嵐の前兆
レニアスの事も気になるが、今は試合に集中しよう。薄情だ、と思う人もいるだろうが、アイツは自分の身位は自分で守れる。大丈夫だろう。
今は準決勝第2試合で、先程あっという間に試合を終わらせたライラ・カルレイドと、激しい攻防を勝ち抜いたシエロ・フルーゲルの対戦だ。
ふむ、ライラはあれだ。ツンデレというモノの様な感じがする。キリッとした容姿でシエロを睨みつけている。
対するシエロは少し自信なさげな印象があるが、それでも強い意志を持っている様に思える、そんな感じだな。
ライラのスキルはまだ分からないが、シエロは範囲攻撃を得意とし、更に応用もしやすい風属性のノーマルスキル「イナサ」。これは中々面白い試合になりそうだ。
そして、何故か恒例となりつつある試合前の会話がはじまった。
「さっき試合見てましたけど、雷のスキルって凄いですね。でも、僕も負けませんよ!」
ほう…雷とはまたレアなスキルを持ってるな。だから髪が黄色いのか。なるほど。
雷属性とは、水属性と風属性が混ざり合って出来る属性のことだ。複合属性というだけあって、高い攻撃速度と殲滅力を兼ね備えている強力なスキルがほとんど。あまり相手にしたくないスキルだな。
「精神論じゃどうにも出来ないわよ!正面から叩き潰してあげるからっ!」
見た目に違わず荒々しい口調だな。
「精神論だけじゃありませんよ。僕だって毎日鍛えてるんですからね!そう簡単に倒せると思わないで下さいっ!」
「ふ〜ん。面白そうじゃない、そこまで言うならせめて1分は耐えてよね?」
そこでリリアが手を上げる。
「試合、開始っ!」
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結論から言うと、勝者はシエロだった。
開始と同時にライラの猛攻が始まり、シエロはそれを掠りつつも避け続けていた。
相手が防戦一方だと思ったライラは更に攻める、攻める、兎に角突っ込んでいった。そして大技を出した瞬間にシエロが発生させた強風でバランスを崩し、空気の塊を叩きつけられ、更に追撃されて戦闘不能になった、という訳だ。
全くもって予想外な結末だな。あんなに目立っていたライラが印象があまりないシエロに負けるなんて誰も考えてなかっただろうに。
まぁ、これで俺の対戦相手は決まったわけだが、シエロはまだ何か隠している、そんな感じがするな。勿論ただの予想だが。
教室から持ってきた椅子に座ってさっきの試合を思い出していると、隣に座っているリリアが話しかけてきた。
「…少し失礼かもしれませんが、シエロさんが勝ったのは意外でしたね」
やはりさっきの試合の話か。
「確かに失礼だな。だが俺も同意見だ」
「ライラさんと戦っている時も十分強かったですが、彼は…まだ何か隠している気がします」
「リリアもそう思うか」
「ええ。彼は全て計算して行動している。そんな感じがしました。表情に余裕がありましたし」
「アイツ分かり易く"まだ余裕ですよ"みたいな顔していたからな。それに、風ノーマルスキル"イナサ"。あれはかなり応用の効くスキルだからな。変化級と互角に戦えるレベルらしいし、まだ何かあるのは間違いない」
「そう、ですよね。でも」
そこで一旦言葉を切つて俺の前に立ち、左手は腰、右手は人差し指をたてて俺の前に、そして笑顔で続ける。
「私の護衛なんだから、Dランクの生徒なんかに負けないよね?」
「無論だ。俺はお前の為にも絶対に負けない」
「フフッ♪ありがと」
「さて、そろそろ時間だ。いくぞ」
「はーい」
そして、模擬トーナメント決勝戦。
その火蓋が切って落とされた。