオンは私の隣の席だったの。それで、私が標準語を使ってるからみんなが私をからかっていたとき、リオンは「やめたって」って言って止めてくれたの。それからというもの、私は話し方のことでからかわれなくなって、たくさんの友達と出会ったのよ。リオンはいわゆる、私の恩人。こんな風に、リオンはこんな転校生の私でも助けてくれたんだから、霧谷さんを睨んだりなんかしないわ。

リオンが悲しそうにしたのを見て、霧谷さんは急いでこう付け加えた。

「いえ、でも興味がないわけではないんです。ただ、よく知らないだけで…」

でも、リオンの表情は変わらなかった。そして、ずっと霧谷さんを見ながら静かに席に座った。少し、クラスがざわっとした。

霧谷さんも、困った様子でうつむいた。

「じゃあ、霧谷さんはえっと、大樹の横の席に座って。大樹、霧谷さんにいろいろ教えてや。あと、霧谷さんの分の教科書とか、まだ届いてないから、見したって。」

ざわめきを止めるように、大きな声で西村先生が言った。タッキーは、「ほーい」と返事した。

霧谷さんは、「ありがとうございます」と先生に礼して、私の近くを通り過ぎて、私の後ろにいるタッキーの横に座った。近くで見ても、やっぱり美人!

先生が話し出したので、私は急いで視線を前に向けた。そしたら!

リオンが、同じグループのヤヨこと阿部(あべ)弥生(やよい)とこっちの方を向いてヒソヒソと喋っているのが見えた。こっちの方っていうのは、私じゃなくて…

私は思わず後ろを振り向いた。霧谷さんが、「ありがとう」と、タッキーに微笑みかけるところだった。

ああ、嫉妬だね。


そもそも、リオンが軽音にハマり出したのはタッキーが、ギターをリオンたちの前で演奏したから。

タッキーは、ギターを習っていることをずっと隠していたんだけど、タッキーの親友のヤッキこと(みね)泰紀(やすき)(今私の横でノートに漫画描きながら鼻をほじくってる…)が、夏休み前のゆるーい空気の中でそのことをバラしてしまったの。それを聞いたリオンたちは、タッキーの家に押しかけてギターを演奏してもらったらしい。…で、軽音に興味を持ったんだって。

要するに、リオンはタッキーのことが好きなの。まあ、タッキーは勉強もまあまあできる、運動神経抜群、顔もイケてるからね。わ、私は別に男の子には興味ないからタッキーにも興味ないんだけど。

「じゃ、机くっつけて班のメンバーで話し合って。」

わわっ、先生の話、聞いてなかった!

「おーい、暁月?」

1人で慌ててたら、ヤッキが自分の机を私の机にぶつけるところだった。ガダッ。

「あっ、ごめん」

私は急いで机を班の形にくっつけた。で、何を話し合うのー!?何をするかわからないまま、私はチラッと班のメンバーを確認した。タッキー、ヤッキ、霧谷さん、しずかちゃん、私!超個性的メンバーね。(私は個性的なんかじゃないけど!)

「リーダーと、副リーダー、誰かやりたい人おらん?」

タッキーが言った。

「リーダーはタッキーがやったらいいやん。」

ヤッキがすかさず言う。あぁ、何かのリーダーと副リーダーを決めるのね。

「はぁ?俺はやりたくないわ。料理なんて出来ひん。」

タッキーはそう言った。へ、料理?

「暁月か霧谷、夕陽。料理できる?」

ヤッキが聞いてきた。はぁ?なんで料理が関係してくるのー!?

「あか、つきさん?料理できる?」

霧谷さんが、その可愛い声で聞いてきた。どうしよう…私、料理は結構得意。毎朝の弁当も自分で作ってるし、朝ごはんもたまに作る。でも、「料理は得意よ、何でも作れるわ!」なんて言ったらやらしい(・・・・)よね…

私が固まっていると、タッキーが、

「暁月、この前の調理実習で活躍してたやんなぁ?」

と言った。気付かれたっ!リーダーなんて私につとまりっこないのに…

「ユメ、料理が上手だって、5年生の時から有名だよ?」

しずかちゃんもタッキーに賛成した。

「あ、そういえばそうやなあ。俺がさぁ、間違えて先に鍋ん中にお肉入れてもうたのを、暁月がめっちゃきれいに取ってくれたの覚えてるわー」

ヤッキまでっ!思い出さなくていいのに…でも、こんなに存在感ない私のこと、覚えてくれてるんだ…ちょっといい気分になっちゃったかも。

「す、すごい!暁月さん、リ、リーダーは嫌?」

霧谷さんが言った。うーん、やってあげようかな?

「じゃ、じゃあ、私やろうか?」

そう言ってみた。

「お、暁月めずらしーやん。でも、暁月器用そうやし、先生の話ちゃんと聞いてそうやし、案外いけるんちゃうん?」

ヤッキが言った。「案外」ってなによっ!でも、まーいいや。

「ありがとう、暁月さん」

霧谷さんが言った。

「じゃあさ、副リーダーは俺でいい?」

タッキーが得意げな表情でそう言った。やっぱりリーダー、やりたかったのかな?でも班のみんなはうん、とうなずいている。

「タッキー、リーダーやりたかったの?」

ちょっと聞いてみた。

「はぁ?副リーダーの仕事は絶対俺やろ?」

え?

「おい、暁月。もしかして先生のお話をちゃんと聞いてなかったのですかぁー?」

ヤッキが冷やかしてきた。くっ、気付かれたっ。

「ごめん、聞いてなかった…」

ここはやっぱり素直に謝っとこ。

「意外!暁月聞いてなかったん!?」

タッキーがちょっと大きな声で言った。静かにしてよー。

「副リーダーの仕事は運搬作業だから。」

しずかちゃんが言った。あぁ、だからか。タッキー、力強いもんね。自分で自覚するくらい。

「お前の仕事は、飯ごう炊さんの時の指示役。」

タッキーが言った。

「あぁ、今度の林間学校の話ね。」

やっと分かった。私たちは、10月の初めに、林間に行くの。修学旅行とかじゃなくて、ね。先生はその話をしていたんだ。

「おいおい、そこから!?」

ヤッキがまた冷やかしてくる。聞いてなくてすいませんっ!

「暁月がリーダーで大丈夫か…」

タッキーまで…いや、別にリーダーなんてやりたいわけじゃないんですけど。

…ん?喋ってるの、私たちの班だけじゃん!

「おーい、転校生が来て嬉しいと思うけど、僕の話は聞こっかー」

西村先生がちょっと笑って言った。

「ご、ごめんなさい…」

私と霧谷さんはそう言った。それも、ほぼ同時!霧谷さんは、「あははっ」って笑った。可愛いっ!なんか、霧谷さんと、仲良くなれそうだな。

って、和んでいた私は甘かったんだよねぇ…。前を向いたら、リオンとヤヨの表情が見えてしまった。ううっ、怖い…。嫉妬心って、そんなに強いのかなぁ…。私は恋とかしたことないから、よくわかんないや。

「今回の林間学校の目的は、知らない土地での作業を、6年間付き合ってきた仲間と分け合い、卒業までにもっと絆を深めるということや。霧谷さんはまだここに来たばっかりやけど、6年間の友情に匹敵するくらいの友情をこの機会に作ろうな。」

西村先生は、時々拳で教卓を叩きながらそう言った。なんか熱いな…

「こーいうのさぁ、ドラマの受け売りで見たような気ぃする…」

タッキーが、小声で霧谷さんにそう言うのが聞こえた。霧谷さんは、ププッと吹き出した。霧谷さんって、よく笑うんだな。

そう思ったとき、ちょうどチャイムが鳴った。先生は、「じゃ、終わりー」って言って職員室に戻っていった。

「あ、あの、暁月さん」

霧谷さんが私の背中をつついた。

「なぁに?」

やっぱり可愛いなぁ。

「下の名前、なんていうの?」

なんだ、そんなことか。

「夢。暁月夢よ。フツーに『夢中』の『夢』っていう字。あ、私は『ユメ』って呼ばれてるの。ちなみにカタカナで。」

私がそう言うと、霧谷さんは目を輝かせた。

「夢!すごいいい名前!いいなぁ、うらやましい!」

え、そんなに?私は「愛乃」の方がいいと思うけどなぁ。可愛いもん。

「私は『愛乃』の方がいいと思うけどなぁ。あ、そうだ、私霧谷さんのことなんて呼べばいい?『愛乃ちゃん』か、『愛ちゃん』か…」

「えっ、前の学校では『アイ』だったけれど…」

「じゃ、『アイちゃん』でいい?」

「うん、いいよ!じゃあ私は『夢ちゃん』でいい?『夢』っていう名前、好きだから。」

ん、いいよ!

「ちょ、ちょっと、ユメ!」

いきなり後ろから声をかけられて、びっくりした。ひまちゃんだった。

「周りをよう見て。特に、向こう」

小声でそう言って、目で教室の後ろの方を指す。そこにはっ!リオン、ヤヨ、さなちゃん、凪紗(なぎさ)ちゃん、ミッキー、トッポ、えりんぎ…あのリオンメンバーが揃ってこっちを睨みつけていた!今のは、完全に私と霧谷さん、いや、アイちゃんに視線が向いていた。

「ユメ、行こうっ」

ミクが私の腕を引っ張って、廊下に出た。と同時に、リオングループも一緒に廊下に出てきた。

「なぁ、ユメ。霧谷、アイツ空気全く読んでないで?わかるやんなぁ?」

リオンが言った。うっ、名字の呼び捨て!

「アイツと付き合ってたら、ユメもKYなってまうで。それでもええん?」

ヤヨが付け加えた。

私は、迷った。アイちゃんは決して悪いヤツなんかじゃない。でも、ここでリオングループに逆らったら…どうしたらいいの!?

「ユメ、普通に考えてみぃ。ここで迷うことなんかないやろ」

耳のそばで、ひまちゃんが言った。

なんで、ひまちゃんまで!ミクも住田も、何か言ってよ!…と思ったけれど、ミクも住田も、黙ってこっちを見ていた。

「小6も楽しかったなーって思い出にしたいやろ?」

トッポこと徳田(とくだ)芽依(めい)が言った。なんで、なんでみんなそんなこと言えるの!?

「ユメ!やめてや!ミク、ユメが部外者になるとか嫌!」

ミク…。ミクはもう泣きそうだった。私の腕を掴んで必死に頼んでいる。

せっかく友達になったアイちゃんを裏切りたくなんかなかった。でも、ひまちゃんやミク、住田には絶対に迷惑をかけたくないの…。

「わかった。ご、ごめん。もう霧谷さんとはあんまり話さないよ。」

…私はそう言った。みんなが、安堵のため息をつく。

「よかった。…でも、今ユメの信用ちょっと減ってんけど。」

リオンが言った。えっ、それって…?

「今から、あいつのことは『霧谷』って呼んで。ほんで、『霧谷最低』って言ってえや。」

ヤヨがちょっと笑った。そ、そんなっ!いくらなんでも、ひどすぎる…

「ああ、ユメの信用が…」

嘆くようにミッキーが言う。

「ユメ、霧谷は…?」

リオンがうつむいている私の顔を覗き込む。私は、おそるおそる顔を上げて、辺りを見回した。アイちゃんはいない。…アイちゃんならわかってくれるかな…許して、くれるかな…

「…さ、最低…」

言ってしまった。言ってしまった、私、アイちゃんの悪口を、言ってしまった…!

「あっははははー!ユメ、信用元に戻ったよん。」

あざ笑うリオン。こんなリオン、いやだよっ!優しかったリオン。面白くてみんなを笑わせてくれたヤヨ。癒しのさなちゃん。お母さんみたいに面倒見のいい凪紗ちゃん。いつも笑っているミッキー。物知りのトッポ。話の聞き上手なえりんぎ…なんで、なんでみんなあんなこと言えるの!?


でも、1番ダメなのは私。最低なのは私。だって、私はダメなことだってわかってるのに、言ったから。アイちゃんと友達になったのに、裏切ったから。

なんで、なんで私、あんなこと言えるの!?

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