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【第四章】

【第四章 土塊】


「おはようございます、綿貫さん」

「……なんなんだよ」

 己がこの女に「ぶち壊しませんか?」と言われたのが木曜日。その後、金曜日と土曜日のバイト中には買い物に現れはしたが、水曜日のときのような異常に待ち続けられることはなかった。帰り道に彼女と会うこともなかった。己への執着が減ったと考えて良い。

 そんな陽気なことを考えながら日曜日になり、出不精な己が珍しく外出する気分になったので家を出たところで、己は女――白神と再会することになった。簡単な話だ。自宅の前で彼女は待っていた。この前、己を追い掛けた際、自宅の位置を特定されてしまっていたらしい。

 己はそれなりに足が速かったはずだが、それも昔取った杵柄のようだ。

「ストーカーかよ」

「警察、呼びますか?」

 白神はスマホを取り出して、己の答えによってはすぐにでも警察を呼ぶ構えを見せた。

「……いや、良い」

 人の目を気にする己には、そんな判断は下せない。白神だって分かっていて、己をからかっている。

 けれど、己もそうだが、彼女も警察なんて呼べる豪胆な質じゃないだろう。

「いい加減に名前を教えてくださいよ、綿貫さん」

「嫌だ」

「どうしてですか、綿貫さん?」

「名前を教える義理が無い。特にお前には」

 外出の出鼻を挫かれた己は、子供のように反発する。

「えー、日曜日に家の前で女の子が待ってくれているなんて、とても良い日じゃないですか」

 それは交際している女性だったなら嬉しいことだ。しかし、この女と己はそのような関係ではない。そして、女性と話しているはずなのに、驚くほど嬉しくない。

「ほらほら、もうすぐ夏ですから服も薄手の物になって、この前みたいに雨が降ったらスケスケになっちゃって、キャーみたいな」

 テンションが違う。まるで彼女は別次元の存在だ。口にすることは全て、どこかで聞いた漫画やアニメ、小説や映画の焼き回しに感じられる。

「可愛らしさをアピールする女性は嫌いだ」

「ですよねー。そんな風にキャラ付けされたいなら口で言えってものですよねー。でも、女性との経験が皆無そうな綿貫さんに言われることじゃぁありませんけどねー」

 今度は語尾を伸ばすことに拘って来る。一人で十人十色を地で行くつもりではないだろうな。そんなことをされると益々、電波でネジの外れたイカれた女としか思わなくなる。

 けれど、彼女の言っていることは正しい。己には女性が持つ性格の優劣について語る資格は無いのだ。

「それもイメージだろ。俺は女性経験が豊富かも知れない。本心では女性経験が豊富だと思われたいと感じているかも知れない」

「ただのヤリチンじゃないですか」

「っ!!」

 面喰らった。

 はしたない言葉を遣う女性というものを、己は初めて目にした。そのせいか、カルチャーショックにも似たものが全身を駆け巡った。

「うわー、それだけ慌てられたら女性経験豊富そうに見えない」

「……っるさい」

「言っておきますけど、これがふつーですからね。女性経験が豊富じゃない綿貫さんはきっと、女性は清廉潔白で、言葉の端々に綺麗さや華麗さがあって、汚い言葉なんてこれっぽっちも口にしないとか思ってたんでしょうけど」

「そんな風には思ってない」

「嘘だー」

 語尾を伸ばす感じが気に入っているのか、白神は耳障りにも続けている。そう聞こえてしまうのは、コンプレックスを指摘されたせいもある。

「イメージを押し付けられて縛り付けられているだけじゃなく、イメージして自分自身を縛り上げているドMでもあったんですねー」

「死ね、死ね死ね死ね」

 子供のように連呼するが、ちっとも白神は堪えていない。

「そうやって、俺をからかう感じからすると、お前は男性経験が豊富そうだな」

「ですねー。処女を捨てたのが高校一年生くらいで…………今の顔、物凄かったですよ。なんなんですか、気持ち悪いです」

 お前にだけは言われたくない。

 思いは言葉にならない。

 こんな女でも、ヤることはヤっている。なのにこんな己は、ヤることもヤれていない。白神にすら己は劣っているのだと思うと、やるせない。

「あのー、真に受けられると困るんですよ。私、処女ですし」

「だ、からなんだって言うんだよ。そんなこと宣言されたって、別にどうとも思わないし」

「態度が露骨なんですけど」

 確かに己の声は上擦っていた。彼女が処女だから嬉しいのではなく、異性と未経験である同族意識が己に嬉しさを突き付けて来た。

 同族嫌悪しているはずなのに、変なところで同族であることにホッとしている。己の翻りの速さは尋常ではなかった。これでは、現実に満足している輩と変わらない。

「けど、事実は事実だろ。お前が処女だろうと、俺が童貞だろうと、宣言したところでなにか変わりがあるのか?」

 己は訊ねる。「童貞」と口にするとき、一寸ほど覚悟したのは黙っておく。コンプレックスとは口にすることを躊躇うことばかりなのだから、相応に覚悟するのは当然のことだ。

 白神はなにも言い返さない。

 いや、表情には出ていた。

「……なに赤くなってんだよ」

「ど、どどど、童貞とか、なに言っちゃってんですか!?」

 しどろもどろに、己のコンプレックスを声高に言ってしまった白神に殺意を覚えたが、しかし慌てふためき頬を朱色に染めている様を見ていると、そんな殺意すら馬鹿馬鹿しく思えてしまった。

「お前も一緒じゃん」

「違いますよ。私、童貞とか平気で言えますし」

「ふざけんな、なに平気で言ってんだよ!?」

 今度は己が慌てふためく。

「俺だって処女とか平気で言えるっつの」

「なに平気で言っちゃってるんですか?!」

 このやり取りは、なんだか果てしないほどにウザいバカップルの図そのものだが、表面上だけでその内奥は別物だ。

 己は女性が清廉潔白であると信じて生きており、彼女は男が好青年であると信じて生きて来た。だからこそ、互いに異性に対するイメージの押し付けが起きていた。

 女性は、はしたない言葉を遣わない。男は、女性の前では下ネタを口にしない。

 前者は己が抱き、後者は白神が抱いている異性への固定観念である。男と女性の混ざったコミュニティではなく、別々に隔離されたコミュニティに属していると起こるイメージの創造が、ここで露呈していた。

「……そういえば、お前は負け犬だったな」

「綿貫さんだって負け犬じゃないですか」

 白神のそれはムキになって言い返したものだが、己の言葉は再確認である。彼女の方からは確かに負け犬のオーラが漂っていて、その雰囲気から鼻が詰まりそうになる。己がいつも発している臭いとほぼ変わらない。

 負け犬が、輝かしい栄光に満ちた人生を歩んでいるわけがない。己がそうであるように、白神もまたなにかしらの理由を持って、負け犬としての燻った人生を歩んでいる。どういった人生であるかは己は知ろうとも思わないが、少なくとも目を向けられるものじゃないのは分かる。

 己のように惨めで、己のように陰気で、己のように裏切られた。だとすれば、彼女もまたイメージを押し付けられ、そのイメージに縛られた人間の一人なのかも知れない。

 だからこそ、キャラ付けの判断を付かせないように振る舞う。かわい子ぶったり、語尾を伸ばしてみたりと、どこかで見聞きしたキャラの焼き回しを用いるのもそのせいか。

「な、なに勝手に納得しているんですか。綿貫さんが考えていることなんて、大抵は外れていますからね」

 白神は胸元を隠すように手を動かすが、己はそんなところに目を向けてなど居ないし、そもそも彼女の姿に焦点を合わせてすらいない。それではなにをしていたのかと言うと、物凄く普遍的なことであるが、我を忘れて同情していた。

 理屈にうるさい己は自身の中で納得できるものが無ければ人付き合いができない。だから、己がこれから彼女に関わろうとするのなら、それはきっと全て同情から来るものに違いない。

「卑猥な言葉を互いに言い合えば、異性への妙な理想像は崩れるんじゃないか?」

「それ、罪に問われませんか?」

「互いに了承していれば良いんじゃないか?」

「最終的にラブホに連れ込んで、セックスする気じゃ無いですよね」

 女性に幻滅しそうになったが、これが試みとしては正しいのである。問題は、理想像や幻想を容易く壊しに来る異性がこの白神 舞である点だ。この女に理想の全てを覆されるのだと思うと、気が滅入る。だがこれもまた、試みとしては正しいのである。問題は、己が思っていた以上に精神へのダメージが大きい点だ。

 正しさと同時に問題が生じているが、これもまた試行錯誤と呼んで良いのだろうか。

「それじゃ、思う限りの卑猥な言葉を並べ立てましょう」

「人前でやるようなことじゃないけどな」

 大通りには出ていないにせよ、屋外である時点で己たちはそれ相応の危険性を孕んでいる。猥褻物陳列罪と呼ばれる罪を、己はコメディ色の強いアニメの映画で知ったが、通報されればそういった類の罪状で捕まってしまうのだろうか。

「これがいわゆるアブノーマルな野外プレイってやつですね」

「違う気がする」

 けれど合っているような気もする。

「それでは、私が綿貫さんの女性像をぶち壊してあげます」

 そんな前置きを述べてから、白神は己の中のイメージを文字通りにぶち壊しにするほどの、卑猥で、いやらしく、そして性知識として間違っていることと正しいことをぶち撒けた。不覚ながらも己は白神が並べ立てる単語の数々に興奮した。

 その後、己もまた偏った性知識の数々を披露する。これについては、聞くに耐えない酷いもので、発言している側の己も楽しくはなかった。どうやら己には、こういったことでは性的興奮を覚えることはないらしい。する側よりもさせる側の人間なのだと思い知る。まぁ、だからといって今後とも、彼女に卑猥なことを要求し続けるようなことは決して無いが。

「それでその成年漫画だと、」

「あの……もう限界なんですけど、まだ続ける気、ですか?」

 白神はモジモジしていた。モジモジしている風に装っていた。この女が猥談ぐらいで恥ずかしがるものか。処女であることは事実であろうと、そこから来る恥ずかしさなど、全てが演技にしか見えない。ただ彼女は、己の態度に合わせているだけなのだ。

「お前が本当に恥ずかしいと思うくらいまで続けようと思っていたんだが」

「ドSですね」

 しかし、この言葉には演技ではない素が見えた気もするのだが。

「なのかも知れない」

 幻滅し切っているので、もう性的な戸惑いを起こさなくなった。女性の現実に打ちのめされて、恋愛なんて懲り懲りだと思ってしまっているのは思わぬ後遺症だが、女性との縁がもう一生無いのだとすれば、この程度の後遺症などあってないようなものだ。

 きっと、一生無い。己にとっては初恋が全てだった。しかしその初恋も、己は満たしもせず、満たそうともせず、ただの怠慢でずっと恋い焦がれていた人を奪われてしまったのだ。責任は己にある。しかし、そうと分かっていても、気持ちの整理は付かない。沢渡さんが結婚するという男を恨まずにはいられない。

 だってその男は、沢渡さんの体を知っているのだ。どのような服が好みで、どのような下着を着けて、そしてどのように肌を重ねるのか。なにもかもを手にしている。それがたまらないほどに悔しく、たまらないほどに羨ましい。

 だから一生無いのだ。こうして砕け散った初恋に未だネチネチと執着しているから、己にはもう恋をする感覚なんて訪れない。どう恋をするのかも分からない。白神 舞など論外である。容姿は良くとも性格が悪いのであれば、魅力を感じても、恋愛感情に発展しないことがあるのだと、己は彼女を前にして分かった。女性に耐性が無い分、見た目だけでも恋をするんじゃないかと己の純真さに期待をしたが、どうやらそんなことは無いようだ。

「お前、日曜日に予定とか入れてないの?」

 下世話なことを喋るだけ喋り切ったのちに別れると、その印象だけが強烈に残ってしまって、彼女のことを変質者に脳内が分類しかねない。

「私は負け犬ですよ? 負け犬の綿貫さんと同じでスケジュールなんて真っ白に決まっているじゃないですか」

 負け犬と言えばなにもかもが通用するとでも思っているらしい。が、これもまた強ち間違いではないので否定できない。

「真っ白なスケジュールなら家から出るなよ」

「それは綿貫さんにも言えることじゃありませんか?」

「俺が反発しても、全て俺自身に返って来るんだよな」

 白神を批判することは同時に己を批判することに繋がる。だとすれば、彼女のことを鬱陶しいとか気持ち悪いと感じるのはいわゆる同族嫌悪なのだろう。表裏一体、一心同体などと清々しい言葉で表現はしたくない。

「分かっているなら、私に文句を言うのはやめてもらえませんか」

 そう言って、彼女は己の前に立ってから翻る。

「真っ白なスケジュールの綿貫さん。今日は一緒にどこへ行きますか?」

「一緒にどこにも行かない」

「私にあれだけの恥辱を味わわせておいて、あんまりです」

「お前だけじゃないからな」

「もう顔も合わせられません」

「嘘を言うな」

 現に今、白神は己の方をジッと見ている。言葉の意味を理解していないんじゃないか。

「そんな顔も合わせられない綿貫さん」

「その言い方はムカつく」

「今日は日曜日、なにか大切なことをお忘れなんじゃないでしょうか」

 言われて己は今日になにか予定を入れていたかどうかを再確認する。スケジュールは真っ白のはずだ。一つ二つ予定が入ればそこだけ目立つはずだから、間違いない。こんなことを力強く言い切ってしまうのも己の本質の内である。

「なにも無い」

「そんなはずありません。今日はあの日じゃないですか」

 白神がどうして己のスケジュールにとやかく言えるのか。それを訊いても、彼女はきっとはぐらかすだろう。なんにせよ、己が本当に大切なことを忘れている場合もあるにはある。聞かずにあとで悔いることにならないよう、ここは彼女の言葉に耳を傾けるべきだ。

「なんの日だ?」

「同窓会」

 嫌な単語だった。想い出が圧力となって己を押し潰しに掛かる。体を伝う血流が、ほんの少しだけ鈍くなったのを感じ、体中の熱が下がって行く。白神は青褪めているだろう己の顔を見ながら、更に不躾に続ける。

「高校の三年生のクラス同窓会。今日じゃありませんか?」

 学年だろうとクラスだろうと、その言葉は苦痛以外の何物でもない。だって己にとっては高校時代そのものが暗黒期なのだ。神様に一つ願いを叶えられるとすれば、己は間違いなく高校時代の記憶を消してくれと懇願する。そういったレベルで己はその頃を忘れてしまいたい。

「だから?」

「メールだって届いているでしょう?」

 思い返せば一ヶ月ほど前。バイト中にメールの受信があって、そこには知らないアドレスから「長井です」というタイトルから始まる長ったらしい同窓会への案内メールが届いていた。

 特に後半には、己には是非、同窓会に来て欲しいという旨が書かれており、参加費についても己だけは彼が工面するという内容が書かれていた。

 彼――長井は己の親友だった。過去形であって、既に切った関係である。己のメルアドを彼が知っているのは、高校時代からメルアドを変更していないからで、己が彼のメルアドを登録していないのは、登録していたけれど削除していたからだ。長井からは何度かメルアド変更のメールが届いたことがあるが、それも高校を卒業した半月後ぐらいから無くなった。

 だから、己よりあとに長井もまた己との関係を切ったのだ。にも関わらず、長井は己にメールを寄越した。それも同窓会の案内メールともなれば、最後まで読み終えたのち躊躇せずに削除することができた。行くつもりなんて毛頭無かったし、白神に言われるまでは忘れていたはずのことだ。

 本当に忘れていたのか? と裏面の己が訊いて来るが、それについては無視をする。

「俺に行けって言っているのか? ってか、どうしてお前が俺の高校の、俺の学年の、俺のクラスの同窓会予定日を知っているんだ」

「それは秘密です」

 口元に人差し指を当てて、キャラ付けの焼き回しのようなお決まりのポーズを取る。白神のキャラはやはり己の中で安定しない。

「行かないよ」

「行きましょう」

「行かないって!」

「それじゃイメージをぶち壊すことだってできませんよ?」

 ぶち壊す? 同窓会に顔を出して、己のイメージをぶち壊す? そんなことをしたら雰囲気までぶち壊してしまう。なんの得になる? なんの利益を生む? 同い年の人間に悪い印象を与えていると、己の後々の人生において枷となってしまうのではないか。

 なにもかもが悪い方向に働くに決まっている。己が行っても場違いであるし、間違いだ。長井だって己にメールなんて寄越したが、内心では「来るな」と願っているに決まっている。

「俺はこれで良いんだよ。高校時代なんてどうだって良い。大学時代の友達が片手で数える程度しか居ないけど、それで満足している」

「だったら、どうして躊躇うんですか? どうして嫌がるんですか?」

 白神は己に詰め寄る。その顔に、その瞳に圧が込められている。強い眼差しだった。同じ負け犬のクセに、己にはないものを彼女はは備えているらしい。

「なんの得にもならないから」

「ふざけないでください。私は綿貫さんの押し付けられたイメージをぶち壊すことに協力したいって言っているんです。なのになんでそれを拒むんですか、なんでそれを嫌がるんですか。あなたはぶち壊すことを面白そうだと言った。そして私を受け入れた。だったらあなたに拒否権なんて最初から、無いんですよ」

 まくし立てるように言い切る白神に、己は視線を合わせることができずに逸らす。

「負け犬の視線にすら逃げ出しているようじゃ、綿貫さんは負け犬じゃなくて、クズです」

「負け犬とクズはどう違うんだ」

「全然違います。クズはクズ。あなたの嫌うあの女子高校生たちと一緒です」

「……それは」

 己はしばし逡巡し、口を開く。

「嫌だな」

「でしょう。負け犬ならまだ辛うじて安心できますけど、クズまで落ちると社会の害悪です。邪魔な存在です。生きる価値なんてゼロになります。それで生きていられますか?」

「生きる価値なんてゼロになっても良いけれど、その状態で生きるのは嫌だ。だからって死にたくもないし、更にクズになる」

「だったら、綿貫さんのすることは一つです」

 説得されたのか諭されたのか、はたまた洗脳されたのか。己は気付けば首を縦に振っていた。己の中にあった価値観や倫理観がズレ始める。己が大切だろうと思っているモラルだけを残し、他のものを全て側溝に捨てるが如く、放り出しそうになる。

 けれど、馬鹿にはなれない。己はやはり、偏屈で物事を考える生き物なのだ。

「場所が分からない」

「あとで教えます。時間も教えます。だから」

 白神は飛び切りの、焼き回しの笑顔を作る。

「一緒にカラオケで時間を潰しちゃいましょう、綿貫さん」

「お前は……なんなんだよ」

「綿貫さんの同窓会を知っているのだって、私があなたの前に現れたのだって、全部全部理由があるんですよ? それもあなたが不必要だと思って捨ててしまった記憶の欠片の中に」

「なに小説みたいな言い回しをしているんだよ」

「事実は小説より奇なり、って言うじゃありませんか」

 確かに白神は小説の中に登場しそうでしない、焼き回しの人物だった。



 白神とカラオケに行ったのは午後からだった。それというのも、己の同窓会なるものが催されるのが夕方の六時からで、それまでずっと彼女とカラオケボックスにこもりっ放しなんて己が耐えられないためだ。だから己たちは一度別れ、昼食を別々に済まして駅前のカラオケボックスで再会した。彼女と一緒にカラオケボックスで昼食を済ませば言い話にも関わらず、己はそれを強く拒絶したことで甚だ面倒くさいことになってしまったのだが、白神は決して不満を口にすることはなかった。その点から見ても、白神もまた人と長く一緒に居るのを嫌う面があるのだろうと窺い知ることができた。つい最近に知り合った異性と密室で二人切りなど、よほどの精神の持ち主でなければ耐えられることじゃない。

「歌のチョイスが分からない」

 そして己は再会した白神と、要望通りにカラオケボックスでおよそ三時間ほどを潰した。その間の彼女のテンションは、多重人格者ではないかと疑うほどに右に左に大揺れだった。そうまでしてキャラ付けを嫌い、本質を隠そうと努める様は見るに絶えず、指摘するべきことだったのかも知れないが、己は決してそれを口に出しはしなかった。人間関係を大切にしない己が珍しく見せた気遣いだ。

「幅が広いって言ってください」

「アニメに幅が広いもなにもねぇよ」

「アニソンって知っているじゃないですか。意外とアニオタですか?」

「オタクじゃない」

「負け犬ですもんね」

 そういう意味で言ったわけではないけれど、何故だか綺麗な顔をして言った白神に、己は言い返す気力を失った。

「深夜アニメ、面白いから」

「知ってますよ、私も見てますもん。アニメソングを馬鹿にする人ってたくさん居ますけど、歌詞を見てみると案外、名曲と変わらないところありますよね。まー、名曲と肩を並べているかっていうと、これまた微妙な位置だとは思うんですけど」

「そんなことを熱く語られても分からない」

 見ている深夜アニメだって一本や二本ぐらいだし、OPやEDの曲も真面目に聴いたことはほとんど無い。

「綿貫さんがアニメに熱中してオタクになってしまっても、それはそれでイメージの破壊に成功しているって私は思いますけど」

「本意じゃないだろ」

「はい、不本意な結果になると思います」

「お前は俺をどうしたいんだよ。どういうイメージで固めてもらいたいんだよ」

「さぁ……? それは綿貫さんだけが知っているんじゃないですか」

 己が思っている己の通りに動け。そう言いたいのだろうか。

 白神はフワフワのスカートの裾を掴み、ヒラヒラと中に風を送っている。見るからにはしたない。しかし、スカートでも熱がこもることがあるらしく、特にカラオケなどに熱中してしまえばそれは酷いらしい。エアコンも効いていて、己としては快適な空間だったのだが、男女で涼しさの度合いには差異があるらしいから、彼女が暑かったのならそれは暑かったのだろう。

 スカートから見えるスラリと伸びた足。特にヒラヒラさせるたびに垣間見える太股が眩しい。容姿だけは本当に出来ているのだから、腹立たしい。これで己と同等の容姿だったなら、見向きもしないのに、喰い入るように見てしまった。

 それについて白神はなにも言っては来なかったし、見られていても大して気にも留めていないようだった。

「スカートって、色々あるけど、なんであんな短いのを履いたりするんだ?」

「足が長く見えるんですよ。肌色面積とか絶対領域とかで、男性はメロメロらしいです」

「……らしいってなんだ?」

「私、異常に短いのは履かないんで。これ、精一杯なんですよね。どうですか?」

 裾から手を離し、白神はその場でクルンッと回った。己には短く感じる。もう少し長めのスカートを履いても構わないんじゃないか。そう言いそうになったが、これも女性は皆、慎ましくあるべきだという身勝手なイメージの押し付けとなるため、すんでのところで抑えた。そして、白神の問いは恐らく「このスカートを履いている私は綺麗ですか?」という意味が込められたものだろうと解釈する。

「自分が似合っていると思うんなら、他人に意見を求めるな」

「…………綿貫さん、女性に対して冷たすぎません? 女の子女の子している子が好みっぽいですけど、そういう子だって今の綿貫さんの台詞には呆れちゃいますよ」

 感心しません、と彼女は続けたのち焼き回しの怒った風な顔をする。いわゆる、ぷんぷんというやつだが、やはりオリジナリティを感じない。メディアではよく見る一風景だ。

 己は驚くほどに淡白で、驚くほどに白神に恋愛なるものを感じない。ドキリともしない。恐怖の意味でドキリとはするが。

 彼女はこれからもそうやって、己の前では焼き回しのキャラをクルクルとローテーションさせて行くのだろうか。だからってやめろと無理強いすることはできない。だって、己は驚くほどに白神に要求を突き付けることができないのだから。彼女がそうであろうとしているのなら、そうであって良いんじゃないかとすぐに結論に至ってしまう。これにもまた同じ表現を用いるが、驚くほどに興味が無い。

「もうすぐ六時だな」

「はい、もうすぐ六時です。行きましょう」

「場所は?」

「繁華街の方です」

 つまり山城が一人暮らしをしているところだ。働く人がこぞって降りる場所。人の波に酔ってしまうほど人に溢れた街だ。この時間ともなると、その数はこの前の比じゃない。ついでに日曜日と来ている。降りる人も乗る人も数え切れないだろう。

「最悪だな」

「小洒落たお店で同窓会と行きたいんでしょ。その観念はよく分からないですけど」

 己にも分からない。多数で集まってワイワイガヤガヤと騒いでなにが楽しいのだろうか。それよりも気心の知れた小数の友人で集まっての飲み会の方がずっと良い。ゆったりとできるし、無理して騒がなくて良いとも思えば、気楽なものだ。

 高校を卒業後、会わなくなった友人と会って、そこでまた同等に友好関係を築けるのなら、楽しいだろう。そして大多数はきっと、そういうまともな観念の持ち主なのだろう。己や白神などはきっとその外側に居る。だから、本当に己が同窓会に行く意味とは、彼女に言われた通りにイメージをぶち壊しに行くこと以外に無いのだ。

 駅の改札口を二人揃って抜けて、電車を待つ。

「傍目からは恋人同士に見えません?」

「見えねぇよ」

 即答すると、彼女はしゅんとした風に装う。まぁ、女友達ぐらいの誤解は受けるかも知れないが、決してそれ以上は無いだろう。

「言っておくが、高校時代は最悪だったんだ」

「黒歴史ですか」

「それ、自分に強い力があるとか、世界を動かせるだけの才能があるとか思っている時期のことじゃないのか」

「それはそれで中二病とか言います。邪気眼との区別はちょっと曖昧ですけど」

 しかし、そういったヤンチャしてしまうような心持ちで過ごした高校時代じゃないのだ。だから黒歴史とは呼べない。

 電車が来たので、降車する人を見送ったのち、己たちは電車に乗る。三つ先の駅で降りるにはエスカレーターや階段から酷く離れた車両に乗ることで、混雑を避ける上に空いていた座席に腰を降ろすことさえできた。

 負け犬が揃って二人、座る。隣に白神が居ても、やはりドキドキはしなかった。人が気心の知れた相手にしか許さない距離感をヌメッとした感覚と共に悠々と詰めて来られても、ああ混雑しているから席を詰めているんだな程度にしか思えない。

 やはり、己にとって白神は恋愛対象ではないのだ。

「最悪だったんだよ」

 もう一度、最悪という言葉を口にする。横目で白神の様子を窺うが、瞼を閉じてこちらの話を聞いているのか聞いていないのか分からない。電車の音と周囲の人の声で己の声なんて誰も耳には入れていないだろう。なにより、他人の話に集中できるほど車内が空いているわけでもない。

「俺は長井と親友だった。小学校も中学校も一緒だったし、クラスも同じだったことも多くて、気付けば友達になっていた。あとから聞いた話じゃ、幼稚園も一緒だったらしい。まぁそれくらいそいつとは縁があったんだ」

 自分語りを始めるイタい人。そう思われようがどうだって良い。もう熱が入った。カラオケのときには無かった熱が、心の奥底で発せられている。

「楽しかったよ。物凄く楽しかった。インドア派な俺も、外で遊ぶのも悪くないなってくらいには楽しかった。外で少数だったけど野球みたいなこともしたしな。思い出すだけでも、あの頃が一番楽しかったんだって言い切れるくらいに楽しかった。高校の志望校が一緒だって知ったとき、嬉しかったよ。で、絶対に合格してやるぞって気合いを入れて勉強に励んだ。まぁ、その前後にちょっとばかり家の事情で勉強を頑張らなきゃなとも思っていたから、ついでみたいなものだよ。で、揃って合格した。『やったー』って二人揃って叫んださ。急いで受験票を合格証書に交換してもらって、電話で家族に合格のことを伝えたあとは、帰り道が別れるまで試験の問題について話し合ったよ。合格が発表されるまで一切、俺もあいつも試験で出た問題について話さなかったのに、だ。あそこはああだった、ここはこう間違えた。まぁ、終わったことだし正直に話した。思えば、あれは青春だった」

 こうして省みれば、己の中の青春は中学時代で終わったのだ。そのときが一番、情熱に満ち溢れていたし、一番、恋に焦がれていた。そして友情を大切にしていた。中学時代には全部が詰まっていた。どこかの雑誌が掲げる友情、努力、勝利の全てがあったんだ。恋愛要素は少々、足りなかったけど。

「環境が変わって、高校生になって、新しい友達を作ろうって思って始業式に臨んで、そして自分のクラスの教室に入った。『あ、違うな』って俺はそのとき、悟ったんだ。この周囲に居る奴みんな、俺とは違うって。俺と違って、偏屈じゃないって。気付けば俺だけが、違うところに居るみたいな、気付けば俺だけが爪弾きにされていた」

 一人になりたくて一人になったわけではないけれど、己は望んで一人になったのだと思い込んだ。だって、孤高ってなんだか格好良いから。そのときの感情は中二病とか黒歴史とか呼べる代物だったんだろうけど、すぐにそうじゃなくなった。

「入って三ヶ月。夏休みに入る前に消しゴムのカスを投げられてさ、それ、冗談だと思ったんだよ。思って、笑って消しゴムのカスを投げ返したよ。でもさ、それずっと続いて、笑えなくなった。イジられキャラはそれで許せるんだろうけど、俺はそうじゃなかった。イジられキャラっていうイメージの押し付けに俺は耐えられなかったから、反発したんだよ。そうしたら、まるで居ない者みたいに扱い出して、気付けば渾名はエイリアンだった」

「へー」

 白神は己の熱の入った自分語りを、たった一つの相槌だけで済ました。それが何故か己にはとてもありがたかった。慰めなんて求めていないという、己の意思を汲んでくれたのではと勘違いすることにした。彼女はただ、聞き流しているだけだろう。

「それが三年間ずっとだ。地獄だよ、地獄。ほんとに地獄。死ねって言われたし、キモいとも言われた。女子には腫れ物を障るようにされたし、男子には揃って嫌われた。学校は小さな社会って喩える人がいたけど、まさにそれだったね。世の中には除け者にされる者が居て、そういった者を除け者と断定する者がトップに立っていて、そのトップに群がるように除け者にされたくない者が集まる。変わり者は揃って気持ち悪がられて、偏屈な精神を持つ奴はみんな気味悪がられる。三年間を耐えられたのは、奇蹟だ」

 そして声を落とす。

「一番辛いのは、長井に裏切られたことだ。あいつはどう思っていたのか知らないけど、俺はあいつのことを親友だと思っていた。けれど、あいつは俺を除け者扱いした。自分が除け者にされたくないからって、俺を排除した。友情っていうのは打算的なもので、必要が無くなったら捨てるものなんだって知った。それからというもの、俺はずっと疑心暗鬼だ。恋愛、友情、勉強、全てが満足しないままに高校生活は終わった。卒業アルバムの最後のページは、白紙だ」

「白紙なのはよくあることです。私だって、白紙ですから」

 ここに来てようやく白神は己の話を聞いていたんだと把握した。

「世の中、そういう風にできているんです。なのに何故か綿貫さんは死にたいと思っているクセに、ずっと生きている。生きていたいと本心は思っている。それがなんだか、私には特別に見えるんです」

 特別に見えるのは、己が彼女と同じ負け犬だから。きっとここまでの人生の敗北者を彼女は見たことが無かったのだ。

 けれど、排除も裏切りも普通のことなんだ。振り返ってみれば、俺と意気投合しない奴らを俺は関わりの中から排除していた。だからあいつらにとって、俺なんてほんと、その程度の人間だ。だから己は、特別でもなんでもない。

 そうこうしている内に電車が三つ先の駅に停車する。己と白神は降車し、遠くにあるエスカレーターに向かって歩を進める。

「長井は俺になにを求めているんだろうな」

「仲直り、じゃないですか?」

 仲違いで終わったのではなく、向こうから切られた。そして己も連絡先を切り、彼も完全に切った。

 なのにそれを元通りに戻すことってできるのか?

「だったら、個人的に連絡を寄越せよって話だよな」

「大義名分が欲しいんですよ」

「仲直りをする良い舞台だもんな、同窓会」

 あの頃に抱いていたものを吐露するには抜群の舞台だ。辛いことも悲しいことも、逃げ出したいこともなにもかも、打ち明けられる。

 だってそれは終わったことだから。もう過ぎ去ったことだから話せる。

「ガキ大将が好青年になっていたりするんですよね、漫画とかだと」

「そういう話多いよなー」

 今まで話すこともなかった高校時代のことを話したことで、己は少し軽くなったのか白神への対応を柔らかくしてしまっていた。勿論、そのことにはエスカレーターに乗ったところで気が付いたので、ニヤニヤとこちらを見ている白神に分かりやすいほどの高圧的な表情を頑張って作る。

 けれど、一度緩めてしまった気持ちを元通りに戻すのはとても難しい。無理して取り繕うと逆に笑われそうだ。

「綿貫さんは昔と変わりました?」

「変わった」

「即答ですか」

「間違いなく変わった。疑心暗鬼になった、人を信じられなくなった。自分の人生に見切りをつけて生きるようになった」

 これ以上は頑張らなくて良いや、これ以上やったら疲れるだけだ。そうやって自分を労わるようになってしまった。高望みもせず、現実を直視できるようになった。これだけ列挙できるのだから変わったと言える自信がある。どれもこれも悪い方に転がっているのが難点だが、それでも偏屈な自分を面倒くさいとは思っても、なんだかんだで嫌いにはなれない。

「昔の綿貫さんは随分と魅力的な方なんでしょうね」

「今は魅力的じゃないってことか」

「当たり前じゃないですか。疑心暗鬼じゃなく、人を信じることができ、人生に見切りもつけずに生きる綿貫さんが居たら、誰だってそっちに魅力を感じますよ」

「なんだその完璧超人」

 そんな自分だった頃があったのかと思うと震え上がる。そのまま成長できていたら、一体どうなっていたんだ。想像しただけで寒気が走る。

「お前は、変わったか?」

「私も、変わりましたよ。話しませんが」

 後半部分はやけに語意を強めて言われた。

「昔のお前は、今のお前よりも魅力的だと思うか?」

「いいえ、これっぽっちも魅力がありません」

 なら今の自分の方が魅力的だと? あり得ない。こんな女を魅力的と捉えるのはかなり難しいぞ。

「少なくとも、昔の私は個性がありませんでした。今は個性、出ていると思いませんか? 思いませんか?」

 二回繰り返すのも焼き回しのキャラ付けだ。作られたキャラを振り回す個性を良いと取るか悪いと取るかは人それぞれだが、己には恐怖でしかない。なので、悪いと思う。

「出ているか出ていないかだと、出ているんだけどな」

 心の声に対して、己は自らツッコミを入れていた。それがそのまま返答となり、白神はしたり顔を作って鼻歌混じりに改札口へと歩んで行く。人混みの中に紛れて行く彼女を追い掛け、そして改札口を抜けたところで人通りの少ない駅の隅っこで合流する。

「長井が仲直りを考えているとして、それに応じるのは俺のイメージにあるか?」

「それは、綿貫さんの中にしかありませんよ。他人のイメージをぶち壊すには、自分のイメージを押し付けるしかありません。だから私が言ったところでそれは、私のイメージですから。違いませんか?」

「一理あるな」

 そしてとても現実的な言葉だった。その現実的な言葉に則すると、夢も希望もない選択肢を選び取ってしまいそうなのだが、けれどそれを己が己に向けているイメージの本質なのだとすれば、否定することはできない。

「お前が俺の高校の同窓会をどうして知っているんだ?」

 白神が道案内をしている際、手持ち無沙汰な上に話題すらなかったので、また己は訊ねた。

「そりゃまぁ、綿貫さんと再会したあとに色々と調べましたから」

「俺の出身や身元は流出していない」

「なら、どうして私が知っているのか。これ、重要ですよー考えてくださーい」

 はにかみながら白神は言った。

 考えるまでもない。己のことを知っていて、且つ己の同窓会の日程を知っているのだ。となると、己の高校時代のクラスメイトの一人が、彼女の兄か姉であると推察できる。

「兄とか姉とか居るか?」

「居ませんよー。形だけの先輩とか後輩は居ましたけどねー。これ以上はまだ質問を控えてください」

 となれば、白神は己と同じ高校出身ということだ。でなければ先輩や後輩といった面を押し出しては来ない。己のクラスメイトに彼女の先輩が居て、同窓会の日程を教えてもらった。うん、これならしっくりと来る気がする。違和感は隠せないが、形だけを彼女が誇張するのなら、この違和感の正体はその形だけの先輩や後輩とやらになって来るので、あまり深くは考えなくて良い。

 同じ高校出身か。

「マラソン楽しかったよなー」

「は……? 海沿いを走るとかあんな苦行を楽しいと思うとか、綿貫さんのことが分からなくなって来ました」

 己の出身校は海に面したところにある。冬になると体育はマラソンとなって、その海沿いにできたマラソンコースを走らされる。海から吹く風は凄まじく、露出している肌は冷たく凍り付きそうなくらいだった。けれど、走るという行為は己自身、あまり苦手ではなかったので、寒いとか苦しいとか独り言を呟きながら内心では楽しんでいた。

「夏も水泳かマラソンかでマラソンを選んだんだけど」

「普通は水泳でしょ。その頃からもう偏屈だったんですね。さては泳ぎに自信が無かったんじゃないんですか?」

「これでもクロールと平泳ぎはできたんだけどな」

「背泳ぎとバタフライができないとか終わってますね」

「一人でメドレーやってろよ」

 どれだけ器用なんだよ。というか、そういうのは他人に自慢はできても、所詮は器用貧乏って呼ばれる類のものだ。

「でも、校舎は広かったですよね」

「体育のグラウンドは信号を渡った先だったけどな」

 それは中学でも同じだったが、高校でも信号で待たされるという辛苦を味わわされるとは思いもしなかった。体育館は同じ敷地にあったクセに、なんでグラウンドの敷地は信号の向こう側にあるんだか、己には分からない。教師にでもなればその校舎とグラウンドの関係性も知る機会もあるんだろうか。

「って、もう同じ高校出身って分かってたんなら言ってくださいよ」

「分かっていても、分からないことがあるから言わない方が良いと思った」

 同じ高校出身だとしても、己は白神を知らないのだ。だとすれば、白神が秘密としている部分はまだあって、それを明かすつもりもまだ無いということだ。推理は真相が解明できたときに述べるもので、途中でひけらかしたくはない。

「……ま、そこまで分かったらすぐにでも分かるんじゃないんですか」

 そのときに見せた白神の表情は、寂しげというか儚げで、その表情に関してだけ言えば、焼き回しではなく、彼女自身の本来の顔であった。

 だから、弱ったことに己は言葉を失った。そういう顔もできるのかと感心したからか、それともその儚さに触れたくないなにかを感じたのかは定かでは無い。

「さぁ、着きましたよ」

 白神が立ち止まり、己は顔を僅かに上げる。雑踏の中に佇む小洒落た洋風レストラン。ショーウィンドウに並べられた食品サンプルはどれもこれもが美味しそうに見える。というか、事実、美味しいに違いない。見ているだけで胃に訴え掛けて来るものがある。大人となった今では手頃に感じる値段設定も、接客業界で上手く生き残っている証明だ。

「綿貫さんはゲストですから、気にせずどうぞ」

「お前は入らないんだな」

「だって私、綿貫さんの同窓会には呼ばれていませんから」

 当然のことを言われてしまったが、ここまで案内されたのだから傍らに居続けるくらいはすると思っていたので、その謙虚さに耳を疑った。

 時刻は六時を回り、店内はきっと同級生で満ちている。そんな中、イジメられていた自分が入って来たら、周りはどう対応するんだろうか。

「グズグズしてないで、さっさと入っちゃってください」

「心の準備ができていない」

「誰も負け犬の準備なんて待ちませんから」

 その理屈を出されてしまうと、己にはどうしようもない。妙な説得力に押され、小洒落たレストランへと足を踏み込んだ。即座に店員が現れ、「いらっしゃいませ」と言った。己が「今日は同窓会で」とボソボソと喋ると、奥側へと案内される。恐る恐る、己は元同級生たちが作っている輪へと近付いて行く。

 誰かが「あ……」と声を漏らした。それと同時に、全員が己の方へと視線を向けた。数秒か十数秒か、しばらくはそうしていた。けれど、その後は誰も己に声を掛けることなく、止まっていた時間を繋ぎ合わせるかのように話を再開する。触れない方が良いという動物的直感によるものなのだとすれば、それは悪い判断ではない。自分の不利益になり得る人物とは無理をして関わるべきではないから。

「綿貫」

 どうしたものかと戸惑っているところで、声を掛けられ、ついでに肩を叩かれた。そんな気さくな言動を取る相手はこの場では一人しかいない。

 昔よりも髪を短くし、しかしそのおかげで爽やかさが前面に押し出された好青年。もうすっかりと大人の顔付きになっていた長井は己に朗らかな笑顔を見せた。

「長井、か」

「来てくれると思わなかった」

「来るつもりなかったから」

 おかしなことに、隠しておこうとしていたことを己はつまびらかにしていた。声もそれほど震えていない。人生の敗北者としてのコンプレックスを持っていながらにして、人生を謳歌している長井に対し、己は負けじと対峙していた。彼に対してだけ、己は自覚できるほどの敵意を露わにしていた。迫力は薄いだろう。負け犬が睨んでいるだけなのだから。

「なんか、色々あったよな。まぁ、まずは飲もう」

 長井は己の敵意に気付いているのか、気まずそうな顔をしながら、しかし気さくに話すことだけはやめなかった。だから己もむき出しにしている敵意の矛先をどこに向けたら良いかわからなくなり、ゆっくりと込み上げて来た怒気を鎮めてしまう。

 誘われるままに店の隅の席に案内される。その横に長井が座った。これは彼なりの配慮だ。イジメられていた己が席の中心に座れば、それこそ皆も己もどうしたら良いか分からない。互いに戸惑っては興も乗らない。己はそもそも興じるつもりも無いが、負け犬は負け犬らしく端っこに座っておこう。

 周囲は皆、揃って高校時代の話題を出しては盛り上がっている。隠していた恋の暴露、黙っていた想いの吐露。武勇伝のように語られるのは、それこそ様々なものだったが、己には一切、入って来ない。

 だって己にはそのようなものが高校時代には存在していなかったのだ。想い出と呼べるような想い出もなく、ただただ毎日が平穏に過ぎ去ることを願い続けていた。イジメに耐えて耐えて耐え続けていた。そんな己が楽しい想い出など胸に秘めているわけがない。

「綿貫は今、なにをしているんだ?」

 三十分ぐらい経って、長井は己に訊ねて来た。それまで彼は他の話題に身を投じることもしなかったし、ただ黙々と目の前に並べられた料理に箸を伸ばし、チビチビと酒を飲んでいただけだ。それもまた己に対する長井の配慮だった。

「なにもしていない」

「ニートってやつ?」

「いや、バイトはしている」

「じゃぁフリーターか。フリーターは気楽で良さそうだな」

 山城からのメールでは大したイヤミと受け取らずに済んだ言葉なのだが、長井が用いることによって己に激しい憤りを感じさせた。

「長井は?」

「ん、東京の方で仕事をしてる」

 つまり、外界に出ている。彼はなにをキッカケにしてかは分からないが、己のように一所に留まり続けることなく、外へと飛び出したのだ。

 分からない。しがらみに縛られることもなく、けれど想い出も捨て去ることもなく、どうやって外界へと飛び出せるのか。長井にできることがどうして己には分からず、できないのだろう。モヤモヤとした感情が己の中を満たして行く。


「大変だな」

「ああ、大変だ」

 長井は苦笑いを浮かべる。それは己の返答に対してなのか、己の存在に対しての表情なのか。

 白神の焼き回しの表情からはなにもかも読み取ることができたのに、焼き回しではない直情的な彼の素の表情を読み取ることができない。

「彼女とかは居るの?」

「仕事上、会うことがあんまりできないから遠距離恋愛だな」

 どうやら恋人まで居るらしい。それも相思相愛で、己とは全く違う。恋を実らせることさえできなかった己とは異なる。いや、異なるのは己の方だ。彼は至極、普通の人間で、己が異常な人間なのだ。ここはそう思わせる空気が漂っている。

「綿貫はどうだ?」

 彼の発言は間違える余地すらないイヤミだった。

 お前みたいな人間が、誰かと恋人になんてなれているのか?

 そういう含みが取れた。己は疑心暗鬼な人間で、零される言葉の端々に込められた感情にひどく敏感である。だから、長井の言葉に込められていた真意を悟るのは難しくなかった。

「そうやって見下すのは楽しいか?」

 初恋の人が結婚するという話をつい最近、耳にした己にとっては我慢の限界だった。意気消沈している人間の励まし方を間違えると激怒されやすいことは長井だって知っているはずだ。このことは己でも学んだことなのだから、彼がそれを学んでいないわけがない。

「いや、そういうつもりで言ったんじゃなくて」

「俺が来るのだって、予想外だったんだろ」

 メールを寄越しておいて、どうせ来ないだろうと決め付けて、ゲストってことにした。そのクセ、三十分ほど経っているが昔のことを謝ろうともしない。イジメに触れもしない。それだと今、己が受けている仕打ちは高校時代となんにも変わらない。

 長井の中にある己の置き場は、つまりそこから微動だにしていないのだ。

「……なぁ、綿貫。落ち着いて聞いてくれよ。俺、あのときは悪かったって思っているんだ。なんにもできなかった自分に苛立って、ただ見ていることしかできなかったのが悔しかった」

 長井はそして頭を下げる。

「許してくれないか、綿貫」

 あの頃は悪かった。あのときはどうしようもなかった。

 確かに一理ある。イジメに目を瞑ることは悪いことだ。けれど、そんな風に正直に生きていたら自分もまたイジメられてしまう可能性がある。裏切るときには裏切って、あとでしっかりと謝って仲直りをする。関係を修復させれば全ての罪が洗い流される。己だって、悪いことをしたあとは親に謝る。コンビニで働いているときに理不尽な謝罪を店長から要求されることもあり、苦々しく思いつつ謝ることもある。それで己に掛けられた罪が消えるのなら、謝罪なんて易いものだ。

 だからここで長井を許すことは間違っていない。ここで仲直りをすれば己にとって彼は有益な存在になるだろう。

 懐かしさが込み上げて来る。彼と一緒に過ごした小学生時代、中学生時代の想い出が己を満たして行く。下らないことを口にして、それで笑い合って、遊んでいるゲームの情報を交換したりとか、そのときに流行っていたテレビドラマのことを議論し合ったりとか、本当に本当に楽しかった。

 帰り道を他の友達と揃って歩き、夕方になるまで話し込んで別れて、家に帰ったら親に長井のことを話したりして、それでまた笑うことができた。

 夏休みには一緒にプールに行った。冬休みには初詣にも行った。花火を一緒にやって、後片付けもしっかりとして、クジ引きを引いて大吉が出たときには一緒に喜んだ。

 なにもかもが一緒だった。一緒だったのだ。己にとっては、一心同体とも言うべき親友だったのだ。その親友が頭を下げて謝っている。

 ならば己はそれを許すべきなのだ。そうすればまた楽しい日々が待っているかも知れない。彼と何気なく話し、何気なく笑い合う。そんな、子供の頃と変わらないやり取りをして、充実した日々を過ごせるかも知れない。

「俺は」

 謝罪を受け入れようとしていた己の脳裏に、雨の中ずっと己を待ち続けていた白神の顔がよぎる。あいつの言っていたことを思い出す。

 己はイメージをぶち壊すためにここに来た。そして、謝罪を受け入れる姿は長井のイメージの押し付けだ。

 切るのか、本当に。また繋げられそうな友情の糸を、断ち切るのか。

 片手で数えられるほどしか居ないが、友達は居る。己は白神に、そう言った。言ったのなら、己はそれで事足りるのだ。

 これ以上は、求めていないのだ。

「許すわけないだろ」

 長井は顔を上げ、己の言葉が理解できないのか呆けていた。

 己は長井の言葉よりも、白神の言葉を取ったのだ。素の表情を見せる親友よりも、素の表情をひた隠す白神を、選んだのだ。

「謝って、そして許して、それでお前の過去は清算されないし俺の過去だって無くならない。ずっと謝りたいと思っていたのなら、これからもずっと謝りたいと思っていろ」

「なんだよ、それ。謝ってんだから、許せよ」

 長井は驚いている。けれど、それは己も同じである。胸中に留めていたものが、己の抑止力を無視して毒となり、外へと吐き出されている。これに驚かないわけがない。

「だから謝ったって許さないって言ってんだよ。間違ったことをしたんなら、そのときに謝れよ。昔の話を謝罪して清算なんてさせねぇよ。そんなんで善人にはなれないんだよ」

 長井の顔には苛立ちと怒りを合わせたものが浮かび上がっていた。己の言葉でそこまで憎々しそうな表情を作れるのだから、やはり彼はもう己にとっても親友ではないし、彼にとっても己は親友ではないのだ。

 親友ならば、軽く聞き流すくらいできるだろ。冗談だと思って、話だって続ける気になれる。けれど長井はそうせず、怒りを必死に堪えている。それはもう、親友のすべき対応じゃない。

「そうやって、昔のことも許せずに抱えて、碌な人生を送れないだろ。お前、フリーターとかなっちゃって、将来設計とかほんとにできてんの?」

 イヤミではなく、悪口へと昇華していた。これはいよいよ、己は切るべき存在だと長井が判断したのかも知れない。

 今更の話である。己と長井の関係は、ずっと前から切れている。切れていない風に装ったって、切れている。誤魔化すことなんてできない。

「できてないよ。だからフリーターになってんだよ。でも、お前だって将来の設計とかできてるのか? なに、遠距離恋愛の相手と結婚とか考えているつもりなの? ただ関係を切ることを怠っているだけなんじゃないの」

 己の言っていることもまた悪口になっていた。しかし、己の言葉にはあまりにも現実味がない。だってなにもかもが長井に劣っているからだ。そのことは彼も分かっているらしく、痛くも痒くもないといった勝ち誇った顔をしている。

「お前なんか、ずっと誰とも付き合えねぇよ」

 痛かった。今の己に、その言葉はとても痛かった。胸の動悸は早くなり、時の流れの残酷さにただ悲観に暮れる。

「小さいことをずっとずっと引きずって、それで幸せになんて俺はなれないと思うな」

 更に長井は追い討ちを掛けて来る。なにくそ、と反骨の精神で突っ掛かろうにも己にはもう彼の悪い点を見つけ出すことができない。

「お待たせしました、綿貫さん」

 引くことも押すこともできないままの己を救ってくれたのは、良くも悪くも白神だった。カラオケボックスに三時間も一緒に居たことで、姿を見ずとも声だけで彼女だと分かるようになってしまったのは、嫌な適応力だ。

「なんで……」

「御免なさい、遅れてしまって」

 彼女は己に焼き回しの笑顔を見せる。

「電車が遅れてしまったんですよ。もー、酷いと思いません?」

 白神は且つ、己の恋人であるかのように振る舞っている。

 それが酷く気持ち悪い。けれど、その気持ち悪さが功を奏してか、長井は泡を喰っている。無言のまま己と彼女に視線を何度も動かしていた。

 前提として、白神 舞は性格はともかくとして顔立ちも体型も出来ている。慎ましやかな胸だけ目を瞑れば、美女と呼んでも過言ではない。長く伸ばしている黒髪だって癖の一つもなく艶やかで、小洒落たレストランの小洒落た照明はその美しさをより一層に引き立たせている。テーブルの向い側に立っている白神を己も一瞬、本当に彼女だろうかと疑ったくらいだ。

「綿貫の知り合い?」

 己が白神の扱いをどうしたものかと迷いあぐねていると、長井は薄気味悪いほどの朗らかさで彼女へと話し掛けた。

「晴れて良かったですよね。雨が降っていたら、傘を持って来ないと駄目ですもん。手荷物が増えちゃって、困っちゃいますから」

「だったら、ちょっと飲まない? 今、みんなで同窓会を開いているところだから」

「小洒落たレストランも良いですけど、私はもっと静かなところの方が好きですよ? だから早く行きましょうよ」

「なんなら、君も話の席に入れてあげても良いから」

「電車が遅れたってことは、終電も遅めになるんでしょうか。それまでにダイヤが戻ってくれれば……あーでも、遅い方が私としては嬉しいなって」

「君、俺の話聞いてる?」

「もー、綿貫さんったら、そんな顔しても今日は泊まりませんからねー」

「聞けよ!」

 長井がたまらず怒鳴った。

 怖ろしいことに、白神は長井を見ていない。見ていないどころか、彼の言葉を耳にすら入れていない。目線すら合わせようとしない。彼女の生気の無い瞳は常に、己にだけ向いている。

 長井という存在そのものを感じていない。無視と呼ぶには露骨にして強烈過ぎる。

「今日は私、キメて来たんで、こんな薄暗い店内よりも、もっと明るいショッピングモールの方を回りませんか?」

 これは、己が動かなければどうしようもない状態だ。見知らぬ女性に怒りを露わにする様など、彼のプライドが許さないはずだ。だとすれば、長井が怒ってもおかしくはない相手である己にその矛先は向く。そのような理不尽な切っ先からは逃れたい。

「……お金は払うよ、長井。確か、三万だっけ? フリーターだけど、そこまでお金にも困ってないし」

 己は財布を取り出して、テーブルの上に一万円札を三枚、叩き付ける。そして椅子に座って、動かない長井とテーブルの隙間を強引に通り、隅っこから抜け出した。

「綿貫の彼女?」

「だと言ったら?」

 彼氏彼女など考えたくもないことだったが、長井の反応が見たかったので、そう嘘をつく。

「あり得ないだろ。なんで綿貫がそんな……」

「もう一度言うけど、長井。俺はお前を許さないし、謝罪なんて受け入れる気もない。ただ、高校に入学するまでは親友だと思っていた。俺だけの勘違いだったみたいだけど」

 それ以上はなにも言わない。己は白神が差し出した手を取って、繋いだままレストランから出た。長井は追い掛けては来なかった。

「おぇ、吐きそうです。なんで私が綿貫さんと手を繋いで……というか、なんでそんな湿ってるんですか。気持ち悪いんですけど」

 出た直後に、白神は己の手を払い、そして毒づいたので己もまた毒を吐いた。

「お前と恋人とかフリだけでも、信じられないくらいに気持ち悪いな。あと、あれだけ無視するのもどうかと思う」

「無視? 綿貫さん、BGMはバックグラウンドミュージックの略なんですよ? 私にとって、あの場所で流れる音はほとんどがBGMで、綿貫さんの声だけが主音律だったんです」

「そんな薄気味悪い話も無いな」

 同感です、と白神は自身の言ったことに寒さを感じたのか身を震わせた。

「そんなことよりも、どうでした? ぶち壊せました?」

「謝罪を受け入れるイメージならぶち壊せたけど、同時に仲直りできるはずのイメージまで無くなった」

「後悔しています?」

「後悔なら向こうがするべきだろ。俺は嘘偽りなく、胸の中にあったことをそのまま口にしただけだ」

「負けてましたけど?」

「負け犬だからな」

 劣っているから、口喧嘩すら勝てない。

「最終兵器として私、どうです?」

 そんな己でも、長井に一泡吹かせることができたのは白神の手助けがあったからだ。三十分以上も店の前でも中でも待機していたのなら相変わらず、粘着質で気味が悪い。

「究極兵器だとしても、使わない」

 己は淡々と返し、財布の中を検めた。

 ……つまむ程度にしか喰わないで、しかもほとんど飲まないで三万は痛い。

 本当に三万円を失ったことだけに対する痛みかどうかは、己にすら分からないことだ。

 どうせ、お金と同等の価値の友情など、あって無いようなものだ。


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