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第二章

 老人は一杯のコーヒーをカウンター席においてから、コーヒーを出した青年の隣に腰掛けた。


 「えっーと、名前は、ゲオルク・ベルガーくんだったね」


 横の青年が「ハイ」と頷くと、老人はにっこりとほほ笑んだ。


 「いや、しかし、こういっちゃなんだが、オットーの野郎とは似ても似つかん真面目な感じだ。あいつも同じくらい真面目そうな奴だったら良かったのだがな」


 「そこまで祖父は不真面目な人だったんですか」


 「不真面目というか、そうだな、君の祖父はわんぱくな子供がそのまま大人になったような奴だったさ」


 老人はそう言うとパラフィン紙に包まれた数枚の写真を青年に手渡した。

 最初の写真に写っていた人物は制服姿の軍人であったが、どことなく昨日まで軍隊ではなく他のところで仕事をしていたような、そう思うくらい制服を着ているのではなく制服に着させられているかのような感じの男で、年は二十代後半か三十代といったところだろうか。


 「これは、祖父の若いころの写真ですか」


 その通り、と老人は笑いながら答えた。


 「君の祖父、オットー・ベルガーは死ぬまで軍人になりきれてなかったよ。そう彼はハレの靴屋だったが最後まで靴屋が副業で軍人をやっているような感じだった。ぎこちなさがそう感じさせたのだろう。ともあれ、君の祖父だけではなく我らは最後まで『軍人』にはなれなかったのさ」


 老人はそういうと、写真の男の襟元のルーン文字でSSと書かれた徽章を指差した。


 「君がオットーのことについて聞かせてくれと依頼してときは正直迷ったよ。オットーもわしも、武装親衛隊。君は武装親衛隊を学校でどう習ったかね」


 「ヒトラー個人が自由に使える私兵で、ユダヤ人虐殺など戦争犯罪に積極的に加担した組織だったと」


 「やはりな。わかっているとはいえ、直に君のような若い世代からそのことを聞かされるのは辛いのお。確かにアインザッツグルッペンの隊員にも武装親衛隊はいおった、だがアインザッツグルッペンという組織の中で武装親衛隊はいたが、我々の殆どは祖国のために前線で敵兵と戦う戦闘員だった。それに君の所属してる連邦軍の前身である国防軍も『戦争犯罪』とやらに大いに手を染めていたさ」


 青年は俯いた。老人はそれを見ると、今度はパラフィン紙に包まれていない写真を一枚青年に渡した。


 「だがな、当時は誰しもその行いを祖国のため、ドイツ民族のためと信じて疑わなかったのも確かじゃ。そうでなければ好んで殺生なんてせんよ。その男も自分の行いがドイツ国民のためになると死ぬまで信じて疑わなかったオットーの友人さ」


 渡された写真の人物は面長で鷲鼻、色白そうな若い男であった。一見すると病弱そうに見える顔ではあるが、その眼差しは鋭い意志を宿していた。


「オットーの人生を語る上で、いや、あの時代を語る上で君はとても不愉快なことも聞かなくてはいけない。それでも本当に聞きたい、そう手紙に書いたね。」


 青年が頷くと、老人はゆっくりと深呼吸した後、語り始めた。


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