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第六話 学園逃走劇

空き缶を見つめ、私は名案を思いついた。

すかさず海斗を引き寄せる。

「ぅわ…んだよ、こっちは必死に考えてるっつーのに!」

大声を出さないように、悪態をついてくる海斗に、

私は静かに溜息をついた。

口が悪い、相変わらず。

でも、こんな事で引き下がる訳にもいかない。

耳元に口を寄せ、作戦を言う。

「…はぁ?そんなんで上手くいくのか?」

私もあまり自信はない。

だけど!

「やってみる価値は、あるんじゃない?」

しばらく目に手を当て、考える。

この動作は海斗が必死に考えている時の癖だ。

ついに手を離し、姫璃にも作戦を伝える。

最初は怪訝な顔をした姫璃だけど、肩をすくめ、これでいきましょうと微笑んだ。

「じゃあ…早速やるよ…」

私は空き缶を手に持ち、大きく振りかぶった。

でも、その手を海斗が止めた。

「ちょっと待て」

おっととと、と体制を崩す私。

「なに?今のはちょっと不謹慎じゃない?」

ちょっと内心ムッとし、風で煽られた髪を手ぐしで整える。

そんな私の様子を気にせず、海斗は話しを続ける。

「お前、歩けるか?」

私は足を撫でた。

呼吸は楽になったが、まだ体には力が入らず、立つのが精一杯だった。

その証拠に私は思い切り床に座っている。

「まだちょっと厳しいかも…」

顔を背けながら、小声で呟く。

だって、なんだか恥ずかしい。

力不足な子みたいで。

隣で海斗が溜息をつくのが聞こえた。

「やっぱりな。ほら」

と、私の前に海斗の背中。

ワタシニナニヲシロト?

「これを見て分かんねーのかよ。おぶるから乗れ。」

あらあらと、顔を押さえて、にやにやする姫璃。

私は冗談じゃないと、首を振る。

海斗の背中を押し、拒否する。

「やだよ!私重いもん!」

はぁ?とムカつく顔が私を見た。

「そんなこたー知ってる。それに…さっきの借りだ。遠慮するな!ここで断られたら俺が恥ずかしい!」

ちょっとボリュームが上がり、慌てて口を押さえる。

幸いあいつ等は気づいていない。

ホッと安堵し、早くと私を催促する。

どうしようか迷っていると、後ろから反場強制的に

持ち上げられ、海斗の背中に押し込まれた。

「ひっ、姫璃!」

当の本人はにやにやしながら、訳の分からない事を呟く。

「あんたたち、青春真っ盛りもいいけど、焦らしは良くないわよ?」

焦らす?いったい何のことだろう…

一人で疑問符を浮かべていると、姫璃がウィンクをし、もう少し大人になったら教えてあげると楽しそうに笑った。

「もういいか?立つぞ」

「えっ、ちょまっ!きゃ!」

海斗がそう言い、私の体がぐらりと揺れる。 

「ちょっと、いきなり立ち上がらないでよ!」

私が非難の声を上げると、海斗は怪訝な顔をした。

と、思う。

声が不機嫌そうだったから。

「俺はちゃんと声を掛けたぞ?」

ぐっと言葉に詰まる。

「でも…いきなりで怖かったんだもん」

海斗のシャツをぎゅっと握ると、悪かったよと返ってきた。

「次からは待つから…」

「ぅん…」

二人が黙ってしまうと、姫璃が切羽詰まった声で間を挟む。

「ちょっと二人共、あいつ等がっ!」

顔を上げると姫璃が言った通り、あいつ等がゆっくりと近づいて来た。

「やべ、背負い直すから掴まれよ!」

よっと掛け声と共に、体が少し宙に浮く。

今回は怖くなかった。

「姫璃、海斗、投げるよ…」

二人共唾をゴクリと飲み込み、いつでも逃げれるように、構えた。

「お願い…!」

私は手に持った空き缶を、扉から離れた所に投げる。 

カーーーーン

教室に金属の音が響き渡った。

それと同時にあいつ等が、顔を上げる。

(ひいぃっ!)

悲鳴を上げそうになるが、なんとか押し堪えた。

「ぁああぁあ…」

あいつ等は私達でなく、空き缶の落ちた方へぞろぞろと、向かっていった。

「あいつ等は本当に…音に反応するのか…」

海斗がボソッと呟いた。

呆けている海斗を私と姫璃が同時につねった。

「いぃっ!?」

痛さでもだえている海斗に姫璃が冷たく言い放つ。

「早く、扉ががら空きよ!今のうちに…」

「あ、あぁ」

本来の目的を思い出したように、海斗が足音を立てぬように、扉へ向かう。

姫璃も足音を立てぬように、海斗の後ろを歩く。

あともう少し…

もう少しで教室の外だ。

扉を静かに開ける。

隙間から私と海斗、姫璃の順番に抜けていく。

「…はぁ…はぁ…はぁ…出れたな」

脂汗をかき、息を荒上げている。

「ここで安心するのはまだ早いわ…どこか安全な所…はぁ!!?」

姫璃が息を呑むのが見えた。

「ど、どうしたの?」

姫璃は震える口を開ける。

「逃げ……」

「何だよ、はっきり言えよ」

海斗が少しイラついた調子で首を傾げる。

姫璃は指を指し、再び口を動かす。

今度ははっきりと。

「逃げてぇええ!!」

ハッと後ろを向くと、いつの間にかあいつ等が三人も真後ろにいた。

いつの間に!?

海斗も一瞬驚いた顔をした。けど

「しっかり掴まれよ!!」

それだけ言うと、海斗の体が、筋肉がうねった。

必死にしがみつき、背中に顔をうずめた。

ドンッと派手な音がし、呻き声が聞こえた。

「ォラアアアア!!!」

とどめだとばかり声を荒くし、蹴りを入れる。

「やったか?」

くぐもった声が背中越に聞こえた。

私も顔を上げ、倒れているあいつ等を見る。

一体は頭から血を流し、もう動かなそうだが、後の二体は起き上がってくる。

「くそっ!走るぞ!」

パッと身を翻し、海斗は走り出した。

慌てて姫璃も追いかけてくる。

後ろを見ると、あいつ等も追ってきてるが、遅い。

速くは走れないらしい。

ただ闇雲に走っているとしか思えない海斗に、行き先を聞く。

「ねえ!どこに向かっているの!?」

すると、予想外な答えが返ってきた。

「給食室!俺、今日当番だから鍵を持ってるんだ。」

息を弾ませながら、早口に言う。

「しかも、鍵を持っているのは俺一人!あいつ等は入ってきてないはず」

階段を駆け下り、一階へ向かう。

あちこち血だらけ死体だらけ。

襲われている子は見なかったが、悲鳴は何度も聞こえる。

なんで…なんで、こんな事に…

通り過ぎる教室には誰もいない。

きっと体育館に皆避難したのだろう。

そう、私の弟もそこにいるに決まってる。

絶対そうだ。

後で、電話掛けなくちゃ。

どこにいるのか、何をしているのか聞いて、合流しなくちゃ。

最悪なシナリオを頭から叩きだし、海斗の背中に顔を埋めた。

…絶対に大丈夫。

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